【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
玉座の間に通されたクレス達は、両脇を槍を持った兵達に挟まれながら国王の前で膝を付いた。
クレスとクラース両名を先頭に、その後ろに左からミント、チェスター、大きなたんこぶを付けたアーチェと続く。
国王は髪の毛だけでなく髭までが白く、その豊かな顎鬚は威厳を体現させているように感じられた。
そして、その横には同じく玉座に座った、后と思わしき女性が鎮座している。
こちらに好意を持った感情が窺え、ひっそりと笑みを向けられていた。
その后のすぐ傍には、昨晩も世話になったレアード王子が立っている。
ルーングロムは一歩前に出て、クレスとクラース両方を見る。
「おぬしら、夜分城内に侵入した理由を申してみよ」
クラースは顔を伏せたまま、声を張って自信に満ちた声音で言った。
「王子殿下を、お助け申し上げる為でございます」
レアードは顔を顰め、クラースを不快げに睨み返す。
「何を馬鹿なことを……!」
「レアード、お前は何も知らぬのだ。黙っておれ」
クラースは頭を下げた格好のまま、上等な絨毯を見つめながら嘆願する。
「今、私達は魔術を必要としているのです。より強い魔術を体得する為、ユークリッドより参りました」
「何故、魔術を?」
「魔術でしか傷付かないとされる、──ダオスを倒す為です」
玉座にいる全ての者が瞠目した。
それを見ながら、アーチェは思う。
ダオスを倒す。その為に魔術を求める。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
最近は特に、そう考えるようになった。
牢の中に囚われている時もそうだ。
考えて続けていたものの、結局、今に至るまで結論は出ていない。
「クラースと申したな、それは真か!」
クラースは顔を下に向けたまま、肯定の意を示す。
「実は、そなたらが偶然レアードを助けた賊に過ぎぬのか、あるいは最初からレアードを助けるつもりだったのか。それをはっきりさせたかったのだ」
アルヴァニスタ王は、頷くような礼を見せた。
国の頂点に立つ者が、一介の旅人に表せる礼は限られてくる。
口頭だけで済ませるのが慣例で、頭を動かす仕草は、その中で最大級の礼と言えた。
「……心から礼を申す」
「私が操られていた? 父上、それは本当なのですか?」
うむ、と大仰に国王は頷く。
「真だ。その為、近く起こる戦に、我が王国は加勢すること叶わなかった。ダオスの目的は、正にそれだったのだろう」
「戦いが起こる、と言う事はつまり……?」
クレスが訪ねると、これにはルーングロムが答えた。
「行く先々で、噂くらいは聞いただろう、同盟国ミッドガルズとダオスの軍勢が、激突間近だという話だ」
「存じております」
「もし、魔術探索の旅が十分達成されたと感じたなら……、戦に力を貸す事も考えてみて欲しい」
「畏まりました」
頭を深く下げて一礼すると、ルーングロムは近くの兵士に顎を動かす。
心得た兵士は何かの包みを持ち出し、それをルーングロムに預けた。
「灰となって、死んだ魔物の亡骸痕から見つかった魔術書だ。受け取って欲しい。他には、我国が所持する中で、譲渡できる魔術書もある。遠慮はいらぬので、受け取るといい」
クラースはそれを両手で恭しく受け取り、再び頭を下げて感謝の意を示した。
「それから何か困った事があれば、遠慮なく声をかけてくれ」
クラースが喜色を浮かべて、頭を下げる。
「ありがとうございます。では早速ですが、モーリア坑道への入場許可証をお願いしたいのです」
「それはまた何故? 単に宝探しに行きたい、という訳でもあるまい」
「そこにいるとされる精霊との契約、また契約の指輪があれば是非入手したい、と考えている為です」
国王は小さく頷き、契約の指輪か、と小さく呟いた。
「それならば、我が国にも一つ保管されておる。火の精霊イフリートと縁の深いガーネットの指輪。これを進ぜよう」
「よろしいのですか……!」
クラースは顔を上げて驚愕した。
既に多くの財を下賜されている。これ以上は過分とも思えた。
「よい。それを持って戦力が増せるとなれば、倉庫の肥しとなっているより有用であろう。今は戦時でもある。飾った指輪で民は守れぬ」
クラースは深く頭を下げ、同意と謝意を同時に示す。
「ご英断、格別の御厚情賜りまして、真に感謝いたします」
「うむ、許可証についても、すぐに準備させる。ギルドにて受け取るが良い。……話は以上か?」
国王が左右を見ると、ルーングロムが頷き、レアードが頷いた。
「うむ、では謁見は以上とする」
「ハッ! 国王様のご尊顔を賜り、真に光栄でございました」
クラースが言って頭を下げるのを見て、クレス達一行も慌てて頭を下げる。
ルーングロムとレアードが退出し、そうしてクレス達もまた退出を許され、全ては事なきを得たのだった。
玉座の間を退出した後、魔術研究所に寄ってみれば、呪文書と精霊の目撃情報を得ることができた。
入所については話が通っていたらしく、門番をしていた兵士は顔を見るなり脇に逸れ、慇懃な礼をして中へ促してくれた。
また、研究所内の魔術師も、やはり非常に協力的だった。
そうして城から退出し、明るい日差しの元に出ると、クレスはようやく大きく伸びをした。
「王子救出の謝礼としては、正に望外の褒美だったな……!」
クラースの興奮は冷め止まない。
無罪放免でも十分な礼だったのに、そこに数多の褒美も合わさるとあっては、感激しない方が無理だった。
ここまで厚遇してくれたのは慮外の事で、国王の懐の深さに非常に感じ入った。
「それにしても、クラースって敬語とかちゃんと使えたんだねぇ」
アーチェが感心したように言うと、クラースは呆れながら小首を傾げる。
「確かに私は本に囲まれ、研究漬けの毎日だったから、世間知らずという自覚はある。しかし、礼儀知らずではないぞ」
「そして命知らずでもある」
「茶化すな、チェスター……」
だってよ、とチェスターは笑う。
「普通、学者先生ってのは契約したいからってだけの理由で、危険地帯に住む精霊に、会いに行ったりしないだろ」
「言えてる!」
思わずクレスは手を叩いた。
クラースは憮然としたが、ある種その通りと思うので何も言えない。
「それで、これからの事なんだが……」
「あ、はい。ウィノナの足跡についても、これといった収穫はありませんでしたね」
観光客の出入りも激しいこの町では、旅人自体、珍しいものではなかった。
冒険者ギルドの存在もあって、住人からの認識も薄い。
一年も前に立ち寄っただけの旅人など、記憶に留めている方が例外なのだ。
「うむ、足跡が途切れてしまった以上、精霊の契約で訪れる町などで、地道な聞き込みをする他ないだろう」
「それしかないか」
チェスターは嘆息して頷いた。
大きな町は人の出入りが激しすぎて、特定の誰かを探すのに向かない。
より小さな町や村ならば、まだしも記憶に残るだろう。
ウィノナも食料や水の補充などで、必ずどこかの町に立ち寄るはずだ。
その際、誰かの記憶に留まっていれば、と思うしかなかった。
「じゃあ、それはいいとして……モーリア坑道には行かないの?」
「無論、行きたいところだが……。魔術研究所の情報によれば、坑道の奥深くには、四大精霊の祭壇があるという。未確認の精霊の目撃情報もそこだ。となれば……」
「四大精霊の契約者にのみ、姿を見せてくれる?」
「姿だけなら、他の者でも見ることは可能だろう。だから証言が残っている。しかし、対話したいとなれば、四大精霊を御する力が必要なのかもしれない」
なるほど、とクレスが頷き、ミントが首を傾げた。
「では、これからどこに向かうべきなのでしょうか?」
「それなんだが……。私はまず、砂漠地帯のフレイランドに足を運びたいと思う」
「何で? 火の精霊がいるから?」
「そうだとも。陛下のお心遣いを
「ぉ、おう……」
それに、とクラースは思案するような仕草を見せる。
「ウィノナの移動経路について、考えてみたんだが……。彼女にしても、クレス達を探して移動している訳だろう? ……つまり、行ったり来たりを繰り返さず、先へ先へ……見知らぬ場所へと移動している」
「まぁ、そうだな。行ったり来たりを、繰り返す理由がないもんな」
チェスターが何とはなしに頷き、クラースもそれに頷きながら、自身の首の後ろを撫でた。
「彼女の行き先は、常に行った事のない町だ。だから、アルヴァニスタの次に向かえる先は、南の港から行ける砂漠の町以外にない。ウィノナがここから向かったと思える町は、このオリーブヴィレッジである可能性は高いと思う」
「なるほど、それなら行き先が重なりつつ、精霊との契約も出来るわけか」
チェスターは得心して頷いたが、その実、クラースの内心はそうでもなかった。
この推論では、一つ見逃している点がある。
現在の航路では直接ミッドガルズには行けないし、ウィノナが滞在中もそうだったかは分からない。
だが、もしその航路が有用だった場合、ウィノナは砂漠を回避してミッドガルズに直接向かった可能性が残る。
誰しも過酷な砂漠を、足で越えたいとは思わない。
クラースとて、そこに契約の用がなければ、行きたいとは思わなかった。
ウィノナもまた、そう考えるのではないだろうか。
そしてウィノナも、クレス達が砂漠を避けるとを考えたのなら、やはり足跡を見つけることは出来ないかもしれない。
そこまで考えて、クラースは下手な考え休むに似たり、という諺を思い出した。
何にしろ始めから、雲を掴むような思いで探しているのだ。
可能性があるなら、赴かない理由はない。
クレス達は旅の準備を整えるのに一日使い、翌日南の港へと旅立った。
王から下賜される品の中に、本来はグーングニルも入っています。
いずれヴァルハラ戦役で日の目を見たり、ペガサスを借り受ける条件として使われるのですが、その辺りはカットされるので、ここでの描写も削ってあります。