【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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第二幕、過去編に入ります。

書籍版と大きく話は変わらないのですが、原作キャラとの出会いなど、本来はないエピソードも追加していきたいと考えています。

小さな変化から、原作とは全く違う設定に変えてしまっているものもありますが、この小説ではそういう世界線での物語なんだなぁ、と思って下さい。
 


第二幕 AC.4201年
予期せぬ出会い、予期せぬ場所 その1


 

 そこは不思議な空間だった。

 光が無いのに暗くはなく、闇の中にいるようなのに光が見えた。

 

 上下に分割された空の中、四つの光球が一丸となってフラフラと進む。

 

 恐ろしく速く進んでいるのか、あるいは恐ろしく速く後退しているのか……。

 それさえ曖昧な世界で、光球は進んでいた。

 

 それら一つに固まって見えた光球から、一つの球が離れていく。

 三つと一つに別れた光球は、距離が進むに連れ、無視できない間を作る。

 

 光球同士の距離が更に大きく逸れた瞬間、空間に(まばゆ)い光が溢れた。

 別たれた光球は、その不思議な空間から飛び出して、本来の世界へと戻って行った。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 冬の空は寒く、木枯らしが舞っていた。

 例年よりも厳しい寒さは、空ばかりではなく大地にも広がっており、 見渡す限り活力がない。

 

 草木に動物たち──果ては魔物にすら、活力がなかった。

 

 その様な閑散とした地に、一つの光球が降りてきた。

 ミッドガルズ大陸北部、 はるか昔に打ち捨てられた古城の床に着地すると、その光は人の形を作っていく。

 

 そうして光が弾けると、そこには一人の少女──ウィノナが現れた。

 たたらを踏むようにつんのめり、抵抗するような動きも虚しく転ぶ。

 

 しかし、身体に染み付いた動きは、そのまま受け身を取らせ、反動を持って起き上がった。

 

「なに、ここ……?」

 

 ウィノナが薄暗い中を見渡せば、そこは砂と埃が漂う場所だった。

 

 古く歪な石造り、どこか打ち捨てられた砦のようにも感じられたが、それよりも状況が理解できない。

 

 先程まで、ウィノナは間違いなく、地下墓地の中にいた。

 だというのに、見える光景はそれとは全く違う。

 

「ここはどこ! アタシはどうなったの!? あの時、魔王がアタシの名前を口にしたのは何で!?」

 

 口に出したのは確認したかったからだ。

 自分が今、混乱の極みにいるのは自覚している。

 

 声に出すことで、少しは冷静になれることを期待していた。

 しかし、その期待は全く違う形で裏切られた。

 

 ただただウィノナの声が反響するばかりで、応えてくれる何者もいない。

 冷静になる努力はしてみたが、そんなものは何の慰めにもならなかった。

 

 その時、石畳の奥――ウィノナがいる所から、そう離れていない場所が眩い光に包まれる。

 

「な……っ!?」

 

 静寂が支配していた場所に、唐突に現れ、そして光がひっそりと消えた。

 唐突な光にも驚いたが、それよりも驚きを与えたのは、一人の男が現れた事だ。

 

 しかも、その男には見覚えがある。

 ――地下墓地で見た魔王が、そこにいた。

 

 ふらりと一歩、二歩と、足を進める。

 そうすると、天井から差し込む光で。男の顔が(あらわ)になった。

 

 崩落して出来ていた天井の穴、そこから一条の光が差し込み、ダオスを照らしているのだ。

 まるで魔王の流麗さを演出する為に、予め開けていたかのようだ。

 

 ウィノナは思わず見つめてしまったが、それで分かった事がある。

 

 よくよく見ると、その足取りはゆっくり進めるというよりは、覚束(おぼつか)ない。と表現した方が正しい。

 

 確認できる顔色も土気色で、正常な状態とは、とても思えない。

 

 ウィノナは逃げ出そうかどうか一瞬躊躇い、しかし身を(ひるがえ)すよりも早く、ダオスの方が先に倒れた。

 

 そのままピクリとも動かないダオスに、ウィノナは完全に逃げるタイミングを失ってしまった。

 とはいえ、チャンスには違いない。

 

 一目散に走り去れば、この魔王から逃げ切れるに違いない。

 そう思って身を翻しても、足は一歩前に出たものの、それ以上は前に出なかった。

 

「ああ、もう……っ!」

 

 自分の人の良さが嫌になりそうだった。

 勝手に倒れた魔王など放って置けばいい。

 

 そう、頭では理解できても、病人のような顔をした相手を、ウィノナは無視できなかった。

 

「……ねぇ、ちょっと大丈夫?」

 

 しかし、声を掛けてみたが、返答はない。

 肩を揺すってみても、脱力した身体が力なく揺れるだけだった。

 

 完全に気絶してしまっている。

 ウィノナはどうしようかと途方にくれた。

 

「助けて欲しいのはこっちの方なンだよ、チクショウ……」

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 大の男を引き摺りながらの移動は。困難を極めた。

 あのまま起きるまで待っていようかとも思ったが、あの古城は魔物の住処であると、すぐに判明した。

 

 度重なる発光現象に魔物達が呼び寄せられ、ウィノナも応戦を余儀なくされたが、何とか逃げ出せた。

 

 しかし、戦闘が長引けば不利になるばかりではなく、更なる増援が来るのは、火を見るよりも明らかだ。

 

 戦うよりも、逃げることを優先するのは当然だった。

 ミニボウガンで威嚇射撃を行いながら、ダオスを引き摺るのは、相当苦しい難行だった。

 

「あぁ、もう……っ!」

 

 抱える事も背負う事も出来なかったので、仕方なく引き摺る事にしたのだが、身体中砂まみれの埃まみれにさせてしまった。

 

 とはいえ、あの場に放置していけば、魔物に取って食われるしかない。

 それを思えば、受け入れてもらう他ない。

 

 ウィノナはそう納得して、ダオスを抱え直す。

 

 魔物からはとりあえず逃げ切れたので、今度は両脇の下に手を入れて、後ろ向きに引き摺る格好を試してみた。

 

「なかなか、楽な運び方になったけど……」

 

 ダオスの踵が地面を擦って、見事な二本線を引いてしまっている。

 知恵が少しでもある魔物なら、この線を頼りに、二人を追ってくるだろう。

 

 その上、ウィノナの体力も心許ない。

 まだ動ける内に、距離を稼いでしまいたかった。

 

「休憩してる暇なんかないか……。よし、もうひと踏ん張り!」

 

 ウィノナはダオスを抱え直し、古城から少しでも早く離れられるよう、足を動かすことに集中した。

 

 そうして逃げている間、魔物に遭遇しなかったのは、本当に幸運だった。

 

 今や古城が遠くに見えるまで距離を離した頃、旅人が残して行ったと思われる、焚き火の跡を見つけた。

 

 腕がプルプルと震え、体力も限界に達していたウィノナは、これ幸いと休息を取ることにした。

 

 旅人が離れた焚き火跡は、ぞんざいな処理の仕方で、まだ火がほんのりと燻っていた。

 

 今回ばかりはそのお粗末な処理の仕方に感謝しつつ、近くから素早く種火になりそうなものを見つけ、火を大きくする。

 

 それでようやく安心できる休息場を作れて、暖を取れるようになった。

 焚き火の前に座り込み、揺れる炎を見つめながら、ウィノナは思う。

 

「誰か助けに来てくれるまで、ここで待っている方がいいのかな……」

 

 遭難した時の対処であれば、それで間違いない。

 しかし、今のこの状況を、ただの遭難と一緒に考えてよいものだろうか。

 

 ──それに。

 食料も水も無い中、ずっとここにいる訳にもいかない。

 

 ウィノナは横に寝かせたダオスを見る。

 火の光に照らされた横顔は精悍さと美麗さがあり、一つの美術品かのようだった。

 

 瞼はきつく閉じられたまま、あれほど乱暴に扱われたというのに、今まで一度も目を覚まさない。

 

 十分、義理を果たしたと思いつつも、一度は助けてしまった。

 このまま置いていくには、良心の呵責がある。

 

「ホント……、どうしよ……」

 

 まずは水だけでも必要だ。

 すぐ近くに町でも村でもあればいいのに……。

 

 町まで辿り着けば、とりあえず井戸だけは使わせてもらえる。

 財布はクレスが預かり、旅の道中の売買は全て任せていた。

 

 今のウィノナは無一文である。

 お金がない中、どうやって食料を得たものか。

 

 見渡す限りの枯れた大地に、果たして狩れる動物がいるのだろうか。

 いや、少しでも大きな町の中なら、日雇いの仕事があるかもしれない。

 

 そうであれば、食い繋ぐことも可能だと思われる。

 考え込んでる所で、ダオスが目を覚ました。

 

 うっすらと開いた瞳には、現状の把握どころか、困惑すらもない。

 というより、何も映していなかった。

 

 それに対し疑問を感じつつ、不安にも思いながら、ウィノナはダオスに声をかける。

 

「えっと……、大丈夫?」

 

 こんな時でも気遣ってしまう自分に、ウィノナは思わず苦笑した。

 だが、それに対して男の反応は冷ややかだった。

 

 一体なにを言ってるのかと(いぶか)しみ、不審な表情を隠そうともしない。

 ウィノナは腹の底から熱いものが競り上がって来るのを感じ、衝動のまま指先を突き付ける。

 

「むっかー! あのねぇ、それが恩人にする態度!? そりゃ感謝しろなンて言わないけどさ、もうちょっと何かあるんじゃないの!?」

 

「恩人? ……君が?」

 

 ダオスはしばらく己の状況を見つめ、そしてようやく自分が助けられたのだ、と気づいたようだ。

 寝ていた身体を起こして向き直り、膝をついて胸に手を当てた。

 

「貴女に最大級の感謝を。受けた恩は決して忘れず、胸に刻むと誓う」

 

 しかし、そんな貴人の如き礼を取られては、ただの村娘でしかないウィノナは慌てるしかない。

 

「あ、いや、そこまでして欲しい訳じゃなくて! ……あの、ゴメンね? ホントごめんなさい!」

 

 結果として、お互いが頭を下げ合うという、実に珍妙な光景が出来上がる結果となった。

 

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