【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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予期せぬ出会い、予期せぬ場所 その3

 

 ようやく辿り着いた町の名を聞いて、ウィノナは大層驚いた。

 何しろミッドガルズなど、名前でしか聞いたことがない。

 

 何より、自分には縁がないと思っていた。

 それもそのはず、故郷から最も離れた町なのだから。

 

「実は今も夢を見ているンじゃ……?」

 

 疑うのも当然で、そのままミッドガルズの存在を認めれば、ウィノナはたった一瞬の出来事で、世界の裏側に移動した事になる。

 

 しかし、現実逃避していても始まらない。

 横に立つダオスを窺えば、感情を感じさせない瞳で町並みを眺めていた。

 

 ダオスは美男子に過ぎる為、とにかく目立つ。

 今も城下町の入口に立っているだけなのに、女子の色めきだった視線が集中していた。

 

 このまま佇んでいるだけで、厄介ごとを運んできそうだ。

 町には辿り着けたのだから、まずは行動しなければ、とウィノナは意気込む。

 

「路銀に関しては、何とかなるかもね」

 

 町に辿り着くまでに仕留めた、獣の皮や牙を売れば、悪くない金額になるはずだ。

 しかし、そう思って持ち込んだ雑貨屋には、毛皮の質の悪さに買い叩かれてしまった。

 

 予想よりも遥かに下回った金額で、一日二食に削っても、三日の滞在がやっとのガルドしか手に入らなかった。

 

「仕方ない……。あンまりやりたくなかったけど、そんなこと言ってられないし……。ダオスも協力してくれるよね……!?」

 

「そなたの……、思うままに」

 

 眼の光が尋常でないウィノナに、ダオスはたじろぎ、とりあえず頷く。

 恐ろしい未来を予測しつつも、肯定の意を示すことしかできなかった。

 

 

 

 

 そんな苦悩を持っていたと知らないウィノナが実際やったことは、ダオスを広告塔──あるいは客寄せパンダ──にして、曲芸を披露することだった。

 

 ダオスの頭の上にある木の板を射ってみたり、空中で三回転捻りしつつ正確に的を打ち抜いてみたり、といった具合に客を沸かせていく。

 

 最後に大きくムーンサルトをして着地が決まった時、ウィノナ達を取り囲む観客から、拍手の嵐が巻き起こった。

 

 観客の輪は一重ではない。二重、三重と広がっている。

 確かな手応えと共に満面の笑顔で両手を上げ、上体ごと腰を折って大きく礼をした。

 

「どーもどーも、ありがとー! あ、オヒネリはこちらに!」

 

 促せば、ダオスの足元に置かれた木製バケツに、幾つものガルド硬貨が投げ入れられていく。

 

 そして投げ入れるついでに、ダオスへ手紙を押し付けていく女子も見られる。

 

「う~ん……、中々に抜け目ない」

 

 などと横目で見ていると、ウィノナの前に、燕尾服を着こなした中年の男性が、人垣を割って出てきた。

 

「実に素晴らしい演技だった! 名前は!? 何処かに所属してるのか?」

 

 

「え、えっ!? 所属って?」

 

「勿論、サーカスのさ。君さえ良ければウチに来ないか? たっぷり稼げるぞ!」

 

 ウィノナは突然の事態に身体が固まっていたが、男の台詞を飲み込むにつれ、ようやく自分がスカウトを受けているのだと気付いた。

 

「ウソ!? アタシの宴会芸に、サーカス!?」

 

「宴会芸なんて、とんでもない! 十分、興行で通じる出来だとも!」

 

 ウィノナは頬が綻ぶのを止められなかった。

 自分のボウガンと体術の腕を、他人が認めてくれた事が素直に嬉しい。

 

 より多くの人が自分の芸で喜んでくれるなら、ウィノナもまた嬉しいと思う。

 

 だが、クレス達を放って置いて興行に精を出す、というのは違う気がした。

 

 サーカスならば一地方に留まらず、世界中を旅して巡るだろうが、単独より安全と言っても、時間が掛かりすぎるのが問題だった。

 

(下手すると一ヶ月以上、同じ町にいたりするンでしょ? その間にクレス達が、どんどん離れて行ったら……)

 

 回り回って、いずれクレス達とばったり会う事もあるかもしれない。

 しかし今は、足の早さを優先したかった。

 

「ごめんなさい、とっても魅力的なお誘いだと思うンですけど……」

 

「うーん、そうか……。是非ともと思ったのだが」

 

 男は肩を竦めたが、言葉で言うほど残念そうには見えなかった。

 その疑問が顔に出ていたのだろう。

 

 男は困った笑みを浮かべて、事情を話してくれた。

 

「いや、こうして大道芸をしている人には、よくあるんだよ。気ままに旅して、芸をするような人種が。気の向くまま、風の向くままってヤツだ」

 

 ああ、とウィノナ頷いた。

 確かにそうしたものに覚えがある。

 

 ユークリッドの雑貨屋近くの広場では、稼げているようにも見えないのに、ジャグリングを繰り返すピエロがいた。

 

「ま、そう言うわけだから。気が向いたらいつでも来ておくれ。お前さんならいつだって歓迎だ」

 

「──ありがとうございます!」

 

 ウィノナはしっかりと頭を下げて、去って行く燕尾服の男を見送った。

 




 
燕尾服の男。
書籍版、本来の世界線にて、ウィノナの養父となる男性。
世界を巡業しているサーカス一座の団長で、ウィノナを実の娘の様に思い育てた。

しかし、本作ではこれ以上の絡みはありません。
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