【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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召喚術と風の精霊 その2

 

 ローンヴァレイは、ユークリッド村から程近く、架け橋を一本渡った先の島にあった。

 その橋を渡る最中、遠くに島を見つめながら、クラースが一つ講釈をしてくれた。

 

「この世の全てには、霊が宿っていると言われている。その多くは未確認だが、強い力を持つ精霊は、その分世界に姿を見せ易い。四大精霊と呼ばれる存在は特に力が強く、その存在も確認されている」

 

 へぇ、と頷きながら、クレスは島の奥にあるという、精霊の谷が見えないか、首を伸ばした。

 

「では、今回力を借りるのは、その四大精霊の内の一つなんですね?」

 

 ミントが問うと、簡単にはいかんだろうがね、とクラースは頷いた。

 

「精霊と契約するには、自らの力を示す必要もあるが、何より指輪が必要だ。──私は契約の指輪と呼んでいる。まずは、それを手に入れる」

 

「色々、複雑なんですね……」

 

「まぁ、そう簡単じゃないさ。その指輪にしても、この先の島に住む男が持っている。代価なくして手に入らんだろうが、それが無くては契約もできない」

 

「なるほど……」

 

「……そろそろ着くぞ」

 

 周囲を警戒していたチェスターが言う通り、橋を渡り切った先には、粗末な小屋が見えてきた。

 脇に沿って続く道があり、どうやらそれが、谷へと繋がっているらしい。

 

 小屋へと無遠慮に近づくと、クラースが先頭になって中に入る。

 小屋の中も簡素なもので、一人の男がテーブルに座ってこちらを見ていた。

 

「突然の訪問、申し訳ない。あなたが、バートさん?」

 

「……そうだが」

 

 言葉少なに答えた男、バートが席を立って近づく。

 

「……あなたは?」

 

「私はクラース。風の精霊と契約を結びたいと思い、ここまで来た。ついては、指輪を譲っていただきたい。無論、代価は払う」

 

 余りに不躾だったのか、あるいは他の理由が原因か……。

 バートは難しい顔をして、難色を示した。

 

「以前、地震があってから精霊が騒がしいんだ。原因は分からんし、何より危険で調べにいけない。もう少し待った方がいい」

 

 どうやら、他の理由が原因らしい。

 しかし、いつまでも足止めされたくないのは、誰もが同じ意見だった。

 

 クラースは、ちらりとクレス達に視線を向けてから、重ねて頼む。

 

「事情は分かったが……、急ぐのでね。どうか、お願いしたい」

 

「……そうか、分かった。ならば、こちらの頼みを聞いてくれるなら、指輪はタダで譲る」

 

「なに……?」

 

 クラースは訝しんで、警戒心を高める。

 精霊との契約に使える指輪は、露天で買えるような代物とは根本的に違う。

 

 今は亡きドワーフによる技術の結晶で、現在では遺跡の発掘などでしか入手できない代物だ。

 

 それ故、当然高価で取引される。

 ただ言うことを聞くだけで譲るというのは、話が旨すぎる、とクラースは思った。

 

「……実は、数日前から、娘が行方知れずなんだ。精霊の様子を見に行ったかもしれない」

 

 クラースは瞠目した。

 

「女の子が一人で!? そんな無茶な!」

 

 そうなんだ、とバートは困った顔で萎む様に頷く。

 

「無鉄砲な娘で参っているよ。だが私にとっては、何より大事な可愛い娘だ。無事に帰ってきて欲しい」

 

「そういう理由か……。なるほど、引き受けた」

 

「ありがたい……!」

 

 バートは肩の力を抜いて、感謝の意を示す。

 そうかと思えば、早速娘の特徴を口にした。

 

「娘の名前は、アーチェという。ポニーテールが特徴だ。誰に似たのかお転婆で、とにかく目立つ子だよ」

 

「分かった、探して来よう」

 

「風の精霊は谷の一番奥、つり橋の向こうにいるはずだ。……娘を頼む」

 

 そう言って、バートはオパールの指輪を差し出してきた。

 ありがたく受け取り、クレス達は小屋を出ると、先程見た奥へ続く道へと進んで行った。

 

 

 

 精霊の住む谷は、バートの言う通り、酷く荒れていた。

 所々にかまいたちが吹き荒れ、小さな竜巻すら見える。

 

 転がる小石が竜巻に巻き込まれると、すぐさま細切れにされて砂のような小さな物へ、姿を変えてしまった。

 

「マジかよ……」

 

 チェスターが顔を青くして、かまいたちを見つめる。

 それにこの場所は、チェスターにとっては天敵だ。

 

 矢を放っても真っ直ぐ飛ぶとは思えないし、仮に命中しても、威力は大きく削がれてしまうことだろう。

 

 風の隙間を縫って射るような神業は、今のチェスターには到底出来ない芸当だった。

 

「とにかく、行ってみないと……」

 

 クレスが先頭になって谷を進むと、入り口近くで、風を乱暴に引き起こしている精霊が見えた。

 

 白いワンピースを着ているように見える少女が(くだん)の精霊で、のたうつように空中を漂っている。

 

 苦悶を上げる様な、酷く余裕のない表情で、風の気流を生み出し暴れていた。

 

 そして、こちらに気付いた精霊たちは、声を掛けるよりも早く襲い掛かってきた。

 高い位置から攻撃をしかけてくる精霊は、クレス達にとって大いに不利だ。

 

 高い場所を位置取る相手は、いつもならチェスターにとってカモだ。

 しかし、今回ばかりは相手が悪かった。

 

 常時吹き荒れる風と、精霊自身が生み出す風とで、チェスターの矢は完全に無効化されている。

 

「……チクショウ!」

 

 チェスターの悪態を背後から聞きながら、クレスは精霊に向かって駆けた。

 ミントのサポートを受けながら、切り裂いてくる風に真っ向からぶつかり、そのまま剣を振るう。

 

 振るう刃とて、風の影響を受けないではなかった。

 強風はそれだけで前進する力を奪うし、巻き起こす砂が視界を奪い、礫は体力を奪う。

 

「これは……(つら)いぞ!」

 

 クレスは呻きながらも、まず接近する事に注力した。

 だが、何しろ相手は、宙に浮いている。

 

 動きこそ遅いが、剣で飛び掛かるには遠い距離だ。

 だがとにかく、クレスは一撃入れる事だけを考えた。

 

 ミントに視線だけを向けて、盾を構える。

 

「頼むよ、ミント。捨て身で行く!」

 

 息を呑む気配と共に、ミントが杖を構える仕草が見えた。

 

「お気をつけて!」

 

 クレスは脇を絞めて盾を構え、顔面を覆うように持ち上げる。

 

 大雑把に敵の位置を把握しながら、風の圧力に負けないよう、全身に力を込めて、とにかく前へ前へと押し進んだ。

 

 精霊へ近づくにつれ、圧力が増え、傷も増えていく。

 風の刃が身を引き裂く度、ミントの回復法術がクレスを癒した。

 

 クレスは歯を食いしばり、前進を続け、そうして自爆にも近いやり方で精霊の近くまで来ると、柄を握った拳に力を入れた。

 

 風圧を吹き飛ばすように盾を横凪し、そこから両手で剣の柄を握る。

 全身に吹き付ける風が、更に強まった。

 

 風の刃が頬を切り裂き、腕を切り裂き、胴を削った。

 それでも構わずクレスは雄叫びを上げ、全力で地を蹴る。

 

「ウォォォ! 襲爪雷斬!!」

 

 高く飛び上がったクレスが、精霊を叩き落さんと、雷を伴う上段斬りを放つ。

 精霊は無防備に近い形で叩き込まれ、呆気なく墜落した。

 

 その一撃に余程不意を打たれたのか、風の力が一瞬だけ止む。

 そして、その機を見逃すチェスターではなかった。

 

「──そこだ!」

 

 チェスターの放った矢は、寸分違わず精霊の胸を打ち抜き、そのまま大地に縫い留める。

 クレスは着地と同時に前方へ跳び、落下の勢いそのままに、縫い留められた精霊に止めを刺した。

 

 精霊は呻くような声を上げると、強張った力を抜いていく。

 萎むように周りの風が収束し、ついには弾けて、周囲の竜巻も消えていった。

 

 

 

 何とか倒した精霊は、小さく体を震わせ呻くように呟く。

 

「魔界の空気に触れて……」

 

 最後の気力を、振り絞っての言葉だったのだろう。

 それだけ言うと、霞のように薄れて消えてしまった。

 

「魔界の空気?」

 

 ミントが首を傾げ、クラースが得心がいったように頷いた。

 

「そうか、瘴気……! 先日の地震が原因か!? それで地表に、魔界へ通じる穴が出来てしまったのかもしれない……!」

 

「そのせいで、精霊が暴走してしまっている、ということですか?」

 

「……だろうな」

 

 クラースは渋面を浮かべて頷いた。

 

「その穴を塞ぐ事が出来れば、精霊たちを鎮めることが出来ると思う。今のままだと契約は無理だ。まず先に穴を塞ぐ」

 

 クラースの提案に皆一様に頷き、クレス達は谷の更に奥へと進んでいく。

 その先には洞窟があり、幾つもの横穴と繋がった、迷路のような構造になっていた。

 

 洞窟の中には、更に地下深くへと続く穴が開いており、そしてその場所こそが、魔界の瘴気が漏れ出る場所だった。

 

 瘴気とは、魔界の住人にとっては単なる空気と変わりないが、反対に人間にとっては毒に等しい。

 肌を焼くような環境の中での作業は、困難を極めた。

 

 それでもクレスたちは、何とか岩を移動させて穴を塞ぎ、他にもある全ての穴を処理すると、地上へと戻る。

 

 洞窟からも出ると、ようやく胸一杯に空気を吸い込んだ。

 

「はぁ~、生き返るなぁ」

 

 大きく深呼吸しながら、チェスターもクレスに同意した。

 

「あん中じゃ、空気で肌が焼けるみたいで、呼吸なんて殆ど出来なかったもんなぁ」

 

「ミントの法術がなければ、全滅だったよ。──ありがとう、ミント」

 

 胸に手を当てて呼吸していたミントが、クレスに言われて顔を赤くした。

 

「いえ、とんでもありません。私に出来ることをしただけですから……!」

 

「ともあれ、これで精霊の心も鎮まったことだろう。……奥の方に見える吊り橋に、普段は精霊がいるという話だから、早速行ってみよう」

 

 クラースが遠くに見える吊り橋を指差す。

 切り立った崖を中継するように掛かった橋が、ここからでもハッキリと見えた。

 

 既に満身創痍に近かったが、瘴気の中で活動していた魔族のような、強力な魔物はもういない。

 

 精霊の活動が正常に戻ったことで、辺りの魔物も鳴りを潜めた様だ。

 これならば、精霊に会うくらいは出来る。

 

 クレスは己の心を叱咤させ、足に力を入れて谷の奥へと歩を進めた。

 

 

 

 全てをの吊り橋を渡り終えた、最も奥の崖近く……。

 一本の枯れ木の前に、風の精霊が待ち構えるように漂っていた。

 

 クレス達が近づくと、顔を身体ごと向け感謝を示す。

 

「あなた達が……、瘴気を取り払ってくれたのですね」

 

「そうだ」

 

 クラースが頷き、指輪を摘んで、顔の高さまで持ち上げる。

 

「古の指輪の命に従い、風を司る精霊であるあなたと、契約を結びたい」

 

 まぁ、とシルフは顔を綻ばせた。

 クラースの全身を見つめ、時に耳を澄ませ、染み入るように身体を広げる。

 

「よくぞ人の身で、そこまで召喚術を完成させましたね。……契約を結ぶことに、否はありません」

 

「では……!」

 

 クラースが喜色を示すと、シルフはそれでも、と首を横振った。

 

「契約をしたところで、近いうちに必ず、全くの無意味になるでしょう」

 

「契約しても、無意味になる? どういうことだ?」

 

「私達の力の源であるマナが、世界から枯渇しようとしているからです。その結果、この世から精霊も魔術も途絶してしまいます」

 

「馬鹿な……」

 

 クラースは信じられない気持ちで呻いた。

 その様な前代未聞、精霊の口から出た言葉でも、簡単には信じる事が出来なかった。

 

「何故だ!?」

 

「精霊の森にある、世界樹ユグドラシルに会って下さい。そこでならば、納得のいく答え得られる事でしょう。未然に防ぐことが出来るのなら、それに越したことはありません」

 

「待ってくれ、その世界樹……? 樹木の精霊がいるのか?」

 

 はい、とシルフは自明の事のように頷く。

 

「それが何か?」

 

「いや……、何でもない」

 

 以前、ウィノナが樹木の精霊がいないかと聞いてきたことがあった。

 そんな精霊は文献にも見たことがなかったから、いないと答えたが、もしかすると──。

 

思考に没頭しそうになり、慌てて頭を振る。

 ──悪い癖だ。

 

「そう、何でもないんだ。……分かった。その精霊の森に行って、話を聞いてこよう」

 

「ありがとうございます。この精霊の珠(エレメントオーブ)があれば、世界樹はその呼び声に応えるはずです」

 

 シルフが手を一振りすると、光と共に、翡翠にも似た色合いの宝珠が現れた。

 それを恭しく受け取り一礼する。

 

「確かに。……ああ、それと一つ訪ねたい。この谷に、一人の少女がやって来なかったか?」

 

「この数ヶ月の間、谷を訪れたのはあなた達だけです。見落としたとも思えませんので、それは確実です」

 

 シルフが考える素振りさえ見せずに言ったくらいだから、それは真実なのだろう。

 

「分かった、ありがとう」

 

「では、契約を結びましょう。──オパールの指輪を」

 

 クラースは頷き、指輪をシルフの前に掲げると、高らかに契約の詠唱を読み上げる。

 

「我、風の精霊に願い奉る。我に精霊を従わせたまえ。我が名は、クラース」

 

 精霊は光りに包まれると、導かれるようにクラースへと近付く。

 そうして、同化するようにその身が重ねられると、光の粒子となって消えていった。

 

 万事、契約は滞りなく進み、クラースは精霊シルフを得た。

 彼の興奮は相当なもので、意気揚々と谷を後にした。

 

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