【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
ここにいる誰もが、ダオスによって身内を殺された訳ではない。
不幸な事故はあったが、だれもがダオスに──ダオスの直接の指示で害されたことはない。
当初の目的のまま、ダオスを倒す力を身につけ、進んでいって良いものだろうか。
クレス達は、お互いに目配せをする。
合った視線で感情を読み取れば、同じ事を考えている、とすぐに分かった。
魔王は世界を蹂躙する事を望んでいない。
ただただ魔科学の研究を中止、あるいは完全破棄を望んでいる。
──だが、何の為に。
「この際、魔科学憎し、で戦ってるでもいいさ。……でも、何でだ? ダオスは自分を傷つける魔術の元を、なくしたいんじゃなかったのかよ?」
チェスターが疑問を呈し、クラースは首を横に振る。
「──今まで悪し様に言っていた相手に対して、簡単に手の平返すのは抵抗あるだろうが……認めねばなるまい」
「……なにを?」
「ダオスの行動は一貫していた。破壊や蹂躙を望んでいない。──逆だ」
全ての点は繋がった。
ある問題に対して、点と点が線となって繋がってしまった。
「世界樹に宿る精霊マーテルは、ダオスが枯れいく世界樹を見て嘆いた、と言っていた。救う手段を模索しようとしていた、とも言っていた。デミテルは洗脳されていたが、その目的は研究資料の破棄であり、スカーレット夫妻に害成すのを止める為だった。レアード王子の洗脳は、ミッドガルズへの参戦を止める為。無駄な流血を避ける為だ。メイアーが憑り付かれたのは、王子洗脳を暴露されると、遅かれ戦争参戦を決意させてしまうからだ。ミッドガルズを武威でもって脅したのは、魔科学を完全に破棄させたいからだ」
クラースはそこで一拍置いて、そして続けた。
「何故なら……魔科学は、世界からマナを奪ってしまう害悪だからだ」
全ては世界樹を守る為。
健全なマナの循環を取り戻す為。それこそが、ダオスの目的。
「マジかよ……。でも本当か? 憶測でしかないんじゃないか?」
「そうだ、全て憶測だ。私が勝手に、良いように解釈してしまっているだけかもしれない。だが、ダオスが多くの流血を求めていないのは間違いない。中でも、レアード王子の一件は決定的だろう」
チェスターは喉の奥で唸て、それから小さく呟いた。
「じゃあ、どうしろってんだよ……」
「そうだな、どうしたものか……」
クラースは力なく言って、帽子のツバを下ろす。
ダオスは倒すべき敵ではないかもしれないが、世界を敵に回しているのは事実だ。
「ちょっと待ってくれ……!」
モリスンが顔を上げ、クラースの方へ顔を向ける。
「レアード王子が洗脳されていた? それがミッドガルズ参戦拒否の理由だと?」
そうです、とクレスが頷いた。
「もう退治してしまったので、アルヴァニスタは参戦表明を、近日にも発表するかもしれませんが……」
言いながら、表情が苦いものへと変わっていく。
ダオスの思惑を潰してやったと思ったが、これで望まない流血が生まれてしまうことになる。
「そう……、なのか」
「どうかしましたか?」
「いや……、私にも急ぎの用があると言ったろう? その理由がアルヴァニスタに、参戦の返事を貰いに行く事だったんだが……」
もう済んでいたのだな、とモリスンは苦い笑みを浮かべた。
クレスもどう返事していいものか分からず、曖昧に頷いた。
「……で、結局どうするんだよ」
そうだな、とクラースは腕を組んで顔を上げた。
「私はもう、ダオスと正面から敵対するつもりはない。──皆はどうだ?」
クラースが顔を巡らすと、誰もが困惑した顔つきで、敵意を持った者は誰もいなかった。
その中で、クレスが代表して頷く。
「確かに……もう打倒ダオス、と思っていないのは事実です。確認も必要だろうとは思いますが」
「そうだな。だから今から、ダオスを打倒ではなく、説得に切り替える」
ミントは小首を傾げる。
「説得……ですか?」
「降参してくださーい、って呼び掛けるわけ?」
アーチェが両手を挙げてそう言うと、クラースは苦笑交じりに首を横に振った。
「それが出来れば一番楽だが、ダオスとて魔科学の完全破棄か、あるいは魔科学が完全無害な技術として、確立されなければ兵を引かないだろう」
「どっちも無理っぽいじゃん……」
「魔科学については無知もいいところだから、無理かどうかは分からんが……」
ちらり、とクレス達未来組に顔を向けたが、すぐに小さく息を吐いた。
「未来でマナが失われることを考慮すれば、まぁ実現不可能だと見て良いだろう。数十年の研究の果てに可能になろうとも、その研究過程でマナが失われる」
「ですよね……」
クレスが小さく呻いた。
だが、とクラースは続ける。
「ハナから話し合いの可能性を、捨てるべきではない。説得しに会いに行くだけでも、力が必要だ」
「城の外から呼びかけて、出てくるダオスでもないですよね」
「……露払いにも、力はいるか」
そうだな、とクラースは頷く。
「基本としては、今まで通りだ。精霊と契約を続けながら、ウィノナを探す。ダオスの真実とて、ウィノナならば知っている筈……」
だな、とチェスターが立ち上がる。
「クラースの旦那が言ったことが真実なら、ウィノナだって今のダオスを説得したいって思ってる筈だぜ。いま姿が見えないのだって、きっとその為に動いているに違いねぇんだ……!」
ウィノナの動向が、全く見えないのは気にかかる。
だが、今はいつか見つけ出せる、合流できると考えて進むしかない。
「ウィノナを探しながら精霊と契約し、呪文書の蒐集を行い力をつけ、最終的にはミッドガルズへ向かう。倒すのではなく、説得の上で戦争を終結させる為に。──皆、それでいいか?」
はい、というクレスの返事を皮切りに、それぞれが了解の返事を返した。
「そういう訳です、モリスン殿。あなたに会えたのは幸運だった」
「というと……?」
一瞬、面食らったように目をぱちくりとさせるモリスンに、クラースは方眉を上げて、おどけて見せる。
「ミッドガルズの研究員という肩書があれば、入国に関するいざこざも、随分と簡略化できるのではないですか? 例えば、許可証のようなものを発行してもらうとか」
クラースがそう言うと、モリスンはすぐ得心がいったように頷いた。
「……ああ、なるほど。確かに、それは可能だ。ミッドガルズでは自由に動けるよう手配しよう。場合によっては、助っ人としてダオス軍と一当たりして貰う事になるかもしれないが……」
「構いません。ダオスに近づこうと思ったら、それは避けられませんから」
クレスが承諾すると、モリスンは安堵して笑みを作った。
「それであれば、色々と捩じ込み易い。……正直、助かるよ」
では、とモリスンは立ち上がると、扉に向かって歩き出す。
「もう行かれるんですか?」
「こういう事は、早い方がいいだろう。君達が辿り着いたというのに、こちらの準備は間に合いませんでした、では話にならん」
クレスは苦笑し、その通りだと頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、頼りにしている。どうか、よろしく頼む」
モリスンも一同に顔を向け、腰から曲げて深く頭を下げた。
数秒体勢を維持した後、踵を返して部屋を出て行く。
その背を見つめてからしばらく、クレスが立ち上がって皆を見渡した。
「何だか突然、色んなことが変わってしまって、困惑する事も多いけど……。クラースさんが言った通りだ。説得でこの戦争が終わるというなら、それに越したことはない。皆、頑張ろう!」
おう、と全員から気合の入った返事を貰い、クレスも全身に力が漲るのを感じた。
これからウィノナに会う。
必ず見つけ出す。それを胸に旅立つ準備を進める。
まずは当初の目標通り、火の精霊の居場所へ。
照りつける太陽は忌まわしいほど強い日差しを放っていたが、今のクレスの心は決意に満ちていた。
昨日はすぐに降参した日差しにも、今ならば問題なく耐えられる気がする。
宿の室内から見える出入り口は白く光って見え、それがクレスには、これから進む先を照らす光にも、勇気を鼓舞する光にも見えた。
クレスは一度振り返って全員の顔を見つめ、そして光に向けて歩き出した。
精霊集めの下りや、アーチェのエルフの集落イベントもカットです。
あれは未来編まで行かないと、お話が回収できない事もあり、やはり今作では扱わない事にしました。