【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
苦悩と悔恨の狭間で その1
モリスンがそれを知ったのは、全てが終わった後の事だった。
同盟国のアルヴァニスタから
何より、モリスン自身もまた、ミッドガルズに魔科学に携わる研究員として、所属する身だ。
本国からの命令に従いつつ、内部から研究の根幹を探る任務もある。
しかし、内容を知ることは遅々として進まず、焦れた矢先のことに知ったのが、ダオス失踪の件だった。
寝耳に水とはこの事だ。
一体どういう理由があって、彼はその決断をしたのだろうか。
「考えられるとすれば、研究の全貌を知り得たから、だとは思うが。そして、それが彼の望むものではなかったから。……だから、去った?」
元よりミッドガルドにやって来たのは、彼の意に沿う研究が行われているかどうか、確認する為でもあった。
詳しい事は知らないが、彼の望みを叶える事は、簡単ではないらしい。
だから、少しでも可能性があればこそ、ああして進んで研究に協力していた。
「とはいえ、実際のところは推測の域を出ないな……」
考えに没頭していると、明らかに憔悴し負傷した兵と一緒に、ウィノナが帰ってきた。
いや、それは正しい表現ではない。
ウィノナは明らかにぞんざいな扱いを受けていて、しかも傷だらけで、見るも無残に
モリスンは、そんなウィノナの姿を見て、驚きを隠せない。
単に傷だらけの身体、砂と埃に塗れた姿を見たから、驚いた訳ではない。
──その右腕が、なくなっている。
「一体何があった!?」
詰め寄って兵を揺さぶったが、聞かれた兵は何も答えない。
その視線すら合わせなかった。
では隊長に、と相手を代えても、やはり言うことはできない、と断じる。
「たかか一研究員ごときに、何もかも教えてやる必要はない! 事は国運に関わる! お前も私室で待機していろ!!」
隊長の機嫌はすこぶる悪く、取り付く島もなかった。
力ない足取りで自室に帰ったモリスンは、椅子へ倒れ込むように座ると、頭を抱えて深く項垂れた。
「一体何があったんだ。どうしてあんなことに……!? ウィノナは一体どうなったんだ。私がしたことは間違いだったのか、誰か教えてくれ……!」
ダオスを招こうとしなければ、ウィノナも付いて来ようとはしなかった。
そして、付いて来なければ、あのような悲惨な目に遭う事もなかっただろう。
大体、何故ウィノナがあれ程の怪我を負うのか。
単に魔物に襲われただけ、では訳ないはずだ。
そうでなければ、兵士が視線を合わせようとすらしないのは不自然だし、敢えて隠す理由がない。
何か後ろ暗い、誰にも話せない内容の何かがあったのだ。
更にダオスの不在が、不安をより大きくさせる。
彼がウィノナを捨てて行くとは考えられない。
船上でも幾度と見かけた二人は、本当に仲睦まじく、モリスンも声をかけずに立ち去っことは、一度や二度ではなかった。
ならば一体、今のこの状況は何だというのだ。
自分の探求心が招いた結果だという、自責の気持ちはある。
だから自分が報いねばと思うものの、しかし、どうすれば改善に導けるのか、モリスンには全く分からなかった。
それからしばらくして、モリスンはウィノナが自宅へ送り返されたらしい事を知った。
全身にあった擦り傷はすぐに治ったが、腕の治療は簡単なことではなく、結局失ったままになった。
腕は戻って来ないが、傷口は縫合され、昏睡状態からは無事快復したという。
その事が知れた直後、モリスンは可能な限り早く向かい、ウィノナ達へ貸し与えられた家へと赴く。
家の扉を叩こうと腕を上げると、横手から男が現れ、止められた。
城の兵士だ、とモリスンにはすぐ分かった。
服装こそ一般人と大差ないものだったが、鍛えられた身体と顔つきは、そう簡単に隠せるものではない。
「邪魔をするな……!」
モリスンは睨み付けて声を荒らげたが、取った腕をそのまま捻られ、苦痛に身を
「現在、あの女に会うことは許可されません。どうか、お引取りください」
口調こそ礼儀正しいが、そこには有無を言わせぬ迫力がある。
それでモリスンは、全てを察してしまった。
「彼女は撒き餌なのだ。きっとダオスは、未だ捕縛されていないに違いない……」
彼が再び現れ、そしてウィノナに接触しようとした時……。
その時こそダオスは捕われ、再び利用されるだろう。
──何とかウィノナを、逃がせいものか。
しかし、それが困難であることは、よく理解していた。
モリスンがこのまま強行突破しようとも、他にも潜伏している仲間が現れ、容易に阻止されてしまうだろう。
そして無論、失敗すれば、牢に入れられるだけでは済まない。
モリスンは自分の無力を、悟らざるを得なかった。
悔しげに俯き、踵を返す。
そうして、ウィノナの家から逃げるように去って行った。
意気消沈しながら城へ戻り、自室へと足を向けた。
研究員として招聘されたモリスンには、この国で研究の成果を出す義務がある。
だから何にもまして、研究に没頭しなければならないのだが、今は到底、そんな気にはなれなかった。
自分の研究室に帰り付くと、机に向かい、気難しい顔で腕を組む。
しかし、出てくるのは溜息ばかりで、思考は悪戯に空回りするばかりだ。
何をしようにも手につかず、どうにかしたいし、どうにかすべきと分かっていても、モリスンにはその手段を思い付かない。
「よくない兆候だ……」
どうしたものかと、もう一度溜息をついた時、部屋の外を複数の足音が、慌ただしく通り過ぎていくのが聞こえた。
その時の話し声から、モリスンは幾つかの単語を聞き取る。
「あのダオスが……」
「魔物を集めて……」
「我が国に脅しを掛けるつもりか……?」
会話の内容から、拾えた単語は少なかった。
だから推測するしかないのだが、繋ぎ合わせた結果、それが何を意味するのか、脳が理解を拒絶した。
モリスンは自分の頭で考える事を放棄して、部屋の扉に飛びつく。
乱暴に扉を開くと、今まさに会話をしている兵士達へ掴みかかった。
「おい、一体どういうことだ! ダオスが何だって!?」
その恐ろしいまでの剣幕に、掴みかかられた兵士は、思わずといった反応で言葉を返す。
「な、なんだ! お前、一体……!」
「いいから答えろ! ダオスが魔物をどうしたって!?」
「詳しい事は知らん! だが、ダオスは北東の古城に籠って、魔物を集めてる! それが何を意味するかなど、俺のような末端の兵士が知るものか!」
放せ、と乱暴に腕を振ると、他の兵士も慌てて。モリスンを引き離す。
そうして兵士達は乱暴にモリスンを突き放し、一瞥くれると去って行った。
モリスンはしたたかに尻を打ったが、そんな事はまるで気にならない。
ただ茫然と床の一点を見つめ、兵士が言った言葉を反芻していた。
「ダオスが……、魔物を集めている? なぜ? どうやって? 何の為に?」
最早、事態はモリスンの理解の範疇を、完全に超えていた。
あまりに不可解、あまりに不自然とも思える行動だ。
だが、それが実際に起こっているとしたら、それはまるで……。