ポケモン世界で配信者、始めました!   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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#3 初配信

 お母さんに散々せっつかれた私は、「明日から本気出す」と宣言した一週間後にようやく重い腰をあげた。

 動画配信サイトのアカウントを取得しチャンネルを作り、SNSサイトにて配信を始める旨を伝える。

 SNSのアカウントについてはジムチャレンジ中に取得していた。ジムチャレンジを終えた段階ではフォロワーは500人程度だったのが、チャンピオンカップでのダンデとの激闘によってそれなりの人気が出たのか今ではフォロワーは1万人もいる。びっくりである。

 私のSNSのアカウントは自撮りの写真が多い。割合で言えば自撮り7割ポケモン2割適当な呟き1割だ。そんなアカウントをフォローしている人たちはおそらくロリコンだろう。

 

 いざ配信を始めてみても視聴者0人で悲しくなるかもしれないと少し不安だったが、1万人もロリコンがいれば多分誰かしら見に来てくれるはず。

 勇気を出して配信の待機画面を覗いて見ると、すでに視聴者は100人もいた。平日の昼間から活発なロリコン共である。ありがたい限りだ。

 一つ深呼吸をして心を落ち着け、意を決して配信開始のボタンを押す。

 

【わこつ】

【始まった?】

【期待】

【いえーい、カレンちゃん見ってるーーー?】

 

 配信が開始すると同時に流れてくるコメント。今までの私はコメントをする側だったのが、コメントをされる側になるのはなんだか不思議な感じだ。

 

「初めまして、カレンです。ポケモントレーナーです」

 

【かわよ】

【ちゃんと挨拶できて偉い】

【知ってる】

【声もかわいい】

【クチートもかわいい】

 

 真っ先に言及される私の容姿。ジムチャレンジの時から私のかわいさは結構話題になっていてかなりちやほやされた。私自身、自分が超絶かわいいのは自覚していたが、実際にお母さん以外の他人からかわいいと言われる機会はあまりなかったので、自己顕示欲が満たされていくようで気持ちよくなってしまう。これは麻薬だ。かわいいは麻薬。

 ちなみにトトちゃんは現在、私の隣でソファに寝っ転がってぐでーっとしている。一週間前の私自身を見ているようだ。

 

【なんで配信始めたの?】

 

 コメントを目で追っていたら話を広げるのにちょうどいい質問を見つけた。

 

「チャンピオンカップが終わってから家でダラダラしてたら、お母さんに軽く叱られて配信者になることにしました」

 

【えらい】

【偉い】

【ポケモンバトルはあんなに強いのに普段はダメ人間なのか】

【マッマグッジョブ】

【おにつよダメ人間ロリ】

【学校は?】

 

「ダメ人間ではありません。あんまり適当なこと言うとハガネールでしばきます。家庭教師に勉強を見てもらっているので、学校は行ってません」

 

【しばくww】

【おこなこ?】

【ハガネールはさすがに許して;;】

【ロリにしばかれるとかご褒美やんけ】

【ハガネールにしばかれると下手しなくても死ぬんだよなぁ】

 

 人に向かってダメ人間とはまったくもって失礼だ。

 

「ところで、平日の昼間ですけど皆さん仕事は?」

 

【あ……】

【おいやめい】

【……】

【在宅ワークしてます】

【やめてくれその言葉は俺に効く】

【自宅警備しています】

【今日は休み】

 

「あっ……。この話題はやめておきますね……」

 

【助かる】

【優しい】

【かわいい】

【つよい】

【かしこい】

 

「それじゃあ、適当に質問をください。答えられたら答えます」

 

 私が質問の募集をすると、一気に流れ始めるコメント欄。流れが早すぎてびっくりしてしまった。これじゃあ、質問をまともに探すのが難しい。さすがにこれはおかしいと思って、視聴者数を確認してみるとなんと2000人もいた。びっくり。

 

「わわっ! 2000人も来ていただいてありがとうございます!」

 

【思わずテンションが上がっちゃうロリ】

【今までのクールな感じは演技だったのか】

【クールなのもかわいかったけど、こっちも好き】

 

「えっと、申し訳ないのですけど、こんなにコメントの流れが早いと質問を拾うのが難しいです。慣れてないせいですみません」

 

【ええんやで】

【がんばって】

【ぺろぺろ^^】

【これから慣れていけばええんや】

 

 今度は励ましの言葉がわっと流れる。みんな優しくて嬉しい。こいつらロリコンなのに。本当にロリコンだろうか? それともロリコンだから私に優しいのか。

 時折流れてくる変態的なコメントを見ると、あぁやっぱりロリコンなんだなって安心する。ロリコンがゲシュタルト崩壊しそうだ。

 

「えっと、じゃあ仕方がないので私がみなさんに質問しますね」

 

【草】

【そう来たか】

【ええぞ】

【これは逆転の発想】

【かしこいなぁ】

 

 コメント欄は概ね歓迎してくれているので、気兼ねなく質問していくことにする。

 

「みなさんはロリコンですか?」

 

【ファーーーーーーwwwwww】

【大草原】

【直球すぎて草】

【ロリコンですが何か?】

【草ァ!!】

【ロリコンじゃないよ!!】

【カレン選手が強いから見に来ました】

 

 流れていくコメントを見ていると、ロリコンを肯定する人とそれっぽい人がだいたい7割くらいで、残りの3割は別にそうではない人もいるようだ。

 思ったよりロリコンの比率が低い。私はもっと9割くらいがロリコンでもおかしくないと思っていたのだけど意外だ。

 残りの3割の人は、私のバトルの強さに憧れた人やファンになってくれた人、チャンピオンカップを戦った私に興味があって見に来た人など。ポケモントレーナーとしての私を期待して見に来てくれた人も多い。

 

「思ったよりロリコンの人は少ないみたいですね。ポケモントレーナーとして期待してくれている人もありがとうございます。期待に応えられるよう、頑張ります」

 

【思ったより少ないって……これで?】

【コメ欄ほぼロリコンに見える】

【ダンデとのバトルは熱かったからなあ】

【あのバトルを見てポケモントレーナーになろうって決めました!!】

【……ペロリ】

【ロリコンじゃないけど、カレンちゃんはかわいいと思う】

 

 やっぱりダンデとのバトルは反響が大きいようだ。伊達に過去最高のジムチャレンジとか呼ばれていない。チラッと見えたのが、あのバトルがきっかけでポケモントレーナーを目指し始めたというコメント。なんだか不思議な感じだ。私がきっかけになるなんて。でも、嬉しいな。

 

【!】

【笑った?】

【微かに笑ったのかわいすぎ】

【スクショした】

【おい、ロリコンども笑われてるぞ】

【クール系ロリがたまに見せる笑み……趣深い】

【もっと笑って】

【今のでロリコンになりました】

 

 どうやら無意識に口角が上がってしまっていたようだ。でも別にクール系のキャラを気取っているわけでもなく、私はこれで素でやってる。だから、特に問題はないのだけれど、たくさんの人の前で笑うのはなんとも恥ずかしい。

 

「私がきっかけでポケモントレーナーを目指し始めたってコメントを見つけて、嬉しくてつい無意識に笑ってしまったようです。あと、私は別にクール系キャラを作っているわけではありませんよ」

 

【それは確かに嬉しいな】

【そんなこと言われてみてぇなぁ俺もなあ】

【感動した】

【素でそんな感じなのか】

【カレンちゃん大人っぽいな】

 

「っと、そろそろいい時間ですね。今日はここまでにしときます」

 

 時計を見ると、いつの間にか配信を開始してから30分も経っていた。夢中でやってたせいかあっという間だ。

 

【いかないで】

【さみしい】

【楽しかった】

【また配信して】

 

 コメントが、配信終了を惜しむ声で流れる。みんな楽しんでくれていたようで何よりだ。私も楽しかった。

 

「それじゃ、次の配信は決まったらSNSの方で告知します。よかったらSNSのフォローとチャンネル登録してってね。ばいばい」

 

【おつ】

【チャンネル登録したぞ!】

【乙】

【おつかれ】

【ロリコンになりました。責任とってください】

 

 カメラに向かって手を振りながら配信画面を閉じる。最終的な視聴者数は4000人にもなっていた。チャンネル登録者は1000人ちょい。基準や普通がわからないのでなんとも言えないが、これは結構いい感じの滑り出しなのではないだろうか? 

 

「……ふぅ」

 

「お疲れさま。どうだった?」

 

 私が一息ついたのを見計らってお母さんが飲み物を持って来てくれた。私の好きなリンゴジュースだ。

 

「楽しかった」

 

「そう。よかったわね」

 

 初めての配信で上手くいかないこともあったけど、楽しかった。

 新しいことを始めるときはいつだってドキドキワクワクして期待と不安が綯い交ぜで、一歩を踏み出すとそこには全く知らない世界が広がっていて、良いことも悪いこともその先に何があるのかはわからないけれど、後で振り返って見るとあの時に一歩を踏み出して見てよかったなと思える。

 ポケモントレーナーとしての一歩を踏み出した時も今の私と同じ気持ちだったかもしれない。ドキドキワクワクして、知らない世界に飛び込んで、今ではポケモントレーナーになって良かったなと胸を張って言える。

 

 今回も、同じだといいな。

 

「……また、明日もやろうかな」

 

 そう思えた。

 

 


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