【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
アランは既に、例の傭兵を見失っていた。
だが、それでも構わず走り続けていたのは、運良く再び発見できれば良し、という程度の心持ちでいたからだ。
ただし、それもモリスンが立ち止まったことで、終わりを迎える。
辺りにチラリと視線を向ければ、どうやら王城付近の通りであるようだった。
息切れかと思いながら後ろに立って窺うと、モリスンは破願しながら手を広げ、そこにいた冒険者らしき者たちに近づいていく。
「よく来てくれた!」
「モリスンさん、遅くなってすみません」
いやいや、と手を横に小さく振り、先頭に立っている剣士の少年の前に出る。
「それにしても、何かトラブルでも? 旅程が順調に進まないのはよくある事だが、それを抜きに考えても、随分かかったじゃないか?」
「ああ、それは何といいますか……」
少年はバツが悪そうに、後方の帽子を被った男に目をやった。
「精霊との契約に手間取りましてね。モーリア坑道で契約の指輪は手に入ったものの、壊れていたので修復したりと……まぁ、そんな感じでした」
男は肩を竦めて息を吐いたが、次に帽子のツバを持ち上げると、自慢げに鼻を鳴らした。
「ですがその甲斐あって、無事、大物の精霊と契約できました。――ルナですよ」
おお、とモリスンが驚愕も露に笑みを浮かべ、何事か納得したように何度も頷いていた。
「なんとも心強い話じゃないか。現在確認できている中で、もっとも高位の精霊だ。色々な場面で、頼りになるに違いない」
調子の良いモリスンとは反対に、少年の顔は芳しくない。
でも、と言いかけ、しばらく言葉を探すように顔を
「今まで何処へ行っても、ウィノナを見つけることは出来ませんでした……」
「共に居ないから、そうではないか、と思っていたが……案の定か」
難しい顔をして腕を組んだモリスンは、それ以上言葉を発しなかった。
沈黙が生まれたが、すぐに雑踏が押し流される。
ピンク色の髪をした少女が訝しげに周囲を見て、次いで空を見上げた。
「何かこの辺、元気ないよね。この辺っていうか、国全体? 草も花も木だってさ。おっかないよ……。これってやっぱりアレの影響?」
「う、む……」
モリスンが返答に詰まる。
アレが何かは分からないが、モリスンが携わっている研究と関係あるらしい。
大きな声では言えないと、詳しい事は教えられていないから、アランには予想すら出来ないものの、どうにもキナ臭い気がした。
「なぁ、ところで……」
アランは目の前にいる冒険者のグループを見渡し、そしてモリスンに顔を向ける。
「これが言ってた、選りすぐりってわけか? ガキばっかりじゃねぇか」
「……なに?」
不快げに眉を寄せる者、鼻息荒く突っ掛かりそうな者、そのどちらでもない者と、反応は様々だった。
だが、直接掴み掛って来る者はいない。
一人の少年が手で制しただけで、それ以上の反応をしなかったからだ。
なかなか統率されている、とアランは思った。
下手な傭兵連中の混成部隊よりは役に立つ、と思いを新たにする。
そんな感想を頭の中でボヤいていると、モリスンが先に小さく頭を下げた。
「すまないな、皆。……おい、アラン、この者たちの実力は私が保証する。頼りになるのは間違いない」
そうかい、と頷いて、アランは少年に向き直り軽く頭を下げた。
「スマンスマン。どうも俺は昔っから、思ったことはまず口に出ちまう性分なんでね」
「……いえ、実際まだ子供だという、自覚はありますから」
アランは口笛を吹いて、手を頭の後ろで組む。
「そういう所は大人だな」
微かに笑んで、アランは少年の腰のモノを見ては、面白げに鼻を鳴らした。
「あんたの流派を聞かせてくれ」
「……アルベイン流です」
「やっぱりか。どうだ、ひとつ手合わせしてみないか」
同じ剣士として、手合わせは挨拶みたいなものだ。
互いの実力が分かっていれば、何かと話も通じやすい。
だからと思っての提案だったのだが、それはモリスンに止められてしまった。
「自己紹介だってまだだろう? それに彼らを登城させた上で、そちらへの紹介だってある。生傷こさえて面会させるわけにもいかない。やるなら後にしてくれ」
「そりゃ残念……」
アランは素直に受け入れた。
相手の実力は知りたいが、どうしてもと言う訳ではない。
そっぽを向いて話を終わらせると、クレスは苦笑してモリスンに向き直った。
「すぐ城に向かった方がいいですか?」
「……そうだな。宿の用意はこちらでしてあるので、そちらの心配はいらない。とりあえず傭兵登録だけでもしてもらって、その後の事は……ちょっと分からんが、会議に出席してもらうことになるかもしれん」
「何だか大事みたいじゃん」
「実際、城内の緊張は高まるばかりだ。……少し時間を使いすぎた。自己紹介は歩く道々で行おう」
言うや否や、モリスンは先頭を歩き出す。
当初は一人の傭兵らしき人物を追っていたというのに、これでは完全に消息不明だ。
辺りを一応見渡してから、続く一行の後を、アランも追いかけようと決めた。
◇◆◇◆◇◆
クレス達の自己紹介が一通り終わった辺りで、一向は王城に到着した。
中に入れば、入り口脇に傭兵受付の机があり、既に幾人かが実際に登録を行っている。
クレス達をその列に並ばせると、後は終了するまで待ち続けるしかない。
アラン自身の目的である編成状況の確認を、クレス達の受付が終わるまでにやっておこうか、などと考えていた。
アランはその流れる列を見るともなく見ていたが、また新たに受付の前に立った人物に目が留まった。
モリスンが探し、またアランが追った、あの傭兵らしき人物がいる。
まだ未登録だったのか、と思う一方、むしろ未登録でいる事に納得する自分もいた。
アランの視線に気付いたモリスンもまた、その傭兵に気付いたようだ。
モリスンは何かに憑り付かれたかのような、不安定な足取りで近づいていく。
「では、お名前をお伺いします」
「……ロミー・カルディナーレ」
受付の問いに幾つか答えた後、傭兵が自身の名を名乗った。
アランはその名に覚えはないが、底冷えするような声音は女のもので、特別危険な兆候は感じられなかった。
モリスンは遠慮なくその傭兵に近づくと、フードを外そうと手を伸ばす。
しかし、もう少しで掴める、という所で、傭兵はするりとその手から逃れてしまった。
フードの隙間から見える瞳がモリスンを捉え、その目が冷ややかに細められる。
不快なものを見る、敵意を隠さぬ眼差しだった。
それからつい、と周りに視線を向けると、あるい一点で動きが止まる。
目だけではなく、その身体もまた硬直したように止まった。
視線の先には、クレスと言う名の少年剣士がいる。
フードの隙間から見える眼が瞠目していた。
クレス、と小さくか細い声が漏れる。
だが、名を呼ばれた少年は、フードを被った傭兵を見て、首を傾げた。
外套に目印などもなく、それだけでは顔見知りでも分かるはずがない。
「何処かで会ったかな……」
クレスの言葉に、傭兵から返答はなかった。
幾らか逡巡する動きを見せて、そしてようやく傭兵はフードを下ろす。
クレスは元より、他幾人かの息を呑む音が、アランには聞こえた。