【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
その日の夜、果たして本当に予知夢を視た。
ただそれは、知りたいと思い夢に願ったクレス達の安否ではない、
今日も一緒に出掛けた、リアのことだった。
闇夜の中を、リアと両親が馬車に乗っている。
御者台にいる父親は、馬に
いつしか海岸の見える場所まで来ると、次いで山際へと続く道を走り始めた。
そして、フードを目深に被った誰か空を飛び、走る馬車を追いかけている。
その手から火炎球が飛び出し、馬車を吹き飛ばした。
爆発を受け、その衝撃で横転し炎上する馬車と、戸から吹き飛ばされるリア。
一度地面を跳ねて転がり、それでもよろよろと顔を上げた。
着ている青い服が、赤々とした炎に照らされる。
リアは這いながら逃げようとし――。
「――ッ!!」
ウィノナは悲鳴を喉の奥に引きつらせつつ飛び起きた。
寝汗が酷く、額も背中もぐしょ濡れだった。
今が何時かなど確認する暇はない。
ベッドから跳ね起きて、靴を乱暴に履く。
いま見た予知夢が訪れる未来は、いつになるのか知る術は無い。
今すぐの事かもしれないし、半年先の事かもしれない。
一年以上先に起こる未来を視たことはないが、今は何の慰めにもならなかった。
あの黒騎士による襲撃だって、夢を視た翌日にやってきたのだ。
もっと先に起こる事のはずだと思って、痛い目を見たのは、つい最近のことだ。
ウィノナはボウガンと肩掛けを身に着けてから、ダオスにこの事を伝えるかどうか
しかし、それも一瞬のこと……。
やはり何も言わず宿屋を飛び出し、風を切るように走る。
リアの自宅に到着すると、ノッカーを乱暴に鳴らす。
何度もガンガンと鳴らし続け、すぐさま反応がないことに焦れて、ドアノブを捻る。
しかし鍵が掛かっていて、すぐ傍の窓へと顔を寄せて家の中を伺った。
そこからは、綺麗に片付けられた室内が見えた。
明かりも何もなく、目を凝らしても見える物が限られる中で、それでも何かしていないと落ち着ついていられず、その場でそわそわと足を踏み直す。
そうして待っている内に、手に明かりを持った男性が、階段から降りてくるのが見えた。
リアの父親だろう、幾度か見たことがある。
名前はランブレイと言ったはずだ。
続いてその妻と思わしき女性とリアが、不安げな表情で降りてきた。
ウィノナはすぐに玄関へ向かい、警戒しながらランブレイが扉を開けると、すかさず盛大に頭を下げた。
「夜分遅くにすみませン! 馬鹿なことをと思うかもしれませンが、信じてください。家族に危険が迫っています!」
ウィノナの言葉に戯言を、と憤るでもなく、ランブレイは目に見えて顔を青くした。
「危険というが、それは今すぐかね?」
分かりません、とウィノナは首を振る。
「今すぐかどうかの保障は……。でも、どうか身の安全を!」
ランブレイは緊張した顔付きのまま、小さく頷く。
彼にはその危険に心当たりがあった。
ミッドガルズから夜逃げ同然に飛び出し、遠く離れた町に来たことには理由がある。
それは、彼の国が秘密裏に開発している魔科学兵器に関することだった。
ランブレイはその危険をいち早く感じ取り、その旨の進言をしたが聞き届けられる事はなかった。
ランブレイは怖くなり、そして二度と関わるまいと、この地へ逃げてきたのだった。
「すぐに逃げる準備をしなさい。手に持てるだけの荷物を持つんだ!」
三人は弾かれたように家の中に戻ると、階段を駆け上がっていく。
その間にウィノナは馬車の準備をする。
家に隣接された馬屋に向かい、宥めながら小屋から引っ張り出した。
その準備が終わる頃合いで、三人は簡単な身支度だけして、すぐに戻ってきた。
リアは顔を真っ青にさせて、ウィノナに近づいてくる。
「ねぇウィノナ! 本当に危険が迫っているの? 一体どうなっているの!?」
「ゴメン、分からない。危険なのは本当だけど……」
安全を考えてまず移動を、というウィノナの進言に、父親は頷く。
自分と家族の身に危険が迫るかも知れないことは、ランブレイ自身がよく分かっていた。
「敵は魔術師です。多分……そうなんだと思います」
ウィノナが言うと、ランブレイは得心した顔で頷く。
即座に馬車の荷台に上がると、早く乗りなさい、と父が御者をして家族に顔を向けた。
「あの……! アタシもご一緒させて下さい」
「それは心強い! 是非、お願いしたい」
ウィノナが乗り込むと同時、馬車が走り出した。
リアは震える体で母に縋り付いていて、そして母はそれを抱き留め、背中を撫でて宥めていた。
「このまま、ユークリッドへ行くべきだろうか!」
御者台の方から、ランブレイの声が聞こえた。
ウィノナは腕を組んで考え込む。
ウィノナにこういう時、頼みに出来る知り合いはいない。
それに安全な場所すら、思いつかなかった。
確かにユークリッドに逃げるのが、一番現実的なのだろうと思う。
付近にそれ以外の村はなく、他を考えればヴェネツィアしかないが、道は逆だし遠すぎる。
一時安全を確認できるまでなら、ユークリッドに居るのが最も賢明なのかもしれない。
――だが。
予知夢では、夜に襲われていた。
忌まわしい事に、その内容が覆ったことを今のところウィノナは知らない。
小さなズレさえなく、全く同じ内容をなぞるように再現される。
ならば――。
夜に馬車で移動しないように厳重に注意した上で、とりあえずユークリッドまで逃げ、ほとぼりを感じたなら一度帰るでもいいのではないか。
予知夢の未来が、いつ現れるかは分からないのなら、いつ起こってもいいよう常に備える必要がある。
(……え、ちょっと待って……?)
だとすれば、一番危ないのは――。
その時、馬車の外で爆音が轟いた。
(――今かよ、チクショウ!)
ウィノナは自分の馬鹿さ加減を心底呪った。
リア一家はすっかり寝入っていたのに、それをウィノナが叩き起こした。
事情を説明し、家族を馬車に乗せ、今はユークリッド方面に向かっている。
そしてユークリッドへ行くには、海岸の見える山道を通らなくてはならなかった。
(アタシのせいだ! アタシが予知夢を
寝かせたままにしておけば良かったのだ。
そうしておけば、こんな危険な目に遭うこともなかった。
(どうしてこんな事に……!)
ウィノナは俯いて、目をギュッと瞑った。
右手で拳を握り、自分の額を二度、三度と殴る。
後悔は強いが、嘆いてばかりもいられない。
嘆く事で改善されるなら、それこそ泣き叫んで嘆いてやる。
しかし、そうではない。
この世の理は、いっそ無慈悲で容赦がない。
「だから、きっと、自分から勇気を持って行動しないと、変化しないように出来てるんだ……!」
それは咄嗟に出た言葉だったが、この世の真理の、その一端を掴んだ気がした。
いや、ウィノナはそれに縋りたいのだ。
そうでなければ、あまりに救いがない。
だから予知夢の内容を覆すには、それだけの強い意志が必要なのだ。
――そうだと信じる。
自らの言葉に励まされ、ウィノナはより一層強く拳握って、もう一度額を叩く。
それから全身に力を漲らせ、両目を開いた。
ウィノナは何もかもを、自分ひとりの力でどうにか出来る、とは思っていない。
自分の力量の限界も把握している。
だから、出来るだけの抵抗を果たすつもりでいても、全てを解決できるつもりは毛頭なかった。
己の無力に泣きなくなる気持ちをグッと抑え、御者をしているランブレイに叫ぶ。
「アーチェという名のハーフエルフに、助力を頼むのはどうでしょう!?」
これもまた
こちらの勝手な都合で完全に巻き込むことになってしまうが、今は泣きつかせてもらうしかない。
ウィノナの提案に、ランブレイは余裕なく頷いた。
空を飛べる相手に、やはりユークリッドは遠すぎる。
何しろそこへ辿り着くまでには、二本の橋を渡らなければならなかった。
奥の橋に先回りされ、破壊されては立ち往生だし、その間にもう一方の橋も落とされでもしたら、完全に孤立してしまう。
だが、ユークリッドへ行くまでの間には、アーチェが住むというローンヴァレイがある。
魔術師を相手にするには、同様に魔術師。
対抗できるほどの力が、アーチェにあるかは不明だが、今はそれに賭けるしかない。
重ねて、巻き込むことに謝罪しようとウィノナは誓う。
実際会ったら平身低頭して、謝るつもりだった。
他の良案があったとしても、今のウィノナに思いつく余裕はない。
普段から思慮深いと言えないのに、これ以上の案を捻り出す余地は、微塵もなかった。
リア・スカーレット。
ゲーム本編ではアーチェの降霊術により、ほんの少しだけパーティ・インする。死して友の事を想う、心優しい少女。
名前を検索すれば、東方projectの某有名キャラクターがヒットすることで有名(?)。
ゲーム本編で死亡が確定している為、他小説なんかで出番があっても大抵死亡する。本作では……。
因みに一話で言っていた、“見たことない栗色髪の可愛い子と仲良くしてた”という予知夢は、これの事です。