【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
宿で部屋を取ろうとした時、巾着袋の口を開いて、路銀が乏しい事に気がついた。
今晩の宿に困るということはないが、どこかで収入も欲しいところだった。
だから翌日、ウィノナ達はハーメルの町中央に立った。
ミッドガルドで味を占めたウィノナは、あの時と同じことをすれば路銀を稼げると思ったのだ。
ダオスを道に立たせ大道芸を披露し、観客もそこそこ増えて来た頃、見覚えのある少女を発見した。
栗色の髪を持つ少女は、ウィノナの芸に大層はしゃぎ、あのとき見た泣き顔が想像できない程の喜びようで、それを見たウィノナもまた心が温かくなるのを感じた。
ゆるく波打つ栗色の髪を持った少女の名前は、リア・スカーレットという。
芸の披露が終わった後、ウィノナは直ぐに話し掛け、そしてあっという間に打ち解けたのだった。
ミッドガルズで会っていたことを、リアは覚えていなかったが、別段気落ちはない。
ウィノナが覚えていたのは、既に予知夢でリアの顔を見ていたからだ。
そうでなければ、ウィノナといえども観衆の中から、リアを見つける事は出来なかっただろう。
とはいえ、その肝心な予知夢の内容に関しては、全く思い出せてはいなかった。
重要そうな事なら強く印象に残っているはずで、覚えていないというなら大したこと事ではない、と頭の隅に追いやった。
◇◆◇◆◇◆
最近のダオスは元気がなく、部屋から出ようとしない日が何日も続いた。
ウィノナに付き合い、大道芸の補佐をしている間は、気が紛れて良かったのだろう。
しかし、路銀の蓄えに余裕が出来ると、必要もなく部屋を出ようとしなくなった。
窓際に椅子を寄せ、そこから遠くを眺めて、まんじりともしない。
外へ誘っても同行せず、部屋にこもる日々が続く。
ウィノナはついに見かねて、少々強引にでも誘おうと決意した。
「ねぇ、ダオス。今日はいい天気だよ! 一緒に散歩しようよ」
しかし、ダオスからの返答はなく、静かに首を横に振るばかりだった。
(ダオスにとっては、それほど大事な事だったンだよね……)
今は強引に、気分転換させる時ではないのかもしれない。
ウィノナはもうしばらくの間、この村に逗留することを決定した。
◇◆◇◆◇◆
本日は。リアに遊びに誘われている。
年の近い女友達は、他に一名しかいないらしく、ウィノナと打ち解けた後よく話すようになった。
特に何処へ行きたいという訳でもなかったが、世間話をしながら二人は歩く。
「そういえば、リアの仲のいい友達ってどういう子?」
「アーチェっていう名前で、とっても元気なハーフエルフよ」
「へぇ……、会ってみたいなぁ」
「きっとウィノナと気が合うよ」
そう言って、リアはくすくすと笑った。
「そういえば、ウィノナはどうしてこの村に? 旅芸人というやつかしら」
「ううん、旅はしてるけど、芸人って訳じゃないよ。路銀はあんな感じの芸を見せて稼いでるけど」
リアは目をぱちくりとさせて、それから上品に首を傾げた。
「それを旅芸人と言うんじゃじゃないの?」
ウィノナも思わず、おや、と首を傾げる。
思い返してみれば、最初こそ獣を狩っては毛皮や牙を売ってお金を手に入れたが、それ以降は芸を見せて路銀を得て、それで旅を続けてきた。
「アタシ達、まさかの旅芸人だった……!」
「ええっ、自覚ナシ!?」
リアは口を両手で覆って笑い、ウィノナも釣られてお腹を抱えて爆笑した。
しばらく経って笑いは治まったものの、未だにお互いの両目には涙が溜まっている。
ウィノナは手の甲で乱雑に涙を拭うと、気を取り直すように深呼吸した。
「……はー、笑った笑った。それじゃあ、今度はリアのこと聞かせて?」
「私の事は別に面白くないけど……」
人差し指を細い顎に添えて、うーん、と視線を上に向ける。
「最近遠くから越してきたとか、親が結構な資産家とか?」
「お嬢様? お嬢様なの!?」
「んー、家に使用人はいたけどね」
そういう訳じゃないのよ、とリアは笑った。
実際、リア自身は気持ちのいい性格で、お金持ちのお嬢様にありがちな、高慢なところもない。
ウィノナがすぐ好きになり打ち解けたのも、そうした親しみやすさあっての事だ。
二人の会話は取り止めもなく続く。
この村に関する小さな噂から始まり、近くのお店やご近所さんへの愚痴等々。
話は更に、この町周辺のことにまで広がる。
「南のユークリッドは知ってる?」
「うン。この町に来る前、一泊だけしたよ」
「じゃあ、そこに変わった学者さんがいるのは?」
「……ンーン。ホントに泊まるだけで、すぐ発ったからなぁ」
「人間でも魔術を使えるようにするとか、精霊と交信する為の研究をしているとか、聞いたことがあるよ」
眉唾物だなぁ、とウィノナは
とはいえ、ウィノナも頭から否定するつもりはなかった。
それが世間の常識とは違うとはいえ、自分の夢を見つけ、その夢を追い、向かい続けられる人は素敵だと思う。
精霊と会って話が出来るなら、きっと楽しい一時が過ごせるに違いない。
あるいは、人によっては師弟関係のような形になり、知識の伝授を請うたりするのだろうか。
そこまで考え、そうか、とウィノナは唐突に思い付いた。
むしろ、それこそ自分達に必要な知識なのかもしれない。
――もし、あの樹に精霊が宿ってるとしたら。
――もし、精霊が宿るから聖樹と呼ばれているとしたら。
ウィノナの想像は止まらない。……そして。
――もし、その精霊と交信できて、大樹が活性化する方法を教えてくれたとしたら。
これがウィノナ自身の願望と、空想が混ざり合った物でしかないことは理解している。
だが、それでもどれか一つでも、事実が混じっていてくれたら……。
それはどんなに素晴らしく、喜ばしい事だろう。
ユークリッドの学者には、会ってみる価値があるかもしれない。
そうは言っても、眉唾には違いない。
ダオスにこの事を伝えるのは、ある程度確証を得てからでいいだろう。
何なら精霊云々は置いといて、学者に会いたいとでも言って、一緒に行くというのでも良い。
この事はいずれダオスに話してみよう、とウィノナは密かに心に決めた。
その後は、やはり取り留めもない会話をしながら、雑貨屋を二人で回る。
可愛い小物をリアが選ぶ中、ウィノナが選ぶのは実用一辺倒の、小型ランタンだった。
ウィノナの旅は、まだまだ続く。
今も何処かにいるだろう、クレス達を見つけ出さねばならないし、もし苦境の
しかし、今のダオスの状態で無理に動かすのも心苦しいし、さりとて置いて行くこともできない。
まさか、これがきっかけで魔王になるとは思えないが、目を離したら消えてしまいそうな危うさが、今のダオスにはあった。
クレスやチェスターは、しっかりしている。
だから大丈夫だ、とウィノナは自分に言い聞かせた。
「予知夢も何やってンの、肝心な時に役に立てよ。二人がどうなってるか見せてみろ……!」
頭の中に語りかけ、どうせ無駄だと悟り、ウィノナは溜め息をついた。
不思議そうに首を傾げるリアに、ウィノナは何でもない、と苦い笑顔で手を振った。