【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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抗う覚悟 その1

 

 闇夜の中を、馬車が走る。

 光源は月明かりと前照灯の僅かな灯りしかなく、激しい振動がウィノナ達の体を震わせた。

 

 爆音と閃光が掠め、馬車のすぐ傍を襲った。

 衝撃の余波を受けつつも、ウィノナはどこか冷静に、その光景に既視感を覚えていた。

 

 全く同じ場所かといわれると自信はない。しかし、よく似ていた。

 

(ここは……、予知夢の場所だ!)

 

 だとすれば、すぐにでもこの馬車に火球が直撃炎上し、その衝撃でリアが馬車の戸から飛び出してしまうのだろうか。

 

(いやだ、認められない。そんなこと絶対認めない!)

 

 ――絶対に防ぐ。

 予知夢の通りになんか、してやらない。

 

 ウィノナの心の中に、メラメラと闘志が灯った。

 そして、その怒りは予知夢の見せた未来だけではなく、この襲撃を行った敵にも向く。

 

 ウィノナは思う。

 怯えてばかりで何もしないのは、自分らしくない。

 

 ここで縮こまって恐怖に身を震わせ、後悔に身を焼くことが自分らしい行いと言えるのか。

 

 ――絶対違う。

 

(アタシなら反撃する! 親友が死ぬ目に遭うような状況で黙っているハズない! 必ず一矢報いてやる……!)

 

 そこまで考えて、ハタと思う。

 ――いなかった。

 

(そうだ、アタシはいなかった。予知夢にアタシはいなかった……!)

 

 炎上する馬車と、投げ出されるリア。

 そして、そこに近づく魔術師。

 

 ――自分はどこにいた?

 

(焼け焦げた? 馬車から逃げ出せずに?)

 

 身の軽さには自信がある。

 揺れる馬車の上に立てるとまでは言わないまでも、しがみ付いて矢を撃つことくらいはできるはずだ。

 

 ウィノナはそこまで思い至って、力がみるみる沸いて来るのを感じた。

 

 ――自分のせいじゃなかったかもしれない。

 いや、考えるのは不毛だ。

 

(どっちでもいい。変えてやる、アタシが予知夢を変えてやる!)

 

 ウィノナはリアへ顔を向ける。

 強い視線を感じてか、リアも母の胸に沈めていた顔を上げた。

 

 ウィノナはその視線を受け止め、力強く頷いた。

 スカートの下からボウガンを取り出し、矢を(つが)える。

 

「絶対守るから。……いってきます!」

 

 ウィノナは馬車戸を開けると、へりを掴んで逆上がりの要領で身体を持ち上げ、そのままの勢いを利用して天井へ降り立つ。

 

 すぐに振動で滑りそうになり、咄嗟に天井のへりにしがみついた。

 

 後方に敵が見える。

 ローブを頭から被った魔術師が、空を飛んで追跡していた。

 

 そして、突然出てきたウィノナに、驚いているように見える。

 ――やってやる!

 

 ボウガンを相手に向けるが、激しい振動で標準が定まらない。

 敵もそれを見やって、余裕めいた雰囲気を出した。

 

 ゆっくりと詠唱を終わらせ魔術を放つ。

 その手から飛び出した火球が、馬車の横に着弾、爆風で車体を大きく揺らす。

 

 中から二人の悲鳴が聞こえてきた。

 敵が悠々と攻撃を繰り出してくるというのに、ウィノナは反撃の為の照準すらできない。

 

 更に余裕が出たのか、顔を隠したローブの奥から笑みが見えた。

 

(舐めるンじゃないよ……!)

 

 更なる魔術が解き放たれ、火球が横に着弾した。

 先程よりも至近で爆発し、車体が大きく揺れ、ウィノナの身体が宙に浮く。

 

 ふわりとした無重力感。

 ウィノナの時間がゆっくりと流れ、一瞬が一秒に引き伸ばされる。

 

 その、着地するまで僅かな時間……。

 魔術師を真正面に照準を付け――付けた瞬間、ウィノナは引き金を引いていた。

 

 風を切る音を発しながら矢が飛び、相手の驚愕に見開かれた目がハッキリと見えた。

 

 その時には、既に矢が敵の右肩に命中していた。

 ガクン、と魔術師の身体が揺れ、それから高度が落ちる。

 

 追う速さも目に見えて落ち、みるみる遠ざかっていく。

 

「――よしッ!」

 

 ガッツポーズを取ろうとした瞬間、馬車が大きく揺れた。

 慌ててしがみ付き、御者台にいるランブレイに声をかける。

 

「打ち落としました! でも、油断は禁物です! このままローンヴァレイへ!」

 

 ランブレイは、おお、と感嘆の声を上げて了解の意を返す。

 そうして、一つ息をついてから、手綱を握り直した。

 

 開け放たれた戸から、ウィノナはひらりと舞い戻り、笑顔を見せようとして顔を引き締める。

 

 油断は禁物と、ランブレイに言ったばかりだ。

 ウィノナは一度身を乗り出して外を見、出来る限りの警戒をして後方を注視した。

 

 数秒の後、改めて馬車に戻り戸をしっかりと閉めて息を吐く。

 そうして今度こそ、リアに笑顔を見せた。

 

「大丈夫、このまま逃げ切れば助かるよ」

 

「ああ……!」

 

 リアは泣き出してウィノナに抱きついた。

 予知夢は変えられる。

 

 ウィノナはリアの体温と、その豊かな栗色の髪を頬に感じながら勝利以上の満足を感じていた。

 

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