【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
村に帰ると、そのままアルベイン道場前まで歩いて行くと、クレス達は足を止めた。
道場からは未だに迫力のある掛け声が聞こえていて、門下生達がいつもの様に鎬を削り合っている。
チェスターも今ではもうすっかり慣れてしまったが、最初は朝から夕方まで聞こえてくる、この罵声とも怒声とも取れる掛け声に辟易していた。
「なぁ、クレス。今度はどっちが早く猪を仕留められるか勝負しようぜ」
「えぇ……? そんなのチェスターの方が絶対、有利に決まってるじゃないか」
「まぁ、固いこと言うなよ。その赤いマントひらひらさせりゃ、向こうから突進してくるかもしれねぇだろ?」
「そんなことあるわけ……、あるのかな?」
「本気にするなよ、冗談に決まってるだろ!」
そう言って笑うチェスターに、ウィノナはチロリと横目で視線を向けた。
「あのさー、ところでアタシは除け者ってわけ?」
「何だ、お前もやんのか? じゃあ、三人で勝負だな」
お互い笑い合って、拳を三方向からぶつけ合う。
コツンと合わせた後にすぐさま離して、チェスターは踵を返した。
クレス達の住む道場のすぐ傍に、チェスターとその妹アミィが住む家がある。
チェスターは背を向けたまま、そうして片手を挙げて手を振った。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日」
「絶対、負かしてやるから!」
クレスとウィノナの声を順に聞き、チェスターは家へと入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
チェスターは家に入ると、まず妹がどこにいるのか目だけ動かして探した。
この家に住むのは自分と妹だけで、両親はいない。
父は行商を
母は訃報を聞いてからというもの体調を崩し、それからアッサリと後を追うように死んでしまった。
そのような経緯で、物心つく頃には孤児となってしまった二人は、身を寄せ合うように生きてきた。
チェスターとアミィは、互いにとって、たった一人の家族だ。
大事にしている妹が、しかし見える範囲にはいない。
時間帯を考えれば出掛けたとも思えないので、二階にでもいるのだろう。
「おーい、アミィ。いま帰ったぞー」
チェスターが階段の奥へと声をかけると、果たしてアミィが二階からパタパタと降りてくる。
まだ幼い妹がこうして一人で留守番出来るのも、この村がチェスター達を受け入れてくれている証拠だ。
門下生の剣士たちがすぐ傍に多くいるこの立地は、物取りや強盗が近づくには危険すぎる。
「おかえり、お兄ちゃん」
「ああ、ただいま。何してたんだ?」
「うん、ちょっと……」
言葉を濁してアミィは視線をそらした。
ああして尋ねてみたものの、その
最近クレスの母マリアに習った手芸で、一つのマスコット人形を作ろうと苦心しているのだ。
アミィは話題を逸らそうとしてか、チェスターに上目遣いで訊いてきた。
「お兄ちゃんは、また三人で狩りに行ってたの?」
「まぁ、狩りはついでに出来ればいいなってくらいで、修行みたいなもんかな。そんな感じのことしてきた」
「ふぅん……」
少しいじけた態度が見えるが、一緒に行きたいとは言わない。
それは危険だからとか良識を弁えているとかではなく、ウィノナと一緒になるのが気まずいのだ。ということをチェスターは察していた。
ただし、何も彼女を毛嫌いしているというわけではない。
同じ孤児としての共通点もあり、少し前までは本当に、実の姉妹のように仲が良かったのだ。
チェスターもウィノナに対しては、そう言った意味で家族のように身近に感じており、同じ年齢の妹だという認識が最も近い。
実際クレスとチェスターも相当仲が良いが、最も早く打ち解けたのはウィノナの方だった。
だから家族ぐるみの付き合いのような形になっていったのだが、最近アミィがウィノナを避けるのは、その複雑な乙女心のせいだろう。
アミィはクレスに恋心を抱いている。
それは今も作っていたのだろうマスコットを見れば明らかで、完成すれば、クレス本人にプレゼントするつもりなのだと思う。
だが、そこに年の似通った、そして血の繋がらない男女が一つ同じ屋根の下に暮らしているのだ。
恋心に身を焦がす小さな乙女としては、中々に複雑な心境を形作ってしまうようだ。
「……ま、明日は本格的に狩りに行く予定だからな。大物、期待してろよ?」
「うん、それじゃあ、予めお肉屋さんに行っとくね」
「なんだと~?」
チェスターは満面の笑みを浮かべ、両手を広げてアミィに近づく。
きゃあ、と小さく笑いながら背を向けて逃げるアミィに、チェスターはすぐに追いついた。
そうして、その小さな身体を掬い上げるように持ち上げ、ぐるぐると回す。
きゃっきゃと笑うアミィを見つめながら、チェスターは今ある幸福を噛み締めながら、大いに笑った。