【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
さて、とクラースは船室内を見渡す。
入った中は、奥にバーカウンターもある、食堂めいた場所だった。
非番なのか、休憩時間なのか、多くは船乗りがテーブルを使用している。
それ以外のテーブルには、乗客として乗船している者たちが席を占領していた。
時刻は夕刻に入ったばかりで、込み合う時間帯に来てしまったのは、如何にも拙かった。
何処も満席で、時間を少し後にずらさなければ、全員が座れるテーブルがありそうにない。
「参ったな。私達が座れる場所はあるのか?」
「──よぉ、どうだ。一緒に食べないか?」
クラースの呟きが聞こえた訳ではないだろうが、奥の席から声が掛かった。
顔を向けて見れば、そこに居たのは先程まで会話していたメイアーだった。
他の席は全て満員である為、この申し出をありがたく受け取る。
「助かるよ。他の席は、どこも空いていないみたいだからな」
奥にあったテーブルは、この室内で最も広いテーブルだった。
この時間まで相席が誰も入らなかったのは、幸運だったと思う他ない。
早速クラースは、メイアーの隣の席に座ったのだが、気付けば一人分だけ席が足りない。
「ない物は仕方ないじゃん。あんたは床で食べれば?」
アーチェがチェスターを見て。意地の悪い笑みを浮かべる。
最後尾を歩いていただけに、自然とその割を食うハメになってしまったチェスターは、笑うアーチェにコメカミをヒクつかせる。
幸い、テーブルの面積には余裕があるので、椅子さえ調達できれば、同じテーブルで食事を取れそうではあった。
チェスターは席の間を通り抜けざま、アーチェの額をぺしりと叩いて、カウンターへ向かう。
椅子を借りられないかを尋ねて快諾を貰うと、椅子を借り受けて、そのまま空いてる場所に陣取った。
「酒はどうだ? いけるクチだろう?」
「いいねぇ!」
既に出来上がっていたメイアーが、クラースを誘う。
食事が来る前だというのに、もうクラースは飲む気分でいる。
そこに幾らか、先行き不安な思いを抱かされたが、結局誰も、何も言わなかった。
クラースとメイアーはお互いに、グラスを叩き合わせる。
「偶然の出会いに乾杯!」
一時間後──。
一向に飲むペースが衰えない二人に、クレスは半眼を向けた。
「この二人、いつまで飲んでるんだろう?」
クレス達はとっくに食事を終え、食後のお茶を楽しんでいるところだった。
だが、前に座る二人は、くだらない馬鹿話を肴に笑って飲み続けている。
ちらりと横に目をやれば、いつの間にか、アーチェも酒をちびちびやっていた。
チェスターに咎める目を向けたが、コップを口に運びながら首を横に振っている。
どうやら、好きにさせろということらしい。
心配要らない、というより相手にするな、というつもりでいるようだ。
更に一時間が経過し──。
チェスターは先程、アーチェに構うな勝手にさせろ、とクレスに身振りしたのを後悔していた。
精々、勝手に飲んで、勝手に酔いつぶれればいい、と簡単な気持ちからの事だった。
それを今更、間違いだったと激しく後悔している。
酒を大量に飲んだアーチェは、前後不覚に陥るほど酔っていて、チェスターに酒臭い息を吐きかけながら絡んでくる。
「ねぇ、あんらもそう思うれしょぉ?」
「分かった。分かったから、離れろって!」
アーチェは酒の入った木製コップを掴んだまま、チェスターの肩を揺さぶる。
「アーチェ、大丈夫かな……」
心配そうな声音は真実だろうが、だったら代わってくれとチェスターは心底思った。
「お前、酒癖悪すぎだろ……!」
突き返そうとその肩を押すと、構いもせず、今度はチェスターの肩まで組んでくる。
より密着するようになり、顔の距離も自然、縮まった。
平時なら違う感情も芽生えただろうが、今は単に酒臭い息をより近くで感じさせる結果となり、チェスターを辟易とさせる。
「あんら本当は、あたしの事スキなんれしょお、分かってるんだからぁ!」
「アホか。どこをどう見りゃそうなるんだ、自意識過剰女! さっさと離せ!」
力ずくで離しにかかるが、どこからそんな力が出てくるのか、まるで振り解ける気配がない。
クレスに助けを求めようとした時には、ミントを伴って食堂を後にするのが見えた。
「あんの、裏切り者……!」
「ちょっと、聞いれんのぉ!?」
ぐいぐいとアーチェが迫ってくるせいで、お互いの頬が接触するほど近くなっている。
チェスターは、この旅始まって以来、最大の不快感を感じていた。
「それでな、苦労して辿り着いた先にあった宝箱の中は、空っぽだったってわけだ!」
「あっはっは、こいつは傑作だ!」
クラースとメイア―は、お互い顔を赤らめて酒を喉に押し込む。
辺りには既に
そのアーチェにしても、机の上に突っ伏し、酔い潰れている。
コップの中の酒を飲み干したメイアーは、そこで静かに杯を置いた。
そのまま空になった杯を上から覗き込み、しばらくしてからクラースに顔を向ける。
先程までの赤ら顔が嘘のように、真剣な表情がそこにあった。
「……ところで、俺は本当は、モーリア坑道に行くのが目的じゃないんだ」
「あぁ? じゃあ、何しに行くんだ? 女でも漁りに行くのか?」
酔った頭と判断力では、クラースはそれに気付けなかった。
変わらぬ調子で問い返したが、帰って来たのは別の方向からだった。
「ちょっとチェスター、どこ触ってんのよぉ……!」
完全に寝ていると思っていたアーチェから、予想以上にしっかりした声が上がって、びくりと肩を動かす。
二人してアーチェの様子を窺い、すぐに寝息を立て始めたのを確認して、メイアーは続きを話し始める。
「俺の本当の目的は、冒険者ギルドの知り合いを通じて、アルヴァニスタに関する秘密の情報を売りに行くことだ」
「なんだ、おっかない話になってきたな」
「一見平和に見える王国だが、実はもう殆どダオスに支配されてるって話だ」
「何だって? 本当なのか? ……しかし、どうやって」
「ここが重要なんだが、王国唯一の王位継承者レアード王子が、ダオスの側近の操り人形になってるらしい」
メイアーは辺りを見渡し、聞き耳を立てられていない事を確認しつつも、声を潜める。
「ミッドガルズに匹敵し、同盟国でもあるアルヴァニスタが、ダオス討伐に参戦しない。……いや、出来ないのは、そういう裏の事情があるからだ」
「驚いたな……」
クラースは我知らず溜め息をつき、ダオスの目的について考えを巡らせた。
ダオスの行動には矛盾が多い──多いように見える。
世界からマナが失われようとしている原因がダオスかと思えば、事前にそれを憂う行動を取る。
魔科学に関わる学者一家を殺そうとしたかと思えば、その後禁止している。
あるいは、ウィノナと同行していたダオスと、魔王ダオスは別人だと思いたくなる。
自分の思考に没頭していると、突然アーチェが顔を上げた。
「……チェスター、だめだってばぁ……」
目は虚ろで、先が見えていない。
何度か口を開けては閉めを繰り返し、アーチェはまたテーブルに突っ伏した。
思わず硬直して見ていたクラースとメイアーは、それから何事もなかったかのように会話を再開する。
「──しかし、何だってそんな重要なことを、私に言うんだ?」
「さて、どうしてかな。一人で抱え込むには、大き過ぎる荷物だったからか……、誰かが一緒に持ってくれれば安心できる──いや、酒の勢いって事にしておいてくれ」
小さく笑って息を吐き出し、メイアーは空の杯を爪弾いた。
くすんだ音を聞いてから、首を巡らし身体を伸ばす。
「それじゃ、ぼちぼちお開きにするか」
クラースが頷き、メイアーはそのまま食堂を後にした。
あれだけ飲んだというのに足取りは確かで、揺られる船舶の影響も殆ど受けていない。
関心する気持ちでクラースも立ち上がると、テーブルに突っ伏すアーチェの肩を揺すった。
「アーチェ、そんな所で寝ると風邪引くぞ」
「チェスターのばか……」
「全く、一体どんな夢を見てるんだか……」
クラースはアーチェを持ち上げようとしたが、酒の影響は予想よりも強かった。
力が入らず持ち上げられないのいで、アーチェをそのまま引き摺って船室に帰ることにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の朝早く、水平線に太陽が顔を出してから、間もなくの事だった。
クレスは自室の扉が開く音を聞いて、目を覚ました。
部屋は五人部屋で、全員が一室で寝泊りしてるから、誰かがトイレにでも行って帰って来たのだろうと思い、そのまま寝直す事にした。
ずれていた毛布を抱え込み、首元まで持ってこようとした時、隣で寝ていたクラースが、驚くほどの速さで飛び起きた。
「グッ!」
何事かと顔を上げると、クラースが部屋に入ってきたメイアーに、体当たりを仕掛けていた所だった。
クレスが慌てて起き上がり、続いてチェスターも飛び起きた。
既に弓を手に取っているが、狭い室内では有効とは言い難い。
指摘するよりも早く、チェスターは矢筒から矢を取り出して即席の短剣代わりにして構えていた。
クレスとチェスター、どちらかが動くよりも早く、メイアーが飛び退って室内から逃走していく。
追いかけようとしたその矢先、クラースが崩れ落ちた。
何かされたのかと、心配して近寄ってみると、クラースはか細い声で呻く。
「メイアーを追え、操られているんだ……。私は頭が、痛くて……、後は頼む……」
「二日酔いかよ、こんな時に!」
チェスターが毒づくのも無理はない。
クレスは目線で頷くと、即座に剣を抜き放ち扉の外を窺う。
息を潜め、いつでも斬りかかれるよう注意しながら外へ顔を出すも、人の気配はなかった。
その代わり、外に駆けていく足音もが聞こえる。
この時間に、あれだけ慌ただしく音を立てて移動する者など、そういるものではない。
メイア―が逃げる足音に違いなかった。
クレスは視線は外に向けたまま、空いている手で手招きしてから身体を外に出す。
狭い船内の通路では、隠れられる場所もない。
曲がり角で待ち伏せしている可能性は考慮して、その部分だけは注意を向けながら後を追った。
何度か通路を曲がり、階段を上がって外に出る。
そうして出た甲板の上には、目を血走らせ、明らかに尋常でない様子のメイアーが立っていた。
船長を含め、船員達が遠巻きにそれを見つめ、抜刀したメイアーに手を出せずにいる。
「メイアーさん!」
「しっかりしろ、おっさん!」
クレスとチェスターの声に反応し、メイア―は一瞬縋るような視線を向けて呟く。
「た、助けて……」
言った直後、すぐに目が据わり、口角が持ち上がった。
メイアーは剣を持ち上げると、奇声を上げて飛びかかってきた。