【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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念願の邂逅、そして…… その2

 

「ああ、くそ……っ!」

 

 受身も取れずに倒れたウィノナを見て、アランは慌てて近づき、介抱しようとした。

 

 アランとしても、これまで幾度も助けようとはしたのだ。

 止めるのが無理なら、せめて肩を貸そうともした。

 

 しかし、いずれも断られ、しまいには言葉すら出さず、しつこいとばかりに剣を向けられる始末だ。

 

 どうしようもないから、アランはウィノナの後を付いて行くことしか出来なかった。

 

 その道中とて、ウィノナは気づいてすらいなかったが、横合いから魔物が襲って来る事もあった。

 

 その全てをアランが剣で斬り、時には叩き落し、ウィノナの歩みの露払いをした。

 ウィノナの視線は常に前だけ向いていて、戦闘音すら聞こえていないようだった。

 

 まるで幽鬼のように、前進を繰り返す存在になっていた。

 しかし、倒れてしまっては、流石のアランも慌てる。

 

「くそっ、どうすりゃいい……!?」

 

 アランは包帯を取り出しつつ、背後を窺う。

 ようやく追いついたモリスンがいたが、問われたモリスンも渋面で懐を探る。

 

「私も応急処置以上の医術は知らない……」

 

 まず包帯を巻こう、いやその前に消毒だ、などと言い争っている間に、背後──廊下の奥から切羽詰った声が飛んで来た。

 

「そこで一体、何をしているのです!?」

 

 そこにいたのは、ミッドガルズで別れたキャロルだった。

 その背後にはキャロルと共に旅立った、十名程度の修道女も見える。

 

「決戦の舞台になると思い、直接ここまで来ましたが……いると思った軍は見えず、奥へと進めば怪我人を前に、何と稚拙な……」

 

 言いながら、キャロルはアランとウィノナの間に割って入り、診察を始めた。

 

 多くの負傷兵の治療をしていたキャロルだ。

 彼女に任せれば万事問題なしだろう、と立ち上がって、距離を取る。

 

「それにしても、あんた何でここに……。軍ならまだ、ヴァルハラ平原で戦ってる最中か、あるいはケリが着く頃だぜ」

 

「それは誤算でしたが……。ならば直ぐにでも、戦場の救護人を助けに行かねば……」

 

 キャロルがそう言うと、後ろで控えていた修道女の一人が歩み出る。

 

「では、私たちは先に、来た道を戻ります。キャロルさんは引き続き、こちらの方の支援をしてはいかがでしょうか」

 

「それは……、しかし、戦場の方も捨て置くわけにはいかないでしょう」

 

 ええ、と修道女は頷く。

 

「でも、この方たちも同じく、捨て置くわけにもいかないのでは?」

 

「そうですね……」

 

 キャロルは幾らか逡巡する仕草を見せ、それから決断して首を振る。

 

「では、そちらはどうか、よろしくお願いします。皆にユニコーンのご加護がありますように」

 

 修道女は一つ頷くと振り返り、残りの者たちを引き連れて廊下を去って行った。

 それを見届けると、キャロルはアラン達に向き直る。

 

「お騒がせしました。すぐに治療に取り掛かります」

 

「ああ、頼むぜ。どうすりゃいい? 手伝える事があれば、言ってくれ」

 

 アランとしては、望まれる事全てやるつもりでいたが、キャロルは首を横へ小さく振った。

 

「いえ、大丈夫です。私達は法術士としての力を授けて頂きました。白樺の森のユニコーンより、慈悲と癒しの力を」

 

 キャロルはウィノナの腹部に手を当てると、瞳を閉じて小さく呟く。

 

「……ヒール」

 

 手の平から白く輝く光が溢れ たちまち血が止まり、傷まで塞がった。

 たった数秒、光が当たっただけで凄まじい回復を見せ、肌色もずっと良くなった。

 

「……うっ」

 

 意識が回復したウィノナが目を開ける。

 キャロルの存在に気付き、次いで何をしているのかも理解した。

 

 助けられたのか、と感謝する一方、その耳に動く物があって目を剥く。

 一瞬の間に頭に血が上り、咄嗟にキャロルを突き飛ばした。

 

「キャッ!」

 

 咄嗟に受け身は取ったものの、呆然としてウィノナを見つめる。

 そのキャロルの耳には、ユニコーンのイヤリングが揺れていた。

 

「あんたの力なんて、絶対に借りない! アタシは絶対認めない……!」

 

 ウィノナは壁に手を付くと、再び足を引き摺って前進を始めた。

 突き飛ばされた衝撃に、キャロルは気が動転して立ち上がれずにいる。

 

 まさか感謝しろなどと言う気はないが、敵意を向けられるとは思いもしなかった。

 アランはそれに、申し訳ないと表情で語りながら、キャロルに手を差し出して起こす。

 

「今のは俺にも、よく分からんけどよ……。アイツの現状は、ちっと複雑なんだ。許してやってくれ」

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ウィノナはようやくの思いで、古城の最奥、その玉座の間まで辿り着いた。

 ウィノナが部屋の中まで入ると、玉座に座っていたダオスは、俯むいていた顔を上げる。

 

「……来たのか」

 

 ダオスの静かな言葉に、ウィノナはうん、とだけ小さく答えた。

 

「そんなに傷だらけになってまで……」

 

 痛ましそうに見るダオスの顔が、小さく歪む。

 だが、ウィノナは笑顔を作って、顔を横に振った。

 

「平気だよ、このぐらい」

 

「平気なものか。そなたの傷を見れば分かる。何故そうまでしてここまで来た……」

 

「言わなきゃ分からない?」

 

「……眠れぬような思いまでしてか」

 

 ウィノナは自らの目の下を擦り、照れたように苦笑した。

 

「まぁ、これは……みっともないなぁ、もう。……でも、もう関係ない。ぐっすり眠れるようになるよ」

 

「その腕とて、私のせいだ。私と関わる事さえしなければ……」

 

 ダオスはウィノナの義手を見て、痛ましそうに顔を顰めた。

 だが、ウィノナはまたも顔を横に振る。

 

「だったとしても、ダオスと会わずにいれば、良かったなんて思わない。この腕の報いだって受けさせた」

 

 ウィノナは一歩踏み出し、ダオスに近づく。

 

 そんな中、玉座の間に駆け寄ってくる足音が聞こえる。

 ウィノナに遅れて入室していたアランが、新手の敵かと身構え、そして相手を見た途端に力を抜いた。

 

 そこにいたのは平原の戦闘を制して駆けつけ、クレス達五人の集団だった。

 ウィノナの方に顎をしゃくりながら、これからだ、と短く言う。

 

「静かに」

 

 キャロルが手で制して注意すると、クレス達は音を立てないよう、玉座の間に入って端に寄る。

 

 ──そこは不思議な空間だった。

 クレス達が見る玉座の間は、たった二人しかいないのに、酷く狭く感じる。

 

 まるで、この二人のための空間のような。

 ウィノナはまた一歩近付いて、にこりと微笑んだ。

 

「……ねぇ、帰ろう。大丈夫、まだ戻ってこれるよ」

 

「しかし、……しかし私は、最早人類の敵でしかない」

 

 搾り出すかのような声音で、ダオスが言う。

 しかし、ウィノナの表情に翳りはない。

 

 戦闘に明け暮れたものとは別物の、晴れやかで優しい、見るものを安心させる表情がそこにあった。

 

 ウィノナはダオスの表情を見つめながら、この光景に強い規視感を感じていた。

 ――どこかで見た覚えがある。

 

「そんな事ない。ダオスは魔物に人を殺すように命じなかった。死者の数を減らす努力をしてたでしょ? それは何故? 敵でしかないなら、そんな命令出したりしない!」

 

「それは……違う。人をより多く殺せば、ウィノナが悲しむと思った。だから、極力殺すなと命じた。別段、人の命を(おもんばか)ったからという理由ではない」

 

 しかし、その彼女を想う気持ちが結局ミッドガルズを窮地に追い込む事になるとは、何たる皮肉だろう。

 

 ウィノナはダオスの思いをまた一つ知って、感情が高揚するのを感じた。

 思わず目尻も下がり、薄っすらと笑む。

 

「ありがとう、ダオス。じゃあ、やっぱり同じことだよ。──大丈夫、魔導砲も壊れた、設計図もない。またやり直せるンだよ!」

 

 ──どこかで見たも何もない。

 

「……ね、戻ってきて、ダオス……」

 

 ──予知夢だ。

 

 そうして、ウィノナがダオスを説得するやり取りをしている一方。

 キャロルは遠くからその光景を見ながら、小さな声で誰に聞かせるでもなく呟いた。

 

「道中モリスンさんから、あの方しか魔王を説得できない、と聞きましたが……。どうやら、本当のことのようですね」

 

「……ああ、あの女のあんな表情、初めて見るぜ」

 

「あれがウィノナです。僕らの良く知る、いつものウィノナ……」

 

 嬉しく思うべきなのかどうか、クレスには分からない。

 

 かつてのウィノナを取り戻した事は、素直に喜ばしく思う。しかし、これから起こることを考えれば、悲劇と言う他ない。

 

 クレスは目を伏せ、何事かに耐えるように、きつく唇を結んだ。

 

 ウィノナは手を差し出し、ダオスに向ける。

 どれだけの回数、会いたいと思い、言葉を交わしたいと願ったことだろう。

 

 しかし今や、それが隔ているのは、たった数歩の距離だけしかない。

 

 ウィノナの願いはとうとう叶う。

 それを思えば、何時間だろうと待てる心持ちだった。

 

 早くこの手を取って、と願いながら、薄墨が広がるような不安が去来する。

 何時間でも待てる心持であった筈なのに、頭の端では別の事が、脳裏から染み出していた。

 

 この一年の間で幾度となく見て、その度に忘れようと努力した。

 覆せるものだと叱咤して、しかし恐れは消えず……だから、眠る事を拒否するようになった。

 

 だが、堪りかねて気絶するように眠ると、決まって見る夢は悪夢となって現れ、予知夢は見てないと、自分に言い聞かせるようになった。

 

 だから、ウィノナは判断が遅れた。

 覆すと決めていた、あの瞬間は──。

 

 集団の中から、ゆっくりとモリスンが離れていく。

 それをクレスは感じ取り、視線だけモリスンに向ける。

 

 モリスンは小さく頷いてから詠唱を始め、クレスは合図を受け取って、返答代わりに頷いた。

 

 そのやり取りを見たアランは、何をするつもりなのか察する。

 音を立てないように、足をじりじりと動かし、距離を測った。

 

 ダオスはウィノナの手にゆっくりと手を伸ばし、その手を掴もうか逡巡している。

 伸ばしは退いてを繰り返し、ようやく手を伸ばす踏ん切りが着いた――。

 

 そう、思った瞬間、モリスンからが叫ぶ様に声を発した。

 

「許せ、ダオス! これしかないのだ、この方法しか!!」

 

 詠唱を終了させたモリスンから、火炎球が飛び出す。

 ウィノナはここで、ようやく予知夢について思い出していた。

 

 幾度となく見、そして封じて来た記憶だが、見て来たからこそ、対抗できる手立てがある。

 

 ──予知夢を変える、変えてやる。変える事が出来る、その証明をしてみせる!

 

 その想いを力に変えて、ウィノナは火炎球の前に飛び出した。

 その身を盾に、両手を広げる。

 

「ウィノナ!!」

 

 男女複数の声が重なり、叫び声も聞こえた。

 だが、そんなことウィノナにはどうでもよかった。

 

 迫る火球が見える中、ウィノナは確信に近い思いでいる。

 本来ならばダオスに命中するはずの火炎球、それをダオスではなく、自分が受ける。

 

 それが未来を変える、第一歩になるだろう。

 その後に何が起ころうとも、変えた事実は残るはずだ。

 

 何事かに対する覚悟を決めた時、ウィノナに着弾するはずの火炎球が、その直前で遮られた。

 

 何かと思って見てみれば、ダオスがウィノナを庇って立ち塞がり、そのローブでウィノナの身を守っていた。

 

 ローブに当たった火炎球は、小さな火種すら生む事はなく、翻す動きで完全に消失する。

 一瞬の間の後、ダオスの表情が憤怒に変貌した。

 

「──貴様ァァ!」

 

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