【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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抗う覚悟 その3

 

 ウィノナとアーチェから、先程話し合った内容が説明された。

 

 すぐにでも離れた方が良いという事になり、リア一家はバートの小屋の前で、すぐ馬車を準備した。

 

 これからハーメルの町に帰るので、ウィノナも便乗させて貰うことになっている。

 そうして乗り込む段階になって、リアが前に出て、アーチェに頭を下げた。

 

「色々良くしてくれて、ありがとう」

 

 悲しげな笑顔でリアに言われ、涙ながらにアーチェは頷く。

 

「もう会えなくなるのかな……」

 

 リアは遠く離れた場所に移り住む。海の見えない遠い町に。

 ウィノナも今は旅人だ。どうせ長く、あの町にはいられなかった。

 

 一度離れれば、今度はいつ再会できるか分からない。

 それでも――。

 

「またきっと、どこかで逢える日も来るよ」

 

「うん、こっちからだって会いに行くんだから」

 

 ウィノナが言うと、アーチェも笑顔で返す。

 そうして、決意を込めた表情で、ウィノナは言った。

 

「アタシも旅を再開するよ。目標を見失ってたけど、ヒントも貰えたから……」

 

「……そっか!」

 

「あ、でも一つだけ!」

 

「一つと言わず幾らでも!」

 

 そう言って、アーチェは闊達に笑った。

 

「クレスとチェスター、ミントっていう名前に、聞き覚えある?」

 

「んーん、初耳。……ダレ?」

 

 ウィノナは三人の特徴を詳しく説明したが、やはりアーチェは知らなかった。

 元より小屋に立ち寄る旅人は多くない。

 

 魔物に教われて駆け込んでくる旅人も、いないわけではないが、もしその少年達が小屋の前を通っていても気付けなかったかもしれない、と言う。

 

「……うん、それじゃあもしクレスに会ったら、アタシのこと伝えてくれる? 探してたって」

 

「もちろん、オッケー」

 

 最後にもう一度お礼を言って、ウィノナ達三人は抱き締め合い、別れを惜しむ。

 一度身体を引き離して、アーチェはウィノナに顔を向けた。

 

「ねぇ、ウィノナ。会って一日も経ってないけどさ、あたし達、友達ってことでいい?」

 

「もちろん! 親友だよ」

 

 アーチェは目を瞬いてから、笑みを綻ばせる。

 

「いいの? 知り合いから友人まで、一気に飛び越えちゃってるけど」

 

 ウィノナはリアにちらり、と視線を向けながら頷いた。

 

「友達になるのに時間の長短は関係ない、なんて言うけど、親友になるのにも時間は関係ないンじゃない? リアとも親友なら、アタシも親友になりたいって思うし」

 

「そっか……、ありがとね!」

 

「絶対気が合うと思ってたけど、ここまでっていうのは私も嬉しい誤算だよ」

 

 リアも微笑んで、三人は顔を見合わせる。

 そうして、誰ともなく再び抱きつき、友情の抱擁を交わした。

 

 涙を流しながら、また会いましょう、と約束しながら……。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 リア一家と馬車でハーメルの町へ帰る途中、ウィノナには一つの懸念があった。

 昨日の襲撃の失敗を、敵は取り返そうとは考えないものだろうか。

 

 単なる怨恨ならば、油断が生まれるまで待つ事もあるかもしれない。

 

 しかし 、これが何者からの命令であった場合、任務が成功するまで狙い続けて来るのではないか。

 

 ウィノナが考え込んでいると、馬車の外が騒がしくなった。

 何かと思い、窓から外を窺ってみると、魔物が馬車を追っている。

 

「魔術師の手先……?」

 

 タイミングを考えれば十分、考えられる気がした。

 双方が遠距離攻撃を主体とする戦闘スタイルの為、魔術師は自分の方が分が悪いと思ったのかもしれない。

 

(このまま町に逃げ切れればいいンだけど……。その前に、魔物が追いつきそう)

 

 ウィノナ達のせいで、町の住人に被害を出すわけにもいかないが、魔物も町が近づけば、追撃は不可能と悟るだろう。

 

 追いつかれるまでに牽制を繰り返せば、何とか逃げ切れる距離を稼げるかもしれない。

 

 ウィノナはスカートからボウガンを取り出し、矢を装填する。

 リアに目配せすると、ウィンクして見せた。

 

「大丈夫、任せといて!」

 

「ウィノナ、気をつけて……!」

 

 頷き返して馬車の戸を開け、そこから飛び出す。

 前回の襲撃時と同じように、馬車の屋根上にしがみ付き、そこから魔物の数を確認した。

 

「全部で五体。どうにもならない数じゃない……」

 

 一体にボウガンを向け、馬車の振動を見計らい――射撃。

 

 一体の足を打ち抜き、もんどり転げた魔物は、立ち上がる素振りを見せず、そのまま引き離されていく。

 

 すぐに次の矢を装填し、別の魔物に狙いを済ませた時、突如馬車が(いなな)きと共に急停車した。

 吹き飛ばされそうになって、ウィノナは咄嗟にしがみ付く。

 

 馬が走るのを嫌がっているのを感じたウィノナは、前方を確認して顔をしかめた。

 魔物が数匹陣取って、馬車の進路を塞いでいる。

 

 馬車が動きを止めた事で、後続の魔物まで追いつき、魔物に包囲されてしまった。

 襲い掛かられる前に、その内の一匹に狙いをつけ、頭を打ち抜く。

 

 そして即座に、次の矢を取り出し装填した。

 

「クソッ、こいつら仲間がやられたのに、怯みもしない……!」

 

 魔物に包囲された状況、逃げようにも退路はない。

 そして、更に魔物が増えない、という保障もなかった。

 

「でも、矢が尽きるまで戦うしかない……!」

 

 そう考えた時、御者台にいたランブレイから火炎球が飛び出し、魔物の一体を焼き尽くした。

 

(魔術師だったンだ……)

 

 とはいえ、魔術は使えるだけで、戦闘は得意ではないらしい。

 その証拠に息は荒く、落ち着きがない。

 

 突き出した掌は震えて如何にも危うく、命中したのは奇跡みたいなものだった。

 

「アタシが率先して動かないと……!」

 

 そう考え身構えた――その瞬間、周りの魔物が金色の爆風で吹き飛ばされた。

 一体何が、と思って見渡せば、少し離れた上空にダオスが浮いている。

 

 呆気に取られて呆然としていると、ダオスは素早くウィノナに近づきを横抱きにした。

 突然の事に理解が追い付かず、ウィノナはダオスの腕の中で身を縮めるしかなかった。

 

「えっ、ちょ、ちょっと! 何するつもり!?」

 

「――時間を飛ばす」

 

 ダオスはただ、平坦な声で返答した。

 その次の瞬間、突然、目の前に光が現れた、と錯覚した。

 

 実際はどうか分からないが、あまりの眩しさに目を瞑り、何が起こるか分からず身構える。

 

 そうして一秒を待ち、二秒待ち……しかし、何も起こらない。

 恐る恐る目を開けてみると、全てが一変していた。

 

 まず、周りを取り囲んでいた魔物の姿がない。

 二匹の死体は依然として残っているものの、他の魔物が綺麗さっぱり消えていた。

 

 直後、違和感を覚えて空を見上げてみれば、まだ時間は昼前だったはずなのに、太陽が中天を過ぎて日差しを強めている。

 

 夢でも見ているのか、と考えるところで、ダオスはウィノナをその腕から降ろしながら言った。

 

「あれから、三時間後の未来に来た」

 

 それを聞いて、これか、とウィノナは思った。

 これが魔王と呼ばれる所以なのだろうか。

 

 もちろん、確かなことは分からない。

 だが、この力は異常だ。

 

 好きなように扱える力だと判明したら、人類は一体なにを思うだろうか。

 

 友好的に接するとは思えない。

 利用しようと考えるか、そうでないなら敵対する。

 

 ――魔王にされる!

 それが、この優しいダオスが魔王と呼ばれ、封印される本当の理由だとしたら……!

 

「ダオス、その力は無闇に使っちゃだめ! 人前でなんて以ての外だからね!」

 

「どうしたのだ、一体……」

 

 ダオスは(いぶか)しんだが、ウィノナの切実な視線を受けて、次第に根負けした。

 ただの請願ではない、これは哀願に近い。

 

 理由を問いたくても、それをさせない気配があった。

 

「……そなたの言う通りにしよう。命の危険以外に使わない」

 

「ごめんね、ありがとう……」

 

 ウィノナはホッして笑顔になる。

 そして、その時には御者台にいたランブレイの事も、気にする余裕を取り戻していた。

 

 彼は一体どうしたことだ、と目を白黒させているが、どう説明したものか分からない。

 

 何しろ、突然光に包まれたと思えば、取り囲んでいた魔物たちの姿がないのだ。

 困惑していて、当然だった。

 

「魔物は一体どこに……!? それに、ウィノナちゃんと一緒にいる君は?」

 

「あ、こっちはアタシの旅の連れです。彼のお蔭で、とりあえず危機は去りました」

 

 ランブレイは、とりあえず頷いた。

 納得した表情ではなかったが、いま危機がないことの方が重要と判断したらしい。

 

 丁寧にダオスへと身体を向けて、頭を下げる。

 

「ウィノナちゃんに続いて、貴方にまで。……何度も助けていただき、感謝の言葉もない」

 

 ダオスはぶっきらぼうにも見える仕草で頭を振ると、前に広がる道の手を向ける。

 先に進め、と言われていると判断したランブレイは、手綱を手に取り、馬を宥めて歩かせた。

 

 そうして、逃避行は続けられる。

 その後の帰路は静かなもので、何の危険もなかった。

 

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