【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
アルヴァニスタに到着し、船から下りたクレス達は、船長と対面して礼を言った。
「どうも、お世話になりました」
「世話になったな、船長」
「いや何、こちらこそ助かった。また何かあれば言ってくれ。助けにならせてもらうよ」
「ありがとうございます。……それと、メイアーさんの事ですが」
全てを言う前に、船長は得心がいったように頷く。
「大丈夫、こちらで面倒見るよ。すぐに動かすと危ないだろうから、様子を見て、大丈夫そうなら宿に運ばせる」
「それを聞いて安心しました」
「なに、こんな時代だ。助け合いが必要だろうさ」
船長はニヒルに笑って船へと戻る。
クレスはその背に一礼してから、仲間達に向き直った。
「それじゃあ、早速お城に向かおうか。王子様を助けないと」
「──そうだな。急がなければ、時間を空ける程に警戒されるだけだろう」
クレスに続いてクラースがそれぞれ言うと、ミントとアーチェも、なるほどと頷く。
そうして、クラースが皆に向けて手を上げた。
「ついては、私に考えがある。まずは宿にチェックインして、部屋を借りよう」
「……クラースさんが、そう言うなら」
そうして、クレス達は港から出て町に入り、宿に着くまでの道すがら、観光がてらに歩き、和気藹々と道を進んだ。
街の中を歩くにしろ、ただ観光気分でいる訳でもない。
旅程に必要な消耗品、保存食や食料、その他細々とした必要とする買い物も済ませる。
入港したのが昼過ぎだったので、宿に着いたのは、夕日が赤く染まった頃だった。
食事を済ませ、夜の帳も落ちた後、クレス達は宿屋の一室で円陣を組むように座っていた。
王子救出について、ずっとやきもきしていたチェスターは、ようやくか、と落ち着きをなくしている。
「考えたんだが……」
落ち着きがないのはチェスターだけではなかったが、とりあえずクラースは全員を見渡して、自分の意見を開陳した。
「王室内にダオスの息が掛かっているとすると、下手に動くのは相手のツボだと思う」
「相手のツボってどういう意味だい、旦那。俺達の事は、まだバレてないはずだろ?」
「バレているかどうかは関係がない。相手が馬鹿じゃなければ、最初からいずれ露見する前提で、網を張っているはずだ」
裏から王子を操るという事は、つまり表の権力を自由に使えるということ。
事情を一般の兵士に知られないよう脅しもかけている筈で、だから兵士は王族の命令を問題なく遂行する。
「ウィノナの足跡を追うことは勿論、魔術やマナ、精霊に関する情報を掴むどころじゃない。我々の命も危うくなる」
「つまり、どゆこと? 王様とかに王子様助けましょう、って言ったら捕まるってこと?」
「そうだな。国家情報漏えい罪だとか、何らかの理由をつけて、表側から処罰する。裏で何かが暗躍している、と思わせないだけの証拠も、捏造すると考えるべきだろう」
不安に眉根を寄せ、ミントは小さく首を傾げた。
「では、どうすれば良いのでしょう?」
「そうだな……。であれば、表側にすら秘密裏に、ダオスの手先に操られている王子を、救出するしかないだろう」
「……え? それってつまり、王城に侵入するって意味ですか!?」
そうだ、と至極真面目に、クラースは頷く。
大変な覚悟を聞かされたが、クレスは即座に頷けなかった。
それこそ見つかれば、逮捕どころではない。
国家の象徴たる城に不法侵入すれば、紛うこと無き重罪だ。
どんな言い訳も、通用しない恐れがある。
「しかし、問題はどうやって忍び込むか、だが……」
「ちょっと待ってくださいよ。その忍び込むっていうのは、もう確定なんですか?」
「腹くくれよ、クレス。それとも他に、良い案あるのかよ?」
「いや、そりゃあないけど……」
「では、決まりだ。……ああ、勿論、良い案があれば、いつでも受け付けるからな。遠慮なく言ってくれ」
クラースが申し訳程度にそう付け加えると、クレスはハァ、と力なく頷く。
元より頭脳労働は、得意な方ではない。
きっとこれからも思いつく事はなく、そして、だからやはり、不法侵入する事になるのだろう。
「さて、肝心の侵入方法についてだが……」
「なんか秘策でもあんの?」
あっけらかんと言ったのはアーチェで、クラースはそのアーチェに、ニンマリとした笑みを浮かべた。
今までに向けられた経験のない、何とも不気味な笑みだった。
そして、それは決して良い方向に転ばない類のものだろう。
アーチェはそれを瞬時に理解し、半身を後ろに仰け反らせる。
「な、何かなぁ? その受け止めがたい熱視線は……。ね、ねぇ皆──」
気付けば種類は違えども、皆がアーチェを見つめていた。
中でもクレスは意味が分かっておらず、とりあえず視線を向けている感じだったが、他の二名は明らかに、何かを期待した目をしている。
「え? なに……、あたしに出来る事なんてないでしょ?」
クラースはゆっくりと首を横に振った。
そうして、その視線がアーチェの箒にチラリと動く。
「……あたしの箒で? え、マジぃ……?」
クラースが頷き、他の二人が追随し、そしてクレスは首を傾げた。
「頼む。王子の近くに、必ずダオスの手先がいるはずなんだ」
「お前、いつも無駄にプカプカ浮いてるだけの箒が役に立つってんだから、もっと喜んで協力しろよ」
「ああ、そうですか。じゃあ、協力してあげますけどね。運ぶ最中、あんたの生殺与奪の権はあたしが握ってるってこと、忘れない方がよろしくてよ?」
「お前、マジでそういうの止めろよ!」
「あんたが最初に言い出したんでしょ!」
「ンだよ、お前、やんのか!?」
「──何よぉ!」
放って置けば際限なく加熱する二人に、とうとうクラースが割って入った。
「分かった、分かったから暴れるんじゃない、全く……。今はそういうの止めて後にしろ。──という訳でアーチェ、頼んでもいいな?」
「そりゃいいけど、いつから……?」
クラースは窓から見える王城を、ちらりと見つめてポツリと言った。
「本当なら、警備の人数と配置、巡回ルート、曜日による人数の変動など、調べたい事は幾らでもある。余裕を見ても十日前後は、情報収集に充てたいところだ」
「ちょっと待ってくれよ、旦那。そんなに悠長にしてられないって、さっきも言ったばかりだろ?」
「だが、捕まってしまえば元も子もない。一生を牢獄で過ごしたいのか?」
そう言われてしまえば、チェスターも黙るしかない。
とはいえ、時間の経過は、むしろ相手に有利に働く。
メイア―の件は確実に相手の耳に入るだろうし、宿に泊まった宿泊客の素性を調べる時間も与えてしまう。
そうなれば、事を起こす前に罪を捏造された上で、逮捕される可能性も高まった。
そう考えた矢先、クラースはふと一つ思い付いて、顔を上げる。
「──そうだな。むしろ、捕まってもいいのかもしれん」
「……へ?」
間の抜けた声は、アーチェのものだった。
「アタシ、嫌だからね! 一生、臭い飯を食べさせられるなんて!」
だがクラースは余裕すら感じる笑みを浮かべ、一つ頷いてから皆に顔を向けた。
「……ま、大丈夫だ。私の考えてる通りならばな。──とはいえ最低限、見張りの位置くらいは知っておきたい。今日はその調査に充て、明日、忍び込む事としよう」
アーチェは最後まで懐疑的で、成功の安否を気にしていたが、結局押し切られる形で、作戦の遂行が決定された。