【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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ヴァルハラ平原にて その1

 

 アランは飛ぶような勢いで城を出ると、周囲を見渡した。

 既にウィノナは、城壁内から逃げて、後ろ姿の影も見えない。

 

 あれだけの跳躍力と、人垣をすり抜ける身のこなしがあれば、城の兵など役には立つまい。

 後を追った兵士は多い筈だが、悲鳴の一つも聞こえなかった。

 

 という事は、未だに兵達もウィノナを捕捉していないに違いなかった。

 

 だが、彼女が向かう先は、ヴァルハラ平原だと分かっている。

 とにかく北上すれば、いつか見つかるだろう、とアランは楽観的に走り出す。

 

 人垣の間を縫うように走り、時にぶつかり、時に避けながらアランは走る。

 

 数分の間そうしていると、前方によく見た顔を発見した。

 気付いていないなら無視して進もうか、と考え始めた時、向こうの方が気付いて、小さく手を挙げてきた。

 

 そうであるなら、無視する訳にもいかない。

 手早く済ませて先に進もうと腹をくくり、アランは足を止めた。

 

「よう、キャロル。悪ぃが……って、何だその格好?」

 

 遅れて気付いた彼女の格好は、普段の修道服ではなかった。

 

 正確に言えば、修道服の上から外套やサックを背負った格好で、それは例えば、旅装と呼ばれる格好によく似ていた。

 

「なんかまるで、何処かに出掛けるみたいじゃないか?」

 

「どこをどう見ても、そう見えるでしょう。気軽に隣家にでも、遊びに行くような格好に見えますか」

 

「相変わらずキツいね……」

 

 そう(うそぶ)いて、しかし同時に疑問にも思う。

 

「こんな危険な時期に、敢えてどこへ行こうって言うんだ? あー……、一人で?」

 

 キャロルは首を横に振る。

 そうしてキャロルの向けた視線の先を辿れば、後方には同じ身なりの修道女たちが見えた。

 

 結構な人数だが、十名は越えない。

 しかし、人数がいたとしても、女性だけの旅はいかにも危うく思えた。

 

「なんでまた? 夜逃げっていうには、早すぎる時間だ」

 

「なんと無礼な……! 傷付き倒れた無辜の民を捨て、我々だけが逃げ出すなど……! あってはならないことです!」

 

 鼻息荒く迫ってくるキャロルを宥め、アランは両手を軽く突き出し、平身低頭して詫びた。

 

「あー、すまん、悪かった。まぁ、そういうつもりじゃなかったんだ、分かるだろ? ……だが、それならそれで、一体何しようってんだよ?」

 

「ただ祈りを捧げるだけでは、救えない命があると知りました。……ただ、徒労に終わるかもしれません。しかし、そこに希望があるのなら、私達に出来ることを試してみたいのです」

 

 その意志の篭った瞳に、アランは何を言う事もできなくなる。

 何が起ころうとも、納得した上での行動ならば、それはそれで良いのだろう。

 

 その覚悟は、お節介で何かを言う範囲を超えている。

 キャロルは意志の感じる瞳で頷き、後方の修道女に合流しようと踵を返した。

 

「──では、参ります。機会があれば、また会うやもしれません」

 

「ああ、幸運を。俺も今は急ぎなんだ、また今度な」

 

 言うや否や、片腕を上げてアランは駆け出す。

 キャロルが背後で修道女を纏める声を聞きながら、ミッドガルズ北部へ抜ける道を探して、とにかく急いで地を蹴った。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 駐屯地に滞在する衛兵の仕事は、今日もまたいつもと同じ、代わり映えのしないものだった。

 

 それはヴァルハラ平原の要所に設けられた関所での人員管理であり、立ち入る傭兵や兵士を確認するのが、その主な任務だった。

 

 しかし、訪れる全ての人間が、戦士に類する者という訳でもない。

 時折、商人が出稼ぎに傷薬や包帯など、医療品を売りに来る。

 

 基本的に駐屯地から町までの旅路は自己責任だが、傭兵や兵が移動する日付を教えてやったりもした。

 

 その一人一人を確認するのが衛兵の仕事であり、積み荷があるなら、中身を改めるのが役目だった。

 

 しかしその日は、たった独りで傭兵がやって来たのが、変わっていると言えば、変わっている事だった。

 

 既にダオス軍との開戦の報は、こちらにも届いていた、

 平原で決戦を行う為に、軍を編制している最中であり、傭兵も慌ただしく動いていた。

 

 そうした奴らは、これが最後の稼ぎ時だと、目を血走らせている。

 

 多くの傭兵も、今は部隊編成に向けて動いている頃だったが、しかし、今日追加で送られて来る、という話は聞いていない。

 

 それに、ミッドガルズで徴募された傭兵は、部隊に組み込まれてからやって来る仕組みだった。

 最低単位は四名からで、だが実際には、四人で来ることはまずない。

 

 一定の人数が集まるまでは出発しないものだし、順次出来上がった部隊から送り出したのだとしても、駐屯地までの移動を安全に過ごせるように、即興の徒党を組んでやってくる。

 

 そんな中、たった一人で来た傭兵は、いかにも怪しく思われた。

 だが、何をもって怪しいと断じればいいのか、衛兵には分からない。

 

 ここに関所を設けたのは、周囲の安全を確保出来たからだ。

 広過ぎる平原では、隠れて侵入する事は、実は容易い。

 

 しかしそれをしないのは、他から進むには崖を登らなければならなかったり、強力な魔物が跋扈している部分を進まねばならなかった。

 

 他の安全なルートまで、数日を要する事から必然的に、平原に進むに適した場所は限られて来る。

 

 衛兵は、目の前までやって来た傭兵に、幾らか緊張を滲ませた口調で手を差し出す。

 

「……許可証の提示を」

 

 薄汚れた松の葉色の外套から、見慣れた許可証が出てきたのを見て、一応の安心をした。

 

 表裏を確認すれば、やはり見慣れた物。

 何度となく確認してきた反復は、その違和感を感じさせなかった。

 

「許可証は、本物だな……」

 

「当然、城の入り口の受付で貰ってきた」

 

 許可証自体が本物であるのは、疑いようがない。

 これから行われるのは、人類の存亡をかけた最終決戦だ。

 

 そういう時期ならば混乱も相応に多いはずで、中にいるチームとは遅れてやってきたのだろう、と衛兵は判断した。

 

 許可証が返却されて、傭兵は軽く頭を下げる。

 フードを一度も取ろうとしない事に衛兵は不満に思ったが、傭兵が礼儀知らずで、躾もされてないというのは珍しくない。

 

 つまらなそうに鼻息を一つ吐くと、傭兵に奥の方を顎で示した。

 

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