【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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王子救出作戦 その1

 

 深夜になり、王子を救出すべく、」行動が開始された。

 

 宿から抜け出し、城に近すぎない位置でそれぞれが待機し、アーチェが順に城壁の中へと運び込んでいく。

 

 全員を二階のバルコニーへと運ぶのは相当な体力を消費し、最後にミントを運び終える頃になると、アーチェは肩で息をしていた。

 

「うへぇ……、これで全員だよね」

 

「そうだな。では、王子の寝室を探そう。……皆、静かにな」

 

 それぞれが動き出し、足音を殺しながらバルコニーの出入り口へと向かう。

 その途中、最後尾を歩くアーチェが(かね)てより思っていた事を呟いた。

 

「ダオスって、本当に悪い奴なのかな……」

 

「悪いから、王子に魔物なんて取り憑かせてるんだろ」

 

 その前を歩いていたチェスターが、ぶっきらぼうに答える。

 チェスターの言いたい事は、アーチェにも分かる。

 

 ダオスがアルヴァニスタに行っている行為は、悪事には違いない。

 それでも、やはり違和感は拭えない。

 

 ──言うなれば、やっている事が中途半端なのだ。

 

「やっぱり、おかしいよ。なんでダオスはもっと国を混乱させないんだろう。王子様を抑えてるんならさ、もっと色々出来るでしょ?」

 

「これからするんだろ」

 

「……まぁ確かに、まどろっこしい」

 

 クラースが声を潜めて、アーチェの方に顔を向けた。

 

「私ならば、まず悪政を敷く。悪法を無理に施行し、国民へ王族に対する悪感情を植え付ける。その上で民を扇動し、内乱を引き起こすな」

 

 ぴたり、と空気が固まった気がした。

 元より潜めていた呼吸が、より一層小さく細いものとなる。

 

「ダオスとて、二正面作戦は避けたいだろう。内乱鎮圧により軍を使わせ傷口を広げれば、もう他国に軍勢派遣など出来ない。国力の回復にも数年では足りなくなり、しばらく国の疲弊は免れない。それは、いずれ攻め込む布石にもなる」

 

 うわぁ、とアーチェは思わず口を動かした。

 まるで悪魔の発想だ。

 

 エルフは人間の事を、野蛮で暴力的だと評すると聞くが、それも納得の悪辣(あくらつ)さだった。

 

「ねぇ、クラース。エルフ族が人間を嫌う理由、あたし初めて分かった気がする」

 

「……どういう意味だ」

 

「そういう意味」

 

「ほら、無駄話してないで、早く行くぞ。私たちはまだ見つかる訳にはいかないんだからな」

 

 クラースは前に向き直り、バルコニー出入口付近に身を潜める。

 巡回中の兵士が、鎧の音を立てながら近付いていた。

 

「誤魔化した……」

 

「いいから、お前も早く来い」

 

 チェスターもバルコニー出入口へ、屈みながら近づいて行く。

 でもさ、とアーチェは言いかけ、結局うまく言葉に出来ず唸った。

 

 ウィノナと一緒にいたというダオス。

 そのウィノナが、今のダオスの行動を許容するだろうか。

 

 あれだけ真っ直ぐで、他人を助ける事に自分を投げ出せる人間が、ダオスの凶行を放置するものだろうか。

 ウィノナならば、やはり体当たりで止めに行くだろう。

 

 その違和感が、ここにある。

 レアード王子を抑えればそれで良しとし、それ以上を望まない。

 

 だがそれは、無駄な流血をこそ望まないから、だとしたら──。

 それが違和感の正体、なのかもしれない。

 

 アーチェはそれを口にするか迷い、しかし結局、口に出来なかった。

 城内に侵入するタイミングで、口に出す機会を失い、うやむやなまま消失した。

 

 

 

「……この部屋か?」

 

 幾つかの通路を経て、到着したのは最奥の部屋だった。

 途中、兵士が巡回警備していたものの、緊張感はなく、誰かが侵入してくるとは思ってもいない様子だ。

 

 不真面目という訳でもなかったが、決まった順路を繰返し通るだけで、注意して物陰を見るほど熱心ではない。

 

 隠密行動など素人同然なのにも関わらず、実際奥まで来られているのがその証拠だ。

 クレスを先頭にして部屋の前に立つ。

 

 他の部屋より豪華な文様が、扉に装飾を施されている。

 だから、恐らくは王族の為に用意された部屋だろう。

 

 ドアノブを静かに捻れば、鍵は掛かっていなかった。

 目だけで合図をすると扉をゆっくりと開き、中へと身体を潜り込ませる。

 

 全員が入ったのを確認すると、音を立てずに注意して扉を閉めた。

 

「真っ暗で何も見えないな……」

 

 明かりとなるものが、何一つない。

 もしかして、倉庫の類と間違って入ったかと思った途端、部屋の奥から声が返って来た。

 

「──何の用だい?」

 

 身構えたのと同時、蝋燭に火を点され、部屋の中が露になった。

 王子の部屋というには、随分質素な部屋だった。

 

 ベッドが一つにドレッサーと姿見、そして花瓶が幾つか置かれ、部屋の中を申し訳程度に飾っている。

 

 その花瓶の横には、ペットと思われるインコが、鳥篭も用意されずに鎮座していた。

 

「この国の王子である私の部屋に忍び込むとは、いい度胸をしている」

 

「あんたがレアード王子か?」

 

「──侵入者だ! 誰か!」

 

 どこまでも冷静な王子は、こちらに応答するより前に、大きな声で外に呼びかける。

 こうなれば、すぐにでも兵が押し寄せてくるだろう。

 

「すぐにでも取り押さえるべきか……!?」

 

 王子をしっかり見てると、その目には何も写していないように見えた。

 こちらを見ているのに焦点が合っておらず、操られているというのは間違いないようだ。

 

「ど、どうすんの? ヤバイじゃん!」

 

「近くに王子を操っている奴が、いるはずなんだが……」

 

「……あのインコは?」

 

 クレスが目を向けると、そこには鳥にしては随分と落ち着き払ったインコがこちらを見ていた。

 

 小鳥は基本的に臆病で、警戒心が強い筈なのに、全く動じる様子がない。

 その上、鳥篭の中で飼われている訳でもなかった。

 

 更には、こちらを窺うように視線を向けている。

 

「──それだ!」

 

 クラースが指差し叫ぶと同時に、アーチェは箒を呼び出し突貫した。

 クレスも同時に、弾かれるように飛び出す。

 

 チェスターは背中にしまった弓を引き抜き、矢を番えて狙いを付けた。

 

 三人が三方から飛び掛かり、その手に捕まえそうになった瞬間、インコはその手から逃れるように、部屋の天井近くへ飛び上がる。

 

 そうして、王子の近くに着地した。

 

「ふふふふ……」

 

 インコから明らかに、鳥とは違う女の声がする。

 その直後、姿が光に包まれると、形状を変え魔物の姿に切り替わった。

 

 赤い頭髪に角を生やし、蝙蝠の羽を持った女悪魔――。

 先の尖った尻尾が腰から伸び、鞭を打つように床を叩きつけ、戦意を露にしている。

 

「うげぇ、かわいいインコが、あんな姿に!」

「私の名は、ジャミル。事の顛末を、高みの見物と洒落込もうと思ってたんだけど……気が変わったわ」

 

 ニタリと笑い、異様に鋭い爪を掲げる。

 

「覚悟するがいい!!」

 

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