ポケモン世界で配信者、始めました!   作:ルルル・ルル・ルールルールー

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#7 バトル配信 スミレ 前

 

 

「お母さん、配信でポケモンバトルの相手して」

 

 私も配信に慣れてきて、そろそろ配信でバトルをしてみたくなった。SNSや配信中のコメントでもバトルが見たいという視聴者も多い。だけど、配信でのバトルを頼めるような人は私の周りでは、お母さんだけだ。ダンデも私とのバトルの機会だから頼めば受けてくれそうだが、忙しいだろうしチャンピオンをそんな用で呼び出すのは気がひける。

 

「わかったわ」

 

「え、いいの?」

 

 私の配信に出るってことは顔出しするってことだし、断られてもおかしくないと思ったのだけど、お母さんは悩むどころか即答だった。

 

「何よ、カレンが誘ったんじゃない」

 

「そうだけど……。顔出しとか、いいの?」

 

「いいのよ、カレンの好きなようにやりなさい」

 

 え……優しい。好き。

 

「カレンこそいいの? 配信でのバトル、初めてなのに負けちゃうわよ」

 

 そう言って不敵に笑うお母さん。その眼に仄かに宿る炎は確かにポケモントレーナーの闘志だった。

 私の対お母さんの戦績はハンデ無しでは全戦全敗、だけどそれがバトルをしない理由にはならない。昨日勝てなかった相手に、今日勝てるかもしれない。ポケモントレーナーとはそうやって一歩ずつ成長していくのだ。

 

 ──自らの勝利に疑問を持ってはならない、止まってはならない。

 そう教えてくれたのはお母さんだ。

 

「そろそろ私が勝つよ」

 

 だから私も、不敵に笑うのだ。ポケモントレーナーの熱い闘志をその身に宿して。

 

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

「こんにちは。カレンです」

 

【わこ】

【こんにちワニノコ】

【おはロリ】

【外?】

【いつもとアングル違う】

 

「見てわかる通り、今日は家から出て外で配信をしています」

 

【どこだろ】

【ワイルドエリア?】

【ワイルドエリアっぽい】

【今日もかわいい】

 

 そう、今日はお母さんとバトルするためにワイルドエリアに来ていた。一応、家の庭でもバトルをできるだけのスペースはあるが、家バレ住所バレを防ぐための措置だ。とはいえ、ガラル地方──というよりこの世界は一部悪の組織的なものがある程度で、前世より比較的治安がいいし善良な人が多いので気にしすぎる必要もない。しかし、どこにでも熱狂的なファンはいるものだ。用心するに越したことはないだろう。もし、家に押しかけて来たらハガネールでしばくけどね。

 

「そしてなんと今回は、ゲストがいます……じゃん」

 

 配信のために浮かんでカメラを回しているスマホロトムを動かして、お母さんを配信画面に写す。

 

【じゃん助かる】

【誰?】

【めっちゃ美人】

【お母さん?】

【ふつくしい】

 

「はい、私のお母さんです」

 

 コメント欄では美人だとか、綺麗だとか言われてて娘としてお母さんが褒められるのは嬉しい。

 容姿は腰まで伸ばした烏の濡れ羽色の髪と焦茶色の虹彩の眼。顔の造形も私と同じで恐ろしく整っている。というか私がお母さんに似たのだろう。顔はそっくりで、私が成長すればこうなるだろうなとイメージが簡単にできる。唯一違うのは私が眠たげなタレ目なのに対し、お母さんは優しげなタレ目なところ。多分内面の精神性が出ている。目は口ほどに物を言うらしい。

 ジョウト地方生まれなのも相まって正に大和撫子って言葉が似合いそうな美人だ。着物とか着てる姿を見たい。身長は150半ばぐらいで低め、胸は無い。お母さん的にはコンプレックスらしいので口に出してはいけない。

 元日本人の私にとって、お母さんの容姿は安心感があって好き。

 

 そんなお母さんはスマホロトムに向かって笑顔を見せながら無言で手を振っている。

 

【並んでると母娘ってより姉妹って感じ】

【この見た目で子持ちは無理でしょ】

【髪色とかは違うけど顔は似てるね】

【ちっちゃい】

【若い】

【ノシ】

 

「お母さん、なんか喋って」

 

「えっと、ごめんなさい。緊張してるわ」

 

 私も初めての配信の時は緊張したものだ。

 

「……こほん。みなさん、こんにちは。カレンの母で、スミレと申します」

 

【奥ゆかしい】

【ジョウト美人や】

【緊張するのは仕方ない】

【緊張で自己紹介忘れた幼女もおるしな】

 

「みなさん、たくさん褒めてくれるのですね。嬉しく思います」

 

 お母さんは褒められすぎて少し照れているようだけど、コメントの反応を見ているうちに少しずつ緊張が解れてきているようだ。コメントは顔をつき合わせないせいか、遠慮容赦も躊躇いもなく褒めてくれるのだ。逆にイジったり悪口を言ったりも遠慮容赦ないのだけど。私的には褒められれば褒められるほど気持ちよくなってしまうが、お母さんは違うみたい。

 

「今日はポケモンバトル配信をしようと思って、それでお母さんを呼びました」

 

 お母さんが馴染んできたところで、本題に戻る。

 

【マ?】

【バトル楽しみにしてた】

【カレンちゃんより強いらしいお母さんが相手とか楽しみ】

【カレンちゃん頑張れ!】

 

「時間のこともありますし早速始めてしまおうと思います。お母さん、大丈夫?」

 

「いつでも大丈夫よ、緊張も解けてきたわ」

 

 お母さんは調子を取り戻したように微笑んで頷いた。

 

「ルールはシングルバトルで3対3の勝ち抜き戦。先に相手のポケモンを全滅させた方の勝ち」

 

 ルール説明をして、ボールを準備する。このバトルに使用する3匹はすでに決めてきている。

 

「お母さん、行くよ! ハガネール!」

 

「行きなさい、カイリュー!」

 

【バトル開始ィィィィィィ!!!!】

【キタアアアアアアア!!】

【カイリューまじ!?】

【カレンちゃんはハガネールか】

【カイリューはガチ】

 

 私が初手に出したのはハガネールで、お母さんはカイリュー。お母さんのカイリューとは今まで何度も戦ってきたので、その強さは身に染みている。タイプ相性的にはカイリューのタイプであるドラゴンひこうのどちらもハガネールには効きづらいので、ハガネールが有利と言えるのだけど、カイリューの使える技は豊富だから決して油断はできない。

 

「ハガネール! "アイアンテール"!」

 

「カイリュー、避けて"りゅうのまい"続けて"アクアテール"!」

 

 ハガネールの"アイアンテール"をギリギリで避けたカイリューが"りゅうのまい"で攻撃力を上げて"アクアテール"を仕掛けてくる。はがねじめんタイプのハガネールに弱点のみずタイプで、それに加えて攻撃力の上がったカイリューの"アクアテール"が当たれば、大ダメージは免れない。だけど──

 

「ハガネール、"てっぺき"で耐えて!」

 

 ハガネールの素早さではカイリューの攻撃を避けるのは難しい。だけど、ハガネールの防御力なら"てっぺき"で防御力を更に引き上げることで余裕を持って耐えられる。

 

「そのまま引き付けて"アイアンテール"!」

 

 "アクアテール"をハガネールに当てた直後、ゼロ距離に迫ったカイリューにハガネールの"アイアンテール"がもろに突き刺さる。

 

「カイリュー、"しんそく"で離脱しなさい」

 

【すげー迫力】

【カイリュー全然効いてないな】

【あれはマルチスケイルだな】

【知っているのか!?】

【アクアテールを耐えて攻撃したハガネールのガッツよ】

【ハガネールかっけぇなあ】

 

 離れていくカイリューに"アイアンテール"のダメージはあまりなさそうだ。カイリューの特性は"マルチスケイル"。万全の状態から受けるダメージを激減させる特性によって"アイアンテール"のダメージは抑えられてしまった。

 

「ハガネール、"ステルスロック"」

 

【仕切り直しか】

【ステロは大事】

【見入ってコメント忘れてたわ】

【カレンちゃん頑張って!】

 

 お互いに距離が開いて仕切り直しになったタイミングで"ステルスロック"を仕掛けておく。"ステルスロック"は交代して出てきた相手のポケモンにダメージを与える技だ。これで後続のポケモンが楽になる。

 "アクアテール"を受けたハガネールはそれなりのダメージを負っているが、"てっぺき"の効果もあってまだ余裕はある。"アクアテール"をあと1回は問題なく受けられそうだ。

 

「カイリュー、"しんそく"で近付いて"アクアテール"!」

 

「っ! ハガネール! "アイアンテール"!」

 

 カイリューによる"しんそく"を交えた奇襲の"アクアテール"の直撃を食らったハガネールは咄嗟に指示した"アイアンテール"で迎撃しようとしたが、"しんそく"を使ったカイリューの動きが早すぎて捉えることができなかった。今の一撃はハガネールにかなり効いたようで、苦しそうにしている。もうあまり余裕はない。ハガネールごめん。

 

「今のは"てっぺき"を使った方が良かったわね」

 

「むぅ……」

 

【しんそくを移動で使うのか!?】

【普通はそんなことできない】

【つーか誰もやろうと思わない】

【技を使いながら他の技を使うのは簡単じゃないし、普通できない。このカイリュー恐ろしいほど鍛えてるな】

【有識者ニキ解説助かる】

【ふくれ顔カレンちゃんすこ】

【カイリューやべぇ】

【真剣勝負中でも師匠として指摘してくれるお母さん優しい】

 

 遺憾だけど、お母さんの言う通りだ。"てっぺき"なら"アイアンテール"よりも出が早いから使っていれば間に合ってダメージを抑えられた可能性がある。

 

「カイリュー、もう一度"しんそく"で──」

 

「ハガネール! 近くの岩に向かって"アイアンテール"!」

 

 だけど、私だって負けてばかりじゃないっ! 

 お母さんの指示を遮るようにハガネールに指示を出す。突然岩に攻撃するように指示した私に疑問を持つこともなく従い、ハガネールは岩を破壊した。この辺は日頃の信頼の証だ。ハガネールのその信頼にちゃんと答えなきゃいけない。

 破壊された岩が、カイリューの方に向かって散弾のように飛んでいく。石飛礫自体に大したダメージはないだろうが、石飛礫を食らったカイリューは自由に動けずに一瞬動きが停止する。僅かな瞬間だが、それだけあれば十分だ。

 

「ハガネール、隙を突いて"アイアンテール"!」

 

 石飛礫に邪魔をされて"アイアンテール"を避ける暇もなくもろに受けたカイリューが地面に墜落する。"マルチスケイル"が無くなったカイリューにはかなりのダメージとなったはずだ。

 

【おおおおおおおお!!!!】

【これはうまい】

【カイリュー立てるか?】

【やっぱカレンちゃん天才だわ】

【カイリューとお母さんも頑張って!】

 

「カイリュー、まだやれるわね!」

 

 しかし、大ダメージを受けて傷つき倒れたカイリューはお母さんの声を聞いて、身体を起こす。その眼に宿る闘志は全然衰えていない。

 

「ハガネール、畳み掛けて!」

 

「カイリュー! 迎え撃ちなさい!」

 

 ハガネールの大きな身体をしならせた"アイアンテール"が迫る中、カイリューはハガネールの巨体を上手くかいくぐり懐に入る。

 "アイアンテール"と"アクアテール"が交叉する。お互いに手負い。この一撃が決まれば相手を沈めることができる。気合いと気合いのぶつかり合い。刹那の攻防、果たしてその結果は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──大きな音を立ててハガネールの巨体が崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「ハガネールっ!」

 

倒れ伏したハガネールはボロボロで一目見て戦闘不能だとわかった。一方、ハガネールを倒したカイリューもすでにボロボロでもあと少しでもダメージを与えれば倒せそうだ。カイリューにこれだけのダメージを与えて、後続のサポートに"ステルスロック"まで撒いてくれた。十分すぎる活躍だ。

 

【ああああああああ!】

【ナイスガッツだった!】

【ハガネールお疲れ様】

【かっこよかったわ】

【カイリュー強すぎる】

【カイリューってどこで捕まえられる?】

 

「ありがとうハガネール」

 

ボールに戻したハガネールに一声掛けると、ボールが応えるように僅かに揺れた。ありがとう、今は休んでてね。

 

だけど、バトルはまだ終わっていない。ハガネールの頑張りを無駄にしないためにも──

 

「──お願い! ルカリオ!」

 

 


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