【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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四肢欠損表現があります。
苦手な方はご注意ください。
 


想いの果てに その1

 

 ある日、いつもと同じようにダオスを待っていると、けたたましい衝撃と共に扉が開け放たれた。

 

 何者かが、力任せにこじ開けたのだと察したと同時、すぐさま挨拶もなく兵士達が乗り込んで来た。

 

 彼らは非常に訓練されていて手慣れており、二名は入り口に陣取り、残り三名は勝手に中へ入り込んで来る。

 

 ウィノナは椅子から浮かせていた状態のまま、身動きできないでいた。

 これが賊ならば、容赦なく飛び掛かり対処しただろう。

 

 だが、国の兵士となれば、暴力に任せた解決は悪手だ。

 

「あいつはどこだ! あの化け物はどこにいる!」

 

 先頭に立った、隊長らしき男が怒鳴る。

 その声に触発され、身体が反射的に動いた。

 

 ウィノナは一歩踏み出し、気迫負けせず言い返す。

 

「何のことか分かんねぇよ、ふざけンな!」

 

 どうやら最初に動きを硬直させた事で、従順な態度でいると思ったらしい。

 兵士達は、思ってもいなかったウィノナの態度に、一瞬気色ばむ。

 

「ここはアタシとダオスの家だ! 勝手に入って来て、好き勝手言ってンじゃねぇよ!」

 

 しかし、言い合いしている間も、中まで入った三名の内、二名が素早く家の中を改めていく。

 

 たが、そもそも一般的な家屋に、誰かが隠れるようなスペースもない。

 すぐに戻って来て、兵士達は隊長の男に首を振った。

 

「駄目です、どこにもおりません!」

 

「くそっ! いいか、あいつが帰ってきたらすぐに知らせろ!」

 

 詫びの言葉の一つもなく、傲慢な態度で、来た時同様荒々しく扉を閉めて帰って行った。

 ウィノナは憤慨しつつも、油断なくその様子を窓から観察する。

 

 彼らが見えなくなるまで後ろ姿を見送って、それから嫌な予感を覚えた。

 一体研究所で、ダオスに何があったのか……。

 

 当然、ウィノナには分からない。

 しかし、緊急事態ということだけは間違いなかった。

 

 ダオスは恐らく、無断で研究所を抜け出し、そして逃げたのだろう。

 ウィノナが待つ家に帰り、一緒に連れて行く余裕さえない程に。

 

 捨てられたのだ、とは思っていない。

 戻って来られないほど切迫しているというのなら、ウィノナの方から駆けつけ、助けるまでだ。

 

 兵士達が去って行った路地を睨み付け、ウィノナは静かに決意した。

 

 

 

 旅装に着替え終わり、兵士達が帰ってからも十分な時間が経った。

 ウィノナは一応、窓辺に近寄り、外を窺い様子を見る。

 

 家の前を通り過ぎて行く人こそ散見するが、怪しく思える人物はいない。

 しかし、見張られているのは間違いないだろう。

 

 ダオスを見失っているというのなら、ウィノナの動向を監視するはず……。

 ダオスの方から現れなくとも、ウィノナの方から向かうことはあるかもしれない、と考えるのは妥当だった。

 

 尾行されいるかどうか、確実に見破る方法を、ウィノナは知らない。

 だからいっその事、尾行される前提で動き、そして追いつけない速度で行動すればいい。

 

 そう考え、ウィノナは家を飛び出した。

 

 ただ問題は、ダオスがどこにいるのか検討も付かない。ということだった。

 研究所から逃げ出したとして、逃げる場所など、ダオスにはないはずだった。

 

 そこまで考えてから、ウィノナは一つ思い付く。

 この近辺で、ダオスに関係のありそうな場所といえば、一つしか思い当たらなかった。

 

 馬を駆って都から北上、ヴァルハラ平原へと飛び出し、ひたすら急ぐ。

 ──きっと、あの場所に。

 

 平原北東部の更に先、打ち捨てられた古城。

 そこにいなければ、ウィノナにはもう当てがない。

 

 しかし果たして、ダオスはそこにいた。

 いつか初めて逢った時と同様、月明かりが差し込んだ城内に、ダオスは立っていた。

 

 風が吹いただけで崩れてしまいそうな光景の中、ウィノナはそっと声をかける。

 

「……ここにいたんだ」

 

「あぁ、君か。よくここが分かったな」

 

「賭けだったけどね。ここは初めて、ダオスと会った場所だったから」

 

「そうか、そうだったか……。何故か分からぬが、ここは落ち着く。とりあえず飛び出したはいいものの、どうしたものかと彷徨い、そしてここを見つけた……」

 

 それきり、ダオスは沈黙してしまった。

 沈痛な表情のまま、言葉を探しているように見える。

 

「ねぇ、どうしていなくなったの?」

 

「研究所の、真の目的を知ったからだ。……あそこは駄目だ。あんな研究を続けていれば、いずれマナが失われてしまうだろう」

 

「……え?」

 

「マナを集める技術、それは間違いではなかった。しかし、集め方が暴力的に過ぎる。あれでは大樹を救うどころではない。完全に破滅へ追いやるだろう。──あの技術は唾棄すべきものだ。存在すらあってはならぬほどの……」

 

 ダオスの消沈する声が、静まった城内に響いた。

 ウィノナは何と声を掛ければ良いか分からない。

 

 しかし、何か言ってあげたくて言葉を探していると、後ろから地面を踏みしめる音が聞こえた。

 咄嗟にそちらへ体を向けると同時、声が発せられる。

 

「こんな所にいたのですか、捜しましたぞ」

 

 ウィノナは盛大に舌打ちしたい気持ちを、必死に押さえつけた。

 ……尾行はされて、当然だと思っていた。

 

 だから速さを最優先して、追い付けない程の速度で古城まで来た。

 しかし、それさえ相手には、想定内の事だったのかもしれない。

 

 ウィノナは自分の見通しの甘さに腹が立った。

 

 ここに踏み込んで来た数は多い。

 自宅を訪問してきた兵士達に加え、更に二十人ほどの兵士が増えている。

 

 その中で見覚えのある男――隊長格らしいあの高圧的な兵が、一歩前に出た。

 すると、他の兵も続いて半円状に、取り囲むようにして広がる。

 

「さぁ、こんな所で何をしておいでです。研究所へ戻りましょう」

 

「──言うこと聞く必要ないよ、ダオス。帰ろう」

 

「……だが、私に帰るところはない。──やはり、もう帰還すること、叶わぬのだろうな」

 

 ダオスは無気力に脱力した。

 最後の一縷(いちる)として希望を見出した研究でさえ、ダオスの願望を叶える事は出来なかった。

 

 それどころか、むしろ滅びを後押しするような研究でしかなかった。

 故郷を救う最後の手立てが、失われてしまった消沈は深い。

 

 悲観に暮れ、抵抗する気力さえダオスにはないようだ。

 成すがまま連行されそうになるダオスを見て、ウィノナは激高する。

 

「ダオスに触るな!」

 

 兵との間に飛び出したウィノナだったが、接近するよりも早く凶刃が走った。

 

 隊長が振り抜いた腕の先には長剣があり、そして……一拍遅れて何かが地面に落ちる。

 

 ウィノナはそれを視線で追って、それが誰かの片腕であることを認識した。

 時間がゆっくりと流れていくように感じ、間の抜けたような表情でそれを追う。

 

 理解が追いつかない。

 落ちた片腕は、いったい誰のものだ。

 

 ウィノナは己の右腕を見て、ついで触れようともう片方の腕を伸ばし、それからようやく事態を理化して、絶叫した。

 

「あ、あ、腕……が。あ、アァァァァァアアアア!!!」

 

 傷口から血液が飛び散る。

 ウィノナは地面に膝を折り、切断された右腕に触れようとするが、痛みのあまり、身体が硬直した。

 

 涙と汗が噴き出し、痛みと吐き気が絶え間なく襲った。

 

「──貴様ァァ!!」

 

 ダオス豹変は劇的だった。

 その激怒は一陣の風と共に、圧力を持って噴き出す。

 

 兵士たちは咄嗟に、隊長を庇う様に隊列を組んだが、全ては徒労だった。

 その風が通り過ぎるや否や、衝撃と共に身体が肉片と化す。

 

 一番奥にいた隊長と他数名は無事だったものの、他は全員致命傷か、死傷を受けている。

 

 既に戦意なんてものはなく、隊長以外の兵士はみっともなく震えていた。

 

「駄目、駄目だよ、ダオス……っ。殺しちゃ駄目、怒っちゃ嫌だ……!」

 

 ……これか。もしかして、これが?

 魔王が生まれる。

 

 きっと今、この時この状況が、ダオスを魔王と呼ばれることになる原因だ。

 

 ダオスを魔王にしないこと――。

 ウィノナはいつだったか、魔王誕生を阻止することも、目的の一つと挙げた。

 

 歴史通りに世界が進むなら──予知夢の再現がされるのなら、魔王になったダオスはいずれ打ち倒され、封印される事になる。

 

 ──それは嫌だ。嫌だ! 嫌だ!!

 

「ダオス、やめて……!」

 

「悪魔め……!」

 

 隊長は舌打ちすると、剣先をダオスに向け、檄を飛ばす。

 

「総員かかれ!!」

 

 だが、従う者は誰一人としていない。

 誰もが歯をかち鳴らし、震える腕で剣を向けるのが精一杯の様子だった。

 

 ダオスはそれら兵士には目もくれず、隊長を睨み付けて言い放つ。

 

「……悪魔だと、この私が? ならば、いたいけな少女を斬りつけるお前は何だ。この星のマナを吸い尽くし、大地を腐らせ、雑草すら生えない大地に変えた貴様らは何だ!」

 

「魔科学は、人の世を助ける技術だ! 今はまだ形になっていないだけに過ぎない! 必ずや人の生活を豊かにし、恵みをもたらすのだ!」

 

「──それはいつだ! 人どころか獣も住めぬ大地を作り、嘆いた後で訪れる恵みか! どれほどの恵みが、後に残るというのだ!」

 

「黙れ! 悪魔に人の恵みの何たるかなど、理解できるか!」

 

「悪魔……悪だと? この世に悪があるとすれば、それは私ではない。貴様ら人間のくだらぬ欲の心だ!」

 

 ダオスの一喝と共に、黄金のオーラが吹き上がる。

 その威力はすさまじく、古びた城を揺らす程の圧力だった。

 

 そうして、ダオスは素手のまま、兵士達を殴りつける。

 

 その暴力の猛威は、戦意を喪失しただけの兵だけではなく、傷を受けて動けない兵まで、肉片へと変えてしまう程だった。

 

 血だまりを作った後に、ダオスはウィノナへ向き直る。

 

 その表情は穏やかで、たった今、兵士を殺したように見えなかったし、直前まであった激情すら感じられなかった。

 

 ダオスは血に染まった手を、差し出しながら言う。

 

「──共に来て欲しい」

 

「ダオス、だめだよ、だめ。……ね? 私も一緒に謝るから、だからそれは駄目だよ。そっちに行ったら、もう戻れなくなっちゃう。まだ間に合うから……っ、 お願い……!」

 

 ウィノナは斬り落とされた片腕の脇に、もう片方の手を差し込み気休めの止血をしながら懇願する。

 

 脂汗と涙で顔中を汚しながら、それでもウィノナは苦痛を押し殺してダオスに願った。

 

 しかし、ダオスは返答しなかった。

 ただ代わりに、一度悲しそうに眉根を寄せ、差し出した手を引っ込め握り込む。

 

 その力いっぱい握った拳をもう一度開き、腕を動かそうとしたが……。

 結局、表情を歪ませるだけで、再び差し出されることはなかった。

 

「……優しい一年をありがとう」

 

 精一杯の優しい声でそう言うと、踵を返して暗闇の中へ消えていく。

 まるで闇に溶けるかの様に、その姿が見えなくなった。

 

「駄目だよ、ダオス! まだ間に合うんだよ! 帰って来てよ、ダオス──!」

 

 しかし声に反応はなく、ただ静まった城内に反響するばかり。

 追いかけたいと思うのに、傷の痛みがそれを許してくれない。

 

 そして、変えってくる声も、姿も、終ぞ見つかる事はなかった。

 




 
※本作の独自設定

高圧的な隊長は、原作小説ではライゼンでした。
しかし、ゲーム本編やドラマCDなどで知った彼とは、随分かけ離れた性格なので、拙作では端役にそれを代役して貰っています。
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