【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
ユークリッドから数日掛けて北上し、ウィノナ達はベネツィアに到着した。
そのまま直ぐにアルヴァニスタへ行こうとも思ったが、クレス達を探すのも疎かには出来ない。
一日使って探すことにした。
ここもアルヴァニスタ程ではないにしろ、大きな港町だ。
何か手掛かりでもあるかと思い、一通り見て回って、店の人にもそれらしい人がいないか尋ねたが、どこへ行っても良い返事は聞けなかった。
消沈するも、居ないものは仕方ない。
翌日、船でアルヴァニスタへ向かう。
そうして船に乗って最初の夜、ウィノナはまたも予知夢を見た。
◇◆◇◆◇◆
どこかの城の玉座の間、それが最初に見えた光景だった。
古ぼけ、打ち捨てられた印象は捨てきれないのに、絨毯に装飾品、燭台などが不釣り合いに高級品と分かる。
そのいかにも釣り合いの取れていない部屋の中に、ダオスがいた。
その正面にはウィノナが、見慣れない黒い革製の全身鎧を身に着け立っている。
腹部からは血の流れた痕があり、他にも大小の傷が見て取れた。
──そこは不可思議な空間だった。
広い筈の玉座の間は、たった二人しかいないのに酷く狭く感じる。
まるで、この二人の為の空間のような。
ウィノナは手にしていたボウガンを捨て、にこりと微笑んだ。
「……ねぇ、帰ろう。大丈夫、まだ戻ってこれるよ」
「しかし、……しかし私は、もはや人類の敵でしかない」
搾り出すかのような声音で、ダオスが言う。
しかし、ウィノナの表情に
戦闘に明け暮れたものとは別物の、晴れやかで優しい、見るものを安心させる表情を浮かべている。
「大丈夫だよ。魔導砲も壊れた、設計図もない。またやり直せるんだよ!」
ウィノナは必死に説得するも、ダオスからの返答はなかった。
「……ね、戻ってきて、ダオス……」
ウィノナとダオスのやり取りを見ながら、一人の女性が小さな声で、誰に聞かせるでもなく呟く。
「道中、モリスンさんから、あの方しか魔王を説得できない、と聞きましたが……。どうやら、本当のことのようですね」
「……ああ、あの女のあんな表情、初めて見るぜ」
「あれが、ウィノナです。僕らの良く知る、いつものウィノナ……」
ウィノナは手を差し出し、ダオスに向ける。
どれだけの回数、会いたいと思い、言葉を交わしたいと願ったことだろう。
しかしそれが今や、隔ているのはたった数歩の距離だけしかない。
ウィノナの願いは、とうとう叶う。
それを思えば、何時間だろうと待てる心持ちだった。
――しかし、その時間は唐突に終わりを迎える。
「許せダオス! これしかないのだ、この方法しか!!」
詠唱を終了させた一人の魔術師から、火炎球が飛び出す。
真っ直ぐ進んだ火炎は、ウィノナに意識を向けていたダオスに、驚くほど簡単に命中した。
しかし、当たった先はダオスが身に付ける、そのローブ。
直撃だったはずなのに、そこには傷一つ付いていなかった。
ローブに当たった火炎球は、小さな火種すら生む事はなく、翻す動きで完全に消失する。
一瞬の間の後、ダオスの表情が憤怒に変貌した。
「──貴様ァァ!」
黄金の光がダオスを包み、暴風となって吹き荒れる。
「やるぞ、皆!」
ダオスを正面に据え、幾人もの男女たちが対峙した。
剣士が、弓士が、魔術師が、ダオスに向かって攻撃していく。
その人数は多く、人数差は圧倒的なのに、これで戦力は五分だった。
裂帛の気合がそれぞれから発せられるものの、その表情までは窺えない。
ダオスは間違いなく善戦したが、敵の持つ数の有利を覆すことは出来ないでいた。
一つ一つの攻撃は、ダオスに大きなダメージを与えていないようだが、数による手数の多さは馬鹿にならない。
戦闘が長引くほど、傷が蓄積されていく。
そしてついに、魔術師による攻撃が――決定的な攻撃が、ダオスを襲った。
眩いばかりの雷光が、ダオスの身体を貫く。
身体を焼き、焦がし、断ち切られ、ダオスはついに崩れ落ちる。
火傷を負って焦げた肌からは、煙が昇っていた。
「やめてぇぇ! ダオスを殺さないで! ダオス! ダオスーー!」
◇◆◇◆◇◆
ウィノナはとっぷりと暗い夜中に、弾かれるような勢いで飛び起きた。
全身が震え、涙が止まらない。
視えてしまった未来の、あまりの絶望に身が引き裂かれそうになる。
「もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ……!」
いつか起きる未来、回避可能かも分からない未来。
それがウィノナを不安にさせ、また視てしまったことを後悔させ、絶望させる。
先のリアの件もあり、ウィノナにとっては敏感な問題だった。
見せるというなら、もっと救いのある夢を見せれば良いものを。
その日以降、ウィノナは眠ることをやめた。
眠るとまた、予知夢を見るかもしれないからだ。
それがまた親しい誰かの死を見せるものであったら、ウィノナは自分の感情を制御できる自信がなかった。
――怖い、と思う。
ウィノナは予知夢を見たとしても、努力次第で覆せると信じている。
だからこそ、リアの時にも奮戦したのだし、死ぬ未来が訪れない為の方策も、アーチェ発案で採用した。
しかし、どんな努力や犠牲を払っても、その予知夢を覆すことが出来ないと分かってしまったら、どうして良いか分からない。
それでも変わらず、予知夢を見せられてしまったら──。
ウィノナはそれが怖い。
しかし、眠ることをやめても、いつかは限界が来る。
だから堪りかねて眠るのだが、一時間もせずに目を覚ました。
ついには目の下に濃い隈が出来てしまい、体力も落ち、明らかに衰弱していった。
その様な姿を見せられては、ダオスも平静ではいられない。
「ウィノナ、私に何か出来ることはないか?」
「……大丈夫、たまにあるんだ。でもしばらくすると、元に戻るから」
それは殆ど虚言に等しい慰めだったが、儚い笑顔を見せるウィノナに、ダオスは更に言い募る。
それでも、ウィノナは首を横に振るばかりだ。
それで仕方なく、その場は不承不承に頷いた。
しかし、ダオスは常に傍らに付き添う様になり、ふとした瞬間に気絶するように眠るウィノナを、常に支え気遣った。
そうした船旅が続き、ウィノナもようやく普通に眠るようになった頃、一行はアルヴァニスタに到着した。
◇◆◇◆◇◆
睡眠を取れるようになれば、ウィノナも次第に元気を取り戻した。
かつては足元が覚束なかったウィノナも、今は普通にダオスとタラップを降り、港に足を付ける。
そこは活気に溢れていて、船員たちが積荷を下ろしていたり、商人が買い付けを行っていたりと、とにかく慌しい。
邪魔になってはいけないと、ウィノナ達はさっさと港を出て、市街地へと向かう事にした。
整備された町並みは美しかった。
メインストリートはタイルを使って、目にも楽しい工夫が施されていたし、街路樹を計算的に配置された様子は、清潔な印象を受けた。
この時代において、ウィノナが知る王都は、他にミッドガルズしか知らない。
だが、ここまで様子が違うものか、と愕然とする。
街の見せる活気が段違いなのだ。
ミッドガルズは空気すらも淀んでいて、感じる活気は、精々が空元気程度のものに過ぎなかった。
この活気は、都に隣接する形で港があり、貿易に力を入れてせいでもあるのだろう。
その上、運び込まれるのは何も、貿易品だけではない。
漁業で収穫された大量の食料や、何処かで買い付けた生活必需品、そして旅行者、それらがアルヴァニスタを富ませているのだ。
ウィノナは自分が、とんでもない田舎者になった気分で町を歩いた。
もっとも、実際に田舎者であることは否めない。
何となく道の中央を歩くのは申し訳ない気がして、せめて端を歩く。
宿を見つけて、さっそく中に入ると、もはや恒例となったダオスと相部屋で部屋を借りた。
そのついでに、クレス達の名前と特徴を従業員に伝えるものの、やはり知らないと返された。
これもまた、恒例となりつつあるので、気落ちもしない。
特にこの町には、冒険者ギルドがある。
旅の剣士とその一行となれば、一々注意して見ていないだろう。
仕方がないので、今回の目的地でもある、王立魔法研究所に向かった。
研究所は王城の中にあって、簡単に入ることは出来なさそうだ。
身分のある旅人というわけでもないのに、そもそも王城に入ることができるものかどうか……。
どうすれば入城できるのか、それを考えながら城へ向かっていたのだが、そこで思いがけない人物に出会うことになった。