【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
それから再び大陸を北上する事になり、ユークリッドを越え、ハーメルの町へと辿り着いた。
ユークリッド大陸の中央部に位置するこの町は、物流の基点として多くの商人に利用される場所でもあった。
クレス達もここで一泊の休みを取って、それから北上するつもりだったのだが、最近とある事件があって、住人たちが不安の声を上げていると知った。
首を突っ込んでいる暇はないと思いつつも、やはり見過ごすことも出来ず、話を聞いてみれば……何とも奇妙な話だった。
かつて、夜逃げ同然で町を去った一家の家屋が、放火によって燃失させられたという。
未だ空き家だったせいで他に被害もなく、更に言えば飛び火もなかったので、人命に影響もない。
単に無人の家が放火されたという、それだけの珍妙な事件だった。
そして、既に犯人まで判明している。
犯行を行ったのは魔術師であり、遠くの孤島にある館方面へ飛んで行ったという。
容疑者として、まずは逮捕するべきなのだが、それ以降音沙汰もなく、町で暴れるわけでもない。
連行して事情を聞こうにも、逆上されても面倒だという事で、町の自警団は放置している状態らしい。
住民たちは自警団の不甲斐なさに、呆れ半分諦め半分という気持ちで、次は自分達の家かもしれないと、日々不安を募らせていた。
そこでどうしようか、と頭を悩ませている時に、アーチェが町にやって来たのだと言う。
「──アーチェですって!?」
「あ、ああ……。それが?」
突然の反応に、町の住人を驚かせてしまった。
「時折遊びに来るし、箒に跨って飛んでくるから、目立つしね。町の名物みたいなもんで、皆よく知ってるよ」
「あの……、親御さんに行方知らずだから探して欲しい、と頼まれていまして。──今、どこに?」
そう訊くと、住人の男性は困ったような顔をした。
「さっき話した、焼失したっていう家。あそこがアーチェの、親友の家だったらしいんだ。それで、それを知ったら、すぐに飛んで行っちまって……。もしかしたら、孤島の館に向かったのかもしれない」
何か思いつめたような表情だったな、と零して、その男性は帰っていった。
クレス達はお互いに、顔を見合わせる。
「バートさんに頼まれていたわけだし、その孤島の館に行ってみませんか?」
そうだな、とクラースは頷いた。
「そのアーチェって子も、どうやら魔術師らしいが……。突然家を燃やして去っていくような奴相手に、どこまでやれるか分からん」
「そう聞くと、かなりヤバそうだな。すぐに追いかけようぜ」
「何だ……、結構乗り気だな、チェスター」
クレスが茶化すように言うと、チェスターはやれやれ、と大仰に肩を竦めた。
「まぁ、どうやら俺達の旅は、よく脱線するらしいからな。気を張ったって仕方ねぇ」
クレスも苦笑しつつ曖昧に頷いて、すぐさま町を出て北上。
それからヴェネツィアからの船で、孤島の館に向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
船に乗って辿り着いた孤島の館は、薄気味悪い霧に覆われていた。
館は孤島の中にあるとは思えないほど立派なもので、整備された道に樹木が整然と並んでいる。
そこはまるで町の一等地で、只ならぬ高級感を漂わせている。
しかし、聞こてくるのはカモメの鳴き声と、小波の音ばかり。
人の気配を感じさせない環境は、想像以上の薄気味悪さを与えていた。
そして、その入り口近く、門扉の前で館を窺う少女がいる。
「……こんな所に女の子? もしかして──」
クレスが音を立てて近づくと、びくりと肩を震わせて、少女が勢いよく振り返った。
「わっ! な、なんだ、驚いたぁ……!」
髪の色から服の色まで、全身をピンク色に染めた少女は、目を見開いてクレス達を見ていた。
数秒にも満たない凝視の後、少女は明らかに肩の力を抜く。
館の住人とは関係がない、と判断したらしい。
持っていた箒をくるりと回して、柄の先で地面を突いた。
そんな様子を見つつ、クレスが近づき過ぎない距離で止まって、声をかける。
「君が、アーチェ?」
「そう、だけど……。どこかで会ったっけ?」
言いながら、クレスの全身を上から下まで見つめ、そして他のメンバーにも視線を移していく。
「いや、そういう訳じゃなくて。バートさんから探して欲しい、って頼まれていたんだ。ハーメルの町に行ったら、アーチェがこの館に飛んでいったと聞いて、追いかけてきたんだよ」
「あー、そうだったんだぁ。ごめんね、迷惑かけて……」
「それは親父さんに言ってやるといい」
クラースが言うと、そうだね、とアーチェは明るく笑った。
「よくハーメルの町に遊びに行くんだけどさ、リアの家を放火した奴が出たって聞いて……。とっちめてやろうと思って、反射的に出てきちゃったんだよね」
「ああ、無鉄砲な娘だとは聞いていたが……、まさにその通りって感じだな」
「何よぉ、ちょー失礼じゃん、それってぇ!」
クラースが言うと、アーチェは頬を膨らませた。
「じゃあ聞くが、何でいつまでもこんな所にいるんだ? 中の様子を、コソコソ窺ったりなんかして」
「いやー、それは……」
アーチェは目を逸らして、両手を頭の後ろで組んだ。
そして、わざとらしく口笛まで吹き始める。
それを見て、ハァ、とクラースは小さく溜め息をついた。
「状況から
うっ、とアーチェが呻いて、吹いていた口笛が止まった。
何やってんだか、とチェスターも呆れて肩を竦める。
「散々な言われようですけどね。──アンタ達、一体全体ダレな訳?」
「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったね」
クレスが言うと、腰に差した剣の柄に手を乗せる。
「僕の名前はクレス・アルベイン。そして、隣がクラースさん」
「よろしくな、アーチェ。クラース・F・レスターだ」
クラースは帽子のツバを上げてから、顎を小さく落として礼をした。
その後に、ミントが一歩前に出て杖を横に持ち直すと、頭を大きく下げた。
「ミント・アドネードです。よろしくお願いしますね、アーチェさん」
「うん、よろしくね、ミント。あたし、アーチェ・クライン」
アーチェがにっかりと笑うと、ミントもつられて上品な笑みを浮かべる。
「それで最後が、チェスター・バークライト」
クレスが顔を向けると、チェスターは気だるい仕草で手を上げた。
「へぇ……、クレスに? ……ミント。そんで、チェス、ター……って、まさか!」
クレス達を順に見ては、顔を向けていたアーチェが、驚愕して目を見開いた。
「もしかして、ウィノナの言ってた探し人!?」
「──おい、お前! ウィノナ、知ってんのか!?」
それにいち早く反応したのは、チェスターだった。
掴み掛からん勢いで、アーチェに近づく。
「お、おぉう。凄い反応。そっ、ウィノナとアタシは大親友! 付き合いは短かったけど」
「今アイツ、どこにいるか分かるか!?」
「それは分かんない。……でも、いつかまた会おう、って約束したんだ。もう一人の親友とね」
「そうかよ……」
チェスターは目に見えて落胆し、肩を落とす。
アーチェはそれに申し訳なさそうに頬を掻いてから、クレスの方に向き直った。
「ウィノナの友達に、ここで会ったのも何かの縁ってことでさ。ちょっと、お願いがあるんだけど」
「何だい?」
「ここに隠れ住んでる、魔術師に会いたい。協力してくれる?」
「私達の目的は、君をバートの所へ無事に帰す事なんだがね」
クラースが難しい顔をして言うが、アーチェの決意は変わらない。
始めから倒すつもりで来ていたし、会って話を聞いて、確認したいこともある。
それまで帰るつもりは、毛頭なかった。
「そいつ、デミテルって言うらしいんだけど……そのデミテルが、リアの家を燃やして逃げた……んだと思う」
「……まあ、誰だかの家が燃やされたっていうのは、ハーメルの町で聞いたよ」
「既に無人になって長い、空き家を狙ったんだよな? 何だって、そんな事……」
「分かんない。でも、リアは前にも襲われてる。それをウィノナが撃退したんだけど……」
へぇ、と感心したような声をチェスターが上げ、クレスは我が事のように喜んだ。
「でも、ソイツは戻って来た。また襲おうとしたけど、誰もいないから、腹いせに放火したのかもしれない。だけど、もしそうじゃなかったら……」
アーチェは顔を俯ける。
「リア一家は去年の内に、夜逃げ同然で逃げ出してる。新しい居場所はあたしも知らない。どこから漏れるか分からないから、住居が決まっても報せないようにって言ったくらい。──だから、リアのことソイツに確認しないと、気が済まない」
アーチェは顔を上げて、意思の篭った視線でクレスを射抜く。
「もし、リアを殺してたりしたら、アタシが仇を取ってやる……!」
あまりに強い物言いに、クレスは思わず言葉に詰まる。
その気持ちは、クレスにもよく分かった。
もし自分の家族や親友が殺されたら、きっと復讐を誓うに違いない。
どうしようかと思いつつ、チェスターの方を見れば、既にやる気のようだった。
クレスとしても、話が早いのは助かるし、何より既に心は決まっていた。
後はクラースさえ、説得できれば問題ない。
「クラースさん、アーチェを助けてあげることは出来ませんか」
「そうは言うが、急ぎの旅だったんじゃなかったのか?」
「……でも、放っておけないですよ」
どうにもテコでも動きそうにないな、とクラースは思った。
ここで一人奮闘しても仕方がない。
よく見れば、チェスターだけでなく、ミントまでやる気を見せている。
完全に孤立無援の状態だった。
「……まぁ、放火に加えて殺人未遂。そんな魔術師を放っておけないっていうのは、事実だな」
それじゃあ、とアーチェの表情が、みるみる晴れやかになる。
「私達の力を、君の為に使おうじゃないか」
「助かるよ、ありがとね!」
喜色満面を顔に張り付け、アーチェは全身で喜びを表す。
クレスの手を両手で握って、ブンブンと上下に振った。
そしてチェスターは、そんなアーチェをジッと見つめ、観察するような視線を送っていた。
ミントの手も握って振っている時、アーチェもようやく、その視線に気づく。
「……ちょっと、さっきから凄い見てくる人がいるんですけど」
ぴたりと動きを止めて、アーチェは油の切れた機械のように、チェスターへと身体を向ける。
チェスターは、そんな様子にまるで頓着せず、やはり腕を組んでアーチェの全身を矯めつ眇めつしていた。
「ちょっと、何なのよ……」
「いや、どっかで見た覚えあんだよなぁ……」
「……はぁ?」
アーチェは思わず気の抜けた声を上げた。
「初対面ですけど?」
「……そうじゃねぇよ」
「まぁ? アタシみたいな美少女とお近づきになりたくて、ついついそんな事言っちゃう気持ち、分からなくもないけどね」
言いながら、アーチェは両手を腰に当てて胸を張る。
それを見させれて、チェスターは明らかにげんなりとした顔で、溜め息をついた。
「ああ、そういうところ、ほんとウィノナにそっくりだな。さぞ気が合ったことだろうよ」
アーチェはフフン、と鼻を鳴らして、更に胸を張る。
「あたしのこと放って置く男は、滅多にいないんだから。ハーメルの町のラッキーウィッチって言ったら、結構有名……」
「──聞けよ、
チェスターは、組んでいた腕の片方を上げて口を覆い、更に眉根を寄せて見る力を込める。
「……色か? その色に見覚えが……」
──だが、どこで。
それがチェスターには思い出せない。
大事なことのような気もすれば、酷くどうでもいい気もする。
「あー……、チェスター。悪いが、急を要するというのでなければ、館に入ってしまいたい。……どうだ?」
チェスターはハッとして佇まいを治すと、腕を解いて即座に弓を握った。
「いや、すまねぇ旦那。今はどうでもいい事だったな、先に進もう」