【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

34 / 96
幕間
苦悩と悔恨の狭間で その1


 

 モリスンがそれを知ったのは、全てが終わった後の事だった。

 

 同盟国のアルヴァニスタから招聘(しょうへい)されてよりこちら、忙しい日々を過ごし、外の情報については疎かった。

 

 何より、モリスン自身もまた、ミッドガルズに魔科学に携わる研究員として、所属する身だ。

 

 本国からの命令に従いつつ、内部から研究の根幹を探る任務もある。

 

 しかし、内容を知ることは遅々として進まず、焦れた矢先のことに知ったのが、ダオス失踪の件だった。

 

 寝耳に水とはこの事だ。

 一体どういう理由があって、彼はその決断をしたのだろうか。

 

「考えられるとすれば、研究の全貌を知り得たから、だとは思うが。そして、それが彼の望むものではなかったから。……だから、去った?」

 

 元よりミッドガルドにやって来たのは、彼の意に沿う研究が行われているかどうか、確認する為でもあった。

 

 詳しい事は知らないが、彼の望みを叶える事は、簡単ではないらしい。

 だから、少しでも可能性があればこそ、ああして進んで研究に協力していた。

 

「とはいえ、実際のところは推測の域を出ないな……」

 

 考えに没頭していると、明らかに憔悴し負傷した兵と一緒に、ウィノナが帰ってきた。

 いや、それは正しい表現ではない。

 

 ウィノナは明らかにぞんざいな扱いを受けていて、しかも傷だらけで、見るも無残に憔悴(しょうすい)していた。

 

 モリスンは、そんなウィノナの姿を見て、驚きを隠せない。

 単に傷だらけの身体、砂と埃に塗れた姿を見たから、驚いた訳ではない。

 

 ──その右腕が、なくなっている。

 

「一体何があった!?」

 

 詰め寄って兵を揺さぶったが、聞かれた兵は何も答えない。

 その視線すら合わせなかった。

 

 では隊長に、と相手を代えても、やはり言うことはできない、と断じる。

 

「たかか一研究員ごときに、何もかも教えてやる必要はない! 事は国運に関わる! お前も私室で待機していろ!!」

 

 隊長の機嫌はすこぶる悪く、取り付く島もなかった。

 力ない足取りで自室に帰ったモリスンは、椅子へ倒れ込むように座ると、頭を抱えて深く項垂れた。

 

「一体何があったんだ。どうしてあんなことに……!? ウィノナは一体どうなったんだ。私がしたことは間違いだったのか、誰か教えてくれ……!」

 

 ダオスを招こうとしなければ、ウィノナも付いて来ようとはしなかった。

 そして、付いて来なければ、あのような悲惨な目に遭う事もなかっただろう。

 

 大体、何故ウィノナがあれ程の怪我を負うのか。

 単に魔物に襲われただけ、では訳ないはずだ。

 

 そうでなければ、兵士が視線を合わせようとすらしないのは不自然だし、敢えて隠す理由がない。

 何か後ろ暗い、誰にも話せない内容の何かがあったのだ。

 

 更にダオスの不在が、不安をより大きくさせる。

 彼がウィノナを捨てて行くとは考えられない。

 

 船上でも幾度と見かけた二人は、本当に仲睦まじく、モリスンも声をかけずに立ち去っことは、一度や二度ではなかった。

 

 ならば一体、今のこの状況は何だというのだ。

 自分の探求心が招いた結果だという、自責の気持ちはある。

 

 だから自分が報いねばと思うものの、しかし、どうすれば改善に導けるのか、モリスンには全く分からなかった。

 

 

 

 それからしばらくして、モリスンはウィノナが自宅へ送り返されたらしい事を知った。

 全身にあった擦り傷はすぐに治ったが、腕の治療は簡単なことではなく、結局失ったままになった。

 

 腕は戻って来ないが、傷口は縫合され、昏睡状態からは無事快復したという。

 

 その事が知れた直後、モリスンは可能な限り早く向かい、ウィノナ達へ貸し与えられた家へと赴く。

 

 家の扉を叩こうと腕を上げると、横手から男が現れ、止められた。

 城の兵士だ、とモリスンにはすぐ分かった。

 

 服装こそ一般人と大差ないものだったが、鍛えられた身体と顔つきは、そう簡単に隠せるものではない。

 

「邪魔をするな……!」

 

 モリスンは睨み付けて声を荒らげたが、取った腕をそのまま捻られ、苦痛に身を(よじ)っている間に、家から離された。

 

「現在、あの女に会うことは許可されません。どうか、お引取りください」

 

 口調こそ礼儀正しいが、そこには有無を言わせぬ迫力がある。

 それでモリスンは、全てを察してしまった。

 

「彼女は撒き餌なのだ。きっとダオスは、未だ捕縛されていないに違いない……」

 

 彼が再び現れ、そしてウィノナに接触しようとした時……。

 その時こそダオスは捕われ、再び利用されるだろう。

 

 ──何とかウィノナを、逃がせいものか。

 

 しかし、それが困難であることは、よく理解していた。

 モリスンがこのまま強行突破しようとも、他にも潜伏している仲間が現れ、容易に阻止されてしまうだろう。

 

 そして無論、失敗すれば、牢に入れられるだけでは済まない。

 モリスンは自分の無力を、悟らざるを得なかった。

 

 悔しげに俯き、踵を返す。

 そうして、ウィノナの家から逃げるように去って行った。

 

 

 

 意気消沈しながら城へ戻り、自室へと足を向けた。

 研究員として招聘されたモリスンには、この国で研究の成果を出す義務がある。

 

 だから何にもまして、研究に没頭しなければならないのだが、今は到底、そんな気にはなれなかった。

 

 自分の研究室に帰り付くと、机に向かい、気難しい顔で腕を組む。

 しかし、出てくるのは溜息ばかりで、思考は悪戯に空回りするばかりだ。

 

 何をしようにも手につかず、どうにかしたいし、どうにかすべきと分かっていても、モリスンにはその手段を思い付かない。

 

「よくない兆候だ……」

 

 どうしたものかと、もう一度溜息をついた時、部屋の外を複数の足音が、慌ただしく通り過ぎていくのが聞こえた。

 

 その時の話し声から、モリスンは幾つかの単語を聞き取る。

 

「あのダオスが……」

 

「魔物を集めて……」

 

「我が国に脅しを掛けるつもりか……?」

 

 会話の内容から、拾えた単語は少なかった。

 だから推測するしかないのだが、繋ぎ合わせた結果、それが何を意味するのか、脳が理解を拒絶した。

 

 モリスンは自分の頭で考える事を放棄して、部屋の扉に飛びつく。

 乱暴に扉を開くと、今まさに会話をしている兵士達へ掴みかかった。

 

「おい、一体どういうことだ! ダオスが何だって!?」

 

 その恐ろしいまでの剣幕に、掴みかかられた兵士は、思わずといった反応で言葉を返す。

 

「な、なんだ! お前、一体……!」

 

「いいから答えろ! ダオスが魔物をどうしたって!?」

 

「詳しい事は知らん! だが、ダオスは北東の古城に籠って、魔物を集めてる! それが何を意味するかなど、俺のような末端の兵士が知るものか!」

 

 放せ、と乱暴に腕を振ると、他の兵士も慌てて。モリスンを引き離す。

 そうして兵士達は乱暴にモリスンを突き放し、一瞥くれると去って行った。

 

 モリスンはしたたかに尻を打ったが、そんな事はまるで気にならない。

 ただ茫然と床の一点を見つめ、兵士が言った言葉を反芻していた。

 

「ダオスが……、魔物を集めている? なぜ? どうやって? 何の為に?」

 

 最早、事態はモリスンの理解の範疇を、完全に超えていた。

 あまりに不可解、あまりに不自然とも思える行動だ。

 

 だが、それが実際に起こっているとしたら、それはまるで……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。