【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
ウィノナはあれから傷を治療され、片腕を失ったまま、元いた家に戻ってきた。
帰って来た訳ではなく、軟禁されている、と言う方が正しい状況だ。
もし、ダオスがウィノナに会いに来るようなことがあれば、直ちに捕まえるよう、配置された兵士が殺到する。
それを思えば、決して帰ってきてはいけない、と思う。
ウィノナは虚ろな表情のまま、ただベッドに横たわっている事しか出来ない。
窓から見える空は曇天で、このところ晴れる姿を見せてくれない。
まるでウィノナの心境が、そのまま映し出されているかのようだった。
──何故、こんなことに。
一体、なにがいけなかったのだろう。
後悔するというのなら、色々な事が候補に挙がる。
ダオスを一人にさせてしまった事もそうだし、研究所に行かせた事もそうだ。
そもそもミッドガルドになぞ、来なければ良かったのだ。
モリスンに予知夢を見る力を話した事から始まり、そこからダオスの時間転移の力を、教える事になってしまった。
あの男に教えなければ、こんな事には──。
八つ当たりだと分かっていても、暗い気持ちは抑えられない。
事態の好転を願っての一助だったが、それが今や最悪の事態になってしまった。
暗い気持ちをフツフツと胸の内で燻ぶらせていると、外から子供の泣き声が聞こえてきた。
マナを失った空気と大地、食物の実りは衰えるばかりで、一つのパンを食べるのにも苦労する町になっている。
子供の泣き声が止まず、いつまでも耳を震わせる。
煩わしく思えてきたその時、ダオスの帰りを待ちわびて。町に出た事を思い出した。
泣いている子供に、その親が言い聞かせていていた、あの言葉……。
──いい子にしていないと、ユニコーンはお願いを叶えてくれませんからね。
ここより北西にある白樺の森、ユニコーンはそこに住んでいるという。
もしも本当に会うことができれば、願い事を叶えて貰えるのだろうか。
何とはなしに思ったことだったが、ウィノナの胸の奥にじわじわと広がっていく熱がある。
もしも、もしも本当に──。
本当にユニコーンに会えれば、今からでもダオスは故郷に帰してあげられるかもしれない。
ウィノナはその晩、決意した。
「──今からでも、遅くない……っ」
◇◆◇◆◇◆
兵士が手薄になる瞬間を見計らって、ウィノナは家を飛び出した。
馬を盗んで夜通し走らせ、すっかり陽も昇った頃、ようやく白樺の森へと辿り着く。
どこにいるかも分からないので、とにかく息を切らして、ユニコーンを探した。
ウィノナの揺れる髪には艶がなく、肌の色は土気色。
頬は
そして、右腕があった場所には、袖が力なくぶらぶらと揺れていた。
「ユニコーン、お願いがあって来たンだよ! 姿を見せてよ、ユニコーン!」
ウィノナは声を出来る限り張り上げる。
しかし、ユニコーンは姿を現さない。
「お願い、ダオスを帰してあげて! ダオスを故郷に帰してあげて!」
それでも、ユニコーンは応えない。
「どうして! 何で出てきてくれないンだよ! 悪いのはダオスじゃないのに! 悪いのは人間の方なのに!」
声が枯れるほど呼びかけても、ユニコーンは姿を現さない。
それでも、ウィノナは呼ぶ声を止められなかった。
何故なら、最後の希望はここにしかない。
この最悪の状況を覆せるとしたら、もはや神か精霊以外あり得ない。
もしも、このまま時間が進めば、ダオスは必ず討たれることだろう。
予知夢が見せた光景のままに。
──ダオスを殺されたくない。
それを防ぎたいから、必死に足を動かしユニコーンを探し、声を枯らして叫ぶ。
只でさえ雪に足を取られ、体力の消耗も激しいのに、声を張り上げれば更に体力の消耗は増えた。
それでも、ウィノナは探すのをやめられない。
ダオスを助ける。
ただそれだけの思いが、ウィノナを突き動かしていた。
「なンで……」
諦めの気持ちが胸を去来した時、頭上にサッと影が差した。
──ユニコーンが!?
喜びも露に顔を上げると、そこにあったのはユニコーンではなかった。
それどころか、ユニコーンとは似ても似つかない。
その影の正体は、天高くに飛行する魔物の群れのものだった。
ウィノナは顔を真っ青にして、まさか、と思う。
魔物の群れが向かって行く先は、東の方向。
──まさか、そんなはずは。
片手しか動かせない身体で、大変な苦労して木に登った。
樹上からは地平線までが良く見え、空に視線を転ずると、古城の方へと飛んでいく、魔物の群れが見えている。
「なンで、どうしてだよダオス! 故郷に帰りたいだけじゃなかったのかよー!」
ウィノナの叫びは慟哭だった。
涙ながら、枯れている声を、それでも必死に上げる。
「魔物を何に使うつもりなのさ! ユニコーン、止めて! ダオスを止めて! 魔物を止めて!!」
しかし、それでもユニコーンは応えなかった。
ウィノナがどれだけ声を枯らしても、ユニコーンがその呼び声に応えない。
どれだけ縋り、願っても、ウィノナの前に現れる事は、遂になかった。
◇◆◇◆◇◆
魔王ダオス、誕生。
ダオスが魔王と呼ばれるのは、この瞬間からである。
ウィノナはダオスが魔王になるのを防げなかった。
ダオスが故郷に帰ることも、助けてやれなかった。
一体どうすればよかったのか、ウィノナには分からない。
何をすれば良かったのかすら……。
そして、この時よりミッドガルズから、彼女は完全に姿を消す。
町の兵は元より、近隣の住人まで、ウィノナの姿を見たものは誰もいなかった。