【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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真実と疑惑と憶測と その2

 

「なんだクレス、随分早かっ──」

 

 部屋に入り扉を閉めると、クラースが暢気な顔をして振り返り、そして固まった。

 クラースにとっては見たこともない中年の男性が、クレスとチェスターに連行されいる。

 

 何があった、と訊こうとしたのだが、その前にミントが叫ぶ様に名を呼んだ。

 

「モリスンさん!?」

 

「……君もか」

 

 部屋に連行されて来た男が、気まずそうに俯く。

 微妙な空気が漂い、クレス達を見比べて、アーチェは首を傾げた。

 

「ほぇ? どゆこと? 皆のお知り合い?」

 

「アーチェさんには、言ってませんでしたね……。私達、実は百年後の未来から来たんです」

 

「ふぅ~ん、そうなんだ」

 

「信じるんですか? そんな簡単に……」

 

 ミントは申し訳なさそうな表情だが、アーチェは気にした素振りもなく、からからと笑う。

 

「だってそんな嘘、今ここでつかないでしょ。明らかにワケアリです、って顔してさ。クレスとチェスターも、おっかない顔しておっさん連れてくるし。……っていう事は、ウィノナも未来から来たの?」

 

 ミントが頷くのを見ると、アーチェは感嘆めいた声を出した。

 

「ここにもウィノナの知り合いか。……それで、私に何を聞きたいのだね」

 

「ああ、いえ……! 突然の無礼、許してください」

 

 クレスは慌てて頭を下げた。

 椅子を勧めながら、チェスターにも頭を下げさせる。

 

「強引な方法で、連れて来てしまったことは謝罪します。でも是非、ウィノナの事を聞かせて欲しいんです」

 

「ああ、なるほど……。それならば、断る理由はない。私も急ぎの用事があったんだが、誰かに話したいとも思っていた。……彼女の友人なら、その資格が十分にあるだろう」

 

 モリスンはそう言いつつ、顔を俯かせる。

 悔恨の声音が口調に、クレスは嫌な予感がした。

 

 だが、もうここまで来てしまったのだ。聞いて後悔するような内容でも、今更後戻りはできない。

 

 椅子は全て使われていたので、クレスとチェスターは仕方なくベッドに腰掛けた。

 ベッドの軋む音を合図に、モリスンがぽつりぽつりと語り始める。

 

「彼女の現在の動向については、申し訳ないが、私も知らない……。既に一年近く、その消息を断っている。だが会いたい、会って謝りたいと思っている」

 

「──アイツに何をした!」

 

 チェスターが立ち上がり、掴み掛かろうとする所を、咄嗟にクレスが止めた。

 興奮するその両肩を抑えて、無理やり座らせる。

 

 項垂れていたモリスンは、それに驚きはしたものの、身構えることはしなかった。

 殴られるならそれでもいい、と思ったのかもしれない。

 

「私は……、取り返しのつかない事をしてしまった。私が不用意にダオスに興味を持たなければ……。ウィノナが姿を眩ませたのも、私の責任のようなものだ」

 

 そう言って、一度重く息を吐いてから続ける。

 

「ダオスが魔王と呼ばれている事も、直接的ではないにしろ、私にも責任はあるようなものだ……」

 

「どういう事だ……、何故そこでダオスが……? それも魔王と呼ばれる遠因に……?」

 

「知ってる事を、全て教えてください」

 

 クラースが眉根を寄せてモリスンを注視するのと同時、クレスは正面から、緊張感を滲ませた表情でモリスンを見つめる。

 

「僕達はきっと、それを知らないといけない」

 

「……私も事の顛末を聞かされた身だ。その場で見聞きした訳じゃない。ウィノナからも失踪する前に色々と聞いたものだが、……それでも、やはり聞いただけだ。いっとき船上で共に移動しただけで、一緒に旅をした、と言えるほど長い付き合いでもない。……だから、知っている事だけを最初から話す」

 

 それからモリスンは、滔々(とうとう)と語った。

 

 ウィノナとダオスが、共に旅をしていたこと。

 世界樹が枯れ行く運命にあることを拒み、それを阻止しようとしていたこと。

 

 救う手段がないため諦めていた頃、モリスンがミッドガルズでマナを集める技術──魔科学の研究を教えたこと。

 

 ダオスには時を越える力があり、それを理由に人体実験同然で、研究所に潜入したこと。

 ある時、ダオスが研究所から逃げ出したこと。

 

 逃げた理由は、魔科学の本質を知ったからだということ。

 マナを集めるどころか、マナを加速度的に失わせる原因になっていたと、モリスンも後に知った。

 

 兵たちは逃げ出したダオスを追うのにウィノナを使い、見つけた先でウィノナを斬りつけ片腕を奪ったこと。

 それに激怒したダオスが、その場にいた兵士の八割を虐殺したこと。

 

 ダオスは当初、魔科学を捨てるよう呼びかけていたが、説得がきかないと知ると、武力をちらつかせてきたこと。

 それから北部の古城に篭って魔物を率い、ミッドガルズと敵対、魔王と呼ばれるようになったこと。

 

 ウィノナは都内で軟禁中だったが、魔物が古城に集結している辺りで姿を消したこと。

 モリスン自身も捜しているが、一年経つ今も全く行方が知れないこと。

 

 

 

 そこまで話し切って、モリスンは重く息を吐いた。

 重く蓋をしていた感情が、流れ出るような語り口だった。

 

 苦悩と後悔が混じりあい、俯いた口から出る言葉は、聞いていて耳を塞ぎたくなる思いだった。

 知らなければならない、と思ったことは間違いではなかった。

 

 しかし、余りに重い。

 

 沈黙が続くのは、皆がモリスンの言った事を咀嚼しているからだろうと、クレスは思った。

 あまりに多くの事を一度に聞いたので、自分の中で消化し切れていないのだ。

 

 アーチェは顔面蒼白で、その身は小刻みに震えている。

 怒りと悲しみ双方の感情を、どこにぶつけてよいのか分からず、ただその拳を握って耐えていた。

 

 聞いた内容の、事が事だ(・・・・)

 ウィノナの身に、悲惨としか言いようのない不幸が襲っている。

 

 今もどこかで元気にやっていると思っていたのに、実際はそれとは真逆の事が起きていた。

 ウィノナは今、一体どんな感情を持って生きているのだろう。

 

 それとも──果たして本当に、今も生きているのだろうか。

 そうして長く続いた沈黙も、唐突に打ち破られる。

 

 発せられたのは、チェスターの怒号だった。

 

「ふざけんなよ! なぁ、全部ミッドガルズが悪いんじゃねぇか! お前も! ミッドガルズも! 全部! ──ウィノナを返せよ!」

 

 チェスターは涙を流してはいない。

 それでも、泣いている事だけはクレスには分かった。

 

 ウィノナがどれほどの苦しみを感じたか、クレスにはその半分程だって分かってやれないだろう。

 

 クレスでさえ、話を聞いている内に燃えるるような憎悪が生まれるのを、抑えることは出来なかった。

 

 魔王誕生の原因は、少女を傷つけられた激怒から。

 いま聞いた話を振り返ると、悪逆非道、人類の敵、魔王と呼ばれるダオスという存在に、違和感がある。

 

 クレスとチェスターが、怒りを隠しもせずモリスンを威嚇する中、只一人クラースは冷静だった。

 そもそも、激昂する程ウィノナを知らない。

 

 それが理由の一つだが、こういう時こそ、最低一人は冷静でいられる人間が必要だという思いからだった。

 

 とはいえ、一人の少女を絶望の淵に落としたことに対して怒りはある。

 今の話を聞いて、何も思わない、という事はない。

 

 ウィノナとダオスは、共にしている所を度々、目撃されていた。

 ウィノナは行く先で人助けをしたようだし、それにダオスも随従していたと思われる。

 

 マナの消失を懸念して、逸早く気付いては、動いていたのもその二人だ。

 解決を理由にミッドガルズへ向かったようだし、魔王と呼ばれつつ、直接的な敵対行動はミッドガルズだけ。

 

 ──だが。

 その敵対行動が、魔科学を捨てない国に対して、やむを得ない武力行使として選んだ事だとしたら……。

 

 無論、魔物を使うという手段は、手放しに褒められたものではない。

 だ、が領土も人員も持たない者が、国に武威を見せようと思って、急造で用意できる軍隊など他にあっただろうか。

 

 クラースがそう考えている外で、アーチェもまた思考を回転させていた。

 ずっと前から違和感を感じていたし、アルヴァニスタでは答えが出せないままで、ヤキモキもしていた。

 

 王子に魔物を憑り付かせ脅すだけ、国ごと崩壊さえ不可能ではなかったのに、それはしなかった。

 だが……。

 

 しなかったのではなく、するつもりがなかったのだとしたら。

 そして、デミテル。

 

 リアを襲った魔術師が再び現れた時には、もう襲う事は禁止されていると言った。

 これは洗脳を施すことで、暗殺そのものから守った、とも言えるのではないか──。

 

 そうだよ、とアーチェは呟いた。

 

「なんでデミテルは、とっくにリア達のいなくなった家を燃やしたのか、疑問に思ってた。リアたちはミッドガルズから来たんだ。そして両親は、魔術師でもあった」

 

 アーチェは過去を思い出す度に、うんうんと頷く。

 

「両親の急な引越しは、ミッドガルズでやっていることが怖くなったから逃げて来たって、リアは言ってた……」

 

「それって、魔科学のことかな……」

 

 合いの手を入れるように呟くクレスに、クラースは可能性は高い、と返した。

 

「であれば、最初の追っ手はミッドガルズからだろう。しかし、ダオスはそれを逆に利用した、と考えると辻褄は合う」

 

 デミテルが言ってはいなかったか。

 

 家の放火はあるものを消したかったからだ、と。

 探し出すより家ごと燃やす方が手っ取り早い、と。

 

 もしかすると、家の中には魔科学に関する資料などがあったかもしれない。

 

 誰かが見つけ出して再利用するのを防ぐため、どこに隠したのか探すより、全部燃やしてしまう方を選んだ。

 

「魔科学を疎ましく思うダオスは、研究資料のような物が、スカーレット邸にあることを知っていたのかも……」

 

 室内に痛いほどの沈黙が続く。

 クレスは、ダオスに持っていた敵愾心(てきがいしん)が急速に衰えていくのを感じていた。

 

 地下墓地で遭ったダオスは恐ろしかった。

 復活したばかりのダオスは怒りに身を染めていたし、それが人類全てに向いているのだと思っていた。

 

 何故なら、それは魔王と呼ばれていたからであり、過去に飛ばされたこちらでも、その脅威は変わらないと思ったからだった。

 

 しかし、それは人間が作った偶像で、プロパガンダだったとしたら……。

 

 ミッドガルズが自らの行いから目を逸らし、周りに敵を周知させることで、自らを正当化していただけだとしたら……。

 

 ──悪は人間の方にこそ、あるのかもしれない。

 

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