【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

4 / 96
トーティス村のウィノナ その3

 

 トーティス村では、精霊の森に(そび)える大樹を神聖視していて、またそれを守る伝統がある。

 村の子供が聖樹の傍まで近づこうものなら、拳骨一つでは済まされない。

 

 更にこれが余所者ともなれば、強制排除されるだけではなく、懲りてもらう為に手足を縛った上で日干しにされる事さえあった。

 

 それほど村にとって聖樹は大事なものであり、守るべき一族の持つ矜持として迎えられている。

 村にあるレニオス教会では、聖樹に宿るとされる地母神マーテルを、尊敬と畏怖を持って奉っていた。

 

 それをよく知るウィノナは、聖樹の前に立つ。

 真下に立てば、頂上が見えない程に樹齢を重ねた、誇り高い大樹。

 

 その幹は大人が十人がかりで輪を作っても、円環を作れない程に大きい。

 枝も多く外へ広がるように伸びているが、あるいは流石に寿命が近いのか、くたびれた雰囲気を感じさせていた。

 

 枝には一部枯葉が目立つものの、それでもまだ多くの青葉が茂っている(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 ウィノナ自身、何故この森が──聖樹が好きなのか分からない。

 

 ただ一つ理由を挙げるとすれば、それは聖樹から見守られるかのような、温かみを感じるせいだからかもしれなかった。

 

 こうして目の前に立つと、それがより顕著に分かる気がした。

 ──それにしても。

 

 不思議なのは、その樹の根元に白い杖があることだ。

 しかも、触ろうとしても弾かれてしまい、不気味な事この上ない。

 

「いつも思うけど……何だろうね、これ?」

 

「さぁなぁ……。何か悪いモンだったりするのかね? 触れようとすると、バチっと弾かれるしよ。大人に訊けば、何か知ってるかもな?」

 

 この謎の杖は勿論だが、幹にすら近づくだけで弾かれてしまう。

 

 強い衝撃ではないものの、何処から触れようとしても同様で、まるで見えない壁が、大樹を覆っているかのようだった。

 

「チェスター。そんなこと訊いたら、何で知ってるかって怒られるよ」

 

 クレスがそう言えば、だよねぇ、とウィノナも頷く。

 本来、子供だけで聖樹の前まで行く事は許されていない。

 

 神聖不可侵の存在だから、慶事や祭事の際でもなければ、見える範囲に近づくことさえ許可されないのだ。

 

 だから、迂闊にそんな事を訊こうものなら、何故そんなことを知っているのかと、大目玉を喰らうことになる。

 

 だから何だろうと思っていても、触れないのなら仕方が無い、そういう物なのだろう、と納得するしかなかった。

 

 しばらく何とはなしに寝転がって空を見上げ、鳥の囀りと風に揺れる葉音に耳を楽しませ、時として見れる小動物を観察して過ごす。

 

 長閑(のどか)一時(ひととき)だが、特別な時間というわけでもない。三人にとってはありふれた日常だった。

 

 日が中天を過ぎた辺りでもう帰ろう、とクレスが言い出し、それに同意してチェスターが立ち上がる。

 それで仕方なくウィノナも後に続くのが、いつもの恒例となっていた。

 

 

 

 聖樹の前から帰路に着く際、三人はめいめいに語り合い、そして話は次の機会の話題になった。

 

「今度は遊びじゃなくて、なにか別の目的で森に来たいよね」

 

「何かって何だよ」

 

「……狩りとか? どうせならさ、何か大物を追いたいよ」

 

 その時、ウィノナは木陰にピンク色の何かを見た。

 背が高い樹の枝葉の近くだった。

 

 人が登ろうとしても、足掛かりになるような瘤もなく、手を伸ばすには高すぎる位置にある枝部分。

 

 木登りには全く向かない樹の筈なのに、しかしその樹の上に何かがいる気がした。

 人か獣か、それとも他の何かなのか。

 

 ウィノナはその何かが見えた方向へ、腕を上げて指差した。

 

「ねぇ、あの辺。──ほら、何かピンク色の……。見えない?」

 

 ウィノナが指し示す方向に、クレスもチェスターも顔を向ける。

 しばらく注視していたものの、木陰から再び何かが見える事はなかった。

 

「鳥か何かと、見間違えたんだろ」

 

 チェスターが胡乱げに言えば、それもそうかとウィノナは思う。

 何しろ一瞬の事だったし、そもそも距離があって、見えた物の大きさにも自信がない。

 

 そう思いつつも、同時に何か引っ掛かるものも感じていた。

 

 幼い頃より樹上の木の葉の陰であったり、あるいは遥か空の向こうから、ちらちらとその色が見えていた気がするのだ。

 

 珍しい色の鳥でもいたのだろうと思っていたが、最近、それを見る頻度が高くなっているような気がした。

 

 想像通り、ただの鳥ならばいい。

 ──しかし。

 

 ウィノナはボウガンを取り出し、今はもう見えないピンク鳥がいた辺りへ矢を放つ。

 

「気にしすぎだよ、ウィノナ」

 

 クレスは呆れたような声を出し、チェスターも頷いて同意した。

 ウィノナの撃った矢が幹に命中すると、三羽の鳥たちが羽ばたき散っていく。

 

 だが、その飛び立つ鳥の中にピンク色の鳥はいなかった。

 しばらく注視していても、やはり動きがないので、ウィノナはボウガンをしまい首を傾げた。

 

「おかしな気配を感じたんだけどなぁ」

 

「だから気のせいだったんだろ。ピンク色の何かなら、俺にだって見えたぜ。でも、あんな高い所じゃ、鳥ぐらいしかいないだろ。そうじゃないなら、花びらかもな」

 

 チェスターは言って、ウィノナの肩を押し森の外へ向かう。

 納得し辛い気持ちでもう一度見上げても、やはり木陰には何の動きもない。

 

 仕方なしに、ウィノナも自分の勘違いをしぶしぶ認め、クレスらと一緒に村へ帰った。

 




 
※本作の独自設定。
マーテル教は原作ゲームでも登場しますが、詳しい設定はなくトーティスだけで信仰されている、土着信仰に近い精霊信仰という印象でした。
しかし、子供だけで森に入ることを禁止している訳でもなければ、既に大樹は枯れている為、最奥に行くことを禁じられている訳でもありません。

本作では未だに大樹が存命である事と、不可思議な力で守られていることで神聖視がより大きくなっている、という設定です。
また、そのように仕向けた者がいるからこそ、このような厳格さを持つに至ったのですが……。
それは後々判明します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。