【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

33 / 96
想いの果てに その2

 

 ウィノナはあれから傷を治療され、片腕を失ったまま、元いた家に戻ってきた。

 帰って来た訳ではなく、軟禁されている、と言う方が正しい状況だ。

 

 もし、ダオスがウィノナに会いに来るようなことがあれば、直ちに捕まえるよう、配置された兵士が殺到する。

 

 それを思えば、決して帰ってきてはいけない、と思う。

 

 ウィノナは虚ろな表情のまま、ただベッドに横たわっている事しか出来ない。

 窓から見える空は曇天で、このところ晴れる姿を見せてくれない。

 

 まるでウィノナの心境が、そのまま映し出されているかのようだった。

 

 ──何故、こんなことに。

 一体、なにがいけなかったのだろう。

 

 後悔するというのなら、色々な事が候補に挙がる。

 ダオスを一人にさせてしまった事もそうだし、研究所に行かせた事もそうだ。

 

 そもそもミッドガルドになぞ、来なければ良かったのだ。

 

 モリスンに予知夢を見る力を話した事から始まり、そこからダオスの時間転移の力を、教える事になってしまった。

 

 あの男に教えなければ、こんな事には──。

 八つ当たりだと分かっていても、暗い気持ちは抑えられない。

 

 事態の好転を願っての一助だったが、それが今や最悪の事態になってしまった。

 

 暗い気持ちをフツフツと胸の内で燻ぶらせていると、外から子供の泣き声が聞こえてきた。

 

 マナを失った空気と大地、食物の実りは衰えるばかりで、一つのパンを食べるのにも苦労する町になっている。

 

 子供の泣き声が止まず、いつまでも耳を震わせる。

 煩わしく思えてきたその時、ダオスの帰りを待ちわびて。町に出た事を思い出した。

 

 泣いている子供に、その親が言い聞かせていていた、あの言葉……。

 

 ──いい子にしていないと、ユニコーンはお願いを叶えてくれませんからね。

 

 ここより北西にある白樺の森、ユニコーンはそこに住んでいるという。

 もしも本当に会うことができれば、願い事を叶えて貰えるのだろうか。

 

 何とはなしに思ったことだったが、ウィノナの胸の奥にじわじわと広がっていく熱がある。

 もしも、もしも本当に──。

 

 本当にユニコーンに会えれば、今からでもダオスは故郷に帰してあげられるかもしれない。

 ウィノナはその晩、決意した。

 

「──今からでも、遅くない……っ」

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 兵士が手薄になる瞬間を見計らって、ウィノナは家を飛び出した。

 馬を盗んで夜通し走らせ、すっかり陽も昇った頃、ようやく白樺の森へと辿り着く。

 

 どこにいるかも分からないので、とにかく息を切らして、ユニコーンを探した。

 

 ウィノナの揺れる髪には艶がなく、肌の色は土気色。

 頬は()け、瞳に合った快活な色は既になく、くすんだ色を湛えている。

 

 そして、右腕があった場所には、袖が力なくぶらぶらと揺れていた。

 

「ユニコーン、お願いがあって来たンだよ! 姿を見せてよ、ユニコーン!」

 

 ウィノナは声を出来る限り張り上げる。

 しかし、ユニコーンは姿を現さない。

 

「お願い、ダオスを帰してあげて! ダオスを故郷に帰してあげて!」

 

 それでも、ユニコーンは応えない。

 

「どうして! 何で出てきてくれないンだよ! 悪いのはダオスじゃないのに! 悪いのは人間の方なのに!」

 

 声が枯れるほど呼びかけても、ユニコーンは姿を現さない。

 それでも、ウィノナは呼ぶ声を止められなかった。

 

 何故なら、最後の希望はここにしかない。

 この最悪の状況を覆せるとしたら、もはや神か精霊以外あり得ない。

 

 もしも、このまま時間が進めば、ダオスは必ず討たれることだろう。

 予知夢が見せた光景のままに。

 

 ──ダオスを殺されたくない。

 

 それを防ぎたいから、必死に足を動かしユニコーンを探し、声を枯らして叫ぶ。

 

 只でさえ雪に足を取られ、体力の消耗も激しいのに、声を張り上げれば更に体力の消耗は増えた。

 それでも、ウィノナは探すのをやめられない。

 

 ダオスを助ける。

 ただそれだけの思いが、ウィノナを突き動かしていた。

 

「なンで……」

 

 諦めの気持ちが胸を去来した時、頭上にサッと影が差した。

 ──ユニコーンが!?

 

 喜びも露に顔を上げると、そこにあったのはユニコーンではなかった。

 それどころか、ユニコーンとは似ても似つかない。

 

 その影の正体は、天高くに飛行する魔物の群れのものだった。

 ウィノナは顔を真っ青にして、まさか、と思う。

 

 魔物の群れが向かって行く先は、東の方向。

 ──まさか、そんなはずは。

 

 片手しか動かせない身体で、大変な苦労して木に登った。

 

 樹上からは地平線までが良く見え、空に視線を転ずると、古城の方へと飛んでいく、魔物の群れが見えている。

 

「なンで、どうしてだよダオス! 故郷に帰りたいだけじゃなかったのかよー!」

 

 ウィノナの叫びは慟哭だった。

 涙ながら、枯れている声を、それでも必死に上げる。

 

「魔物を何に使うつもりなのさ! ユニコーン、止めて! ダオスを止めて! 魔物を止めて!!」

 

 しかし、それでもユニコーンは応えなかった。

 ウィノナがどれだけ声を枯らしても、ユニコーンがその呼び声に応えない。

 

 どれだけ縋り、願っても、ウィノナの前に現れる事は、遂になかった。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 魔王ダオス、誕生。

 ダオスが魔王と呼ばれるのは、この瞬間からである。

 

 ウィノナはダオスが魔王になるのを防げなかった。

 ダオスが故郷に帰ることも、助けてやれなかった。

 

 一体どうすればよかったのか、ウィノナには分からない。

 何をすれば良かったのかすら……。

 

 そして、この時よりミッドガルズから、彼女は完全に姿を消す。

 町の兵は元より、近隣の住人まで、ウィノナの姿を見たものは誰もいなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。