【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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始まりの場所、終わりの場所 その2

 

 最奥に辿り着くと同時、凄まじい光と振動が、クレス達を襲った。

 正確にはクレス達に、ではない。

 

 部屋全体、そして墓地全体へと、その衝撃が及んでいた。

 部屋中央には見事な装飾の施された棺。その四方を神官を象った像が囲んでいる。

 

 恐らくは、その像が棺を守護する為か、封印する為の役割を果たしていたのだろう。

 足元には砕かれた水晶のような欠片が、幾つも無惨に転がっていた。

 

 そして、棺から今まさに足を掛けて降りてくる男がいる。

 完成された彫像に、そのまま息を吹き込んだかのような、完璧な美を体現していた。

 

 ゆらめく波立った金髪に、憂いを見せる(かんばせ)

 その正体を知らなければ、どのような女性も自分に愛を囁いて貰うための努力を怠らないだろう。

 

 そう思わせる魅力が、そこにはあった。

 そこへ、金髪の美丈夫の声が漏れる。

 

「長かった……」

 

 シン、と静まり返った室内に、ポツリと零れた一言は、やけに響いて聞こえた。

 

「我が身に課せられた大義を思うに……、あまりに長い時間だった……」

 

「──ま、魔王ダオスよ!」

 

 金髪の美丈夫に、最も近くで控えていた黒騎士が、弾かれたように動いた。

 

「私……、私がお前を復活させたんだ……! 我が命に応えよ、我に力を! 世界を支配する、何者にも勝る力を!」

 

 魔王と呼ばれ、それに呼応するように、美丈夫が顔を向けた。

 それで、まさか、という思いがクレス達に去来した。

 

 百年も前の時代、人間国家相手に戦争を仕掛けた、魔物どもを操る王がいた。

 ──魔王ダオス。

 

 クレス達の生きる時代には、もう既にリアリティを失っており、御伽噺とも呼べない代物でしかなかった。

 

 本当にそのような者がいたのだとは思っても、それがどれ程の脅威だったかなど、想像だに出来ない。

 

 チェスターに至っては、大人が子供に言い聞かせる、幽霊と大差ない認識だった。

 

 そもそも、魔王は討伐されたのだ。

 存在したのが百年前なら、討伐されたのも百年前だ。

 

 封印されていたという事実は、噂程度の眉唾物で、事実かどうかも不明だった。

 その上、討伐者の中にアルベイン流の剣士がいたという話もある。

 

 噂が錯綜し、どれが真実か分からなくなっていたし、だから脅威や畏怖という認識は最初からなかった。

 

 大体、歴史に登場したのと同時に討伐された存在を、どのように受け止めたものだろう。

 

 それが分からないのは、クレスもまた同様だった。

 

 ただ、その身に纏う存在感が、これまで見てきたどのような人物とも懸け離れている……。

 それだけは、よく分かった。

 

 誰もがまんじりとも動けない中、魔王ダオスの視線が黒騎士相手に向けられる。

 

「ああ……」

 

 ダオスの目に、嘲りの色が灯る。

 

「お前は復活に成功すれば、この私を操れると思っていたようだが……。そもそも、それが間違いだ。思い出してみるがいい、三ヶ月前の事を」

 

 ダオスがその指先を黒騎士に向けると、それまでの狂気めいた雰囲気が一気に霧散する。

 突然、力が抜けるような動きを見せると、よろけてそのまま二歩、後ろに下がった。

 

「私……、私は……三ヶ月前、アンデッド発生の、調査に来て……」

 

「その時、お前は棺に近づいた。──そして、お前は私に洗脳されたのだ。私の復活させる事も、自分自身の野望と疑わずにな」

 

「そ、そんな、まさか……。そんな筈は……。だとしたら、私はとんでもないことを……」

 

 黒騎士は兜の上から頭を抱えた。

 

「お前はもう用済みだ。──死ね!」

 

 黒騎士がダオスの手に集まる高エネルギーに気づいた時には、もう遅かった。

 

 身を翻し、脱兎のごとく駆けるも、放たれた光の奔流に飲み込まれ、塵も残さず消えてしまう。

 

 ダオスはそれをつまらなそうに一瞥し、そしてようやくこの部屋に、他の誰かがいることに気付いた。

 

 ダオスの視線が横へ動き、モリスンの所で止まると、不快げに顔を歪める。

 

「貴様……、一度ならず二度までも。幾度(いくたび)、私の邪魔をすれば気が済むのか……!」

 

 鋭い敵意は形を持って、モリスンを刺すかのようだった。

 クレス達は居ても立ってもいられず、モリスンの近くへ駆け出す。

 

 ウィノナとミントも、男たちの蔭となる形で遅れてついて行った。

 そのクレスの動きを追って、ダオスの視線もまた動く。

 

「……なるほど。ならば小僧までもが私を追って来たとして、不思議ではないという訳か」

 

「なに、一体何を言って──」

 

「我が使命を邪魔立てする、小うるさい蝿どもよ! 今ここで果てるがいい!」

 

 ダオスは憎々しい顔つきをクレスに向け、両手に力を集める動きを見せる。

 

 クレスはこれまでの人生で、初めて圧力を持って押し寄せる敵意というものを体感した。

 

 身がすくむ思い、という単語が脳裏をよぎる。

 たった一つの視線で動けなくなり、震える身体は言うことを利かない。

 

 心臓は痛いほどに脈打ち、耳の後ろが熱く、音が上手く拾えないというのに、何か行動する事さえ出来なかった。

 

 その間にダオスの詠唱は終了し、その力が解放される。

 

「テトラスペル!」

 

 だが不思議と、その発音だけはしっかりと聞き取れた。

 

 そして、何かとてつもない攻撃が自分を襲うだろうと、それだけは理解できたのに、それでも自分の身体は動かない。

 

 

 身構える事すら叶わぬ中、しかしいつまでたっても攻撃がやって来なくて、閉じていた目を開いた。

 

 一体どうした事かと見てみれば、ダオス自身が己の手を凝視し、驚愕している。

 

「まさか、既にマナが……!?」

 

 クレスには何が起こったのかまるで分からなかったが、その事実はダオスを前後不覚に陥らせるには十分だった様だ。

 

 呆然としているようにも見えるダオスを尻目に、モリスンがクレスの肩を掴む。

 それでようやくハッとして、身体が動くようになった。

 

 モリスンは四人を一ヶ所に集め、ダオスの注意を引かないよう小声で言った。

 

「──いいか、よく聞いてくれ。奴は過去の人物だから知らなかったようだが、現代に魔術は存在しない」

 

 モリスン自身、余裕がないのだろう。

 明らかに平時よりも滑舌が悪い。

 

 そのうえ早口で言うものだから、言った内容を即座に理解できる者は、この中にいなかった。

 

「しかし同時に、魔術でしか傷付かないとされる魔王ダオスは、こちらからも倒せない。君達をある場所へ飛ばすから、倒す方法を探り学んでくるんだ」

 

「あの、それって一体……」

 

「説明している暇はない!」

 

 言うだけ言って、質問の一切を受け付けず、モリスンは詠唱を開始する。

 だが、四人を取り囲み始めた光には、流石のダオスも見逃す筈がなかった。

 

 ダオスにはその光に見覚えがある。

 非常によく知っている、といって良い。

 

 それはダオスもまたよく使う、時間転移の際に発する光だった。

 しかし、ダオスが使用するそれと明らかに違う点は、長い詠唱を必要とする点だ。

 

 詠唱中、無防備なモリスンを殺すのは容易い。

 魔術が使えなくとも、ダオスは強い。

 

 マルスを殺した時のように、自身の力を放出すれば良いだけのことだ。

 ダオスは自らの両手に力を溜める。

 

 みるみるうちに光が両掌の間に集まり、圧縮されていく。

 ウィノナはそれを見ながら下唇を噛む。

 

 マルスに使われたのと同様の攻撃が、今まさに繰り出され様としている。

 そして、発動までの猶予は、あまりないように思われた。

 

「黙って死を待つくらいなら……!」

 

 モリスンの詠唱は、ダオスの攻撃に間に合わないと判断した。

 その時、ウィノナが一塊となっている中から飛び出す。

 

 ──自分が囮になれば、クレス達は助かるかもしれない。

 

 そうしなければ、皆まとめて死ぬだけだろう。

 誰かがやらねばならないというなら、クレスたちに恩義を感じている自分がやるべき、とウィノナは思った。

 

 だが、きっとクレスとチェスターは、そんな自己犠牲を許さないだろう。

 やるなら自分が、とそれぞれが言うだろうし、後一秒でも遅ければ、先にチェスターが動いていたに違いない。

 

 しかし、真っ先に動いたのはウィノナだった。

 

 クレスたちとダオスとの直線状に飛び込むと、その攻撃動作がピタリと止まった。

 

 意識がこちらに向いたなら、次は別方向に──。

 そのつもりでいたのに、ダオスの顔を見たとき動きを止めてしまった。

 

 何を思ったのか、魔王ともあろう者が、驚愕の表情で止まっている。

 

「──ウィノナ!」

 

 魔王その人から名を呼ばれ、ウィノナの動き出そうとしていた足が再度止まった。

 魔王に名を覚えられるような人物ではないし、そもそも面識の事実すらない。

 

 一体何が、と思った瞬間、視界が暗転した。

 モリスンの詠唱が完了し、クレス達と共に過去への時間転移したのだ。

 

 ただし、ウィノナとクレス達の間は数歩分の距離が離れていた。

 その距離故に、 一瞬送れて転移が発動する。

 

 その一瞬の間――。

 目の前から姿を消したウィノナを見て、ダオスは激昂した。

 

「彼女をどこにやった!?」

 

 その怒りは天を衝き、怒号が封印の間を震わせる。

 

「何故ウィノナをこの地、この時に呼んで来た! 何の理由あっての事だ!」

 

 その怒りに()てられて、モリスンは身体が竦み動けなくなった。

 しかし、動けないのは単に恐怖からではない。

 

 困惑の度合いも、また大きかった。

 何しろ、ダオスがここまで激昂する理由が、モリスンには分からない。

 

 何故、魔王とウィノナが知り合いかのような発言をするのか……。

 

「いや、待て……。彼女のあの姿は……」

 

 ダオスは眉根を寄せ、視線をモリスンから切る。

 そして、消え去った跡に視線を向けた。

 

「彼女の……消え去る直前に見た、あの右手(・・)は……!」

 

 只ならぬ気配を発しながら、ダオスは一歩そこへ近づく。

 既に転移は完了し、あるのは光の粒子が落ちて、消えていく光景だけだ。

 

 だが、ダオスの一歩は必然的に、モリスンの方へ一歩近づく事になり、それでモリスンも一歩下がる。

 

 それはまるで、重圧が見えない壁となり、押し込んでいるような感じだった。

 

「……そうか、そういう事か。……貴様が諸悪の根元か。貴様さえいなければ、彼女は──ウィノナは、斯様な過酷な目に遭わず済んだものを……!」

 

 今度は憎悪を持って、ダオスはモリスンを睨み付ける。

 

「貴様は……! 百度殺して尚、足りんッ!」

 

 モリスンを睨み付けて恫喝し、ダオスがその手に力を込める。

 しかしモリスンは、ダオスの掌に力が集中していくのを、力なく見つめる事しか出来なかった。

 

 抵抗しようにも、時間転移に全ての精神力を使ってしまった。

 そもそも圧倒的な力の差があり、対抗策もない。

 

 諦めにも似た感情が、モリスンを支配する。

 自嘲気味な笑みを浮かべたその時、二人の間に幾つもの光球が降り注いだ。

 

「私が送り出した時と同じ光……!?」

 

 ──ならば、それは一つしかない。

 咄嗟に飛び退き事態を静閑していると、床に着地した光は複数の人型を作り、次第に明確な姿へ変わっていく。

 

 そうして現れた人物の中には、見知らぬ者も幾人か含まれていた。

 

 光の人型から姿を取り戻し、そこから真っ先に飛び出したのはウィノナだった。

 そう認識して、直後不安になる。

 

 本当に彼女自身なのか、自信がなくなった。

 

 それというのも、先程まで身に付けていた服装と別物になっていたし、身に纏う印象も大きく違ったからだった。

 

 機能性を重視した作りの、黒いレザーで全身を纏った彼女は、見た目だけでなく、寸前に見た彼女と雰囲気に大きな違和がある。

 

 それは小さな違和感だったが、雰囲気だけが原因ではなく、年齢まで違っているように見えたからかもしれない。

 

 あちらで何年を過ごしたのかは分からないが、変えてしまうだけの体験があったのだろう。

 

 あるいは、ダオスの激昂は、これに原因があるのかもしれない。

 

「──ダオス!」

 

 喜色満面で駆け付けるウィノナに、ダオスは驚愕した目を向ける。

 だが、次いで背後に佇むクレス達を見て、明らかに警戒して身構えた。

 

 そんなダオスを見て、ウィノナは安心させるように、優しげな笑み見せる。

 

「待って、ダオス! アタシ達は、ダオスを助けに来たんだよ!」

 




第一幕、これにて終了です。
次回から過去編に入ります。
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