【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「今ここで未来を変えれば、帰った所で君たちの帰るべき家はないかもしれない。しかし、帰った後でなら、未来を変えても──変わると思われることをしても、存在を危険に晒すことにはならない」
ミントは聞いた内容を咀嚼し、理解するにつれ眉をひそめた。
「傲慢な考え方とも思えますが。自分たちの未来さえ確保できれば、より未来の存在を、危険に晒してもよいのだと」
「──もちろん傲慢だ」
モリスンは強く断言して、そう言い放った。
「過去に飛び、望む未来を手に入れようという所業が、そもそも傲慢の極みなのだ。それを悪行と思うのなら、このまま何もせずに帰るしかない」
「……結局、あとは覚悟だけってことね」
アーチェは困ったような顔をして、肩を竦める。
「でもさ、知りようのない未来、変わる可能性のある未来、その全てが悪いってことはないっしょ。結果的に、より良い方向に変わるかもしんないし。……そう思ってやろうよ!」
「悪くなった場合、責任の取りようがないのが腑に落ちんが……。まぁ、それすら知りようのない話ではある」
クラースは納得し難い表情で嘆息したが、チェスターは逆に息込んで身を乗り出した。
「傲慢なことをしようって言うんだ。傲慢になりきって、むしろ何が悪いと開き直ろうぜ」
「チェスター……」
クレスは呆れた声を出して、呆れた表情で半眼を向けた。
二人のやり取りを見ていたミントは、気を取り直すように胸の前で、ポンと手を合わせる。
「でも、やろうとしてることを考えれば、そのぐらいの考えでいなければ、いけないのかもしれませんね」
「……皆、どうだ。覚悟を決めるか、それとも諦めるか。……ここで決めてくれ」
モリスンが一同を見渡す。
だが、そこにはある種の覚悟が既にあり、言葉にしなくとも何をしたいか物語っていた。
──ウィノナを救いたい、ダオスを救ってやりたい。
物言わぬ決意は、モリスンへと十分以上に伝わった。
それを受け取り一つ頷くと、テーブルの上で手を組む。
「よし、じゃあ次は、より具体的な話だ」
「歴史を変えずにダオスを救う……。でも、これは本当に可能なのでしょうか?」
「聞いただけじゃ、どうしようもないように思えるけどな」
「……そうだな。歴史を変えないという大前提がある以上、まず我々が絶対にしてはいけないこと。それはダオスを、この時代で助けることだ」
モリスンの言い分に、納得しがたい空気が包む。
それを見て取って、モリスンは方眉を上げて、首を小さく傾けた。
「何もそれで、ダオス救済が全て泡と消えるわけではないだろう? 君たちが言っていたじゃないか、──ダオスは、復活するのだと」
「……ああ!」
クレスもチェスターも、言われて初めてそのことに気が付いた。
助けようという気持ちが先行し過ぎていて、ダオスが待ち構える古城で、事を成さねばならないと思い込んでいた。
しかし勿論、救う手立ては、その一ヶ所にしか存在しない訳ではない。
モリスンはクレス達の納得を見て、顔の前で指を一本立てる。
「この時代でダオスは倒される、しかし復活もする。そこで助けてやればいい」
「……待ってください。確か……もっと正確に言うと、復活する前に封印されているんです。恐らくですけど、逃げた先の時代で僕の父たちが封印して、それが僕らの時代で復活したんだと思います」
「詳しい年代は?」
「いえ、そこまでは……」
難しい顔を作ったモリスンに、クレスは渋面を作って首を横に振っる。
モリスンは表情を変えず、腕を組んだ格好のまま、椅子の背もたれに体重を預けた。
「……だったら、こちらで下手に手を出すべきじゃないかもしれないな。手を出すと、むしろその封印をするべく行動する者たちを、私達が阻害する可能性も出てくる」
でもさ、とアーチェが指を一本立てて、コメカミに当てる。
「ダオスだって、決まった年代に逃げるとは限らないじゃん? 何となくで、本当にパッと選んで、時間を飛んだかも。……今回は未来じゃなくて、過去に逃げるかもしないし。っていうか、逃げるならそっちの方が良くない?」
「起こるべくして起こる。全ては必然だ……なんて考えるのは、楽観的すぎるかな」
クラースは苦笑して天井を見上げたが、モリスンはむしろ賛成の声を上げた。
「いいや、それについてはむしろ賛成の意見だ」
そう前置きしてから、強い口調で続ける。
「――だが、これだけは言える。ダオスは過去に逃げない」
「何でそんなこと言えるのさ?」
アーチェが不審さも隠さず言うと、モリスンは周りに言い聞かせるような、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「順に説明する。そもそも、先程から根拠に使っている時空間理論にしても、以前ダオスから聞いたものを、私が研究していた考えと合わせたて作った代物だ。……それを考えると、ダオスは過去に行く恐ろしさを知っている」
「それは……つまり、どういう?」
クレスは困惑気味に眉根を寄せる。
「ダオスはウィノナに心を開いていた。恐らく、この時代で心安らかに隣で過ごせる、唯一の人間だろう。過去に飛んでしまえば、そうして過ごせたウィノナの存在を、消してしまう可能性を生む」
「だから、過去にはいかない。未来にしか飛ばないはずだって?」
「その通り。だからこそ、飛ぶ時代の先も予想できる。どうせ未来に飛ぶしかないのなら、ウィノナという執着を捨てたいだろう。彼が再び現れる時代は、即ちウィノナが寿命で死んだ後だ」
「じゃあ、少なくとも五十年以内には飛ばない。飛ぶつもりがない……」
「そうだな。とはいえ百年先には別の形で復活もしている。それより何年前のことか分からないが、一度封印された」
「……それを考えると、八十年から九十年先の間にダオスは飛ぶと考えられる、ですか」
「聞いた限りじゃ、反論の余地は無いように思えるが。──いや、待てよ」
クラースが顎の先を摘んで、眉根を寄せた。
「ウィノナは未来で生まれているわけじゃないか? ──つまり、クレス達の感覚では、現代という意味だが。このままこの時代で寿命を迎えて死ぬ年より、生まれた年の方が後になるんだから、より遠くの未来へ飛ぶことを選ぶんじゃないのか?」
「ふむ……、確かに。ウィノナが自分の年齢を伝えていたならば、生まれた年代より、後ならとりあえず良し、としたのかもしれない。年齢を知らないなら尚の事、予想でアタリをつけて飛んだ、という事になるだろう。実際に遥か未来へ逃げなかったのが、その理由にならないか?」
モリスンの解説は、言わんとしている事は分かるものの、どうにも説得力に欠ける気がした。
その視線を受けてか、モリスンは苦笑する。
「これは勿論、ただの推論だ。完璧と胸を張って言えるものではないだろう。しかし、考えてもみて欲しい。ダオスは確かに、ここの誰より時間転移に慣れているのだろうが、全てを完璧に計算尽くして行動できる、というわけでもないだろう。話を聞くに、ダオスが逃げるのは戦闘に破れたが故だ。咄嗟の逃げ先として、未来を選んだと考えられる」
それについては異論はない。
敵に背を見せて部屋から逃げるより、よほど安全な逃げ方だろう。
「つまり、切羽詰って逃げ出したんだ。そんな時に、過去には逃げない、未来へ逃げるにしても五十年以上は先だと、そう判断は出来たとして……。その先まで考え抜く余裕と、時間なんてあるのか? 今まさに止めを刺される、という状況だぞ?」
そう言われれば、クレスも腑に落ちるものを感じた。
誰もが死ぬ寸前──それも敵の凶刃が迫っている状況で、逃げる先を完全に脳内で検証できるとは思えない。
単に近くの扉に飛び込むだけ、というのならまだしも、その扉が幾百も用意された中から、一つだけ正解を選ぶかのような難易度だ。
むしろ、咄嗟の判断として未来を選び、その上で八十年以上先を選べる判断力は、流石と言うべきなのかもしれない。
「追い詰められれば、ミスも生まれて当然。そして、咄嗟に取った行動としては、そのミスを最小限に抑えた、とも言える。……後付の難癖のようにも聞こえるかもしれないが、しかし現状では、そう考えておこう思う」
はい、と頷くクレスに対して、チェスターはしかめっ面のまま頭に手を当てる。
「……頭がこんがらがってきたぜ」
「なに……、やることはシンプルだ。少なくとも、現段階では。……ややこしいのは、それからだ」
「それは……つまり、どういうことです?」
「ダオスが逃げようと思うほど追い詰め、時間転移させる。今はそれだけで良い。──ほら、至ってシンプルだろう?」
「あー……、そりゃ確かに」
一瞬、楽観的な空気が漂い始めた所に、クラースは難しい口調で言葉を挟んだ。
「だが、問題は……。ウィノナを説得できるかどうかだ」
「倒しますけどいいですか、でウィノナが納得するか?」
チェスターは自分で言って、そんなの無理だとで言うように、肩を竦めた。
事実、そんな事は不可能だろう。
ダオスを救う事に、あれだけの執着を見せるウィノナに、生半可な説得は意味を成さない。
「……どうすんだよ? いっそ無理やりにでも、ダオスを倒すか?」
チェスターとしては、単に茶化すつもりで言った言葉だったが、返って来たのは剣呑な沈黙だった。
クラースならば無碍に却下してくるとばかり思っていたのに、むしろ、その意見を推す真剣な眼差しだけが返って来る。
「……おい、まさか」
「それしかないだろう」
そう言って、クラースが頷き――。
「ダオスを殺すんじゃない、逃がすだけだ」
モリスンが続く言葉を拾って頷いた。
「そんな言い訳、あのウィノナに通じるかよ!? あいつの目を見たろう! この世の全てを敵に回しても、構わないって顔してたぜ!?」
底冷えする殺意と敵意、それは今思い出しても身が竦むほどだった。
例え両腕を失っても、喉笛を噛み千切ろうと、迫ってくるのが目に見える程だ。
ダオスの敵は、誰が相手であろうとも、容赦しないだろう。
「言っても無駄なら、やるしかない」
クラースは天井を仰ぎ見てから嘆息して、再び視線をテーブルに戻す。
「事前の説明も意味がない。邪魔されるだけなら御の字、下手すれば、ここにいる半数が倒れる事になるだろう。……だが、事が終われば、必ず説明する。聞く耳を持ってくれないかもしれない。──しかし未来を守りつつ、ダオスを救おうとするにはこれしか方法がない」
沈痛な雰囲気が、場を支配した。
クレスは何も言えずテーブルに視線を落とし、一点を見つめる。
ミントも、そしてアーチェさえも、口を引き絞って苦渋な表情を浮かべていた。
それらを見てしまえば、チェスターもまた、何も言う事ができなかった。
彼らの表情から意を汲み取り、モリスンが重い溜息をつく。
「……とどめの一撃は、私が放つ。それが償いでもあるし、彼と彼女をこのようにしてしまった責任だと思う」
可とも不可とも取れる沈黙の中、扉を叩く音がする。
返事をすれば、兵士が扉を開くと共に、敬礼をして入ってきた。
「会議の準備が整いました。どうぞ、こちらにおいでください」
モリスンは、他の誰より早く立ち上がる。
「私はこれから、魔科学研究所の方に行ってから、アランを追って合流しよう。――頼むぞ。派手に動いてくれれば、そちらに戦力が分散される」
「……ああ、我々独自で陽動作戦、それもいいですね。作戦の邪魔にならない範囲ならば」
「ウィノナとモリスンさん達が、城に潜入するなら、それも有効な手かもしれない」
クラースとクレスが、互いに顔を見合わせ頷く。
今回の戦いは、戦争に勝つことでも、打倒する事でもない。
戦傷者が少なくなるよう努力するのは当然としても、そのまま軍がダオス城に雪崩れ込むようなことは阻止したかった。
それを考えれば、敵の注意をクレス達へと集中させ、多くの敵部隊が寄ってくれれば都合がいい。
幸い、クレス達には範囲攻撃を得意とする、召喚術や魔術がある。
魔術に疎いミッドガルズの兵士達ではこうはいかない。
本番はむしろ、ダオス討伐後だった。
考えることは山積していて、やるべきことはそれ以上に多く、且つ大変だろう。
しかし、今は──。
まず、この一戦を制しなければ、その後の考える機会も失くす。
「こちらも、出来る限りの努力を約束する」
男三人と拳を合わせたモリスンは部屋を出て行き、その背を追いかけるようにクレス達も部屋を出て行く。
「これから詳しい作戦説明があるとはいえ、私達に出来ることは、決して多くはない」
クラースの言葉にクレスは分かっています、と短く返事をする。
「まずは、小さいことから積み上げるしかない、ですよね」
それができなければ、自分たちの未来、ダオスの未来、ウィノナの未来を救うことは出来ない。
クレスは一同に頷き、先頭に立って歩くと、会議室へと向かっていった。
当時ゲームをプレイしていて、ダオスは何で過去に逃げないんだ、と思ったものです。
その答えをこの小説で読んだ時、衝撃を受けると共に、凄く納得したのを覚えています。