【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
しばらくして、落ち着いた頃――。
お互い状況説明が必要だろうと、どちらからともなく言い出した。
ざっと簡単な説明──ダオスが古城で倒れており、連れ出したこと──を話した後、もう少し具体的なこと聞きたい、とウィノナが言った。
「アタシのこと、なンか知ってる? 前に会った事とか」
「いや、会った事は一度もない」
ダオスは表情を変えずに
余りにもあっさりと否定されたが、ウィノナの目には嘘を言っているようには見えない。
「名前は? ──あ、ごめん。普通、名前を教える方が先だよね。アタシの名前はウィノナ。ウィノナ・ピックフォード」
「そうか、ウィノナというのか。私はダオスだ」
そう、と頷きながら、実は目の前の男が、魔王とは全くの別人で、よく似た男という線を考えていた。
だがだとしたら、何故、という幾つもの疑問が湧き出てくる。
魔王と呼ばれたあの男からは、迸るオーラのような物があったが、この男からは感じない。
そのような気配すら感じられないのが不思議な程だった。
(……記憶喪失、とか?)
だとしたら厄介だ。
もしも、今まさに記憶が甦るような事があれば、突然襲いかかって来たりするかもしれない。
それに、とウィノナは思う。
あの時のダオスには、烈火の如くとでもいう、怒りの発露があった。
人間に対する憎しみも、やはり同様に。
それが今は感じられない。
記憶喪失故とは、ここまで人格を変えてしまうものなのだろうか。
あるいは──。
記憶喪失とは全く関係ない何かが、ダオスを変えているのかも。
だが何にしても、まず一番に考えなくてはならない事は、食料の調達だった。
町に辿り着くことが出来れば言う事はないし、そうでなくとも狩りをするなどして、手に入れなければならない。
このような原っぱの真ん中で、飢え死にはご免だ。
「体調は大丈夫? 動ける?」
「ああ、問題ない」
その返事はウィノナを満足させ、早速足で砂をかけ、焚き火を消す。
それからすぐに出発する事になった。
行く当てがある訳ではない。
ここが何処で、近隣に町があるかも分からないのだ。
しかし、助けが期待できないのなら動くしかない。
このような不安だらけな旅路だが、一人でなくて良かった、とウィノナは思う。
(連れは魔王だけど……)
こっそり盗み見れば、ダオスとしっかり目が合った。
「どうかしたか?」
「あ、ううん!」
ウィノナは慌てて、両手を左右に振って誤魔化した。
「何であンな場所にいたのかなぁって。何か目的があって来たの?」
そうだな、とダオスは遠い目をして頷いた。
「私が倒れていたという、その古城に目的あって来た訳ではない。──ただ遠い所から旅をしてきた。ここが最後の希望だが、見つからなければ絶望する他ない」
「そう……なんだ」
ここ、という言葉には多くの
それでも、ダオスの静かな決意は感じ取る事ができた。
ウィノナの目的といえば、まずクレス達と合流することだ。
ここが何処かすら分からないのは頭痛の種だが、クレス達も自分と同じく見知らぬ土地に飛んでいる、と考えて間違いないはずだ。
色々と考えを巡らせている間に、ダオスの方からも質問が飛ぶ。
「そなたの目的は?」
「うーん、探したい相手はいるンだけどね。でも、目下最大の目的は、村でも町でもいいから、人の住む場所に辿り着くことかな」
言ってウィノナは曖昧に笑い、とりあえず当てずっぽうに歩くことに決めた。
そうして当てもなく歩く事になりながら、ここまでに起きた事を思い返す。
突然の発光、視界の暗転、気付けば見知らぬ古城の中。
そして、今は魔王を連れて歩いている。
誰でも良いから説明しろ、と叫びだしたい気分だった。
◇◆◇◆◇◆
旅そのものは順調だった。
途中、湧き水が見つかったことで久々の水分補給が出来たし、野に兎を見つけ、仕留める事も出来た。
水袋はない為、水の携帯は不可能だったが、水分の補給が出来ただけで、心身ともに楽になった。
そこを基点として狩りを行い、十分な量の食料を得た。
狩った獲物の肉は、固く食べられた物ではなかったが、贅沢が言える状況でもない。
簡単に加工した肉を、とりあえず翌日分まで食糧袋に入れ、再度町を求めて旅立つ。
そして、食料を少量ずつ消費しながら、彷徨い歩き探し続けた。
とうとう日を跨ぎ、喉の渇きも限界に近づいた頃――。
ようやく遠くに、町の明かりを見つけた。
「やった、ダオス! 壁だ! 建物が見える、町があるよ!」
ダオスにも見えていることは分かっている。
それでも町を指差して、ウィノナはダオスへ振り返った。
ウィノナは感情を隠すことを好まない。
喜怒哀楽が激しく、身振り手振りも大きい。
そして、ダオスに対しても既に当初の警戒を解き、ごく自然な態度で接していた。
そんなウィノナに、ダオスは時としてごく僅かな──あるかなしかの笑みを向ける。
ウィノナはそれを、ダオスもまた心を開いてきてくれている予兆だと感じていた。
「おっきいねぇ! 何て町かな?」
ウィノナはダオスの手を引く。
既に喉の渇きは忘れていて、今は命を救われたという感覚の方が強い。
湧き水や小川を探して目を皿のようにする必要も、魔物に遭遇するより前に発見し、回避する必要もない。
そうして、壁だと思っていたものが、近付いてみれば、より立派な城壁だと分かった。
町ではない。もっと大きな城下町が、そこにはあった。
ウィノナが後に知るその都市の名は、ミッドガルズと呼ばれる、世界に名だたる軍事国家のものだった。