【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
唐突に空いた暇な時間を、どうしたらいいものか、ウィノナは持て余してしまった。
これまでも当てのない旅、という訳でもなかったが、宙に浮きかけていた目的が。唐突に舞い込んで来たのだ。
幸運に感謝する気持ちで振り返ると、ダオスは暗い表情を隠しもせず、ウィノナを見つめていた。
「ど、どうしたの!?」
「約束を破ったことを悔いている……。命に危険もなく転移を行った」
「あ、そのこと……。ううん、仕方ないよ。気にしないで」
確かに、ダオスは約束を破った。
しかしそれは、ウィノナを思ってのことだと理解していたし、何よりダオスの目的に一歩近づく切欠にもなった。
その一歩は、間違えれば厄種になっていたかもしれないが、それでも故郷に帰れる、大きな一歩になったに違いない。
「上手くいくと良いよね!」
ウィノナは屈託なく笑うが、ダオスの心情は、到底晴れやかになれるものではなかった。
ダオスは少し歩くように示して、それからウィノナに大通りに面したベンチに座るよう薦める。
言われた通り、ウィノナはちょこんとベンチの端に座り、ダオスも少しばかり距離を取って、その横に座った。
しばらく、無言の時間が続いた。
ダオスは遠い空に目を向け、何か考えをまとめているようだった。
ウィノナは急かさず、ただダオスの言葉を待つ。
そうして待つ事しばし、やっとダオスは空から視線を断って切り出した。
「自分の事だけを、優先していいものか考えていた……」
ダオスはウィノナの目を見つめる。
「君は私に尽くしてくれている。私も同様、君に尽くしたいと思っている。君が行きたい場所に付いて行く。君の行きたい場所が、私の行きたい場所でもある」
ウィノナはそれを聞いて、胸が温かくなるのを感じた。
その言葉は素直に嬉しい。
ダオスの誠意ある瞳は、それを真実だと教えてくれる。
「いつも新しい地に着く度、聞いている名前がある。……故郷の友人に、会いたいのではないのか。だが今まで、その影すら見えていない」
そう言ったダオスの表情に、暗い影が落ちた。
「私は一歩、前進したかもしれない。しかし、ウィノナはその場で足踏みしか出来ていない。……それを申し訳なく思う。ウィノナの探し人が見つかるまで、ミッドガルズ行きは伸ばしてもいい」
「それは大丈夫。この機会を逃したら、次がいつか分からないし。アタシのために、機会をなくすのだって嫌だ。──アタシの親友達は、きっと今頃上手いことしてるよ、多分ね」
ダオスに顔を向け、笑顔を浮かべる。
彼らとの付き合いは長く、それに見合った信頼もある。
確かに、不安はないと言えば嘘になるだろう。
自分ひとりが離れて飛ばされたのか、あるいは全員がバラバラに飛ばされたのか、それすら不明だ。
既にここまで主要な町を巡り、世界をほぼ一周してしまった。
それなのに、まだ誰一人として出会えていない……そこに、不安を強くする材料はある。
だからと言って、停滞するつもりも、ダオスの足を引っ張るつもりもなかった。
そして何より、今も親友達が元気に動いているなら、ダオスを倒す手段を探している、という事になるのだ。
その前にダオスを故郷に送り返せれば、何の問題もない。
──魔王は誕生しない、だから封印もされない。そういうことだ。
クレス達ともしここで、バッタリ再会しようものなら、必要はないのだと説得する。
そして、納得させられるだけの材料も、一応はあるのだ。
ウィノナの決意した目を見つめ、ダオスはゆっくりと頷く。
「そなたに感謝を。しかし、そなたを
「あ、ありがと……」
ウィノナはその真摯な眼差しに頬を赤らめるが、ダオスの顔は涼しげで変わりない。
その彼が、そういえば、と声を上げる。
「先ほどのモリスンに言った、未来から来たとは、本当なのか?」
ウィノナは一瞬、ドキリとした。
よもやダオスを倒す為に送り込まれたなど、読心術でも持たない限り分からないはずだ、と思いながら頷く。
「そうだよ。証明する手段はないけどね」
「帰る手段は、最初から用意されていたのか? 君には時間転移の能力はないのでは?」
「あぁ、うん…」
ウィノナは決まりの悪い表情で、足元を見つめた。
「ちょっと急なことだったからね、そういうの余裕なかったんだ」
「それは、つまり……」
思わずダオスの眉根が寄る。
「うん、まぁ……」
ウィノナはダオスから非難の視線を感じ、歯切れも悪く返事をする。
言ってて自分が責められているように感じ、ウィノナは項垂れた。
「何と無責任な……!」
ダオスにしては珍しく憤慨していた。
もっともだと思うので、ウィノナも何も言わない。
そこでふと思いつき、でも、とウィノナは顔を上げた。
「アタシは多分、帰れないんじゃないかな……」
「何故だ」
ダオスは不安げに顔を歪ませる。
ウィノナはそちらに顔を向けず、そのまま困ったような笑みを見せた。
「アタシの時代に、アタシの名前が入ったお墓があった。同姓同名の別人だって言われたけど、それがもし本当に自分なら……帰れなかった、っていう事だと思うから。この時代に骨を埋めたんだろうね……」
ウィノナは一つ息を吐いて、空の中に一つ浮かぶ雲を見る。
雲の流れは緩やかなはずなのに、何故だか急かされているようにも感じられる。
「……ほら、ユークリッドに向かう時、途中で道を逸れたでしょ? それで地下墓地の話をしたじゃない、覚えてる? アタシの墓があるかもね、なんて……」
ダオスもそれには覚えがあった。
まだこの時代にはないのか、とウィノナが呟いた事に、違和感を覚えていたのだ。
ダオスは自らの表情を、険しく変化していくことを止められない。
それでか、とダオスが呻くように声を出した。
「諦めるような雰囲気を、感じたことはなかった。ただ、よく吹っ切れたような雰囲気をすると感じていた。──帰るつもりがないから、私にこうして尽くすのか」
ダオスの声音は、次第に重くなっていく。
ダオスは自らの感情の昂ぶりを、止められていない。止めるつもりさえ、ないのかもしれなかった。
「友を見つけ、故郷に帰りたいからこそ、今まで旅を続けていたのではなかったのか!? 私は自分さえ良ければ、それで良いとは言わんぞ! そなたの行く道が、自分の行く道だと言った言葉に偽りはない!」
「──いや、ゴメン! ちょっと待って!」
ウィノナは慌てて手を振って、ダオスの前に突き出した。
滅多に見れない、ダオスが感情的になる姿にドギマギする。
考えを上手く整理できず、だからとにかく、口から出る言葉そのままに弁明した。
「そんなつもりは全然なくって……! 変な感想っていうか、他人事のような絵空事っていうか……! とにかく、アタシは普通に帰るつもりでいるから! ──本当だから!」
どうどう、とウィノナは両手を前に突き出しながら、顔色を窺う。
「では、友が見つかれば帰るのだな」
「それは……勿論、そうだよ。でも、ダオスも故郷に帰る手段を見つけてからね。……きっと、ダオスも帰れるよ。だから一緒に頑張ろう」
そうだな、と言ったダオスだが、その表情は厳しいまま崩れなかった。