【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
それからは何事もなく、ローンヴァレイに到着した。
まだ陽も上がらない内から訪れたこともあり、アーチェの小屋の家主――バートは大層、驚いていた。
ウィノナとランブレイの両名から事情を聞くと大いに安堵し、労いつつ小屋内へ、快く案内してくれる。
小屋に入ると、何事かと自室から出てきたアーチェにも、事情を説明した。
「……そンな訳で、なんとかここまで逃げてきて……。完全に巻き込ンだ上で、助けてもらうつもりでした。ゴメンなさい!」
アーチェは少しの間、口をポカンと開け、そうしてカラカラと笑った。
「ぜーんぜん! ありがと、リアを助けてくれて! むしろ巻き込み大歓迎!」
ここまで来たらとっちめてやる、とアーチェは息巻く。
ウィノナはそれを横目に感じながら、リア達に休むよう促した。
夜通し馬車に揺られ休む暇もなかったリア達は、疲労も相当なはずだ。
「ほら、リア達はとりあえず休んで。疲れてるでしょ? アタシが番をするからさ」
「そんな……。助けてもらったのに、そんな事までさせられないよ」
リアはそう言ってくれるが、ウィノナとしては自分のせいで起きた事態と思う部分も強い。
「いいからいいから、今は休んで。アタシも後で休むからさ」
それでも納得しないリアを、無理に押して休ませると、ウィノナは小屋の扉に向かう。
外へ出る前にアーチェは近づいて来ると、一緒に行くという。
「一人より、二人の方が楽しいじゃん!」
「別に楽しむ必要はないンだけど……。でも、じゃあ、お願いできる?」
苦笑するウィノナにアーチェは合点、と破顔した。
家の前に出てしばらく進み、見晴らしの利く場所に着くと、アーチェから改めて礼を言われた。
「ホント、ありがとね! リアを助けてくれて」
「お礼なンていいよ。アタシのせいかもしれないから」
「……どゆコト?」
不思議そうな顔をするアーチェに、果たして事情を説明してよいものか、ウィノナは悩んだ。
予知夢のことは、言ったところで信じられずに終わっても不思議ではないし、そもそも予知夢のせい、という確証もない。
とはいえ、巻き込むと決めてここまで来たのだから、せめて嘘をつかない事が誠意の表し方だろう、と思った。
ウィノナとしては意を決しての事情説明だったが、アーチェの反応は淡泊だった。
「ふぅん、なるほどねー」
「……信じるの?」
「そりゃ信じるでしょ。何でウィノナが、嘘つく必要があるのさ」
「いや、そりゃそうなンだけど」
それに、とアーチェは笑って言った。
「確証のない予知夢のことより、助けた事実の方が大事じゃん!」
再度襲撃を仕掛ける、と思われた敵は、結局姿を見せなかった。
陽が昇ってからずいぶん経ったので、こちらからも現場を伺ってみよう、と動き出す。
そうして発見した血の跡から、追跡を試みたものの、途中で山を越えられ、その痕跡を辿ることはできなくなってしまった。
敵はこれで諦めるたりはしないだろう。
仕留められなかったことは拙かった、と今更ながらに思う。
あの時、止めを刺す機会はあったかもしれない。
しかし、手負いの相手も必死の覚悟だ。
ウィノナにそれを負かす自信はない。
実際のところ、歴戦の猛者ではなく、無鉄砲さだけは誰にも負けない、未熟な小娘に過ぎないのだ。
落ち込む様子のウィノナとは反対に、しかしアーチェは明るい調子だった。
「落ち込んでも仕方ないじゃん。今は助かった、これからのことは、これから考える! ……で、いいよね?」
「それはそうかも」
アーチェの笑みに誘われて、ウィノナも笑って頷く。
逃げた相手がどこに行ったか、それは分からない。
後は村に帰って事情を説明し、警戒網を敷いてもらうか、それぐらいしかやれる事はないだろう。
後は傷を癒して再突撃して来る前に、逃げ切るくらいしか出来る事はなかった。
◇◆◇◆◇◆
ローンヴァレイに帰ると、既に起床したらしいリアが駆け寄ってきた。
感謝と申し訳なさをない交ぜにした表情をしていたので、ウィノナの方から抱き締めて、背中をポンポンと叩く。
「ありがとう、ウィノナ。……ありがとう」
「いいんだよ」
身体を離してリアを見つめ返し、笑顔を浮かべようとした。
だが、違和感が胸を衝いて、ウィノナは動きが止まった。
――何かがおかしい。
おかしい事は分かるのに、それが何かは分からない。
その違和感が、ウィノナをきつく締め上げる。
襲撃時は暗かった。
明かりなど碌になく、常に魔術師へ意識を割いていた。
だから、周囲に気にかけていられる余裕がなかった。
改めてリアの全身を眺める。
リアは不安そうな顔を貼り付けて、赤い服の袖を片手で握っていた。
――
予知夢のリアが着ていたのは青い服だ。赤い服ではない。
ウィノナは頭をハンマーで殴られたような、強い衝撃を受けた。
予知夢のリアは青い服を着ていて、赤い炎がその服を照らし、本当に恐ろしく感じたものだった。
ウィノナの足が、ガクガクと震え出す。
……まだ、終わっていない。
リアは再び襲われる。
そして『その時、ウィノナは傍にいない』。
(嘘だ! 嫌だ! 冗談はやめて……!)
ウィノナは叫びたくなる衝動を必死に抑える。
無表情を装うと努力したが、成功しているとは思えなかった。
明らかに異常な様子のウィノナを見て、二人はぎょっとして身体を支える様に触れた。
「ちょ、ちょお……! ウィノナ、どうしたの?」
「凄い汗よ。顔色も白い。ウィノナ、大丈夫……?」
「う、うぅ……っ!」
ウィノナは遂にはらはらと涙を流し、嗚咽混じりに説明した。
自分に予知夢を視る力があること、昨夜リアが襲われる夢を見たこと、しかし回避したと思ったこと。
だが実際には、予知夢が見せた未来は、今回の襲撃のことではなかった。
今日より更に未来のことで、その時リアは青い服を着ているはずだった。
「どうしよう、アタシどうしたら……!?」
泣きじゃくるウィノナに、リアの顔も真っ青だった。
しかし、それらに反して、アーチェの声はどこまでも明るい。
簡単じゃん、とアーチェは笑う。
「青い服は全部捨てなさい。これからも買うんじゃありません。これで解決」
「そんなことで……? それで大丈夫なの?」
気色ばむリアにアーチェは頷き、そうして滅多に見せない真顔を向けた。
「そんで、こっから離れて、二度と寄るんじゃない」
リアの目が見開かれ、幾らもしない内にその目から涙が流れる。
「私のこと嫌いになった? 厄介事を運んで来るから……?」
今度はアーチェが虚を突かれたように見開かれ、パタパタと両手を左右に振る。
「そんなわけないじゃん! 違うって、そうじゃないってば!」
いい、とアーチェは右手の人差し指を立てて、左手を腰に当てた。
「今回助かったのはウィノナのお陰、それは間違いない。でもウィノナだって、ずっとリアの傍にいられないだろうし、それはあたしだって一緒」
不本意だけどね、とアーチェ一つ、溜め息をついた。
「予知夢のシーンの再現性は完璧らしいけど、いつ襲われるかまでは分からないって言うし……それに大体、敵だって警戒してる相手を、また襲うか分からないじゃん? ……分からないことだらけだよ。でも、それが分かっただけで、めっけもんだって!」
「それ……?」
リアは涙を拭って首を傾げ、アーチェは人差し指を自分のコメカミに当てる。
「予知夢で見たリアのコト。考えようによっては、青い服を身に着けず、海岸沿いの道を馬車で走らずにいれば、死を回避できるってことなんだから」
「そう、なの……?」
「再現される条件は分かんないよ。でも、再現させない努力は必要でしょ? 青い服を捨てるなり、着ないでいるなんてカンタンだし、出来ることからやってみようよ」
そう言って、アーチェは自分の言葉に、自分で頷きながら続ける。
「そう、出来る事から……。リア達の住んでる家は知られちゃってるし、同じ場所にはいられないっしょ。だったら遠く、海からも山からも離れた場所に行けばいい」
「それで上手くいく……? 家族も助かるの?」
「絶対の保障は無理だよ。……でもさ……っ」
言い差して、ついにアーチェも涙を流した。
「リアが死んじゃうなんてイヤだよ~~!」
わんわんと泣き出し、三人の合わさった泣き声に何事かと家から親が飛び出して来た。
緊張の糸が切れたのだろうと勘違いながら、家族らは泣きじゃくる三人を、優しく促して小屋の中へと連れて行った。