【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「アーチェ!」
「お父さん! ……ごめん、実は……」
小屋の中で久しぶりに対面するアーチェ親子の様子を、クレス達は玄関入り口近くで見ていた。
「いいや、いいんだ。無事で帰って来てくれれば、それで……」
「うん、ごめんね……」
バートが一歩踏み出し、アーチェもそれに合わせて踏み出す。
どちらからともなく抱きつき、お互いの体温を確かめるかのように抱擁した。
クラースとミントはお互いに目配せし、チェスターもそれに気付いてクレスを肘で突く。
親指で外を示すと、言葉や音を発することなく、そっとそこから退出した。
アーチェは改めてバートに抱きつく。
久方ぶりに会うというだけでは、アーチェもここまで大仰な態度を取らない。
無鉄砲にデミテルの館へと突貫し、ともすればクレス達がいなければ、死んでいたかもしれない。
その無鉄砲さからの行動だった。
父の腕の中でそれを再確認し、アーチェは密かに落涙した。
小屋の前で待つことしばし、アーチェだけが小屋から姿を現した。
背を向けて外の景色を眺めていたクレス達は、扉の開く音で背後を振り向く。
「アーチェ、もういいのかい?」
「うん、お父さんにも話してきたんだけど。クレス達ってウィノナの事、追ってるんでしょ?」
「それだけが目的、って訳でもないよ。ダオスの野望を阻止するのもそうだし、その為に魔術師に助力を乞おうとしてたのもそうだ。でも確かに、一番の旅の理由はウィノナかな」
「そっかそっか……!」
アーチェは機嫌よく頷くと、手元に箒を出現させ、柄先で地面を突く。
「あたしもウィノナに会いたい、って思ってたんだ。一緒に行ってもいい?」
「それは、もちろん……魔術師が同行してくれるのは、むしろ願ったりだけど……」
それ自体は掛け値なしの本音だ。しかし、思う所も同時にある。
クレスが言葉を濁すと、クラースが言葉を継いだ。
「予め言っておくと、危険な旅だ。生きて帰れる保障もない。デミテルのような手練れと、これからも戦う機会もあるだろう。……それでもいいのか?」
「うん! 助けてもらった分、今度はあたしが助けるからさ!」
アーチェは満面の笑みを浮かべ、これからも同行する事になった。
そうして、ズボンのポケットをまさぐると、二つの指輪を取り出す。
綺麗な装飾がされたリングと、類を見ない輝きを見せる石は、それが単なる装飾品でないことを示していた。
「これ、お父さんからお礼だって。遠慮なく受け取ってちょーだい」
「契約の指輪を二つも……! 報酬としては、あまりに破格だな」
口ではそう言いつつ、クラースは口の端をだらしなく曲げて、指輪をそそくさと受け取る。
契約の指輪は、時として金銭だけで賄えない。
貰えるというなら、貰う以外に選択肢はないのだ。
「……そんで、これからどうすんの? アテとかあるの?」
「ウィノナにアルヴァニスタ行きを、勧めた事がある。まずそこに向かって、足跡を辿る。……そして、途中精霊の住処を見つけ次第、契約を求める、といったところか」
「ダオスの勢力に対抗するため?」
「ああ、そうとも」
ふーん、とアーチェは曖昧に頷く。
少し考えるような仕草を見せてから、改めて頷いて見せた。
「それじゃ、行こっか!」
「ああ、まずはベネツィアだな。そこで食料を買い込んだり、用事を済ませてから、アルヴァニスタに向かう」
了解の意をそれぞれが言い、小屋に背を向けて歩き出す。
アーチェは最後尾を歩くチェスターの横に近づくと、肘の先でちょいちょいと突いた。
訝しげな視線を向けるチェスターに、アーチェは意味深な笑みを浮かべて離れていく。
後には困惑した顔のままの、チェスターだけが取り残された。
「何だ、ありゃ……」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ベネツィアに着き一泊してから、港の船乗り場へ向かった。
この町での用事は、船を使って北の孤島――侵食洞に行くことだ。
デミテルの館がある西の孤島へ行く際に、見えていたその洞窟について船乗りに聞いてみたところ、精霊が住まうという噂があると聞いた。
水と関わりの深い精霊といえば、ウンディーネしかいない。
その時は契約の指輪がなかったし、手に入れる当ても無かったので素通りだったが、幸運に恵まれ、手に入った指輪があれば話は違う。
船長に大枚はたいて船を動かしてもらい、クラース達は侵食洞へと向かった。
四大精霊の一つに数えられるだけあって、ウンディーネは手強かった。
剣と水圧を組み合わせた飛ぶ斬撃は特に厄介で、狭く散会し辛い場所で戦う事もあり、大いに苦しめられた。
しかし、クレスが攻撃を前面で受け止め、ミントがそれをカバーし、残りの後衛が反撃を許さない攻撃を加え続ける事により、無事勝利を収められた。
そうして、クラースの契約も滞りなく終わると、クレス達一行は改めてアルヴァニスタに向かう。
風や波の影響次第ではあるが、大体一週間はかかるとの見通しだった。
その日も船上の甲板で、クレス達は特にやることもなく手すりに身を預け、空とも海ともつかない水平線を眺めていた。
クレスやチェスターは当初鍛錬しようと思ったが、甲板は動き回るには狭すぎる。
実際、一度やってはみたものの、船乗りに怒られてしまった。
それ以降、やる事もないのでマストが風にたなびく音と、潮騒を聞きながら、ボーっとしているのが常だった。
アーチェとミントもまた、隣り合って揺れる水面を見つめながら、二人でゆったとした風を楽しんでいる。
手摺に腕を乗せ、更にそこへ頬を乗せたアーチェが、ぼんやりと呟く。
「潮風が、気持ちいいねぇ」
「そうですねぇ……」
緊張をなくした面持ちで、やはり緊張感のないやりとりで会話している。
その対面となる甲板では、クレス達も手摺に寄りかかって、ただ海を見ていた。
女子グループと違って、長く沈黙が続いていた男性組だったが、ある時クラースが、ぽつりと言葉を零す。
「……クレス、お前はどっちが好みなんだ」
しかし、ぼんやりとしていた時に投げ込まれた爆弾に、クレスは全く気づけなかった。
「えっ、何のことですか?」
「ミントと、アーチェのことさ。ミントは清楚で落ち着きがあっていいが、アーチェはあの破天荒で屈託のない明るさがいい。どちらにも、どちらなりの良さがある」
「ちょ、ちょっと、僕はまだそんなこと……!」
「私の好みを言わせてもらえばだなぁ……」
「クラースの旦那、アンタ……」
「チェスター、お前には後でキッチリ聞いてやるからな。今は――」
「アンタ、故郷に女を残してきておいて、そんなこと言うのかよ……」
「――ば、馬鹿なことを! あいつは只の助手であって、そんな関係じゃ……」
「えー、本当ですか? 凄く仲が良いように見えましたけど」
クレスも自分の不利がクラースに転換されたと感じて、すぐさま茶化しに移った。
らしくもなく、その口元も随分緩んでいる。
そんな所へ、三人の騒ぎを聞き付けてアーチェ達が、手摺から身を離してやって来た。
「ねぇねぇ、さっきから何の話してんの?」
「何でもねぇよ、引っ込んでろ。お前にゃ、何の関係もない話だ」
「何なのよぉ……。アンタ、あたしにちょっとヒドくない?」
シッシッ、とぞんざいに手を振るチェスターに、アーチェがむくれる。
それもまた、よくある光景にクラースが苦笑していると、少し離れた所で同じく潮風に当たっていたらしい男が、声を掛けてきた。
「……あんたら、冒険者か?」
「まぁ、そんな所だが、あんたは?」
「流れの剣士をやってる、メイアーってモンだ」
へぇ、とクレスが物珍しげにメイアーを見やる。
同じ剣士として、感じる物があって顔を向けた。
汚れて黄色く変色したターバンに、擦り切れているマント。
旅慣れた雰囲気と、腰に
身に付けている装備品は、冒険者としての格を見定める指標となる。
特定のパーティーと一緒にいない所を見ると、傭兵稼業を生業にしているのだろう。
一人であれば身動きが軽いので、どの募集にも参加できるし、腕さえあればどこも拒まない。
この時期、傭兵自体は珍しくないもので、むしろ逆に最も欲される職業の一つだ。
魔物の動きが活発になっているので、隊商や要人の護衛には事欠かないし、対ダオス軍との最前線であるミッドガルズでは、常に傭兵を募集している。
「……傭兵志願者か?」
「いいや、探索希望さ。モーリア坑道……名前くらい知ってるだろう? お宝ざくざくの、ウハウハって話だ。噂じゃ、精霊が守っていたりもするらしい」
ほう、とクラースの目付きが鋭くなる。
これは是非とも、現地で確認せねばならない。
「とはいっても、今はアルヴァニスタの許可がないと、入るのは無理なんだけどな」
「伝手でもあるのか?」
「一応、冒険者ギルドに知り合いがいるんでね」
精霊については大いに興味があるところだが、許可を得られる伝手となると、クラースにはない。
アーチェについても同様だろう。
この時代の人間ではないクレス達は、考えるまでもない。
モーリア坑道の精霊については、棚上げにするしかないかもしれない。
クラースが黙考していると、会話に空白ができた。
「……ん、そろそろ腹が減ってきたな。ぼちぼちメシの時間だろう。邪魔して悪かった」
「いいや、こっちもいい暇つぶしになった」
軽い身振りで手を振って、メイアーは船内へと戻っていく。
クラースはそれを見送り、訊きもしないことを随分と喋る奴だ、と考えていた。
実際話したことは、隠すような内容でもない。
調べれば、すぐに裏が取れるような内容ばかりだったように思う。
それとも、顔繋ぎ目的で話しかけてきたのだろうか。
本題は別にあり、何か話したいと思っていた、としたら――。
「……ねぇ、クラース。なんかあたしもお腹空いちゃったよ」
取り止めも無く考えていると、アーチェの一声で思考が中断された。
実際、憶測だけで考え続けていても仕方がない、と思い始めていたところだった。
クラースは素直に頷くと、メイアーが入って行った船室を、親指で示した。
「それじゃあ、私達も食事に行くか」