【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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忍び寄る危機 その2

 

 ウィノナはクレスと共に、チェスターと狩りの約束をしてから道場の門を潜った。

 

 家の中に入ってからは、まず汗を流してさっぱりし、その後はミゲールに多少のお小言など貰いながら、マリアの手料理を食べて一家団欒を過ごす。

 

 何てことはない、ごくありふれた、日常の光景だった。

 そうして夜も更ければ、すぐに睡魔が襲ってくる。

 

 それに抗う事なくベッドに入ると、すぐ眠りに落ち……。

 そしてウィノナは、その夜に不思議な夢を見た。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

 豪奢な調度品に囲まれた部屋の中に、黒の全身鎧を身に付けた男がいる。

 

 座り心地の良さそうな三人掛けのソファーに一人で座り、そのテーブルを挟んだ対面には、部下らしき男が立っていた。

 

 その二人が剣呑な雰囲気をまとい、重苦しく会話している。

 

「トーティス村のミゲールを知っているな?」

 

「それは……もちろんです。前団長ですね」

 

 ああ、と黒騎士は大仰に頷いた。

 

「奴から奪いたい物がある。……ペンダントだ」

 

「たかが一つの装飾品を……? 仮に値打ち物だとしても、固執するからには、何か別の理由でもあるのでしょうか?」

 

「まさしく。この世を統べるに必要となるものだ。素直に渡すならば良し。そうでないなら──」

 

 黒騎士が全て言う前に場面は暗転し、次いで現れたのは草原だった。

 黒騎士と相対している何者かがいる。

 

 一人はウィノナで、もう一人はクレスだった。

 そのウィノナが高々と掲げる手の先には、見覚えのあるペンダントが握られていた。

 

「これをアンタ達にあげてもいい。あの村にはこんなペンダントだって貴重品なんだ。逆さに降っても、これ以上は出てこないよ」

 

「それを渡すから、村には行くなと? 金目当ての物取りのように見えるか?」

 

「──見える。だから、これをやるから退いてよ」

 

「……いいだろう。ペンダントを置いて、そのまま下がれ」

 

 ウィノナは言われた通りにペンダントを地面に置き、十歩下がった。

 クレスも剣を向けつつ、ウィノナに寄り添うように下がる。

 

 黒騎士は軽い足取りで近づき、拾い上げてから嘗め回すように確認し……、それから満足げな声を上げた。

 

「いいペンダントだ、実にね」

 

 厚い兜の向こうからさえ、ほくそ笑む気配が分かる気がした。

 

 それから、飽きる事なくしげしげとペンダントを眺めつつ、ゆっくりと空いてる方の手を肩の高さまで上げる。

 

 そして不意に──本当に何でもない気楽さで、部下たちに号令をかけた。

 

「……殺せ」

 

 兵達が殺気を持って剣を抜き、黒騎士もまた剣の柄に手を伸ばした。

 ――その時。

 

 ウィノナと黒騎士の間に、一本の矢が刺さった。

 果たして味方の物か敵の物かと思った直後、その矢に見覚えがあることに気がついた。

 

 チェスターの矢だ。

 そして直ぐに、複数の足音を耳が拾う。

 

 音を立てて接近してくる者達の方へ顔を向ければ、そこには門下生を引き連れたミゲール達が駆け付けようとしていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆

 

 

「あの夢は、どういうこと……?」

 

 翌日の朝に目を覚ました時、ウィノナ恐ろしい気持ちになった。

 

 この事を話すべきだろうとは思うのだが、これまで大人達に予知夢を視る力がある事など知らせていない。

 

 どうせ信じてくれないと思っていたし、子供同士でのみ知っている秘密という感覚が、躊躇いを後押ししていた。

 

 それに今まで夢に視た予知は、実に他愛のないものでしかなかった。

 笑い話にさえならないような内容ばかりで、殊更報告する意味が薄かったのも要因だ。

 

 しかし、今日は違う。

 予知夢は必ず実現する。

 

 それが明日か、それとも一年先か分からないだけで、いつか必ず訪れる未来だ。

 ウィノナはそれが、真実だと知っている。

 

 ──黒騎士が、父ミゲールを殺しにやってくる。

 どこかで見た覚えのあるペンダントを狙って。

 

 今更悔やんでも仕方ないが、一体どうやって予知夢の事を説明したものだろう。

 

 ウィノナは暗澹たる気持ちのまま部屋を出て一階に降りると、外からチェスターが呼び掛ける声に気が付いた。

 

「……えっ、もうそんな時間!?」

 

 ウィノナは慌てて飛び起き、パタパタと慌てて準備を進めながらもクレスの方を窺うと、準備を万端整えて寛ぐ姿が見えた。

 

 薄情者、と唇を尖らせれば、クレスは屈託なく笑ってからミゲールに顔を向ける。

 

「起きない自分が悪いんじゃないか。──父さん、チェスターと三人で狩りに行ってくるよ」

 

「……そうか。まぁ、いいだろう。森には近づくんじゃないぞ」

 

「分かってるよ」

 

 にこやかにクレスが頷くと、二階からマリアが降りてきた。

 

「無鉄砲な二人だから心配よねぇ」

 

「大丈夫。平原の方なら危険な獣にだって、そうそう出会わないし」

 

 安心して、とマリアに頷いた時、着替えと洗顔を終えたウィノナが家の奥からやって来た。

 

「セーフ! 準備オッケー!」

 

 両手を左右に広げながら飛び込んでくるウィノナに、両親は苦笑しながら見つめる。

 

 その中でも、特にマリアは一言も二言も言いたげな顔で、ウィノナの頭を手櫛で整えつつ嗜めた。

 

「セーフじゃありません。髪もまだボサボサでしょう? もっと女の子らしくしなくちゃ……」

 

 はーい、と返事しつつ、ウィノナの意識はもう外に向いている。

 

「仕方のない子ね。……ほら、行ってらっしゃい」

 

「それじゃ、父さん、母さん。行ってくるよ」

 

「大物は約束できないけど、晩御飯のおかずは期待しててね! お父さん、お母さん!」

 

 はいはい、とにこやかに笑ってマリアが小さく手を降り、ミゲールがそうだった、と手を叩いた。

 

「ペンダントは持ったか?」

 

 クレスはチェーンに指を通し、首元から取り出しつつ頷く。

 

「うん、十五歳の誕生日に貰ったペンダント。いつもこうして身に付けてるよ」

 

 それを見てウィノナは思う。

 夢の中で出てきたペンダントは、なるほど見覚えがある筈だ。

 

 ウィノナでさえ数度しか見た事がないほど、クレスは宝物以上に大事にして、いつも服の下に身に付けていた。

 

 そして、どうやら……。

 それを狙って、いつか敵が襲いにやってくる、らしい。

 

 だが。いつかやって来るにしても、それは今日ではないだろう。

 そうに違いない、と思いながらウィノナはクレスを促した。

 

「ほら、早く行こう。チェスターもいい加減、待ちくたびれてるよ」

 

 ミゲールもそうだな、と頷くと右手を外に向けた。

 

「詳しいことは、今日の夕飯にでも話そう。行ってきなさい」

 

 行ってきます、と二人で挨拶をしてようやく出発となったのだが、その途中に道場へ遊びに来ていた、トリスタン師匠からも労いの言葉を貰った。

 

「師匠もこれからお出かけですか?」

 

 クレスが尋ねれば、当のトリスタンは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「何者かに呼び出しを受けての。名前も載せず無礼な限りじゃが、無視するわけにもいかん」

 

 何と返してよいものか。

 迷っていると、トリスタンは打って変わって朗らかに言った。

 

「まぁ、お主らは狩りを楽しんで来るとよい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 クレスがそう言って、ウィノナと二人で頭を下げると、ようやくチェスターと合流して、村を出たのだった。

 

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