【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
落ちた先は黄昏、向かう先は夕闇 その1
視界が一瞬にして光に包まれ、身体が浮遊感で包まれる。
永遠にも感じられるその不思議な感覚は、しかし一瞬にも満たない僅かな時間で、終わりを迎えた。
足が草を踏む感触と共に視界が晴れた時、クレスの視界に映ったのは、夕焼けに染まった茜色だった。
見渡せば、自分達が何処か丘の上にいる事が分かる。
丘の上から見える風景は、クレスの知るどのようなものより美しく思えた。
何処かで見たような既視感はあるのに、胸を締め付けるような寂しさも同時に感じる。
「ここは一体……。皆は無事なのか?」
我に帰って呟くと、それに返ってくる返事がある。
振り返って辺りを見渡すと、ミントがクレスのすぐ後ろにいた。
チェスターもまた、そのすぐ横に立っている。
二人もクレス同様、突然の事態に困惑を隠せずにいるようだった。
「クレスさん、ここは一体……? 私達はどうなったのでしょうか」
「僕にも分からない……」
クレスは首を横に振って、ハタと気付いた。
ミントもチェスターもいるというのに、ウィノナがいない。
いつも騒がしく、直情的で喜怒哀楽の激しい彼女が、今の状況で口を噤んでいる事などあり得ない事だった。
二人が居たから、ウィノナもまたすぐ傍に居るとばかり思っていたのに、幾ら周囲を見渡しても、それらしい人影は見当たらなかった。
辺りは草原で、草の他には石と岩しかない。
遠くには森が見えても、近くには隠れられるような樹や窪みもなかった。
仮に今も倒れ伏せていたとしても、草丈は短く、姿を隠せる程でもない。
クレスは声を張り上げて、ウィノナを探す。
それに続いて、チェスターも声を張り上げた。
「ウィノナー!」
「おーい、いたら返事しろー! ウィノナー!」
叫んで呼んでも一向に姿は見せず、それどころか、幾ら待っても声が返って来る事すらなかった。
◇◆◇◆◇◆
あれから一時間、ウィノナを探し続けたものの、姿はおろか、その痕跡すら見つける事は出来なかった。
「きっと、無事ですよ……」
肩を落としたクレスに、ミントがそっと声をかける。
落胆具合で言うと、チェスターもクレスに負けていない。
だが、現実的な考えを持っていたのは、チェスターの方だった。
「もうすぐ日も暮れる。クレス、移動するなら早い方がいい……」
「ウィノナを置いて行くっていうのか……」
「人を探そうにも、明かりがないと話にならねぇよ。俺達の身だって安全とは言えねぇ。村でも見つけて、そこを基点に探せばいい」
恨みがましい視線を向けたクレスに、チェスターは諭すように言う。
ミントもそれに賛成した。
「もしかしたら、ウィノナさんもこちらを探して、既に移動した後かもしれません。それに村へ行けば、人手を借りられるかも……」
その説得に励まされて、クレスはようやく移動する気になった。
後ろ髪引かれる思いを持ちつつ、歩を進める。
闇雲に動いて見つかるものでもない……。
そう、クレスは自分に言い聞かせ続けた。
丘を下りしばらく歩くと、すぐに村が見えてきた。
小さな田舎の牧歌的な村で、夕焼けが照らす光景は、それだけで物悲しくさせる風情がある。
一度も訪れた事のない場所の筈なのに、懐かしいと思えるのは何故だろう。
村の中を縦断しながら、奥へと進む。
時折、見かける村人や、試しに入った雑貨屋で、ウィノナの特徴を伝えてみても、誰一人知ってる者はいなかった。
単に余所者に対して田舎者の口が堅いから、ということではないだろう。
──少なくとも、ここ数日の間に、金髪の少女が訪れてはいない。
まだ来ていないだけなのか、それとも全く別の方向に行ってしまっただけなのか。
「村長さんの所に行ってみませんか? ウィノナさんはもしかしたら、移動せず救助を待っているだけかもしれません」
「ああ、そうだね。今も助けを待っているかも!」
「じゃあ、とっとと行ってみようぜ。人手を借りれるかは分かんねぇけどよ、号令を出せるのは村長だけだろうしよ」
三人は頷き合うと、手近な人に村長宅の場所を訊き、逸る気持ちを抑えながら、急ぎ足で向かった。
奥へ奥へと進むと、頭が見事に禿げ上がった老人が、幾人かの村人と共にクレス達を見ていた。
滅多に余所者が来ない村では、クレス達の行動は悪目立ちしたらしい。
どこから来たんだ、と不安げな様子で話し合っている。
「あの、すみません。ここは……」
クレスが声をかけると、老人が一歩前に踏み出す。
「旅人、ということで良いのかの? これはまた久しい……。儂はこのベルアダム村で、村長をしている者じゃ。……おぬしら、どこから来たのかの?」
「え、あの……その……」
ミントがどう答えたものか、言葉を探している内に、クレスが先に名を名乗った。
「僕はトーティス村の、クレスといいます。こちらがミントに、チェスターです」
クレスがそれぞれに手で指しながら言うと、二人は頭を下げ、口々に挨拶をする。
それらが終わるのを待ってから、クレスは言葉を続けた。
「僕らは、とある人の法術で飛ばされて……、気がついたら近くの丘の、草原にいたんです」
村長は考え込む仕草を見せ、口の中で小さくトーティス、と呟いた。
「そういえば、いつだか来た娘も、トーティスという村の名前を口にしとった……」
クレスとチェスターは、思わず顔を見合わせた。
「もしかして、その娘はウィノナと名乗りませんでしたか!?」
「おお、そうとも。確か、そんな名前じゃったわい」
クレスは安堵の溜め息をついた。
チェスターも同様で、一気に肩から力を抜く。
金髪の少女は、ここ最近村に来ていないと直前に聞いていたが、どうやらその村人が知らないだけだったらしい。
何故ウィノナだけが
安否の確認が取れた事で、とにかくクレスは安心した。
チェスターは辺りを見ながら、おどけて肩を竦める。
「……で、ウィノナはどこにいるんだ? どうせアイツの事だから、騒がしくその辺走ってんだろ」
「ふむ……? どこに? 来たのは、はて……いつじゃったかの?」
「おいおい、頼むぜ。もうボケちまったのかよ? せいぜい数時間前の話だろ?」
チェスター、とクレスは小さく窘めるが、村長は小さく首を傾げた。
「数時間前の話? とんでもない、その娘が来たのは一年は前の話じゃぞ? 正確な日にちとなると、ちと覚えとらんのう」
「──いちねん!?」
クレス達は驚愕し、チェスターは一歩詰め寄った。
「おいおい、嘘だろ!? アイツが一年も前に来てたって!? それじゃ、アイツは今……今、どうしてんだよ」
「今、どうしておるかは知らん。あれから一度も、村には来とらんからの。ただ……」
「ただ、何だよ」
深刻そうに眉根を寄せて、村長は唸る。
「そうじゃ、クレス……という名前の若者に伝言があった。北上するつもりだと、そう伝えてくれと、頼まれておった」
「そうか……」
チェスターは安堵とも、後悔とも取れる溜め息をついて、村長に礼を言った。
その隣に立ったクレスが、チェスターの代わりに謝罪する。
「言葉遣いの悪い奴で、すみません」
構わんよ、と村長はからからと笑った。
「でも、そうか……。一年も前に……。たった一人、見知らぬ土地で、僕らを探して移動してるんだ……」
それを思えば、どれだけ心細い事だろう。
クレスにはミントがいる、チェスターがいる。
相談し合い、助け合える仲間がいる。
しかし、ウィノナはたった独りだ。
早く合流しなければ、という気持ちが、クレスの中で膨れ上がる。
しかし、その時村長が、ふと思い出した顔つきで声を落とした。
「……いや、その娘は一人じゃなかったの。金髪の美丈夫と一緒じゃったな。仲睦まじく見えたが……」
それは一体誰のことだろう、とクレスは首を傾げた。
無論、時間転移した者たちの中に、そのような人物はいない。
であれば、旅の途中で意気投合した誰かであったり、善意で手助けをしてくれる誰かなのだろう。
だが、クレスは少しだけ安堵した。
ウィノナが実は寂しがり屋なのを、チェスターと共に知っている。
「何にしても、一年も前に北上してるんだろ。それじゃあ今は、もっと遠くへ行っちまってるだろうな……。早く追いつこうぜ」
「それは分かるけど……。でも、日が暮れるから村を探そうと言ったのはチェスター、お前じゃないか」
「そうですね、今日はこの村で休ませてもらいましょう」
「……ああ、すまねぇ。どうも気が急いてな……」
チェスターはバツが悪そうな顔をして、頭を掻いた。
ミントに優しく諭され、泊まる宿屋を探そうとした時、そこに村長が口を挟む。
「だったら、ウチに泊まっていくとええ。この村に宿屋なんて、気が利いたものはないからの」
「では、ありがたく。お世話になります」
クレスが礼を言い、ミントも続いて頭を下げた。
そうして、村長宅に向かう道すがら、クレスはこれからの事を考える。
先を考えると不安になるばかりだが、考えなければならない事だ。
だがとりあえず朗報と言えるのは、ウィノナが無事だった事だ。
判明したのは、少なくとも去年までは無事だった、ということだけだが、それでも何も分からないよりは随分とマシだ。
今も無事であり続けることを祈りつつ、早急に合流を目指すしかない。
そして、考えなければならないのは、時間転移した本当の目的の方でもある。
「ダオスを倒す手段も、どこかで探らないといけないよなぁ……」
「──ダオスとな!?」
何気ないつもりで言った言葉に、村長が振り返って、思わぬ反応を示した。
「知ってるんですか?」
「知らぬ者はおるまいて。奴は世界の敵じゃからの!」
鼻息荒く言い放つ村長に、クレスは面食らう。
すぐに村長はハッとなり、咳払いをして身体の向きを戻した。
「長い話になりそうじゃ。家の中で話そう」
クレス達は頷き、何を聞かされるのか恐々としながらも、村長の後に着いて行った。