【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「すまねぇな、いま船は出せねぇんだ」
「ええーっ!? 何で!?」
朝一番で港に向かい、近くの船員に航路の確認を取ってみれば、返ってきたのは先の無慈悲な一言だった。
当然ウィノナも食い下がったが、海の男はにべもない。
「何でも何も、城からのお達しさ。こっちも商売上がったりで、困ったもんだよ」
ウィノナはガックリと肩を落とす。
船を使えば、隣のユークリッド大陸には一週間と掛からず着くと聞いていた。
しかし、陸路となれば一月以上の時間が掛かる上、過酷な砂漠越えが待っている。
ウィノナは仕方なく踵を返した。
とはいえ、考えてみれば悪いことばかりではない。
アルヴァニスタ南の港から出る航路なら、終着点はトーティス南。
そこから目と鼻の先に、目的地の村がある。
陸路で行くのは最悪の選択、という訳でもなかった。
だが、それは良いとしても、砂漠越えをたった二人で行うのは無謀、という結論に至るのは、ごく自然なことだった。
しかも、どちらも豊富な旅経験を持つ、というわけでもない。
そこで考えたのが、アルヴァニスタまで向かう隊商を見つけることだった。
そういう者達は、何度も砂漠を往復した経験を持ち、オアシスの場所や、夜営に適した地形などを熟知している。
幸い隊商はすぐに見つけられたし、同行の許可も貰えた。
少なくない金銭を支払う事になったが、船代よりも安い上に、食糧の面倒まで見てくれる。
後は隊商の買い付けが終わるのを待ち、都合を合わせて一緒に出発するのを待つばかりとなった。
◇◆◇◆◇◆
ミッドガルズから出立する日、宿から出て隊商の集合場所へと向かっている時の事だった。
ウィノナは突然、その身に強い衝撃を受け、体勢を崩した。
「え、なん……何!?」
転ぶ事こそなかったものの、何事かと思って見れば、栗色をした髪の少女が目の前で尻餅をついている。
年の頃はウィノナと同程度に見えた。
持っていた荷物を盛大に散らかしてしまい、悲嘆な表情を浮かべている。
「ご、ごめんなさい!」
謝罪もそこそこに、少女は地面に這いつくばって、荷物を集め始めた。
持っていたトランクへ、乱雑に荷物を詰めていく。
「何してる、早くしなさい!」
少し離れた路上に馬車があった。
その荷台で手綱を握る男性から叱責が飛び、少女は涙目になりながら荷物を集めていく。
「……あ、ごめんね! 手伝うよ!」
ウィノナはハッとして屈み込むと、とにかく手当たり次第にトランクへ物を投げ入れた。
二分と掛からず詰め終わり、体重を乗せてトランクを閉めた後、少女はようやく顔を上げた。
「あの、……ありがとう」
「どういたしまして。こっちこそ、前をよく見てなくてゴメンね」
苦い笑顔を向けたウィノナは、そこでまじまじと少女の顔を見つめてしまう。
見覚えのある顔だ、と思った。
どこかで会っただろうか。それとも、この町ですれ違った事がある?
──そうじゃない。
予知夢だ。
いつ見たかも覚えていない程に前の事だが、予知夢で見た子に違いない。
そうだという確信はあったものの、しかし、夢の内容までは覚えていなかった。
「あの……?」
じっと凝視していたことに、不安を覚えたのだろう。
少女は困ったような笑みを浮かべていた。
「……あ、ゴメンね。ほら、行って行って!」
荷台の上の男性が、しびれを切らして再度、声を上げた。
少女は飛び上がって馬車へ駆けていく。
その背を見送りながら、ウィノナは思う。
次にあの子に出会うことがあれば、きっと気をつけよう、と……。
出発時にちょっとしたトラブルはあったものの、ウィノナ達は無事ミッドガルズを旅立った。
しかし、砂漠越えは過酷を極め、ウィノナといえば、途中で倒れてしまう程だった。
本来は徒歩で隊商に着いて行くはずだったのだが、今はラクダに乗せて貰っている。
ダオスは優しく看病してくれたし、隊商の方にも無礼にならないよう、よくよく礼を言ってくれていた。
隊商を率いる隊長は余程腕が良いらしく、日程の遅れもなければ、水場への到着も問題なく着いた。
砂漠越え最大の危険は、バジリスクとの遭遇だったが、遂に一度の遭遇もなかった。
ウィノナが倒れたこと以外は、順調にアルヴァニスタに到着できたと言えよう。
その到着する数日前にはウィノナも体調が快復し、歩いて旅が出来るまでになった。
まだ少し養生しながら移動した方がいいのでは、と勧められたが、特別扱いにいつまでも甘えていられない。
年若い少女ということで面倒を見てもらえたが、本来ならそのような事はしていないはずだし、していたとしても追加で料金を取られてもおかしくないのだ。
ウィノナは最後の数日間を歩き通し、無事にアルヴァニスタ港へと到着した。
長く旅を共にすれば、隊商の中にも仲の良くなった者達もいる。
別れる直前、そうした人達に礼を言って回った。
「本当に、何から何までお世話になりました!」
「いや、いいんだ。旅は助け合いだよ」
隊商を率いる隊長は、そう言って朗らかに笑った。
ウィノナはその後も、他の隊員達へよくよく礼を言ってから別れ、それか船が出るまでの時間は、緩やかに潰す事にした。
この港からトーティス村近くの港まで、その航路は非常に短い。
掛かった時間は、僅か半日足らず。
あっという間の船旅を終え、二人はトーティス村に向かった。
桟橋がある程度の小さな港から、目的の村へは近く、すぐに到着した。
ウィノナの故郷であり、それ故に見慣れた風景を通って来た場所なのに……しかし、明らかに自分の知ってる村とは違う。
地理的には間違いないはずだった。
ウィノナ自身、確かと思える記憶を辿りながら歩き、その通り着いた場所に村があったのだから。
だが実際、目にしている村は、ウィノナは知る村ではなかった。
似通った町並みだとは思うが、見知った人は一人もいないし、石材を中心に使われた町並みは、軒並み木造に変わっていた。
また、樹木などの自然物に、人の手が入った形跡もない。
全体的に、どこか古臭い印象だった。
しかし、ここで途方に暮れても仕方がないと、ウィノナは意を決して村人の一人に話し掛ける。
「……あのぉ、スミマセン。ここってトーティス村で合ってます、よね?」
「おや、珍しい。旅人かね。──いんや、ここはベルアダムの村だよ」
「ベルアダムぅ?」
ウィノナにとって、それは全く聞き覚えのない名前だった。
まさか記憶を辿って来た道だというのに、何処かで間違ってしまったのだろうか。
村人にお礼を言って別れ、どうしたものかと腕を組む。
目の前では心配そうに佇むダオスがいて、小さく頭を下げた。
「ごめんね、ダオス。道、間違っちゃったみたい」
「いや、構わない。焦りはあるが、
うん、とウィノナは身体を小さくすぼめた。
「別に責任を感じる必要はない。ウィノナが真剣なのは、よく知っている」
うん、とウィノナは笑みを浮かべて、肩から力を抜いた。
その喜色を隠そうともしない反応に、ダオスも思わず口の端に笑みを浮かべる。
「道を間違ったというだけならば、誰かこの辺りの地理に詳しい者に、聞いてみればよいのではないか?」
「そうだね。村長さんとかなら知ってるのかな?」
ウィノナとダオスは辺りを見回す。
村の西側には他の民家より、一回り大きな建物があった。
大抵の場合、大きい家は権力者の家だ。
お互い顔を見合わせて頷くと、行ってみよう、と足を向けた。