【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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望む未来の為に その1

 

 モリスンはクレス達に向き直り、申し訳なさそうに顔を伏せた。

 

「君達の落ち着きを取り戻すのにも、時間がいるだろうが……、ゆっくりしている暇がなくなった。会議が始まる前に、こちらも話を済ませてしまいたい」

 

 クレス達としても、一同で話し合いたいことがある。その言葉に異存はなかった。

 モリスンに案内される間、移動中は一切の会話もなく、それで別室に移動していった。

 

 

 

 やはり会話のないまま部屋へ入り、それぞれが適当な席に着くまで、沈黙は続いた。

 アーチェは既に泣きやんでいたが、その目はまだ赤い。

 

 モリスンは皆が思い思いの姿勢で落ち着いたのを確認すると、数秒待って口を開く。

 

「まず、何から話したものか……」

 

 嘆息混じりの声には、ひどく困惑を感じさせた。

 それは誰しも同じ思いで、先程の光景が忘れられない。

 

 しかし、いつまでも沈黙している訳にもいかず、モリスンの言葉を引き継ぐ形で、クレスが口を開いた。

 

「ウィノナの今の姿には、正直……驚かされました」

 

 ああ、とチェスターも力なく頷く。

 

「苦労はあっても、アイツらしく元気にやってるんだと思ってた。……いや、思いたかったのかもな」

 

 誰しも身内の不幸は望んでいない。

 そうであるはずだ、そうに違いないと思い、期待する。

 

 連絡を取る手段がなかった以上、そう思って行動する他なかった。

 それでも、あの変わりようには言葉もない。

 

「一体何が、ウィノナをあそこまで変えたんだ……」

 

 片腕を失った痛みは相当なものだろう、とクレスも思う。

 単に身体の痛みだけではなく、心に負った傷もまた、大きなものの筈だ。

 

 傷を負わせた当人に恨みが深いのは当然で、だから隊長に放った矢については、自業自得と納得もできる。

 

 それとも、ウィノナは何か新しく予知夢を視たのだろうか。

 それがウィノナ駆り立ててといるのだとしたら──。

 

 その考えを中断させるように、モリスンが口を開いた。

 

「ウィノナには、もうダオスを救うことしか頭にないんだと思う……」

 

 力なく呟いた声に力はなく、気力らしきものは窺えない。

 モリスンのくたびれた雰囲気も、その姿に拍車を掛けていた。

 

 そして、その言葉には説得力があった。

 実際にウィノナが腕を失った時に起こった出来事が真実ならば、その行動にも一定の理解が得られる。

 

「それじゃあ、僕らが敵に見えるわけだ……」

 

 クレスの消沈して、顔を下に向ける。

 

「僕らはダオスを倒すために……、倒す手段を得るために、未来からやって来た」

 

「……でもよ、ダオスが一方的な悪モンじゃねぇって、俺らはもう知ってるだろ?」

 

 チェスターは若干不機嫌そうに言うと、クラースが頷く。

 

「そうだ。私にしても力をつけるのは、ダオスに近づく為だと割り切っている。だから、ダオスの居城に向かうのは説得する為だと、彼女に説明できればいいんだが……」

 

「でも、ウィノナはもう城から出て行きましたから……、今はもうどこにいるのか」

 

「──既に前線に向かってるかもな」

 

 これまで沈黙を保ち続けていた、アランが口を挟んだ。

 

「許可証があるんだ。すぐにでも平原を抜けて、古城に向かいたいだろうよ。城の奴らだって黙っちゃいないし、追跡部隊が来る事くらいは予想するはずだ。時間は掛けたくないだろう」

 

「けどよ、ヴァルハラ平原は、モンスターだらけって話だろ? 古城に近づくのは、難しいんじゃねぇか?」

 

 チェスターが首を振って難色を示したが、モリスンはそれとは違う意味で首を振った。

 

「自信があるんだろうな。それを突破する為に、この一年間を準備に使っていたとするなら、姿が見えなかった事にも納得ができる」

 

 それに、とアランが言い差す。

 

「あの身軽さなら、むしろ一人の方が安全かもしれねぇ。……俺が先に行ってよう。これから始まるっていう、会議を待ってる余裕もないだろ? 俺の部隊は全滅したから身が軽い。すぐにでも出られる」

 

「……分かった、私も後で向かおう。今回の実動部隊に私は組み込まれていないから、身が軽いのは一緒だ」

 

 当初はモリスンも、その魔術の腕を見込まれて、実動部隊で戦う予定だった。

 だが、軍部と研究室の確執が深まり、結局外される事になってしまった。

 

 軍部はあくまで自分達の主導で、手柄を独り占めしたいのだろう。

 外様の力を借りる事は、戦後の発言権の事を考えても、歓迎したい事態ではない。

 

「だから、私も会議が始まる前には。出発できるようにする」

 

「じゃ、また後でな」

 

 モリスンが了承すると、アランは直ぐに立ち上がり、部屋から出ていく。

 

 それを見ていたチェスターは、苛立たしげに唸った。

 即座に動いたアランが羨ましいのだろう。

 

 ウィノナの安否を気遣り、傍にいてやりたいと思うのは、チェスターの方が上だ。

 しかし、今は話し合いの方が重要で、勝手を許す訳にはいかない。

 

 クレスがゆっくり首を横に振るのを見て、チェスターは腕を組んではむっつりと黙った。

 

 そして、一瞬生まれた沈黙の間に、モリスンが声を上げる、

 

「だが……そうだ、その前にやることもある。危険な魔科学兵器を、そのままにしてはおけない。あれが破壊できれば、ウィノナとダオスとの説得も容易になるだろう。最終調整といって魔導砲に近づき、溜め込んだエネルギーが暴走するよう細工してみよう」

 

「見つかれば危険ですよ。十分、気をつけて」

 

 クラースの気遣わしげな言葉に、モリスンは自信に満ちた表情で頷く。

 

「ああ、無論だ。……だがまずは、こちらの相談を片付けてしまおう」

 

 そのタイミングで扉が閉まり、ミントが恐る恐る口を開いた。

 

「会議が終われば、すぐに出陣でしょうか……」

 

「恐らくは……」

 

 クラースが返すと、沈痛な面持ちのまま、ミントが続ける。

 

「では今のうちに、ウィノナさんを説得する打ち合わせが、必要ではないでしょうか……。これから向かう場所で会うことになれば、問答無用で戦闘、ということもあり得ますし……」

 

「そんなことさせないってば!」

 

 ようやく普段どおりに話せるようになったアーチェが、勢い良くテーブルを叩く。

 

「でもな、アーチェ。聞く耳もってくれなけりゃ、身を守ることもしなくっちゃよ……」

 

「でも、聞く耳持つような材料を提示できれば、きっとウィノナも武器を降ろしてくれる。今はそれを話し合おう」

 

 クレスが言うと、一同が頷く。

 それを見渡してミントが切り出した。

 

「まず、私達はダオスと戦うつもりはない、これが大前提ですよね?」

 

 質問というより確認の言葉に、クラースが頷く。

 

「あぁ、最初は魔王という肩書きから、ダオスはこの世全てを憎んでいると思っていた。しかしそれは、モリスン殿の話を信じる限り、間違いだと推測できる。ダオスが憎むのは、魔科学とそれに関わる人間だけだろう」

 

「じゃあ、ミッドガルズの王様とかを説得できれば、この戦争は終わるわけ? あたし達が城に乗り込む必要だってなくなるじゃん」

 

「ダオスも当初、説得を試みたと聞いている。しかし、聞き入れられなかった。だから、戦争になった。それなのに私たちが出て行って、王や家臣を説得できるかと言われたら……まぁ、無理だろう」

 

 クラースが腕を組んで嘆息すると、それを引き継ぐように、モリスンが口を開いた。

 

「お互いに譲れないものがあるからこそ、最後の手段として戦争を選んだ。そして、これは単に、研究主任を暗殺すれば終わる問題ではない。首が()げ変わるだけで、研究は続行されるだろう。国として魔科学を禁止する法令を作るか、国そのものをなくして研究を出来なくするか、そういう二者択一の問題だと、ダオスは考えたようだな。そういった旨の最後通告も、ダオスから送られている」

 

「……でも、皆が幸せになれる、ハッピーエンドに持って行きたかったらさ」

 

 アーチェはクラースを真似るように腕を組み、首を傾げて言った。

 

「ウィノナ説得して、ダオス説得して、魔科学を捨てるように、国を説得すればいいわけ?」

 

「改めて聞くと、全く展望が見えてこないが……、それに近いことは実現させる必要があるだろう」

 

 クラースが頭を抱えそうな表情で言うと、モリスンが片手を挙げて、会話を一時中断させた。

 

「──待ってくれ、それが正しい歴史なのか?」

 

「なに言ってんだよ。どういう意味だよ、おっさん?」

 

 チェスターが難しい表情で顔を向けると、モリスンは渋面を作って問う。

 

「君たちは未来から来た。……つまり、これから先、ダオスとの戦いもどうなるか、知ってるんじゃないのか? 教えてくれ、ミッドガルズは魔科学を捨てる事に賛成するのか? そしてダオスは、この時代で忽然といなくなり、そして未来に現れるのか?」

 

「いえ、魔科学の方は分かりませんが、ダオスはこの時代の英雄に倒されたと聞いています。……でも、その実、時間転移して逃げていたとまで、知りませんでしたが」

 

「そう、か……」

 

 更に難しい顔をして黙り込むモリスンに、ミントが不安げに柳眉を寄せる。

 

「あの……、それがなにか?」

 

「ダオスが倒された、というのが君たちの知る歴史ならば、それを不用意に変えてはならない……と、思う」

 

 眉間に皴を寄せ、絞り出す様に言ったモリスンに、チェスターは机を叩いて立ち上がる。

 

「おいおいおいおい! 突然、なに言ってんだよ。そもそも説得しようって話だろ? 倒しちまったら、ご破算じゃねぇか!」

 

 クレスはチェスターを宥め、座るように指示しながら、モリスンに顔を向ける。

 

「僕たちはダオスを倒すの止め、説得しようという事で話は決まっていました。実際、彼は悪逆非道の魔王ではなかった、という結論にも達しましたし、実際にダオスは世界を蹂躙しようとも考えていないのでしょう。──でも、歴史を変えるなっていうことは、説得を諦め倒してしまえ、ということですよね?」

 

「それは、そうだが……」

 

 モリスンは表情を変えないまま腕を組み、顔を下に向けた。

 その姿を見て、尚もチェスターは言い募る。

 

「あんたも説得するのに賛成だったじゃねぇか! それなのに何で突然、そんな言い分変えちまうんだよ? 歴史がどうのって、それがそんなに大切なのかよ!?」

 

「──そうとも、事はそう簡単ではないのだ。……極端な話をするぞ。もし君の親が、君を生む前に死んでしまったら、今の君はどうなると思う?」

 

「な、なに……?」

 

 とチェスターは目をパチクリとさせて、突然の質問に面食らった。

 

「俺の親? ンなこと言われてもな……、俺はここにいるんだから……」

 

 考えを口に出す度、チェスターの顔は難しそうに歪んでいく。

 

「君を生む人がいなくなったとしても、今の君は現在ここにいられるのかね?」

 

 そう問われても、チェスターは答えを返せない。

 遂に口を真一文字に結んで、目を瞑ってしまった。

 それを見かねて、クレスが間に入って聞き返す。

 

「……でもそれと、ダオス倒しちゃいけない事、何が関係あるんですか?」

 

「だから、極端な話をすると言ったろう? 歴史を変えるということは、ここにいる誰かが消えてしまうかもしれない、という事だ。よしんば、そこに問題が発生しなかったとしても、未来へ帰った時、世界が様変わりしている可能性もある。君の生まれ育った村に、君の家がないし、家族もいない……なんて事は、決してあり得ない想像じゃない」

 

「せっかく無事に説得できて、八方丸く収めて意気揚々と帰っても、その未来が別物に変貌している可能性、か……」

 

 クラースはしばし考え込んでから、首を傾けた姿勢で停止してしまった。

 

 てっきり、クラースが反論してくれると思っていたチェスターは、苛立ちをぶつけるように、モリスンを睨み付ける。

 

「説得が成功しても危険だ、だから倒しちまえって? ウィノナがあんなんになって止めようとしてるのに、諦めろって言えんのかよ!」

 

「──待ちたまえ。どうしようもない、とは言ってない」

 

「何か手があるんですか!?」

 

 希望を残す言い方をしたモリスンに、クレスは喜色を浮かべる。

 

「少なくとも、今は説得することを諦める。考えなしの無鉄砲な行動は、あまりに危険だ」

 

 立ち上がりかけたチェスターを、クレスが手で押さえ、続きを促す。

 

「それはつまり、どういう……?」

 

「君たちは未来から来た。だから未来で判明している、確定した情報を知っているだろう。それを覆さない前提で、やれることをやるんだ」

 

「今やれることだけやる? そう言われても、ちょっとピンと来ませんが……」

 

「君たちは未来を知っている。しかしそれは、過去の人間という、私の立ち位置から見ればの話だ。対して君たちに置き換えると、現代に生きた君たちは、未来の事をを知っているかい?」

 

「……もちろん、知りません」

 

「──そこに突くべき穴がある」

 

 そう言って、モリスンは瞳に力を入れて断言した。

 

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