【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
翌日、気まずい雰囲気ながら、ウィノナの方から勇気を出して、ダオスに声を掛けた。
「お、おはよう……!」
「ああ、おはよう」
「──あの、昨日は……ホント、ごめンなさい! 馬鹿な戯言だった! 気にしないで!」
「そうだな、……そうしよう」
ダオスはウィノナと目を合わせ、薄っすらと微笑む。
「故郷に帰る……、その意思は持ち続けるべきだ。帰りたいという思いが、消えない限りは」
全くその通りだ、とウィノナは、うんうんと頷く。
ウィノナの有様が余りにもいつも通りだったので、ダオスの笑みがより穏やかなものに変わる。
ウィノナもそれが嬉しくなり、つられて笑顔になった。
「昨日は本当にごめンね、あんなことを言いたかった訳じゃなくって。きっと予知夢で視えた未来だって、変えられるンだし──」
ウィノナは腕を持ち上げ、力こぶを作るようなに肘を曲げる。
「だから故郷に帰れるように、アタシも全力で応援するし力になるよ! ううん、ならせて欲しい」
「……ああ、ありがとう」
ダオスはよろしく、と手を差し出す。
ウィノナは嬉しくなって、その手を両手で包み込み、また笑った。
それからというもの、海に揺られる旅路の中で、二人の間では穏やかに時間が流れた。
ウィノナは既に睡眠を問題なく取るようになったし、ダオスの鬱屈した雰囲気も、随分晴れたように見えた。
時折モリスンがダオスの元を訪れ、質問攻めをしていく事は変わりなかったが、それでもウィノナは到着までの残り時間を、有意義に過ごせたと思っている。
それから一週間が経ち、一行はミッドガルズ最寄の港に到着した。
着いてからは直ぐに王都内へ入り、モリスンとダオスは城へ赴く。
ウィノナはやはり同行できないので、ダオスを待つ間の為に、一軒家が与えられた。
それからというもの、ウィノナは一日の大半を、そこで過ごすことになる。
最初は毎日帰ってきていたダオスも、一日置きの帰宅になり、二日置きになり……。
そして遂には、一週間帰って来なくなった。
それでもダオスがいつ帰って来てもいいように、食事は常に二人分用意してある。
無駄になることの方が圧倒的に多いと分かっていても、ウィノナは作るのを止めない。
「新記録更新、か……。次はいつ帰って来るのかな」
ウィノナは憂鬱な気持ちそのままに、溜め息をつく。
憂鬱なのはダオスが帰ってこないことも原因だったが、決してそれだけではなかった。
また、眠れない日々が続いている。
予知夢は見ないが、代わりに悪夢を見るようになった。
どういう内容かは朧げにしか覚えていないが、汗をかいて飛び起きることだけは共通している。
だから、夜眠れずに昼寝をするようになったのだが、そこでもやはり悪夢で起きる。
ほとほと参ったウィノナは、待ってる間の時間を、有効に使おうと町へ出た。
「もしかしたら、クレス達が見つかるかもしれないし……」
言い訳じみた独白だ、とは理解している。
それでも……、以前探した事があったとしても、今日にも到着する可能性は常にあった。
そう思って探してみたが、どこを歩いて尋ねてみても、今日まで見つけることは出来なかった。
クレス達はどこにいるのだろう。
それとも、もう二度と会えないのだろうか……。
考えたくはないが、海の真ん中、無人島、人知れぬ荒野など。
生存できない場所に、飛ばされてしまう可能性はあった。
気持ちがどんどん後ろ向きになる自覚はあったが、止めることはできなかった。
クレス探しも徒労に終わり、帰路についた頃、泣いている子供の声が聞こえてきた。
なかなか泣き止まない子に、母親が少しばかりきつい口調で叱っている。
「いい子にしていないと、ユニコーンはお願いを叶えてくれませんからね!」
ウィノナはそれを耳の端で聞いて、ふと思う。
──ユニコーンに願えば、ダオスを故郷に帰してくれるのだろうか。
ダオスは最近、帰ってこない日の方が圧倒的に多い。
研究は果たして順調だろうか。
町を練り歩いている内に、いつだか聞いた事がある。
ユニコーンが住むという白樺の森は、ミッドガルズより北西の位置にあるらしい。
ユニコーンは清らかな心を持った者の前にしか現れず、そしてもし会えたなら、願いを叶えてくれるのだとか。
いや、どんな傷でも病気でも治してくれる、だっただろうか。
どちらだったのか、ウィノナは正確には覚えていなかったが、それが願い事を聞いてくれる存在だということだけはしっかりと認識していた。
そして、ウィノナは思う。
ダオスの帰宅間隔を考えれば、行って帰って来ても問題はないように思えた。
ダオスもウィノナが遠出をしていたことなど、気が付かないに違いない。
無駄に時間を浪費するだけならば──本当に願いが叶うかは分からないが──、行った方がいいに決まっている。
そう頭では分かっていても、実際に行動を起こす気にはなれなかった。
自宅に帰ると、ウィノナはダイニングのテーブルに突っ伏す。
額をテーブルにつけたまま、腕を投げ出して目を閉じた。
気力が溶けるように、流れ落ちていく気がする。
そのまま細く息を吐き出していると、取り止めもない考えが頭をちらついた。
ダオスにミッドガルズ行きを進めたのは、失敗だったのだろうか。
焦り過ぎても意味がない、と分かっても、考えずにはいられない。
成果は一体いつ出るのだろう。
少しでも進捗があれば、ダオスは帰って来るのだろうか。
焦りは厳禁だ、ということも理解している。
それでも、全てが悪い方向に進んでいるように思えてならない。
もしも、を考えても仕方ないと分かるが、いつだって、ウィノナに選べた選択肢は多くなかった。
このまま、ただ待つだけで良いのだろうか。
そうして、纏まらない考えを取り留めもなく考えていると、ウィノナに眠気が襲って来た。
うとうとと眠りかけた時、僅かな気配を感じて顔を上げる。
焦点が定まらないままに目を向けると、そこではダオスが、ふんわりとした笑みを向けている。
ウィノナは慌てて手櫛で髪を整え、立ち上がった。
「帰ってこれたの!?」
声が上ずり、喜びを隠し切れず、ウィノナの顔に笑顔が咲いた。
ダオスはその笑顔を見て、更に笑みを深くする。
「あぁ、君の真似をしてみた」
「マネってなに……?」
ウィノナが首を傾げると、ダオスは悪戯めいた口調で言う。
「椅子を蹴って、不満をぶちまけたのだ」
「ひどいなー!」
ウィノナは口では文句を言いつつも、その顔からは笑みが絶えない。
ダオスが帰宅した事で、家の中が華やいだ様に感じられた。
その日いち日は、離れていた時間を埋めるように、ダオスと一緒に過ごす。
過ごせるその時間が、何より嬉しい。
話したいことは、それこそ幾らでもあった。
ウィノナは取り留めもなく話を続け、ダオスは一々相槌を打ってくれた。
夜が更けても飽くことなく長く続き、互いが寝るまで、話が途切れることなく続けられた。
──その日は珍しく、ウィノナは悪夢を見なかった。