【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

16 / 96
ふたりの旅路 その2

 

「すまねぇな、いま船は出せねぇんだ」

 

「ええーっ!? 何で!?」

 

 朝一番で港に向かい、近くの船員に航路の確認を取ってみれば、返ってきたのは先の無慈悲な一言だった。

 当然ウィノナも食い下がったが、海の男はにべもない。

 

「何でも何も、城からのお達しさ。こっちも商売上がったりで、困ったもんだよ」

 

 ウィノナはガックリと肩を落とす。

 船を使えば、隣のユークリッド大陸には一週間と掛からず着くと聞いていた。

 

 しかし、陸路となれば一月以上の時間が掛かる上、過酷な砂漠越えが待っている。

 

 暗澹(あんたん)たる気持ちになりつつも、文句を言ったところで船の出港が許されるわけでもない。

 ウィノナは仕方なく踵を返した。

 

 とはいえ、考えてみれば悪いことばかりではない。

 アルヴァニスタ南の港から出る航路なら、終着点はトーティス南。

 

 そこから目と鼻の先に、目的地の村がある。

 陸路で行くのは最悪の選択、という訳でもなかった。

 

 だが、それは良いとしても、砂漠越えをたった二人で行うのは無謀、という結論に至るのは、ごく自然なことだった。

 

 しかも、どちらも豊富な旅経験を持つ、というわけでもない。

 そこで考えたのが、アルヴァニスタまで向かう隊商を見つけることだった。

 

 そういう者達は、何度も砂漠を往復した経験を持ち、オアシスの場所や、夜営に適した地形などを熟知している。

 

 幸い隊商はすぐに見つけられたし、同行の許可も貰えた。

 少なくない金銭を支払う事になったが、船代よりも安い上に、食糧の面倒まで見てくれる。

 

 後は隊商の買い付けが終わるのを待ち、都合を合わせて一緒に出発するのを待つばかりとなった。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 ミッドガルズから出立する日、宿から出て隊商の集合場所へと向かっている時の事だった。

 ウィノナは突然、その身に強い衝撃を受け、体勢を崩した。

 

「え、なん……何!?」

 

 転ぶ事こそなかったものの、何事かと思って見れば、栗色をした髪の少女が目の前で尻餅をついている。

 

 年の頃はウィノナと同程度に見えた。

 持っていた荷物を盛大に散らかしてしまい、悲嘆な表情を浮かべている。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 謝罪もそこそこに、少女は地面に這いつくばって、荷物を集め始めた。

 持っていたトランクへ、乱雑に荷物を詰めていく。

 

「何してる、早くしなさい!」

 

 少し離れた路上に馬車があった。

 その荷台で手綱を握る男性から叱責が飛び、少女は涙目になりながら荷物を集めていく。

 

「……あ、ごめんね! 手伝うよ!」

 

 ウィノナはハッとして屈み込むと、とにかく手当たり次第にトランクへ物を投げ入れた。

 

 二分と掛からず詰め終わり、体重を乗せてトランクを閉めた後、少女はようやく顔を上げた。

 

「あの、……ありがとう」

 

「どういたしまして。こっちこそ、前をよく見てなくてゴメンね」

 

 苦い笑顔を向けたウィノナは、そこでまじまじと少女の顔を見つめてしまう。

 見覚えのある顔だ、と思った。

 

 どこかで会っただろうか。それとも、この町ですれ違った事がある?

 ──そうじゃない。

 

 予知夢だ。

 いつ見たかも覚えていない程に前の事だが、予知夢で見た子に違いない。

 

 そうだという確信はあったものの、しかし、夢の内容までは覚えていなかった。

 

「あの……?」

 

 じっと凝視していたことに、不安を覚えたのだろう。

 少女は困ったような笑みを浮かべていた。

 

「……あ、ゴメンね。ほら、行って行って!」

 

 荷台の上の男性が、しびれを切らして再度、声を上げた。

 少女は飛び上がって馬車へ駆けていく。

 

 その背を見送りながら、ウィノナは思う。

 次にあの子に出会うことがあれば、きっと気をつけよう、と……。

 

 

 

 

 出発時にちょっとしたトラブルはあったものの、ウィノナ達は無事ミッドガルズを旅立った。

 しかし、砂漠越えは過酷を極め、ウィノナといえば、途中で倒れてしまう程だった。

 

 本来は徒歩で隊商に着いて行くはずだったのだが、今はラクダに乗せて貰っている。

 

 ダオスは優しく看病してくれたし、隊商の方にも無礼にならないよう、よくよく礼を言ってくれていた。

 

 隊商を率いる隊長は余程腕が良いらしく、日程の遅れもなければ、水場への到着も問題なく着いた。

 砂漠越え最大の危険は、バジリスクとの遭遇だったが、遂に一度の遭遇もなかった。

 

 ウィノナが倒れたこと以外は、順調にアルヴァニスタに到着できたと言えよう。

 その到着する数日前にはウィノナも体調が快復し、歩いて旅が出来るまでになった。

 

 まだ少し養生しながら移動した方がいいのでは、と勧められたが、特別扱いにいつまでも甘えていられない。

 

 年若い少女ということで面倒を見てもらえたが、本来ならそのような事はしていないはずだし、していたとしても追加で料金を取られてもおかしくないのだ。

 

 ウィノナは最後の数日間を歩き通し、無事にアルヴァニスタ港へと到着した。

 長く旅を共にすれば、隊商の中にも仲の良くなった者達もいる。

 

 別れる直前、そうした人達に礼を言って回った。

 

「本当に、何から何までお世話になりました!」

 

「いや、いいんだ。旅は助け合いだよ」

 

 隊商を率いる隊長は、そう言って朗らかに笑った。

 

 ウィノナはその後も、他の隊員達へよくよく礼を言ってから別れ、それか船が出るまでの時間は、緩やかに潰す事にした。

 

 この港からトーティス村近くの港まで、その航路は非常に短い。

 掛かった時間は、僅か半日足らず。

 

 あっという間の船旅を終え、二人はトーティス村に向かった。

 桟橋がある程度の小さな港から、目的の村へは近く、すぐに到着した。

 

 ウィノナの故郷であり、それ故に見慣れた風景を通って来た場所なのに……しかし、明らかに自分の知ってる村とは違う。

 

 地理的には間違いないはずだった。

 ウィノナ自身、確かと思える記憶を辿りながら歩き、その通り着いた場所に村があったのだから。

 

 だが実際、目にしている村は、ウィノナは知る村ではなかった。

 

 似通った町並みだとは思うが、見知った人は一人もいないし、石材を中心に使われた町並みは、軒並み木造に変わっていた。

 

 また、樹木などの自然物に、人の手が入った形跡もない。

 全体的に、どこか古臭い印象だった。

 

 しかし、ここで途方に暮れても仕方がないと、ウィノナは意を決して村人の一人に話し掛ける。

 

「……あのぉ、スミマセン。ここってトーティス村で合ってます、よね?」

 

「おや、珍しい。旅人かね。──いんや、ここはベルアダムの村だよ」

 

「ベルアダムぅ?」

 

 ウィノナにとって、それは全く聞き覚えのない名前だった。

 まさか記憶を辿って来た道だというのに、何処かで間違ってしまったのだろうか。

 

 村人にお礼を言って別れ、どうしたものかと腕を組む。

 目の前では心配そうに佇むダオスがいて、小さく頭を下げた。

 

「ごめんね、ダオス。道、間違っちゃったみたい」

 

「いや、構わない。焦りはあるが、()いても仕方ない」

 

 うん、とウィノナは身体を小さくすぼめた。

 

「別に責任を感じる必要はない。ウィノナが真剣なのは、よく知っている」

 

 うん、とウィノナは笑みを浮かべて、肩から力を抜いた。

 その喜色を隠そうともしない反応に、ダオスも思わず口の端に笑みを浮かべる。

 

「道を間違ったというだけならば、誰かこの辺りの地理に詳しい者に、聞いてみればよいのではないか?」

 

「そうだね。村長さんとかなら知ってるのかな?」

 

 ウィノナとダオスは辺りを見回す。

 村の西側には他の民家より、一回り大きな建物があった。

 

 大抵の場合、大きい家は権力者の家だ。

 お互い顔を見合わせて頷くと、行ってみよう、と足を向けた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。