【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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不意遭遇の悪意 その3

 

 アルヴァニスタに到着し、船から下りたクレス達は、船長と対面して礼を言った。

 

「どうも、お世話になりました」

 

「世話になったな、船長」

 

「いや何、こちらこそ助かった。また何かあれば言ってくれ。助けにならせてもらうよ」

 

「ありがとうございます。……それと、メイアーさんの事ですが」

 

 全てを言う前に、船長は得心がいったように頷く。

 

「大丈夫、こちらで面倒見るよ。すぐに動かすと危ないだろうから、様子を見て、大丈夫そうなら宿に運ばせる」

 

「それを聞いて安心しました」

 

「なに、こんな時代だ。助け合いが必要だろうさ」

 

 船長はニヒルに笑って船へと戻る。

 クレスはその背に一礼してから、仲間達に向き直った。

 

「それじゃあ、早速お城に向かおうか。王子様を助けないと」

 

「──そうだな。急がなければ、時間を空ける程に警戒されるだけだろう」

 

 クレスに続いてクラースがそれぞれ言うと、ミントとアーチェも、なるほどと頷く。

 そうして、クラースが皆に向けて手を上げた。

 

「ついては、私に考えがある。まずは宿にチェックインして、部屋を借りよう」

 

「……クラースさんが、そう言うなら」

 

 そうして、クレス達は港から出て町に入り、宿に着くまでの道すがら、観光がてらに歩き、和気藹々と道を進んだ。

 

 

 

 街の中を歩くにしろ、ただ観光気分でいる訳でもない。

 旅程に必要な消耗品、保存食や食料、その他細々とした必要とする買い物も済ませる。

 

 入港したのが昼過ぎだったので、宿に着いたのは、夕日が赤く染まった頃だった。

 

 食事を済ませ、夜の帳も落ちた後、クレス達は宿屋の一室で円陣を組むように座っていた。

 

 王子救出について、ずっとやきもきしていたチェスターは、ようやくか、と落ち着きをなくしている。

 

「考えたんだが……」

 

 落ち着きがないのはチェスターだけではなかったが、とりあえずクラースは全員を見渡して、自分の意見を開陳した。

 

「王室内にダオスの息が掛かっているとすると、下手に動くのは相手のツボだと思う」

 

「相手のツボってどういう意味だい、旦那。俺達の事は、まだバレてないはずだろ?」

 

「バレているかどうかは関係がない。相手が馬鹿じゃなければ、最初からいずれ露見する前提で、網を張っているはずだ」

 

 裏から王子を操るという事は、つまり表の権力を自由に使えるということ。

 事情を一般の兵士に知られないよう脅しもかけている筈で、だから兵士は王族の命令を問題なく遂行する。

 

「ウィノナの足跡を追うことは勿論、魔術やマナ、精霊に関する情報を掴むどころじゃない。我々の命も危うくなる」

 

「つまり、どゆこと? 王様とかに王子様助けましょう、って言ったら捕まるってこと?」

 

「そうだな。国家情報漏えい罪だとか、何らかの理由をつけて、表側から処罰する。裏で何かが暗躍している、と思わせないだけの証拠も、捏造すると考えるべきだろう」

 

 不安に眉根を寄せ、ミントは小さく首を傾げた。

 

「では、どうすれば良いのでしょう?」

 

「そうだな……。であれば、表側にすら秘密裏に、ダオスの手先に操られている王子を、救出するしかないだろう」

 

「……え? それってつまり、王城に侵入するって意味ですか!?」

 

 そうだ、と至極真面目に、クラースは頷く。

 大変な覚悟を聞かされたが、クレスは即座に頷けなかった。

 

 それこそ見つかれば、逮捕どころではない。

 国家の象徴たる城に不法侵入すれば、紛うこと無き重罪だ。

 

 どんな言い訳も、通用しない恐れがある。

 

「しかし、問題はどうやって忍び込むか、だが……」

 

「ちょっと待ってくださいよ。その忍び込むっていうのは、もう確定なんですか?」

 

「腹くくれよ、クレス。それとも他に、良い案あるのかよ?」

 

「いや、そりゃあないけど……」

 

「では、決まりだ。……ああ、勿論、良い案があれば、いつでも受け付けるからな。遠慮なく言ってくれ」

 

 クラースが申し訳程度にそう付け加えると、クレスはハァ、と力なく頷く。

 元より頭脳労働は、得意な方ではない。

 

 きっとこれからも思いつく事はなく、そして、だからやはり、不法侵入する事になるのだろう。

 

「さて、肝心の侵入方法についてだが……」

 

「なんか秘策でもあんの?」

 

 あっけらかんと言ったのはアーチェで、クラースはそのアーチェに、ニンマリとした笑みを浮かべた。

 

 今までに向けられた経験のない、何とも不気味な笑みだった。

 そして、それは決して良い方向に転ばない類のものだろう。

 アーチェはそれを瞬時に理解し、半身を後ろに仰け反らせる。

 

「な、何かなぁ? その受け止めがたい熱視線は……。ね、ねぇ皆──」

 

 気付けば種類は違えども、皆がアーチェを見つめていた。

 中でもクレスは意味が分かっておらず、とりあえず視線を向けている感じだったが、他の二名は明らかに、何かを期待した目をしている。

 

「え? なに……、あたしに出来る事なんてないでしょ?」

 

 クラースはゆっくりと首を横に振った。

 そうして、その視線がアーチェの箒にチラリと動く。

 

「……あたしの箒で? え、マジぃ……?」

 

 クラースが頷き、他の二人が追随し、そしてクレスは首を傾げた。

 

「頼む。王子の近くに、必ずダオスの手先がいるはずなんだ」

 

「お前、いつも無駄にプカプカ浮いてるだけの箒が役に立つってんだから、もっと喜んで協力しろよ」

 

「ああ、そうですか。じゃあ、協力してあげますけどね。運ぶ最中、あんたの生殺与奪の権はあたしが握ってるってこと、忘れない方がよろしくてよ?」

 

「お前、マジでそういうの止めろよ!」

 

「あんたが最初に言い出したんでしょ!」

 

「ンだよ、お前、やんのか!?」

 

「──何よぉ!」

 

 放って置けば際限なく加熱する二人に、とうとうクラースが割って入った。

 

「分かった、分かったから暴れるんじゃない、全く……。今はそういうの止めて後にしろ。──という訳でアーチェ、頼んでもいいな?」

 

「そりゃいいけど、いつから……?」

 

 クラースは窓から見える王城を、ちらりと見つめてポツリと言った。

 

「本当なら、警備の人数と配置、巡回ルート、曜日による人数の変動など、調べたい事は幾らでもある。余裕を見ても十日前後は、情報収集に充てたいところだ」

 

「ちょっと待ってくれよ、旦那。そんなに悠長にしてられないって、さっきも言ったばかりだろ?」

 

「だが、捕まってしまえば元も子もない。一生を牢獄で過ごしたいのか?」

 

 そう言われてしまえば、チェスターも黙るしかない。

 とはいえ、時間の経過は、むしろ相手に有利に働く。

 

 メイア―の件は確実に相手の耳に入るだろうし、宿に泊まった宿泊客の素性を調べる時間も与えてしまう。

 

 そうなれば、事を起こす前に罪を捏造された上で、逮捕される可能性も高まった。

 そう考えた矢先、クラースはふと一つ思い付いて、顔を上げる。

 

「──そうだな。むしろ、捕まってもいいのかもしれん」

 

「……へ?」

 

 間の抜けた声は、アーチェのものだった。

 

「アタシ、嫌だからね! 一生、臭い飯を食べさせられるなんて!」

 

 だがクラースは余裕すら感じる笑みを浮かべ、一つ頷いてから皆に顔を向けた。

 

「……ま、大丈夫だ。私の考えてる通りならばな。──とはいえ最低限、見張りの位置くらいは知っておきたい。今日はその調査に充て、明日、忍び込む事としよう」

 

 アーチェは最後まで懐疑的で、成功の安否を気にしていたが、結局押し切られる形で、作戦の遂行が決定された。

 

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