【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
長く続いた沈黙を破ったのは、ウィノナだった。
一度息を吐いて、ゆっくりと息を吸う。
それから、ぐっと腹に力を入れて、クレスの方に顔を向けた。
「止められたぐらいで決意が鈍るなら、最初からここにはいないよ。……クレスはどうする?」
「……そうだね、少し弱気になってたみたいだ。ミントは──ミントって呼ばせてもらうけど、どうする?」
「──あ、はい。そう呼んでもらって構いません。私も……、皆さんと一緒に付いて行こうと思います」
「いいのかい? 今更だけど、危険だよ」
構わない、というような強い意志を感じさせる瞳で、ミントは頷く。
「だよな! ミントのお袋さんの仇、取ってやろうぜ!」
「──チェスター。ミントのお母さんは、まだ亡くなったと決まったわけじゃ……」
「あ、ワリぃ……」
素直に頭を下げたチェスターに、ミントはいいんです、と顔を伏せた。
「本当は薄々、気付いていたんです。私の他に誰もいなかった、というのもモリスンさんの優しさだと。きっと、母はもう……」
消沈するミントの肩に、ウィノナが手を置いた。
「アタシ達じゃ、ミントのお母さんの代わりにはならないけどさ。でも、アタシ達は味方だよ。精一杯の事をするって、約束するから」
「はい……っ」
目の端にうっすらと涙を溜めてミントは頷き、それを見てクレスも分かりやすく意気込む。
「準備を済ませたら、すぐにモリスンさんの後を追おう。黒騎士の野望が本当に世界を征服することなら、ますます待っているだけなんて出来ない」
それぞれが頷き、手早く準備を済ませる。
四人はそれから、小一時間も経たない内にモリスン邸を出発した。
◇◆◇◆◇◆
山際を左手に見てモリスン邸から直進すると、地下墓地はすぐに見つかった。
自然窟を利用しているらしく、入り口に人工的な細工は見当たらない。
しかし、中に入ってしばらく進むと、そこで初めて人工物が姿を表す。
石を切ってレンガ状にしたブロックを、床にも壁にも使用していた。
空気の濁りは予想以上に少なかったが、埃や黴の匂いと焚かれた香が鼻梁を突いた。
その香に誤魔化されてはいるものの、明らかにそれとは別の異臭がある。
不愉快なその匂いは、生理的な嫌悪感を抱かせた。
「……ここは、アンデッドの住処になってると思います」
緊張した声で、ミントが言った。
「この独特な臭気は、アンデッドから出るものです」
「立派な墓地なのに、人が最近訪れた形跡がないのは……」
「アンデッドに占拠されたから?」
クレスとウィノナが口々に言うと、ミントは頷いた。
「初期の対応が悪く、数が増えてしまった為に、放棄せざるを得なかったのかもしれません」
「勿体ねぇ……、立派な墓地だってのに。地下に作るってんなら、さぞ金も掛かったろうにな」
チェスターが呟くと同時、目の前の棺が動き出した。
揺れるような動きではない。
内側から何かが、這い出ようとしているのだ。
「おいおい、何かヤベェんじゃねぇか!?」
動いた棺を指差しながら、チェスターが仲間達へ顔を向ける。
そして、クレスの下した決断は早かった。
「──逃げよう!」
その声に弾かれるようにして、四人は一斉に駆け出す。
通路の先へ、とにかく先へ……。奥へ奥へと進んでいく。
そうすると、今までの沈黙が嘘のように。アンデッドの集団と出くわした。
ゾンビにマミー、ウィスプまでもが進路を遮る。
止まって応戦しようものなら、即座に取り囲まれてしまうのは明らかだった。
ウィノナがミニボウガンでウィスプを撃ち落とし、チェスターがゾンビの足を射抜く。
矢はそのまま地面に突き刺さり、ゾンビの足を縫い止めた。
「襲爪雷斬!」
そこへ雷を伴う大上段からの一撃で、クレスが止めを指す。
「行くぞ、皆! 足を止めるな、走るんだ!」
前衛のクレスが先頭になって、アンデッドの群れを強引に突破する。
傷を負うことも
致命傷を受ける前に、ミントが法術を使って癒してくれる。
そうでければ、さしものクレスも、ここまで強引に進めなかったに違いない。
走る足を止めず進んでも、まだチラホラとアンデッドが出てくる。
無視できるものは相手にせず、近くの者は斬りつけ、突き飛ばし、進路上に飛ぶ敵は、軽業の得意なウィノナが撃ち落とした。
矢の一撃の重さはチェスターに劣るが、こうした身の軽さから、重心の安定しない射撃の命中率はウィノナが勝る。
通路を突き進み、とにかく逃げる。
そうして最奥近くまで辿り着いた時、唐突にアンデッドの気配が薄れた。
常に鼻の周りに纏わりつくような、アンデッド独特の臭気が綺麗に消えていた。
「ここは安全そうだ……」
ハァ、と息を吐いて、クレスは緊張を解いた。
それを見て、他の面々も思い思いに体を休め始める。
「とは言っても、突然の襲撃はあるかもしれない。各自、警戒を怠らないように」
「りょうかーい」
ウィノナはひらひらと手を振って応えながら、辿り着いた部屋を見渡す。
ここまで来た道中同様、幾つもの墓が壁や地面に置かれていた。
それ以外の特徴と言えば、部屋の奥に一枚扉があるだけだった。
まだ奥へ続く道があるという事よりも、それが一種威容な雰囲気を発している事が、ウィノナの気を引き締めさせる。
チェスターも同様に周囲を警戒するつもりで見ていたところ、しばらくしてから、とウィノナを呼んで手招きした。
「……面白いモン見つけたぞ。ほら、来いよウィノナ。お前、死んでんぞ」
「はぁ?」
眉根を寄せてチェスターの元まで近づくと、そこには一つの墓碑がある。
『ウィノナ・ピックフォード
愛する男が救われることを願い、ここより旅立つ』
A.D.4290~4210
「うわっ、ほんとだ! アタシ死んでる!」
思わぬ発見に、ウィノナは墓碑を指差して笑ってしまった。
「同性同名かぁ、こんな偶然もあるんだなぁ。……そういえば、昔アルベイン流の剣術道場を建てる時、出資してくれた人が居たって話だっけ。この墓碑に刻まれた、その人なのかもしれないよ」
クレスが言って、そうそう、とウィノナも同意した。
「アタシが拾われたのも、名前繋がりだしねぇ。まぁ、それ以上にこのカワユさが、放っておけなかったホントの理由だろうけど」
片手を頬に当て、身体に変なシナを作っておどけるウィノナに、チェスターは鼻で笑った。
「馬鹿お前、いいから早く成仏してくれよ。ミントが法術使ったら、コイツ消えんじゃねぇのか?」
「辛辣ぅ! ちょっとチェスター、アンタもっとアタシに優しくしなさいよ!」
「優しくする必要のある奴にゃ、ちゃあんと優しくするぜ、俺は」
「よく言った。アタシの飛燕連脚を喰らって、まだ同じ台詞が言えるか試してやる」
「おいおい、こんなところでケンカはよしてくれよ。襲撃があるかもしれないって、言ったばかりだろう?」
腕捲りして鼻息荒くチェスターを睨み付けていたウィノナは、クレスの言い分に渋々矛を納めた。
それでも、未だに視線はチェスター急所に固定され、付け入る隙を探していた。
チェスターは、その視線から退避しながら距離を置く。
冷や汗を拭ったチェスターは、墓碑の前に立ち続けているミントに気付いた。
そのミントは、胸の前で両手の指を嚙み合わせ、祈るように見つめている。
このまま体よく有耶無耶にするつもりで、チェスターはミントの傍に立つ。
「どうしたよ、ミント?」
「いえ……、碑文を見ていました。この方が愛する男性は、救われたのだろうか、と」
「ああ……。願いが叶わねぇまま、逝っちまったみたいだよな」
「この方が結末を知らないだけであっても、愛する男性が救われていますように、と。そのように祈っていました……」
結果など知る由もないが、その方がいいに決まってる。
しかし、何となく同意するのも気恥ずかしくて沈黙していると、チェスターは碑文の最下段の、ある一文に気が付いた。
「おい、これ……生年と没年が逆じゃねぇか?」
それを聞いて、ヒョイと覗き込んできたウィノナが、本当だと呟いた。
「でも、何でそのまま? 彫った後にでも気づくでしょ、普通。……で、直すでしょ、普通」
「そりゃ、まぁな。でも、墓石は高ぇからな。代わりを用意出来なかっただけかもしれねぇ」
何となく釈然としないものの、結局は
そんな事もあるのかな、と思うだけで、それ以上の追求はしなかった。
「さて、そろそろ休憩も終わりにしよう」
クレスが言うと、それぞれ武器を確認する。
ウィノナは腰の剣を固定し直し、ボウガンに装填された矢を取り外して鏃を確認、再装填する。
チェスターは矢筒の位置を調整してから、弓弦を一度引き絞って張力を確認すると、満足げに肩へ担いだ。
クレスとミントは元より武器をしまっていなかったので、そのまま構え直し、クレスは左手に持った盾を握り直して再度構えた。
「行くぞ……!」
クレスが一声かけて、一行は更に奥へと進んで行った。