【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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ヴァルハラ平原にて その3

 

 人間なのはまだ気が楽だが、迷惑な事もある。

 周りの魔物など気にもしないという事なのか、あるいは隠す余裕がないだけなのか、盛大に足音を響かせて近づいて来る。

 

 ――追手の兵なら即座に撃つ。

 そう警戒しながら、ウィノナは何者かを待ち構える。

 

 迎撃しようとボウガンを構えた時、そこで姿を現したのはモリスンだった。

 

「何しに来たの」

 

 ウィノナは口調は刺々しく、素っ気無い。

 また、敵兵でなかったとはいえ、構えたままのボウガンを降ろす事ももしなかった。

 

「ここは学者先生なんかが、来れる場所じゃないの。黴臭い研究室にでも帰って、大人しく大好きな研究でもして篭ってなさい」

 

「……そういう訳にもいかない」

 

 モリスンの口調は固く、また表情はそれ以上に固い。

 ボウガンを向けられているから、というだけではなく、確固とした意思を持っているから、のように見えた。

 

 どうしたものかと睨み合い、二人の間を一つの風が通り過ぎた時、地面が盛り上がって魔物が現れた。

 

 ドラゴントゥースと呼ばれる、骸骨の魔物だ。

 ウィノナが相手とするには、すこぶる相性が悪い。

 

 スケルトンの身体は斬撃と射撃に強い上に、ウィノナは対アンデッドとの戦闘経験が少なかった。

 有効武器を持っていない為、対策と言えば逃げることくらいだ。

 

 さてどうしたものか、と考えた時、アランが言った。

 

「手ぶらって訳でもないんだろ? 何か土産があるんだよな、先生」

 

 そうまで言われて、黙っているモリスンではなかった。

 気拙そうに頷いて、両手を胸の前に掲げると、呪文の詠唱を開始する。

 

 その詠唱と共に形成されていく魔方陣を目にして、ウィノナの形相がみるみる険しくなった。

 

 現代で目にしたモリスンと、瓜二つの顔を持つ、こちらのモリスン。

 だからそれに引き摺られて、この時代のモリスンも法術師である、とウィノナは頭から思い込んでいた。

 

 時間転移もまた、法術の一形態であることは現代で使われた術だったことから推察できたし。去年ダオスから様々に知識を教授されていたことも、それに拍車を掛けていた。

 

 だからまさか、モリスンが魔術師であるなど、夢にも思っていなかった。

 

「ファイアボール!」

 

 詠唱が完了し、モリスンの突き出す掌から、火炎球が飛び出す。

 着弾した炎は爆散し、魔物を粉々に吹き飛ばした。

 

 それを見ていたアランは、景気よく口笛を吹く。

 

「やるねぇ!」

 

 気楽な口調と物言いで、足を交差させた爪先で地面を突つく。

 その所作に、更なる苛立ちを感じながら、ウィノナはズカズカとモリスンに近寄って、その胸倉を掴み上げた。

 

 力任せに引き寄せ、乱暴にモリスンを揺さぶる。

 

「ハーフエルフだったの!? 精霊を祖先に持つあなたが、何故あンな研究に手を貸した!?」

 

 ウィノナの怒号が辺りに響く。

 アランはぎょっとして身を竦めた。

 

「知識欲が満たせれば満足!? 祖先の魂を裏切ってまで!?」

 

 ウィノナは殴り飛ばすようにモリスンを突き飛ばし、一瞥もくれずに踵を返す。

 モリスンは尻餅をついたまま、呆然とウィノナの背を見送った。

 

 そのまま立ち上がる事も出来ずにいると、その視界の先、暗雲の覆う上空を見て驚愕する。

 

 魔物の飛行部隊が、そこにはいた。

 それも尋常な数ではない。

 

 一国を攻め落とすには十分な、膨大な数の魔物が押し寄せようとしている。

 そしてウィノナもまた、上空の異変に気付いていた。

 

 とはいえ、ウィノナにはどうすることも出来ない。

 矢を撃つにしろ距離がありすぎるし、たった一人で撃ち落とせる数でもなかった。

 

 そして何より、ミッドガルズがどうなろうと、知った事ではない。

 

 上空からの奇襲には注意した方がいいだろうと考えていた時、ミッドガルズの方向から眩い光が生まれた。

 

 魔導砲の砲身から発生する光だった。

 ミッドガルズの尖塔の一つから、砲撃用に転換されたマナを射出する時に発生する光――。

 

 その光が収束していくにしたがって、急激に周辺のマナが失われていく。

 

 只でさえ、瘦せ細った大地から生気が失われ、辛うじて生を保っていた雑草も枯れる。

 大地は遂にヒビが生じ、二つに割れた。

 

 その異常な事態を目の前で見せ付けられ、ウィノナは咄嗟に振り返り、叫んだ。

 

「やめなさい! そんなものを使ったら……!」

 

 しかし、その叫びも空しく、光の塊は解き放たれた。

 塊は光の帯となって射出され、魔物たちを蹂躙していく。

 

 魔物は魔導砲の光を受けると、直後遅れてやってきた衝撃に吹き飛ばされた。

 その効果は絶大で、地面に衝突する前に灰となって消える程だ。

 

 また、僅かに光から逸れた魔物でさえ、余波を受けて地面に墜落した。

 

 そうした魔物は、むしろ酷い傷を負っていた。

 鱗や肉が、凄まじい速度で爛れ、腐り落ちていく。

 

 苦痛に歪む顔すら留めず、骨のみ残して魔物は絶命した。

 おおよそ、攻撃によるものとは思えないほど、凄惨な光景だった。

 

「──見なさい!」

 

 ウィノナはモリスンの元へ大股で戻り、再び力付くで胸倉を掴んだ。

 そうして、無理やり身体を引き起こし、地面に顔を近づかせる。

 

「あなたたちが、マナを無造作に喰らった結果がこれよ! ひび割れた大地、草すら生えない土壌! 空気は腐り、腐臭が漂う! ──あなたたちは何がしたいの! 自分たちから死にに行くような振る舞いをして、それで後に何が残るというの!」

 

 息を震わせて叫んでいたその時、第二射が放たれようと再び光が集った。

 ウィノナの表情が、驚愕を超えて大きく歪む。

 

 その変化は、怨嗟の声が滲んで聞こえてきそうな程、劇的な変化だ。

 モリスンを掴む手が、より強く握り締められる。

 

 事の成り行きを、黙って見守る事しか出来ない自分……。

 ウィノナはそれが、何より歯痒かった。

 

 ついに発射される、その瞬間――。

 大きな光が膨れ上がる、その予兆はあったものの、いつまで経っても第二射が発せらない。

 

「一体、どうして……?」

 

 怪訝に思うのと同時、大きな爆発が起こって砲塔が崩れていく。

 ウィノナがそれを不可思議に思いながら見つめていると、モリスンが苦しそうに声を上げる。

 

「……ここに来る前、細工をしておいた。暴走したエネルギーで自爆するような細工だ。何しろ急ごしらえだったから、溜め込まれたエネルギーを利用するようにしか出来なかった。設計図も焼却してきたから、再び使うことは出来ないはずだ……!」

 

 凄まじい形相だったウィノナは、それで少しは表情が和らぐ。

 フンッ、と鼻息荒くモリスンを投げ捨て、そのまま足早に去って行く。

 

「……なんだかね。訳アリってことなんだろうが……、おっかねぇ奴」

 

 アランは肩を竦めて息を吐くと、倒れたままのモリスンに手を差し伸べた。

 

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