【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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孤島の魔術師と薄紅の魔術師 その1

 

 館の中は、カーテンが締め切られおり、薄暗かった。

 嫌に静かで、柱の上に作られたガーゴイル像が、侵入者を物言わず見つめている。

 

 床には柄と形の良い絨毯、壁には高級そうな調度品を適度に配して、蝋燭やランタンもふんだんに使っている。

 

 二色の正方形を、交互に配したチェック模様を、床にあしらっている事といい、館の主は相当趣味の良い人物のようだ。

 

 だというのに、使用人は一人もいない。

 執務室の中にも主人はおらず、それどころか人の住んでいる気配すらなかった。

 

 思うままに屋敷内を巡り、妨害される事すらもなく、そうしてクレス達は地下への入り口を見つけた。

 

 デミテルは、この先にいるに違いない。

 全員が確信し、奥へと進む。

 

 そうして最奥の間、大きな姿見が飾られた部屋に、その男がいた。

 黒いローブに青い髪、前髪の一房を赤く染めていて、その顔には余裕めいた表情が浮かんでいる。

 

 クレスが先頭、そのすぐ後ろにアーチェがついて、部屋に入る。

 

「随分と物騒な客人だな」

 

「……あんたが、デミテル?」

 

 アーチェが一歩踏み出して、緊張した面持ちで言うと、いかにも、と返答があった。

 

「ハーメルの町を襲ったでしょ。その内の無人の家――元スカーレット家を、燃やして逃げた。……違う?」

 

「……ふむ」

 

 デミテルは顎を摘んで、視線を顔ごと右上に向ける。

 

「一年前、スカーレット一家を襲ったのも、アンタじゃないの? もう全員始末した? だから、家も燃やしたの?」

 

 ほう、とデミテルは愉快な出し物を見るような表情をして、逸らしていた顔をアーチェに向けた。

 

「随分と、物騒な事を言うものだ。……家を燃やした? 一家を襲った? ……一体、何の話だね?」

 

「とぼけんの?」

 

「いや、いや……。ランブレイ・スカーレットは、私の師匠だ。その弟子たる私が、何故そのような無体をせねばならない? 根拠や証拠はあるのかね」

 

 アーチェはそれ以上、言葉を発することが出来なかった。

 確かに根拠も証拠もない。

 

 ウィノナに聞いた襲撃犯の格好も、ローブ姿で顔をすっぽりと覆っていて、人相を確認できなかったという。

 

 ハーメルの町の襲撃犯も、魔術師という目撃情報だけで、デミテルだという証拠はなかった。

 

 話の流れを聞いていたクラースは、どうも形勢が不利だな、と思った。

 相手の方が、口が上手い。

 

 こればかりは経験や、年齢の差から生まれるものだろう。

 アーチェには荷が勝ちすぎる。

 

 そもそも初対面の相手、嘘を突き崩せる程の情報もない。

 

「まぁ、証拠というなら――」

 

 クラースはアーチェの肩に手を置いて、そっと後ろに押して庇うように背中に隠した。

 帽子のツバを摘みながら、不適に笑う。

 

「そちらが言う、弟子とやら。その証拠とて、出せるものではないだろう? 第一、弟子であるなら師匠に反意を抱かない、というのも説得力に乏しい。弟子であるからこそ、師に貶され、逆上するという事もある」

 

 アーチェがクラースに、尊敬するような視線を向けた。

 自分にはこれ以上詰め寄る言葉を探せないと思えばこそ、尚の事だった。

 

「……なるほど、言葉遊びをお望みかね? 私が殺した、と言えば信じるのかな? 欲しい答えでなければ信じないと? だったら質問など、最初から無駄だ。私が殺したと思って、勝手に帰るがいい」

 

 今度はクラースが、むっつりと押し黙る番だった。

 確かにこれは言葉遊びだ。

 

 言葉尻を捕まえて、口を滑らせれば、鬼の首を取ったかのように攻め立てるつもりだった。

 

 しかし、初めから根拠や証拠など無いのだから、結局根負けするか飽きるかした時点で終わりとなる。

 

 それを見やって、アーチェは必死に頭を巡らせた。

 ――何か、何かアイツに繋がる情報を。

 

 決定的なモノ。証拠、アイツの正体が分かるような。

 

 アーチェは恐らく、今までの人生の中で最も思考を回転させた。

 アーチェはデミテルが犯人だと確信している。

 

 それは確かに、証拠もない只の勘だったが、単純なアーチェはそれだけで十分だった。

 アーチェは自分の思慮が、浅いことも自覚している。

 

 しかし、今だけは突き進むべきだった。

 守りたいものを守るためには、そういう蛮勇も必要だと思うからだ。

 

 アーチェは考えなければならない事に、必死に頭を働かせた。

 ――そうだ、アイツが一年前の犯人と、同一人物なら……!

 

 アーチェはクラースの陰から飛び出して、デミテルに指を突きつける。

 

「じゃあ、肩を見せてよ!」

 

「何……?」

 

 ここで初めて、デミテルが動揺を見せた。

 今までの飄々とした雰囲気が、その一言で一気に霧散する。

 

「去年の襲撃犯、ウィノナが犯人を撃退してる。――肩を矢で射抜いて!」

 

 へぇ、とチェスター笑った。

 小馬鹿にするような仕草が、デミテルの癪に障ったらしい。

 顔が一気に赤くなった。

 

「やましい事がないなら、見せられるでしょ! 裸になれ、っていうんじゃないんだから。肩だけ見せてくれれば!」

 

 デミテルは動かない。言葉も発しなかった。

 次第に表情は抜け落ち、能面のように生気が消えていった。

 

 怖いほどの沈黙の中、誰もが身動きできずにいると、ようやくデミテルが顔だけを動かした。

 

「……なるほど。エルフの血族、単なる馬鹿者である筈もなかったか」

 

「認めるのね?」

 

「一部はね」

 

「さっさと白状しなさいよ」

 

 アーチェは腕を組んで、鼻から一つ息を飛ばした。

 

「……ふむ。去年、スカーレット夫妻を襲撃したのは、……私だよ」

 

 アーチェの拳が強く握られる。

 

「そして、確かに失敗した。一家には逃げられ、消息を失った。……話はそれで終わりだ。見つかったという報告は受けていない」

 

「……報告? 私怨で襲ったわけではないのか? 背後に何者かがいるのか?」

 

 クラースに問われ、デミテルは小さく笑った。

 眉間を揉みながら、顔を下に向ける。

 

「いや、いや。どうにも……口が滑っていかんな。……それを知る必要は無い」

 

「必要ない訳ないでしょ! リアが襲われるかもしれないのに!」

 

「いや、事実必要ないのだよ。最後に受けた報告は半年以上も前。今は(たもと)を分けている。最早、私には関係のないことだ」

 

「どういう事……? 結局、リアは無事なわけ?」

 

「知る限りにおいては無事、という事になるのだろうな。私はスカーレット一家を手に掛けていないし、これからかける理由もない。――というより、禁止されている」

 

「禁止だって!? 一体誰に!!」

 

 クレスが思わず割って入った。

 デミテルは一瞥(いちべつ)するだけで、すぐに視線を外した。

 どうやら、話すつもりはないらしい。

 

「じゃあ、放火は! 手に掛けることを禁止されてると言ったのに、どうして家に放火なんか!」

 

「家は無人だったろう? 乞食が隠れ住んでいた可能性も、ないではないが……。少なくとも、スカーレット家の誰かがいる筈はない、そうだろう?」

 

「一家を殺さなければ何をしてもいい……、そういう意味か?」

 

「そう曲解してくれるな」

 

 今度はクレスに目を向けた。

 くつくつと笑いながら、他の面々にも視線を移す。

 

「……正確には、家を燃やしたい訳ではなかった。家の中にあるであろう、とある物を消したかった。探し出して消すより、家ごと燃やした方が手っ取り早い。――そういう訳だ」

 

「……それも、リア一家を殺すことを禁止した人の命令、って訳?」

 

「だがまぁ、袂を分かつと言えば聞こえはいいが……」

 

 そう言って、クラースが揶揄する様に言う。

 

「要は前の主を裏切って、今の主に鞍替えしたって話だろう?」

 

「……ふむ。裏切り者が簡単に真実を口にするか、と? 信じて貰うしかないし、君達も信じる他ないだろう」

 

「今の主の名を言う事はできる? リアを殺さないっていうなら、敵じゃないって、思っていいの?」

 

「……さて、それはお前達次第だろうな」

 

 デミテルは、クレス達に背を向ける。

 ゆっくりとした足取りで、部屋の奥にある鏡に近づいた。

 

 クレスはその鏡越しにデミテルを見ながら、明らかな違和感を覚える。

 その背には本来ならあるはずのない、死神のような影が見えた。

 

 何者かが、デミテルに取り憑いている。

 恐らくは本人の意思とは別に、何かの指示を受けて動かされているのではないか。

 

 そして、そういった事が出来る存在を、クレスは一人しか知らない。

 

「お前は、まさかダオスの手先か!?」

 

 デミテルはギョッとして振り返り、そうかと思えば、憤怒の表情で襲い掛かってきた。

 

「――貴様、見えるのか!!」

 

 

 

 デミテルは確かに、一流の魔術師だった。

 ゴーレムを盾に用いて、遠距離から魔術に一方的な攻撃を仕掛けて来て、その立ち回りは完成されていた。

 

 クレス達もその連携にの前に、容易には近寄れない。

 自分の出来ること、相手の嫌がることを理解した立ち回りで、クレス達を大いに苦戦させた。

 

 常に自分をゴーレムとの対角線上に置き、距離を保つ力量は、相当な手練れだ。

 だが、チェスターが持ち前の弓術で隙間を縫って矢を放ち、牽制と同時に、自由な行動を縛った。

 

 連携というなら、クレスとチェスターの連携も負けてはいない。

 そこへクラースが召喚したシルフで、ゴーレムの動きを阻害し、アーチェも隙を窺って魔術を放った。

 

 ミントはその全員のサポートを、過不足なくこなす。

 相手は手練れであろうとも、クレス達には頼りになり、信頼できる仲間がいる。

 

 勝利の差と言えば、その差が何より大きかった。

 数の利でを活かして攻めたて、そうして、クレス達は辛くも勝利を得た。

 

 

 

 アーチェが最後に放った、ファイアボールが勝負の決め手だった。

 直撃し、倒れ伏すデミテルは、最早ぴくりとも動かない。

 

 それを確認して、クレス達はようやく構えを解くと、ようやく肩から力を抜いた。

 

「あ~……、しんど……。一人で来てたら、返り討ちだったぁ……」

 

 地面に突いた箒に(もた)凭れながら、アーチェが息を整える。

 クレスも汗はかいていたが、誰より呼吸はしっかりしていた。

 

 収めた剣の柄に手を置いて、晴れやかな顔をアーチェに向ける。

 

「これで君の友達、リアさんが襲われる事も、もうないと思うよ」

 

「……うん、ありがとね! ――でもアイツ、襲うのは禁止されてたって……」

 

「ダオスの手先の言う事なんか、信用できるもんか!」

 

 チェスターの声に含まれた怒りは強い。

 そして、世界の敵たるダオスに敵愾心を持つのは、クラースにもよく分かった。

 

「まぁ、確かに煙に巻くのが上手い奴だったか。デミテルがどれほど真実を語ったか、それは最早、誰にも分からない」

 

 うん、とアーチェは小さく頷いた。

 

「ともあれ、これでアーチェの気も済んだだろう? バートの所に帰るんだ」

 

「えー……、一人で?」

 

 げんなりとして言うアーチェに、チェスターが笑った。

 

「一人で来れたんだ。帰りだって、一人で行けんだろ」

 

 ジットリと睨み付けてくるアーチェにも、チェスターはどこ吹く風で、澄ました顔で遠くを見ている。

 

「いや、もちろん送り届けるよ」

 

「あんまり甘やかすなよ、クレス。こういう手合いは、際限なく付け上がるぞ」

 

「やっぱ分かってるよねー、クレスは。どっかの誰かさんと違ってさ」

 

 アーチェはクレスの手を取り、これみよがしにチェスターへ視線を向けた。

 クレスは多少たじろぐが、振り払うような真似まではしない。

 

「……いいか、クレス。俺は親切心で言ってやってるんだ。こいつに優しさなんて見せてみろ。今に第二のウィノナが誕生するぞ」

 

 言われてクレスは、思わず呻いた。

 アーチェとウィノナは、言われてみれば、確かに似た者同士と言える感じだ。

 

 それを考えると、少し前までの日常が蘇る。

 男女間の遠慮は皆無で、自分の我を押し通す、お転婆娘がそこに居た。

 

「ああ、えーと。……クラースさん、どうしましょうか」

 

「そこで私に振るのか……」

 

 クラースは半眼になってクレスを見つめ、一つ息を吐いて考えを述べる。

 

「……とにかく、もう送り届けてしまおう。放置しておけば、それこそ次々と面倒事を引き起こして様が、目に見えるようだ」

 

 クラースの意見は、正鵠を得ていた。

 そして、アーチェの事を少しでも知れば、誰もが正解だと予想できる。

 

 クレスにしても、それは確かに、と口にはしないまでも、思うことは止められない。

 

 だが、クレス達の気も知らず無邪気に喜ぶアーチェは、彼らを引き連れて意気揚々とデミテルの館を出て行き――。

 

 

 そして、何かにつけ、アーチェとチェスターの(いさか)いはあったものの、旅路は順調に進み、ようやくバートの小屋に送り届けられたのだった。

 




 
本作のデミテルは、PS版準拠の、ダオスに操られた者、という設定です。
小説版では実は魔族であったり、ダオスに対して従うフリをして、後で魔界の王に献上するつもりだったりと、大いに設定が盛られていましたが、本作では上記の通りです。
今後も出番はありません。
 
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