【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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苦悩と悔恨の狭間で その2

 

 モリスンは自分の無力さを自覚せざるを得なかったし、そして嘆かずにはいられなかった。

 

 何も出来ない自分に歯がゆさを感じつつ、さりとて自室に戻る気にもなれない。

 

 それで仕方なく、城内をうろうろしていたのだが、会議室の前を通りがかった所で、何やら言い合う声が聞こえてくる。

 

 その内の一人は、ウィノナを連れて来た時にいた、あの隊長のものだ。

 

「……だから、あの女を磔にでもして古城の前で脅してやればよいのです! さすれば奴も、己が首を差し出すでしょう!」

 

「そんな事は許可できん」

 

 キッパリと拒否したのは、ライゼンの声だった。

 この国の軍部にあって、高潔と名高い将軍で、兵にも民にも人気がある。

 

 その人物が、一人の隊長と口論している。

 通り過ぎるつもりだったモリスンは、思わず足を止めた。

 

「そもそも乱暴な方法で解決を試みた、貴公の失態が招いたことだ。その件では、謹慎を申し付けたはずだが」

 

「ですから、こうして名誉挽回の機会をいただき、此度の件で帳消しに──」

 

「──もう良い、下がれ」

 

 ライゼンの呆れた溜め息が聞こえ、次いで苦々しく呻く隊長の声も聞こえた。

 その時、慌ただしく駆けてくる兵がいた。

 

 モリスンは慌てて身を引き、会議室から数歩離れた所に移動する。

 

 兵はそんなモリスンを見やる余裕もないらしく、一直線に会議室へ向かうと、叩きつけるようなノックをして返事を待つ。

 

 入れ、との声が聞こえるや否や、乱暴にも思える手つきで扉を開け、失礼しますと一礼すると、中に入った。

 

「アルヴァニスタが、参戦見合わせを報せて来ました!」

 

 馬鹿な、と隊長が呻くのが聞こえ、モリスンも思わず会議室の扉へ顔を寄せた。

 覗ける範囲からでは、ライゼンが頭に片手を当てて俯いている。

 

 その隣では、例の隊長がワナワナと拳を握っていた。

 

「アルヴァニスタめ、臆病風に吹かれたか! まだ奴の戦力が整っていない今が、絶対の好機! それを放置することが、果ては世界の危機だと、何故分からん!?」

 

 口から泡を飛ばす勢いの隊長に、ライゼンは煩げに手を振る。

 

「謹慎だと言ったはずだ。今は何を言うことも許さん。──下がれ」

 

 しかし、と言い募る隊長に、ライゼンは鋭い目を向けるだけで何を言うでもない。

 それで仕方なく隊長も言葉を飲み込み、会議室を後にした。

 

 今が絶好の機会だと、入れ替わるようにモリスンが入室し、迷うことなくライゼンまで近づいていく。

 

「本当なのか……。本当に、ダオスが魔物を集めて……」

 

 ライゼンは突然の入室にも咎めず、モリスンへと冷静に顔を向けた。

 しばらくの黙考の後、ただ頷く。

 

 それ以上の返答がないので、モリスンは続けて問うた。

 

「目的は分かっているのか?」

 

「まだ、詳しい事までは分かっていない。しかし、古城にてダオスはミッドガルドに対して完全な決別、そして憎悪を向けたのは間違いない。日々、古城へ魔物が集まっている事は、斥候が確認している」

 

 ライゼンは気苦労を全て吐き出すような、重い溜め息をついた。

 

「あの隊長以外にも、同時に居合わせた兵士達からの聞き取りによれば、ダオスの怒りは相当なものだったらしい。その場にいた兵士の八割が、そこで無残に殺されている」

 

「何てことだ……」

 

「全くな。声明の発表はまだだが、ミッドガルドとしては、これを国家を揺るがす重大な脅威と認定するつもりだ。──つまり、戦争になる」

 

 モリスンは思わず唸った。

 少数精鋭での奇襲作戦で決着は出来ない、と言っているのだ。

 

 その様な単純な解決は出来ないだけの、大量の魔物が運用されている、という事になる。

 

「魔物の数は、どれほど?」

 

「斥候によれば、既に三千を超えている。また、日々絶えることなく、近隣から押し寄せてもいる。警戒網の構築も見られることから、烏合の衆ではなく、指揮官に相当する何者かがいるのは確実だ」

 

 それがダオスか、とモリスンは呟いた。

 

「では、その事をアルヴァニスタに打診したにも関わらず、我が国は同盟国としての義務を放棄したと?」

 

「まだ、放棄したとまでは聞いていない。単なる様子見、あるいは日和見……。どちらでもいいが、初戦から轡を並べる気はないようだな」

 

 モリスンは腕を組んで黙考する。

 慎重な行動は当然だ。

 

 一人の男が魔物を率いて国に喧嘩を売った――。

 その程度の印象しか与えられていないのだとすれば、むしろそんな事は自分たちで処理しろ、と考えるだろう。

 

 しかし、ダオスの脅威が数匹の魔物を操る程度だと思われているようなら、それはとんでもない間違いだ。

 

 このたった数日で、三千を超える魔物を集められるのだ。

 

 ここから更に半月、或いは一月経った時、その数がどれ程までに膨れ上がるのか、モリスンには想像もつかない。

 

 さて、とライゼンは口の端に小さく笑みを浮かべ、モリスンへ顔を向ける。

 

「軍部の部外者である貴方に、何故こうまで詳しく話を聞かせたか。アルヴァニスタの聡明な研究者殿なら、そろそろ理解できた頃と思う」

 

 言われてモリスンは、ハッとした。

 それもその筈、そもそも訊かれた程度で、ライゼンがモリスンに答える義務はない。

 

 それどころが軍規により説明不可、と切り捨て、追い出すのが当然だ。

 それをしないというのは、つまりどういう事か……。

 

 モリスンにも、ここでようやく合点がいった。

 

「私が適任というわけか。アルヴァニスタを参戦させようと思えば、説得する者が必要だ」

 

「その通り」

 

「……分かった。ここまで聞いて知らない振りも出来ない。……私が説得に行ってくる」

 

 ライゼンは幾らか顔を綻ばせて頷いた。

 

「……頼むぞ」

 

「分かった、必ず参戦の旨を取り次いでみせる」

 

 モリスンは、何故こうも素直に言う事を聞いたのか、咄嗟には分からなかった。

 しかし改めて考えてみれば、その理由は明らかだ。

 

 モリスンは自嘲するかのように苦笑した。

 モリスンは単に、ここから逃げ出したかったのだ。

 

 ここから逃げる口実を探していた。

 だから、これ幸いと飛びついた。

 

 しかし、これは単なる逃避ではない。

 モリスンにはこうなってしまった事態への、大きな後悔がある。

 

 今やミッドガルズではダオスのことを魔王と呼び、世界の敵に認定しようとしている。

 だが、そのようにしてしまった原因の一つは間違いなく自分だ、という自覚もあった。

 

 その為に戦争を終わらせる方法を探り、解決へ導こうと思っても、研究所にいるだけでは不可能だ。

 それに良いアイデアが浮かんだとしても、一研究員の意見具申が上層部に届くか、という不安もある。

 

 国内にいては、自由に身動き出来ない不便さもあるが、だからといって、自由に国外へ出る許可が得られる筈もない。

 

 今回の話は、願ってもない絶好の機会だったのだ。

 アルヴァニスタの参戦が改めて決まれば、それだけ戦争が早く終わる。

 

 あたら将来有望な若者達を、死なせてはならないのだ。

 

 軍上層部は、ただダオスを討伐さえしてしまえばよい、と考えている節が見られる。

 だが、モリスンの考えは完全に逆だ。

 

 今はまだその存在は公にはされていないが、しかし、その脅威が目に見えて現れてしまえば、万民の脅威を取り除かんと、他の国家も拳を振り上げるだろう。

 

 そうなれば、もう止める事は不可能になる。

 だから、そうなる前に戦争を終わらせたいと考えていた。

 

 では、その戦争をいち早く終わらせるにはどうればよいのか。

 その最良の方法を、モリスンには既に理解していた。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌日、モリスンは再びウィノナの家を訪れた。

 今度はライゼン将軍からの許可証もある。

 

 すげなく追い返されることはない筈だ。

 そう思って家の正面付近に向かったのだが、そこでは兵が慌しく動いていた。

 

「おい、一体何があった! これはどういう状況だ!」

 

 家の窓と扉は開け放たれ、周辺にまで兵が散っている。

 隠れて窺っていたはずの兵たちまでも、全てここに集結しているような雰囲気がある。

 

 周囲で聞き込みをしている兵たちの言葉を、断片的に繋ぎ合わせると、そこでは一つの驚愕するべき事実が露見した。

 

「ウィノナが逃げた……?」

 

 目撃者の言葉を信じれば、夜中の内に家を飛び出したことになる。

 ダオスが迎えに来て、連れ去ったのではない。

 

 自主的に、どこかへ逃げたのだ。

 それも片腕を失い、体力も気力も果てていただろう、あの身体で。

 

「ウィノナ……」

 

 モリスンは思わず、呻くように名前を呼んだ。

 どうやって、どんな思いで──。

 

 いや、考えても仕方ない。

 ダオスを止める方法は分かっていた。

 

 この戦争を未然に防ぐ──あるいは、早期決着させるにはどうすればいいのか、モリスンには分かっていた。

 

 しかし今や、それが手の平から零れ落ちてしまった。

 モリスンはウィノナの帰還を待ち望む。

 

 この戦争を終わらせられる人間がいるとすれば、それは一人しかいない。

 

「ウィノナ、君は一体、どこに行ってしまったんだ……」

 

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