【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
その日はクレスとチェスターの三人で、村のすぐ傍、精霊の森に来ていた。
クレスとは道場内で剣を打ち合うことは多いものの、三人揃ってとなると、切磋琢磨できる環境ではない。
特にチェスターお得意の弓矢を扱おうにも、道場には的当てを練習する場所もなかった。
ウィノナは剣よりも、ミニボウガンを使った曲芸染みた矢撃ちが得意だったし、その二つを組み合わせた戦闘方法が身体を得意としていた。
ミゲールからは邪道だと怒られたが、どうにも身体に馴染んで捨てられない。
それもあって、大人たちの目を盗んでは、森の中で戦闘訓練などをしている。
ただし訓練と言っても、それは単なるお題目で、遊びの要素を多分に含んでいた。
チェスターも共にとなれば、純粋な技量向上を狙うというより、自然とそういう流れになる。
森の入り口付近で、ウィノナとクレスが対峙して、互いにジリジリと間合いを測る。
ウィノナは先端に綿と布を巻き付けた、訓練用の矢を装填したボウガンを左手に構え、右手には木剣を握る。
クレスは木剣を右手で構え、左手に木盾を持って待ち構えた。
そうして睨み合うこと暫し……。
最初に仕掛けたのは、ウィノナの方だった。
「はいさ!」
左手でボウガンを打って接近、クレスを目前に地面を蹴って、木剣を降り下ろす。
「甘い!」
クレスは矢を盾で弾いて、ウィノナの剣を下から迎え撃つ。
体重を乗せた一撃は見事に逸らされ、着地と同時に反撃が打たれた。
幾合も打ち合わせ、その度に木と木がぶつかる音が森に響く。
そうして拮抗が続くかと思われた二人の剣裁は、ついにクレスに軍配が上がった。
カァンと高い音を鳴らして、ウィノナの剣が飛び上がる。
何度か空中で回転し、草で覆われた地面に、トサリと落ちた。
「なぁにやってんだよ、ウィノナ。今のは俺にだって、悪手だと分かるぜ?」
「焦りすぎだよ、ウィノナ。いつも機敏に動いては、僕を翻弄してくるじゃないか」
「分かってはいるンだけどね……」
チェスターとクレスに口々に批判され、ウィノナはちぇー、と唇を尖らせ、木剣を拾い上げる。
「クレスはもう第三修練終えたでしょ? アタシなんてまだ第二修練で躓いてるし……。焦りもするよ」
アルベイン流剣術の修行は、段階を持って教えられる。
課題を一つずつ乗り越えることで修練の段階が上がり、より高度な技術を伝授される仕組みだ。
だから見込みがなければ、いつまで経っても基礎修練から抜け出せない。
「焦りの原因は、本当にそれだけかい?」
え、とウィノナは顔を上げた。
そこには心配げな顔をしたクレスと、呆れ顔をしたチェスターの姿があった。
「いつからの付き合いだと思ってんだよ。ただでさえ、お前は顔に出やすいんだからよ」
「あー……」
言われてウィノナは頭を掻く。
十年来の付き合いがある彼らには、何事もお見通しのようだった。
勿論、ウィノナとしても、この二人に何事かあれば、即座に気づける自信がある。
正直に今朝の夢の事を言おうか迷い、結局濁した言葉が口から出た。
「ちょっと夢見が悪くてね」
「おっ、まさかまた予知夢か?」
それで話題が終わると思ったら、しかし、返ってきたのは予想外の食いつきだった。
チェスターが言ったように、ウィノナには未来を夢を通して視る力がある。
長く一緒に過ごした二人には既にその事を伝えていたし、同時に予知夢に対する理解もあった。
ウィノナも最初は、見た夢が現実になるなど、単なる偶然だと思った。
しかし、それが二回三回と続き、そして今も的中記録を更新し続けているとなれば、信じないという方が難しい。
予知の範囲は明日の事もあれば、半年以上先の事もある。
しかし、一年以上も先の事は、今のところない。
予知範囲という物があるならば、それはきっと一年以内、というところなのだろう。
とはいえ、予知夢の内容は起きた時、その全て覚えているという訳でもない。
いつか見た場面だな、と思うことがあっても、内容を思い出せない事も多かった。
「……で? 今度は何見たんだよ。見たことない栗色髪の可愛い子と仲良くしてたとか、また訳分かんねぇこと、言うんじゃねぇだろうな?」
「いや、そういうんじゃなくて。ちょっと、拾われた時のことをさ……」
ばつの悪い顔をしたウィノナを見て、チェスターは言葉を無くす。
何か気の利いた事を言おうと首を巡らしたが、結局何も出てこない。
チェスターは頭を掻いて、頷く程度に小さく頭を下げた。
「……悪いこと聞いたな」
「もう昔のことだしね。気にしないで」
それに、とウィノナは首を傾げた。
「実際、予知夢っぽいのを最近、見た気がするんだよね」
「ってことは、内容は覚えていないのかい?」
クレスが言うと、ウィノナは頷いた。
「うん、もっと前から見てた気がするんだけど……。何か黒い格好した人、のような……。何だろ?」
んんん、と頭を捻って考え込んだが、すぐに頭を上げて笑顔を見せる。
「やめやめ。考えたって仕方ない!」
手にしていたミニボウガンを、太股に巻き付けていたベルトに取り付ける。
当然、スカートを大きく託し上げることになって、チェスターは大いに顔をしかめた。
しかめっ面のまま即座にウィノナの手を叩くと、スカートの裾を払って手直しする。
こういう場面を見るのが初めてではないクレスも、これには苦笑するしかなかった。
「まるっきり親か兄みたいだよ、そうしてると」
「……全くな。出来の悪い妹を持つと、兄貴は苦労するんだよ」
嘆息するチェスターに、ウィノナは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「えー、なに? アミィちゃんに言うよ」
「お前のことだ、馬鹿」
げんなりと言って、チェスターはもう一度嘆息する。
「ウィノナ、お前な……。もうちょっと恥じらいってモンを覚えろよな」
「えー……アタシの魅惑のベールを覗き見て、言うことがそれだけ?」
「ハッ、言っとけ」
チェスターが笑って、それにつられてクレスも笑った。
「それで、今日の修行はもう終わりにするのかい?」
「うん。後は聖樹様の所まで行って、それから帰ろうよ」
「お前、本っ当にそれ好きな」
「今日みたいに入り口辺りまでならいいけど、奥まで行ったのが大人にバレると怒られるよ」
クレスはいつもの事だとは思いつつ、一応の注意を促す。
しかし、ウィノナは悪びれずに笑顔で言った。
「だから、バレないように行くンだよ」
怒られても知らねぇぞ、と口では言いつつ、チェスターも止める気はなく、ウィノナの後に続く。
そうなれれば、二人だけ行かせて、クレスだけ先に帰るわけにもいかない。
仕方ない、と一つ肩を竦めて、クレスも後を追った。