【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「はじめまして、ウィノナと言います! 村長さんのお宅ですか?」
ノックと共に家に入ると、ウィノナは勢いよくガバリと頭を下げた。
突然の闖入者に、中に居た老人は目を見開いたが、すぐに温厚そうな笑みで迎えた。
「ほうほう、いらっしゃい。よう来なすった、お客人。いかにも儂が村長のレニオスじゃ」
聞いたその名に、ウィノナは聞き覚えがあった。
トーティス村に関係する何か。
人名ではなかったように思う。
雑貨屋に関係──は、しない。
……あと少し。もう少しで手が届きそうな、モヤモヤした感じが脳裏を占める。
ウィノナは大いに焦れたが、結局思い出す事は出来なかった。
気分を切り替えて、改めて質問を口にする。
「あの、唐突で失礼かもしれませンけど、トーティス村の場所を知りませんか?」
「トーティス……、すまんが聞いたことがない」
「この近辺に在ることは間違いないンです! お願いします。何か少しでも、思い当たる事があれば……!」
そうは言っても、とレニオスは立派な顎髭を、しごきながら唸った。
「山を一つ越えればユークリッド、海側に行けば漁村ヴィオーラ。近辺にある村なぞ、その二つしか知らんぞい」
「えぇ……?」
これは一体どういう事だろう。
ウィノナの知る村や町が、聞く限りでは記憶と同じ場所に存在している。
それなのに、ただトーティスだけが存在しない。
では、トーティス南にあった森はどうなっているのだろうか。
「あの、ちょっと確認なんですけど。もしかしたら、村の南に森がありませンか?」
「おお、あるとも」
「そこに大っきい樹があったり?」
「うむ、あるのう」
ウィノナは自身の頭を殴られたような、強い衝撃を受けた。
ただ一つ、トーティスだけがないのではない。
ここがトーティスなのだ。
自分の知ってる場所に村があり、周辺地理も一致する。
そして、似てはいても確実に違う町並み。
──全体的に、どこか古臭い印象。
ウィノナは、ハタとして村長に問うた。
「今はアセリア暦何年ですか!?」
「なんじゃ突然。……4201年、だったかの」
(──アタシが知るより100年以上も前だ!!)
あぁー、と呻いて、ウィノナは頭を抱えた。
モリスンは言っていた、ある場所に飛ばすと。
魔王を倒すどうの、とも言っていた。
しかし、まさかそれが過去に飛ばす、という意味とは思わなかった。
──だが、ならば、ここにいるダオスは一体何なのか。
理由も原因も分からないが、記憶喪失だと思っていた。
地下墓地にいたダオスが追ってきて、しかし不慮の事故でもあったのだろうと。
しかし、ここが過去の世界だと判明した今、全く違う可能性が浮上してくる。
「あの、村長さん? ダオスって知ってます……?」
後ろで黙って控えていたダオスが、身動ぎする気配が伝わって来た。
今ごろ不審な表情をしているだろう、というのも想像がつく。
それを努めて無視して、村長の返答を待った。
「ダオス……? それも村の名前かの?」
村長は知らない。
もしかすると、魔王という存在そのものすら知らないのかもしれなかった。
だったら、とウィノナはダオスに顔を向ける。
──そこには果たして、不審な表情をして待ち構えるダオスがいた。
今のダオスは悪人には見えないし、人類の敵たる魔王にもまた見えない。
この悪事を働くとは思えない男が、いつか魔王になるのだろうか。
初めてダオスと会話した時、焚き火を囲んで訊いた事があった。
──アタシのこと、なンか知ってる? 前に会った事とか。
ダオスは会った事はない、と答えた。
それもそうだ、会うのはこれからだ。
百年後に初めて、会う事になるのだろう。
(あれ? でも、待てよ……?)
あの地下墓地で、ダオスは確かに、自分の名前を呼んではいなかったか──。
あの場でウィノナの名を呼べたのは、それより前に出会っていたから、と考えるのが自然で…。
つまり、今この時。
こうして一緒に、連れ立っていた事実があったからこそ、ウィノナを知っていたのだろう。
「あー、そっかー……! なるほどー……!」
ウィノナはようやく重いものが、喉元を滑り落ちていくのを感じた。
一人で、うんうんと頷く。
百面相のように、コロコロと表情が変わる様を見せられていたダオスは、どうも居たたまれなく感じたようだ。
珍しく心配そうな表情を作って、気遣うように問いかけてくる。
「どうした……? 悩みがあるなら話して欲しい」
「大丈夫! そういうんじゃないから、心配ないよ!」
ウィノナは白い歯を見せて、カラッと笑った。
ダオスは優しく、心強い存在だ。
これが魔王になるなんて考えられない。
モリスンが提示してきた目標は、ダオスを倒す手段を見つけてくること。
しかし、ウィノナがすべきことは違う。
違うものにしたい。
倒す手段を探るのではなく、魔王になることを防ぐ事にすべきだ。
それでこそ、過去に来た意味もある。
(そうだよ! そっちの方がいいに決まってる!)
ウィノナのやることは決まった。
これから──いつになるか分からないが――魔王誕生の阻止を目標とし、直近ではクレス達と合流するのを目標とする。
合流してからはこの考えを皆に伝え、その説得も行おう。
その時までに説得材料をしっかり確保しておかねばならない、とウィノナは決意を固めた。
しかし、とウィノナは改めて思う。
クレスと言えば、彼らが現在何処にいるのかも、気になるところだった。
彼らは一体今どこにいるのか――いや、飛ばされたのか。
ウィノナがミッドガルズ近辺にいたことを考えれば、世界のどこにいたって不思議ではない。
三人一纏めにいればいいが、全員がバラバラに飛んでいたとしたら──。
あのモリスンは一体、何をしてくれたのだろう。
ウィノナは
これでは合流する前に事故に遭ったり、とんでもない目に遭っていても不思議ではない。
全員が五体満足に再会することすら、果たして可能なのかどうか……。
ウィノナが重い溜め息をつくのと、レニオスの視線に気が付くのは同時だった。
今も尚、レニオスとの会話の最中であったことを完全に失念していた。
大変失礼な振る舞いをしてしまったと頭を下げ、快く許してくれたレニオスへ失礼ついでに、と質問を重ねる。
「何度も色々訊いて、ゴメンなさい。クレス、チェスター、ミントという名前の人達に、心当たりはありませンか?」
「申し訳ないのぉ、誰も分からん」
「あぁいえ、申し訳ないなんてことは……!」
ウィノナは慌てて両手を左右に振る。
「こっちがむしろ、申し訳ないっていうか……!」
話の素振りからして、どうやらクレス達はこの村には来ていないらしい。
それとも、これから来ることもあるのだろうか。
ここで待っていて、確実に合流できると言うなら何年でも待つが、その保障はどこにもない。
まずは当初の予定──この村を目指した目的を、消化しようと決めた。
「あの、すみませン。そろそろ、アタシ達お
「おや、そうかね? 十分なもてなしも出来ず悪かったのぉ」
「いえいえ! とっても助けになりました!」
背筋と腕をピンと伸ばして、ウィノナは深々と頭を下げた。
そうして三秒と待たぬ内に、下げた時と同じ勢いで顔を上げる。
「すみませン、最後にもう一つだけ! さっきの三人が来たら、南の森に行ったと伝えて下さい」
「もちろん、構わんよ」
レニオスは皺だらけの顔で、くしゃりと笑った。