【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
古城へと辿り着いたウィノナは、一人突出して走っていた。
だが、入って気付いたが、ここはかつて来た事のある、打ち捨てられ朽ちた城とは大きく変化していた。
外壁は修繕され、内装までも整えられている。
計算されて配置された装飾家具と、行き届いた掃除は、もはや完全な別世界だ。
増改築も施されているらしく、かつて見知った通路の面影はもうない。
奥へ進むのにも勝手が分からず、殆ど手探りで進まなければならない状況だった。
時々、ウィノナの覚えている構造と合致する部分を見つけては、それを頼りへと前へ進む。
アランやモリスンのことなど気にすら掛けず、通路の先に何があるのかを考えるよりも早く、とにかく足を進める。
──ダオスがこの先にいる、ダオスに会える。
その一心の思いを胸に抱いて、その想いを原動力に走る。
──先へ。ただ、先へ。
◇◆◇◆◇◆
アランはウィノナの背を追いながら、いかにも
この城は通路も多く、必然的に死角も多い。
横合いから奇襲でもされようものなら、いい餌食でしかなかった。
追いついて横に着くべきかどうか、アランは僅かの間逡巡した。
魔術師のモリスンの走速も、決して早いとは言えない。
引き離される距離は徐々に広がって行くし、かといって、モリスンを一人にするのもまた危うい。
どちらを優先しても、被害が出そうなところが悩ましかった。
そして、そう思っていた所へ、ウィノナが魔物の奇襲を受けた。
「言わんこっちゃない……!」
舌打ちしたい気持ちを抑え、足に力を込める。
ウィノナは前方しか見ていなかった。
他方への注意を怠っていた訳ではなかったが、逸る気持ちが邪魔をしていたのも事実だった。
咄嗟に反応して身を捻り、急所からは外したものの、腹部に傷を負う。
剣と盾を持つ人型の魔物、その突き出した剣が、ウィノナの横腹を貫いたのだ。
「ぐはっ……!」
ウィノナは痛みを堪えて息を吐き、義手剣を振り下ろす。
頭部を狙った一撃は大きく外れ、その肩を浅く斬り裂いたに過ぎなかった。
その一撃を受けて、警戒した魔物が距離を離した時、アランが後ろからウィノナを追い越し、魔物に斬りかかる。
「襲爪雷斬!」
大上段からの斬り下ろし、追撃で発生する雷が魔物を打ち倒した。
仰向けに崩れ落ちる魔物を油断無く観察し、息絶えたところを確認してから、アランはウィノナに向き直る。
「おいおい、その傷──」
「うるさい、大した傷でも……ない!」
ウィノナは蒼い顔をしながら、腹部に手を当てる。
流れる血は止まらず、腰から太股まで伸びている。
すぐに血が滴り、地面に点々と痕を残すだろう。
だが、ウィノナはそれに頓着せず、顔を歪めながらも前進を始めた。
「おい、待てって! 傷の治療はしておけよ、
「あンたの知ったことじゃ、ないわ……!」
ウィノナは一瞥すらせず、取り付く島も与えない。
アランを無視して進み続けるが、その足取りはひどく重い。
明らかに足は上がっていないし、息切れも激しい。
立っているだけでも辛そうで、遂に左手を壁に当てて、体重を支え始めた。
そうしなければ、前進するだけの事さえ難しいのだろう。
そして、とうとう血も腹部を下って、床に落ちていく。
血の臭気を濃厚に感じられる程になって来た頃には、ウィノナの膝が笑っていた。
とても戦闘が出来る状態ではないし、休息が何より必要な状態なのに、それでもウィノナは前進をやめない。
この状態では、また横合いから魔物が襲って来た時、十全な対応など出来るはずもない。
ウィノナとて、それは分かっているはずだ。
それでもやはり、ウィノナは前進をやめなかった。
ブツブツと小さく呟いており、それがアランの耳にも聞こえて来た。
「……もうすぐ」
その瞳は、前方の何物をも見てはいない。
床も、壁も、あるいは通路さえ、見えてはいないのかもしれなかった。
「……もう少しの、辛抱で」
恐らくは、とアランは思う。
それだけを励みに、ウィノナは重い身体を引き摺り、前進しているのだろう。
ただ、ダオスの元へ行く為に。
「──あと、もう少しで逢えるから……」
更に一歩、もう一歩と歩みを続ける。
一度立ち止まり、己を叱咤するよう強く拳を握っては、止まらぬ冷や汗を拭い、震える息を整えた。
そして更に、もう一歩を踏み出した時──。
ついにウィノナは、頭から倒れたのだった。