【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
第二幕、過去編に入ります。
書籍版と大きく話は変わらないのですが、原作キャラとの出会いなど、本来はないエピソードも追加していきたいと考えています。
小さな変化から、原作とは全く違う設定に変えてしまっているものもありますが、この小説ではそういう世界線での物語なんだなぁ、と思って下さい。
予期せぬ出会い、予期せぬ場所 その1
そこは不思議な空間だった。
光が無いのに暗くはなく、闇の中にいるようなのに光が見えた。
上下に分割された空の中、四つの光球が一丸となってフラフラと進む。
恐ろしく速く進んでいるのか、あるいは恐ろしく速く後退しているのか……。
それさえ曖昧な世界で、光球は進んでいた。
それら一つに固まって見えた光球から、一つの球が離れていく。
三つと一つに別れた光球は、距離が進むに連れ、無視できない間を作る。
光球同士の距離が更に大きく逸れた瞬間、空間に
別たれた光球は、その不思議な空間から飛び出して、本来の世界へと戻って行った。
◇◆◇◆◇◆
冬の空は寒く、木枯らしが舞っていた。
例年よりも厳しい寒さは、空ばかりではなく大地にも広がっており、 見渡す限り活力がない。
草木に動物たち──果ては魔物にすら、活力がなかった。
その様な閑散とした地に、一つの光球が降りてきた。
ミッドガルズ大陸北部、 はるか昔に打ち捨てられた古城の床に着地すると、その光は人の形を作っていく。
そうして光が弾けると、そこには一人の少女──ウィノナが現れた。
たたらを踏むようにつんのめり、抵抗するような動きも虚しく転ぶ。
しかし、身体に染み付いた動きは、そのまま受け身を取らせ、反動を持って起き上がった。
「なに、ここ……?」
ウィノナが薄暗い中を見渡せば、そこは砂と埃が漂う場所だった。
古く歪な石造り、どこか打ち捨てられた砦のようにも感じられたが、それよりも状況が理解できない。
先程まで、ウィノナは間違いなく、地下墓地の中にいた。
だというのに、見える光景はそれとは全く違う。
「ここはどこ! アタシはどうなったの!? あの時、魔王がアタシの名前を口にしたのは何で!?」
口に出したのは確認したかったからだ。
自分が今、混乱の極みにいるのは自覚している。
声に出すことで、少しは冷静になれることを期待していた。
しかし、その期待は全く違う形で裏切られた。
ただただウィノナの声が反響するばかりで、応えてくれる何者もいない。
冷静になる努力はしてみたが、そんなものは何の慰めにもならなかった。
その時、石畳の奥――ウィノナがいる所から、そう離れていない場所が眩い光に包まれる。
「な……っ!?」
静寂が支配していた場所に、唐突に現れ、そして光がひっそりと消えた。
唐突な光にも驚いたが、それよりも驚きを与えたのは、一人の男が現れた事だ。
しかも、その男には見覚えがある。
――地下墓地で見た魔王が、そこにいた。
ふらりと一歩、二歩と、足を進める。
そうすると、天井から差し込む光で。男の顔が
崩落して出来ていた天井の穴、そこから一条の光が差し込み、ダオスを照らしているのだ。
まるで魔王の流麗さを演出する為に、予め開けていたかのようだ。
ウィノナは思わず見つめてしまったが、それで分かった事がある。
よくよく見ると、その足取りはゆっくり進めるというよりは、
確認できる顔色も土気色で、正常な状態とは、とても思えない。
ウィノナは逃げ出そうかどうか一瞬躊躇い、しかし身を
そのままピクリとも動かないダオスに、ウィノナは完全に逃げるタイミングを失ってしまった。
とはいえ、チャンスには違いない。
一目散に走り去れば、この魔王から逃げ切れるに違いない。
そう思って身を翻しても、足は一歩前に出たものの、それ以上は前に出なかった。
「ああ、もう……っ!」
自分の人の良さが嫌になりそうだった。
勝手に倒れた魔王など放って置けばいい。
そう、頭では理解できても、病人のような顔をした相手を、ウィノナは無視できなかった。
「……ねぇ、ちょっと大丈夫?」
しかし、声を掛けてみたが、返答はない。
肩を揺すってみても、脱力した身体が力なく揺れるだけだった。
完全に気絶してしまっている。
ウィノナはどうしようかと途方にくれた。
「助けて欲しいのはこっちの方なンだよ、チクショウ……」
◇◆◇◆◇◆
大の男を引き摺りながらの移動は。困難を極めた。
あのまま起きるまで待っていようかとも思ったが、あの古城は魔物の住処であると、すぐに判明した。
度重なる発光現象に魔物達が呼び寄せられ、ウィノナも応戦を余儀なくされたが、何とか逃げ出せた。
しかし、戦闘が長引けば不利になるばかりではなく、更なる増援が来るのは、火を見るよりも明らかだ。
戦うよりも、逃げることを優先するのは当然だった。
ミニボウガンで威嚇射撃を行いながら、ダオスを引き摺るのは、相当苦しい難行だった。
「あぁ、もう……っ!」
抱える事も背負う事も出来なかったので、仕方なく引き摺る事にしたのだが、身体中砂まみれの埃まみれにさせてしまった。
とはいえ、あの場に放置していけば、魔物に取って食われるしかない。
それを思えば、受け入れてもらう他ない。
ウィノナはそう納得して、ダオスを抱え直す。
魔物からはとりあえず逃げ切れたので、今度は両脇の下に手を入れて、後ろ向きに引き摺る格好を試してみた。
「なかなか、楽な運び方になったけど……」
ダオスの踵が地面を擦って、見事な二本線を引いてしまっている。
知恵が少しでもある魔物なら、この線を頼りに、二人を追ってくるだろう。
その上、ウィノナの体力も心許ない。
まだ動ける内に、距離を稼いでしまいたかった。
「休憩してる暇なんかないか……。よし、もうひと踏ん張り!」
ウィノナはダオスを抱え直し、古城から少しでも早く離れられるよう、足を動かすことに集中した。
そうして逃げている間、魔物に遭遇しなかったのは、本当に幸運だった。
今や古城が遠くに見えるまで距離を離した頃、旅人が残して行ったと思われる、焚き火の跡を見つけた。
腕がプルプルと震え、体力も限界に達していたウィノナは、これ幸いと休息を取ることにした。
旅人が離れた焚き火跡は、ぞんざいな処理の仕方で、まだ火がほんのりと燻っていた。
今回ばかりはそのお粗末な処理の仕方に感謝しつつ、近くから素早く種火になりそうなものを見つけ、火を大きくする。
それでようやく安心できる休息場を作れて、暖を取れるようになった。
焚き火の前に座り込み、揺れる炎を見つめながら、ウィノナは思う。
「誰か助けに来てくれるまで、ここで待っている方がいいのかな……」
遭難した時の対処であれば、それで間違いない。
しかし、今のこの状況を、ただの遭難と一緒に考えてよいものだろうか。
──それに。
食料も水も無い中、ずっとここにいる訳にもいかない。
ウィノナは横に寝かせたダオスを見る。
火の光に照らされた横顔は精悍さと美麗さがあり、一つの美術品かのようだった。
瞼はきつく閉じられたまま、あれほど乱暴に扱われたというのに、今まで一度も目を覚まさない。
十分、義理を果たしたと思いつつも、一度は助けてしまった。
このまま置いていくには、良心の呵責がある。
「ホント……、どうしよ……」
まずは水だけでも必要だ。
すぐ近くに町でも村でもあればいいのに……。
町まで辿り着けば、とりあえず井戸だけは使わせてもらえる。
財布はクレスが預かり、旅の道中の売買は全て任せていた。
今のウィノナは無一文である。
お金がない中、どうやって食料を得たものか。
見渡す限りの枯れた大地に、果たして狩れる動物がいるのだろうか。
いや、少しでも大きな町の中なら、日雇いの仕事があるかもしれない。
そうであれば、食い繋ぐことも可能だと思われる。
考え込んでる所で、ダオスが目を覚ました。
うっすらと開いた瞳には、現状の把握どころか、困惑すらもない。
というより、何も映していなかった。
それに対し疑問を感じつつ、不安にも思いながら、ウィノナはダオスに声をかける。
「えっと……、大丈夫?」
こんな時でも気遣ってしまう自分に、ウィノナは思わず苦笑した。
だが、それに対して男の反応は冷ややかだった。
一体なにを言ってるのかと
ウィノナは腹の底から熱いものが競り上がって来るのを感じ、衝動のまま指先を突き付ける。
「むっかー! あのねぇ、それが恩人にする態度!? そりゃ感謝しろなンて言わないけどさ、もうちょっと何かあるんじゃないの!?」
「恩人? ……君が?」
ダオスはしばらく己の状況を見つめ、そしてようやく自分が助けられたのだ、と気づいたようだ。
寝ていた身体を起こして向き直り、膝をついて胸に手を当てた。
「貴女に最大級の感謝を。受けた恩は決して忘れず、胸に刻むと誓う」
しかし、そんな貴人の如き礼を取られては、ただの村娘でしかないウィノナは慌てるしかない。
「あ、いや、そこまでして欲しい訳じゃなくて! ……あの、ゴメンね? ホントごめんなさい!」
結果として、お互いが頭を下げ合うという、実に珍妙な光景が出来上がる結果となった。