【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
精霊の森はかつて訪れていた時よりも、更にずっと活力があった。
木の一本一本まで幹が太く、葉は生い茂り、実った果実は大きい。
森が生きている、と実感できる様子だった。
最奥まで進めば、そこには見慣れた大樹がある。
よくよく見れば、記憶にあるものより、多くの葉を付け元気そうだった。
ウィノナは聖樹の前で振り返り、両手を大きく広げて見せた。
「この樹だよ、どうかな?」
「……確かにこれは、大樹カーラーン。……だが、違う」
そう言ったダオスの顔に、陰りが出来た。
そこには悲嘆な雰囲気すら感じられる。
「……ちが、う?」
「いや……、そうだな。これは故郷にある樹と同じ物で、大いなる実りを宿す可能性を持つ、聖樹ではある。だが、同時に死にかけてもいる。これでは故郷を救うことは出来ない。……だから、違う」
ダオスは項垂れ、まんじりともせず、大樹の根元に佇んでしまった。
ウィノナはダオスのそんな姿に、ひどく心が動揺した。
何か出来ないだろうか、元気付けられる言葉でも何でもいい。
ウィノナは必死に頭を動かす。
ダオスは死にかけていると言っていた、ならば――。
「ねぇダオス、死にかけてるって言ってもさ。ほら、水を沢山あげるとか……、土を入れ替えるとか……」
いや、とダオスは僅かに顔を上げ、首を横に振る。
「この森は豊かで、緑に溢れている。この大樹だけ水が足りない、ということは考え難い」
「それもそっか……」
ウィノナとしては足りない頭を使い、考えて言ったつもりだった。
しかし、ダオスの反応を見るに、どうやら場違いな発言だったと分かる。
ウィノナが悩んでいる間に、ダオスは続けた。
「足りていないのは、空気でもなければ水でも、まして土でもない。――マナが足りていないのだ」
「じゃあ、それを沢山あげれば、この樹は甦るの?」
ダオスは無言で頷き、ウィノナは表情を明るくした。
「だったら話は簡単じゃない! そのマナってのがどこにあるか知らないけど、それを持ってくれば!」
ダオスは表情を動かさず、首だけを横に振った。
「マナはこの大樹自身が作り出す。そのマナを持って自身を成長させ、より多くのマナを生み出す。そういう循環を持っているのだ。しかし、近辺のマナの量から察するに、この大樹を維持するには僅かに足りない……」
だから死にかけているのだ、とダオスは声は低い。
「じゃあ、もう、どうしようもないってこと……?」
ダオスは頷く代わりに項垂れた。
ウィノナには最早、どんな慰めの言葉もかけることが出来なかった。
ゆっくりと移動し、ダオスからは少し離れた位置で、草生えに腰を下ろす。
ダオス、とウィノナは心の中でその名を呼ぶ。
ダオスが心の整理をつけるには、短い時間では済まないだろう。
その横顔には、いかなる感情も浮かんでいなかったが、悲嘆に暮れているのは伝わってきた。
陽が落ちたとしても、ダオスはここを動かないかもしれない。
しかし、それでもウィノナは自分からこの場を離れる気はなかった。
そうして一時間が経ち、溜め息と共にダオスは顔を上げた。
ゆっくりと顔を巡らし、ウィノナへと顔を向ける。
「……もういいの?」
「ああ、もう森を出よう、ウィノナ。ここにいても意味がないと分かっていても、未練は募るばかり……。離れなければ、居着いてしまう」
◇◆◇◆◇◆
村に戻り、ウィノナ達は村長宅へ再び訪れた。
不躾な訪問だったというのに、それでもレニオスは歓迎してくれた。
「もう、森での用は済んだのかね?」
「はい、えぇ、まぁ……」
ウィノナは曖昧に頷く。
「それで、すぐに発とうと思うンです。レニオスさんにはお世話になったので、顔を見せに……」
「なに、そうなのかね? 一日ぐらい、ゆっくりしておけば良かろうに。急ぐ旅なのかの?」
そういう訳じゃないンですけど、と答えながら、ウィノナはダオスを盗み見た。
「ちょっと、森の近くにいると辛そうで……」
「ふム……」
それで察した訳ではないだろうが、レニオスはとりあえず頷いた。
「とにかくここから離れようかと。それで、これから北上しようと思うンです。……なので、もし先程も言ったクレス、チェスター、ミントという名前の若者が訪れたら、そう伝えて下さい」
レニオスは笑顔で請け負い、快く送り出してくれた。
くれぐれもお願いします、と大きく頭を下げて頼み、それから村を出る。
道中無言のダオスだったが、それとなく話題を振った方がいいのだろうか、と思考を巡らす。
少し騒がしいぐらいが気が紛れていいのでは、と思うが、何も思い浮かばない。
しかし、ユークリッドに続く山道が見えて来た頃、ウィノナは左手に海を見た。
「――あ、ほら、ダオス。海が見えるよ!」
「そうだな……」
ダオスの姿は平静に見えるが、声に力がない。
ウィノナの声にも無視こそしないが、積極的に返事をする、というわけでもなかった。
「あっちの海沿いに漁村があるんだよね。レニオスさんが言ってたやつ」
「……ああ、ここからでは見えないようだが」
「流石に距離があるからね。山が邪魔して見えないせいもあるのかな」
ダオスは、これには答えなかった。
ただこれは無視ではなく、答えように困ったからだろう。
「その漁村から更に南下するとね、地下墓地があるんだよね。――いや、あるのかな? ちょっと寄ってみていい?」
「そなたの好きなようにするといい」
ダオスはそう言ってくれたが、ウィノナとしても必ず確認したいという訳でもなかった。
とにかく話題を提供したくて、特に考えなしに口を動かしたら出てきた言葉、というだけでしかない。
だから、愛想笑いの一つでもして、何か別の話題へ移っても良かったのだが、ウィノナは結局足を運ぶ事にした。
記憶を頼りに辿り着いてみれば、そこには岩肌が見えるばかりで入り口らしきものすらない。
それどころか、この時代では自然窟らしきものすらなかった。
不思議なものだが、あるいは地震か何かで、これから出来たりするのだろうか。
「そっかぁ……。まだ地下墓地ってないんだぁ……」
「まだ……、ない?」
ウィノナは悪戯好きな子供のように、屈託なく笑う。
「アタシのお墓も、ここにあったりするかもね」
その言い方に、ダオスは引っ掛かりを覚えた。
その言い方では、まるで――。
「なに? それは……」
「――あっと、ダオス! 余計な遠回りしたせいで、時間が危ないかも。夜の山道は危険だよ、ちょっと急いで戻ろっか!」
強引な話題転換だったが、ダオスに追求するほど強い意思はなかった。
促されるまま体の向きを変え、いま来た道を引き返す。
そうして問題なく山道を越え、北上して辿り着いたユークリッド村だったが、ウィノナは驚愕して固まってしまった。
「……田舎!」
「田舎で何か問題があるのか?」
「ああ、いや、ううん……。ただ驚いちゃって」
ウィノナの知るユークリッドとは、大きな城を持つ都会であり、必要な物は何でも揃う便利な町、という印象だった。
ミッドガルズを訪れるまで、ウィノナの知る唯一の都会だったと言っていい。
一種の憧れを持って接する町だったのに、この時代ではそれが見る影もない。
(これを見ると、過去に来たって思い知らされるなぁ……)
観光するつもりはない――する場所もない――ので一泊だけし、ウィノナはクレス達のことを聞いて回る。
しかし、やはり彼らの足取りは追えない。
とはいえ、今までだって、きちんと探し回っていたとは言えなかった。これからだろう。
早々に見切りをつけ、ユークリッドを出る。
そこから更に北上し、次に着いたのはハーメルという名の町だった。