【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
ハーメルの町に着いたリア達は、落ち着く暇もなく旅支度を始めた。
ウィノナとダオスも家に上がり、その手伝いをする。
母親が警備の詰め所に行き、今回の襲撃について説明に行っているので手が足りない為だ。
これを機に犯人が見つかり捕まればよし、そうでなくとも警戒して、兵の幾人かを町の
ウィノナはリアの手伝いをしながら、時折ランブレイの指示を受けて家の中の荷物をかき集め、ダオスもまた同様に手を貸していた。
書斎で片づけをしていたランブレイは、ふとした拍子に、机の上にあった書類の束をぶつけて落としてしまった。
屈んで拾おうとしたダオスに、ランブレイは待ったを掛ける。
「ああ、それは拾わなくていいよ。ここに捨てていく」
ダオスは頷き、視線をずらす。
その書類に書かれた文字が、何とはなしに目に入った。
魔科学についての考察と提案――。
「これは……?」
ダオスが思わず呟いて、ランブレイもその視線の先を見る。
その表情は嫌な物を見た、と言外に告げていた。
「ミッドガルズで、とある研究をしていてね……。私は危険だと進言したんだが、黙殺された。庶民の生活基盤の向上、安定が図れると聞いて参加したのだが、どうにもキナ臭いものを感じて……それで逃げてきた」
「では、昨晩襲われたというのは……」
ダオスが眉を
「おそらくは、ミッドガルズの手の者だろう。機密を知る者を、殺そうと言うわけだ。私はもう魔科学に関わる気は毛頭ない。書類はここに捨て置いて行く。……なに、こんな田舎だ、誰も読まんよ」
ダオスは難しい顔をして、とりあえず頷く。
それが真実、民の生活の為に生まれ発展した思想と技術であれば問題ない。
しかし、もしそれを別の形で利用しようとするならば――。
「どうしたダオス君、恐ろしい顔をして。そんなに心配してくれたのかね」
「あぁ……」
ダオスは咄嗟に表情を戻し、曖昧に頷いた。
「ともあれ、この部屋はもういいだろう。一刻も時間を無駄に出来ない。他も手早く済ませてしまおう」
ランブレイが部屋を出て行くと、ダオスもそれに続く。
最後に一度だけ落ちた書類に目を向け、そして動かぬ視線を断ち切るように、身体を外へ向け部屋を出て行った。
◇◆◇◆◇◆
旅支度と片付けは順調で、夕方前には全て終わった。
一息つけるのかと思いきや、リア一家はすぐさま村を出発するという。
これから日も暮れるし危険だと思ったが、村に留まり続けることの方が危険だと言われると、それもそうだと思える。
刺客は常に狙っている、と考えた方が良い。
追手は一人だけとは限らないのだし、夜の旅路とどちらが危険かとなれば、どちらも危ういとしか言えないものがある。
「これでお別れだ、本当に世話になった。ありがとう……」
ランブレイがウィノナとダオスへ、丁寧に頭を下げた。
だが、ウィノナはむしろ、申し訳なさそうに顔を伏せる。
「本当は安全な場所まで、護衛したいんですけど……」
「いや、君たちにはもう十分世話になった。必要というなら、こちらできちんと雇うとするよ。……そうだな、アルヴァニスタの冒険者ギルドを、頼ってみるのもいいかもしれない」
「はい……、どうかお気をつけて」
父との挨拶が終わるのを見て、それまで近くで待っていたリアが前に出てくる。
「ウィノナ……、もう何度も言ったけど、本当にありがとう」
リアは正面からウィノナを見つめ、その両手を取る。
「この恩は、いつか絶対返します。それまできっと、元気でいて」
「……ありがとう、リアも元気で。必ず、また会おうね」
約束、と言ってウィノナは背中に手を回し、強く抱きしめた。
リアも同じように抱き返し、数秒お互いの体温を感じると、どちらからともなく身を離す。
夕日の太陽を背に、遠ざかって行く馬車をウィノナは見つめる。
もうリアには見えていないのだろうが、変わらず手を振っていた。
――きっとまた会えると信じて。
ウィノナは後ろに立つダオスに、静かに言う。
「ダオスも、もしどこかでリアたちに会ったら助けてあげて。……約束よ」
「……分かった、約束だ」
◇◆◇◆◇◆
ダオスと一緒に宿屋に帰ると、早々に警備兵らしき者に戸を叩かれた。
リアの母親が話をしに行っていたと思うが、ウィノナ達にも詳しく話を聞きたくて来たのだろうか。
特に気を留めず戸を開け事情を聞くと、しかし告げられたのは意外な言葉だった。
「悪いが、すぐに村から出て行ってくれ」
「それ、どういうこと……?」
警備兵が言うには、スカーレット家を襲った襲撃犯は捕まっておらず、野放しになっている状態らしい。
そもそも力のある魔術師を捕まえられる戦力が、この町にはない。
放置するしかないにも関わらず、それを吹聴されたら交易の要のハーメルにも影響が出る。
ユークリッド大陸の南北に移動するには必ず通る町なので、そういった商人もよく通る要衝だ。
それなのに凶悪犯を逮捕できていないことを吹聴されるような事態になっては困るのだ。
だから、そうなる前に出て行って欲しい、と警備兵は言った。
「こっちだって長居する気はないよ」
ウィノナは気分を悪くして、声が一段低くなった。
「明日、すぐにでも出て行く」
「くれぐれも口外するな。もし外に漏らすような事をすれば、お前らを牢に入れてやるからな」
警備兵はあからさまに睨み付け、脅し文句を残して扉を閉めた。
足音が去り、数秒してからウィノナの肩が沸々と震える。
「――ふざけンな!」
感情を爆発させて、ウィノナは手近にあった椅子を蹴り上げた。
リアを殺そうとした犯人を野放しにしておいて、事実を知っている目撃者に対して高圧的に釘を刺す――。
そんな兵士が、一体何を守れるというのか。
特別な期待をしていた訳でもないが、警備兵がやる事は、隠蔽に力を注ぐことではないはずだ。
ウィノナの
慌てたのはウィノナで、どう言い訳したものか頭が真っ白になった。
怒りに我を忘れ、最も見せたくない素顔を晒してしまった。
「……ごめんね、軽蔑するよね」
「いや、その方がそなたらしい」
気まずく視線を合わせられないウィノナに、ダオスは左右に頭を振り、そして笑った。
「何よ、もぉー……!」
怒ったものか、笑ったものか複雑な気分だった。
だが、もはや取り繕う必要もない。
今までも裏表なくダオスには接していたつもりだったが、明らかに粗暴な仕草は見せないように努めていた。
そこに多少の窮屈さがあった。
しかし、これを機会にウィノナは吹っ切れるようになる。
ついには遠慮もなくなり、クレス達に対するような自然体で、ダオスにも接するようになるまで、そう時間は掛からなかった。
その日の夜、ウィノナはまたも、一つの夢を視た。
視える頻度はそう多くないはずの予知夢が、こうも立て続けに起こることは珍しい。
とりとめもない内容であればいい、と思いながら浮かび始める像を見続けていると、そこに現れたのはリアの姿だった。
茶色の外套の裾からは、薄いピンク色のスカートが見える。
膝よりも更に低い位置にあるスカートの裾が、それを教えてくれていた。
どうやら彼女は、青色の服は着ていない様だ。
そう思いながら、必要もないのに眼を凝らすように、像を注視する。
リアの目の前には、全身をローブで覆った何者かが立っていた。
明らかに警戒した姿勢で、彼女は足を一歩後ろに動かす。
まさか、とウィノナは思った。
――まさか、リアがこの何者かに、害されようとしているのではないか。
襲撃は回避したはずだが、仕留めることは出来なかった相手。
その刺客がまたしても、リアを襲おうとしている。
――やめて! 逃げて!
ウィノナは声に出ない声で、その像に声を投げつける。
しかし、当然声は聞こえていない。
ウィノナも伝わるとは思っていないが、それでも、声を出さずにはいられなかった。
――どうかリアを助けて! 誰か!
リアが更に一歩後ろに足を動かすと、その背後から弓なりに矢が降ってきた。
それも一本ではない。複数の矢が、まばらな雨のように降り注いでくる。
リアが背後を振り返り、ハッとした表情を見せる。
驚愕した表情ではない。しかし、安堵した表情でもなかった。
リアはそのまま踵を返そうというのか身を捩り、そして矢は今まさに刺客へと当たる――。
というところで、ウィノナは目を覚ました。
原作キャラに会わせよう、その二。
後々の事を考えて、とりあえず顔合わせだけでもさせておきたいと思って当たり障りない内容でこうなりました。
パッと会ってパッと別れて終了。
何とも味気ないですが、ウィノナ編でのクラースの扱いはこんなものかな、と……。