【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
それから約束の日まで過ごし、予定していた日になると、海路を使って一路、ミッドガルズへと向かった。
船旅は快適とは言えなかったが、砂漠越えをもう一度する事を考えれば、今回の旅は比べるべくもない。
だがその代わり、交換条件という訳ではないだろうが、ウィノナは暇を持て余す事になった。
ダオスと一緒にいる事は少なくなり、多くの時間はモリスンが質問することに使われた。
ダオスも律儀に答える事で、船旅の時間が消費されていく。
理論構築がどうの、と言っていた割りに、学者としての知的好奇心を満たしている様にしか見えず、ウィノナはすっかり辟易としていた。
「ああ、それで時間の流れは川に例えられるというのは、まま聞く話だ。しかし、それに渦が加わるというのは、あまり聞いたことがない」
「ああ、それは……」
二人の話はウィノナには難しく、また興味惹かれて耳を傍立てる程、知的好奇心が旺盛な訳でもない。
二人の会話を右から左へ受け流し、海と風の音を聞きながら雲を眺めた。
今までの旅はダオスと二人きりだったし、お互い会話する時間を探すような事もなく、また寂しい思いをする事もなかった。
だが、モリスンが来る頻度が増えるに連れ、甲板の上で海や空を眺めるのが、ウィノナの日課となった。
そうでなければ、時折モリスンから予知夢の事情を質問される事がある程度で、暇な時間が続く。
いっそ予知夢を見ずに済む方法はないか、と訊いてみた事もあった。
だが、モリスンにはそうした知識がなく、結局どうしようもない、と分かっただけだった。
そしてまた、ウィノナの眠らない日々が続く。
また予知夢を見始めた為だ。
長く続く船旅の間、この夢は何度となく見させられた。
一度見たら次は数か月後、というパターンが多かったのに、今回の船旅では幾度として見る。
ダオスが何者かに討ち倒される夢。
多くが霞掛かっていて、登場する人物像は判然としない。
しかし、結果は変わらず、いつも同じ内容なのが共通している。
他の予知夢と違い、幾度となく見せてくるこの夢は、果たして何を意味するのだろう。
未来は変えられない事を意味するのか、変えて見せろと言う警告なのか――。
ウィノナには分からなかったがダオスが倒される夢など、何度も見たいと思わない。
対抗できる手段があるとすれば、それは眠らない事しかなかった。
ウィノナにそのような状態が続いている時、ダオスもまた心ここに在らず、といった姿を見せるようになった。
物憂げな様子で空を見つめ、溜め息をつく機会が増えた。
重い体を引き摺ってダオスに会いに行っても、言葉を濁すばかりで心境を打ち明けてはくれない。
そうして、それ以降、ウィノナはダオスの方から話してくれることを待とうと決めた。
ある日の夜、月夜の見える甲板で、ウィノナはダオスと二人で星を見ていた。
少しでもダオスの気晴らしになればいいと、思っての、ウィノナからの誘いだった。
そういえば、とウィノナは隣のダオスに訊く。
「すごーく今更な質問だけど、ダオスの故郷はどこ?」
「……ここより遥か、遠い場所だ」
それは分かるけど、とウィノナは苦笑した。
「具体的な国名とかさ。アタシたちも色々見て回ったものだけど、ダオスの故郷は、どこからも遠かったの?」
ダオスは曖昧に頷き、それから遠い目をして、星空を見つめた。
「私の……、私の故郷は。……そうだな、いずれからも遠い。このまま私の帰りを待つ者らの、期待に背くことにならないかと、身を竦む思いが常にある」
「そうなんだ…… 」
ウィノナは少し、悲しげに目を伏せた。
「待っていてくれる人がいるんだね。大丈夫、きっと帰れるよ、ダオス」
「──無責任なことを言うな! 今こうして向かっている先でも、望みが叶う可能性が、限りなく低いことは分かっている!」
ダオスは突然、激高した。
溜まった
ダオス自身も、八つ当たりに過ぎないと分かっていた。
それでも、一度口から飛び出す言葉を、止めることはできなかった。
「分かっていても諦め切れぬ。最後の一欠片の望みが消えるまでは! 私はここで、船に揺られている場合はではない。一刻でも早く帰りたいのだ! あぁ、私の故郷は、この星にはない! 遥か遠く星の海の向こうにあるのだ!」
えっ、とウィノナは双眸を見開く。
「私はこの星の人間ではない、遥か宇宙の彼方からやってきた! 我が十億の民を助けるため、星の海を渡ってやってきた! 大いなる恵みがなければ、故郷の星は死滅してしまう。──私はそれを救いたいのだ!」
「そう、なんだ……。でも、きっとそれは無理──っ」
言ってしまってから、ハッと口を手で覆う。
衝いて出た言葉は、
──何で言った、何を油断してた!
ダオスの荒らげた口調に、動揺したのは事実だ。
普段より物静かな気質な人だったし、今日この頃、鬱屈としていたことに、不満を感じていたのも事実だった。
しかし、否定するような言葉を、口から滑らすべきではなかった。
「何を知っている。私の何を、お前が知っているというのだ!」
「それは……」
目を逸らし、ウィノナは口を噤む。
一向に話そうとしない姿勢に、ダオスは痺れを切らし、その細い肩を掴んだ。
「私を見ろ、私の目を! 私が帰れないとでも言うのか!」
「──そうだよ! ダオスは帰れない!」
肩を掴んだ手を振り払い、ウィノナはついに言ってしまった。
本当はそんなこと言うつもりじゃなかったし、本心からの言葉でもない。
睡眠不足からのストレスだ、と言い訳するつもりもなかった。
ただ、ダオスの鬱憤に当てられて、反射的に出た言葉に過ぎなかった。
「何故そんなことが言える、何故……未来から来た──それでか!? 何を知っている、言え!」
ダオスの力強い瞳に射抜かれ、嘘を言う気力は生まれなかった。
だからウィノナは、ただ言われたまま、全ての事を話した。
未来からは来たものの、ダオスのことや、過去から起きる現代までの歴史など、まるで知らなかったこと。
ダオスに関することは、ただウィノナの持つ予知夢の力で、知り得たということを……。
「なに……?」
「夢の中で視たことは、いつ起こるかは分からない。でも夢に見るとね、それが本当に起きるんだよ。アタシの妄想でも空想でもない、本当なんだよ……」
ダオスは黙考する。ハーメルの町での不可解な夜の外出。
いつかの船上で言った、眠るのが怖い、と嘆いたウィノナ。
そこで見たということか。見たくない未来を、つまりダオスの未来を──。
「ダオスは未来に行く力、アタシは未来を視る力。あたしたちは似た物同士なンだよ。ダオスを故郷に帰してあげたい、これは本当にそう思う。──でも多分、帰ることは出来ないんだと、思う……」
そうか、とダオスは零す。
悲しげな表情ではなかった。
能面のような顔でもなかった。
諦めでもないように思う。
その表情から、ダオスの心情を伺うことはできなかった。
その日はそのまま船室に戻り、お互い無言のまま眠りに付いた。