【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
ダオスが怒号を発すると共に、黄金の光が身体を包み、暴風となって吹き荒れた。
最早、言葉が通じる状態ではなく、憤怒が形を成して襲って来ようとしている。
「やるぞ、皆!」
クレスの号令で、全員が戦闘体勢に移行する。
それぞれが自分の武器を掲げ、構え、矢を番い、箒に跨り宙に浮く。
全員がダオスに相対して、構えを取った。
詠唱に時間の掛かるクラースは前衛に任せて後方に飛び退き、そして魔術書を開いて詠唱を開始する。
その中にあって、アランとクレスが突出し、その後を全員が続く。
「クレス!? ──やめて! ダオスを殺さないで!」
ウィノナは咄嗟に動こうとしたが、腹部の傷が邪魔して、思うように動けなかった。
ダオスの助力に向かおうとしたが、立ち上がろうとして膝をつく。
せめてボウガンで牽制しようとしても、出血過多の身体では余りに重く、ろくに標準も付けられなかった。
だからせめて声を張り、ダオスを助けてと懇願する。
しかし、クレス達は聞く耳を持たず、攻撃の手を緩めようとはしなかった。
キャロルがアランに法術をかけると、アランが剣を振り被って跳躍する。
「バリアー!」
「──鳳凰天駆!」
アランが接近と攻撃を同時に行い、懐に飛び込んだ。
前衛として盾になりつつ、意識を自分に向ける為の行動だった。
だが、ダオスはローブを盾代わりに構えて、いとも簡単にアランの攻撃をいなした。
そして、そのまま反撃に転じる。
しかし、それを遮る、もう一人の剣士がいた。
二人の間に割って入る様にして、一つの剣筋がダオスを襲う。
「襲爪雷斬!」
跳躍からの振り下ろす一撃に、ダオスも反撃の手を、防御に回さざるを得なかった。
腕を振り払い、二人の剣士を吹き飛ばすと、更に追撃しようと一歩踏み出す。
しかし、その顔面目掛けて、矢が飛んできた。
攻撃の合間を縫う見事な一撃だったが、ダオスはこれを難なく回避する。
しかし、回避される事は想定済みだった。
その意識と動きを、一瞬でも阻害する事がチェスターの狙いだ。
「アイストーネード!」
そして、そのタイミングでアーチェの詠唱が完了した。
発動した魔術が、氷結の嵐を呼ぶ。
氷礫の混じる局所的暴風は、視界を奪うばかりではなく、動きまで阻害する。
その隙を利用して、二人の法術士は剣士たちの強化を行った。
「シャープネス!」
「バリアー!」
再びクレスとアランがダオスに迫り、剣を振るう。
「悪ぃがとっととやられてくれや! 襲爪飛燕脚!」
アランが繰り出した上空からの一撃は、ダオスにあっさりと防がれる。
だが、続く足技のコンビネーションには対応が、少し遅れた。
その隙を見逃さず、クレスは横合いから技を繰り出す。
「やるしかないんだ! 今、ここで! ──魔神千裂破!」
下段から迫る衝撃波攻撃と、多段突きによる連携は、しかしダオスのローブによって遮られる。
だがクレスにとって、それも狙い通りだった。
最初から、ダオスを剣技でどうにか出来るとは思っていない。
手数で圧して、行動を阻害する事にある。
その事にダオスも気付いていたが、もう遅かった。
クレスの稼いだ数秒が、戦闘開始と同時に行われていた、クラースの詠唱を完成させた。
「ルナ!」
喚び出されたのは月の精霊。
ダオスを中心に、一本の線が降り注いだかと思うと、次々に新たな光線が降り注ぎ、その身体を呑み込んでいく。
魔力の奔流をその身に受けて、まるで火傷の様な傷を与えた。
ルナの攻撃で拘束されている間に、二人の剣士は左右から挟撃し、更に剣を横薙いだ。
確実に隙を捉えたタイミングだったが、ダオスはこれに対応してみせる。
「──煩わしいわ!」
二つの剣を絡み取るように左右の手で弾き、大きく隙を見せたアランの横腹を殴り付ける。
吹き飛んだアランは膝を突き、立ち上がろうとしたものの思いのほか傷は深く、身体が言うことをきかない。
ダオスは更なる追撃を仕掛けるべく、両手を合わせる形で胸の前で組んだ。
そして、さしたる詠唱もないままに、魔術が発動した。
「テトラスペル!」
放たれたのは、四つの魔術の連続複合技。
襲い来る魔術の奔流に身の覚悟をした時、クレスが突き飛ばして代わりになった。
「うわあぁぁ!」
揉んどり打って倒れたクレスは、数々の魔術攻撃を受けて、地面に倒れた。
二人の前衛を一時的に失なってしまい、パーティの緊張が高まる。
ダオスの猛攻は凄まじく、後衛だけでは支えきれないのは容易に想像がついた。
法術士が傷を癒す時間を、何としても稼がなくてはならない。
チェスターが番えていた矢を引き絞った時、後方から高らかな叫びが聞こえた。
「頼むダオス! これで終わりにしてくれ!」
ダオスが振り返り、モリスンの両手を見て瞠目する。
その囲い込むような両手の中心には、極度に濃いマナが集められていた。
あれを解き放たせてはならない、とダオスは直感で理解し、身体の向きを変える。
脚に力を込め、地面を蹴り飛ばそうとしたその瞬間、矢が肩を穿った。
「クッ! 小癪な!」
火の力を内包した矢とはいえ、貫くほど強力なものではない。
このまま無視して進むか、それとも先に潰してしまうか……、その一瞬の思考。
それが、ダオスの運命を決めた。
「天光満つる処に我はあり、黄泉の門開く処に汝あり、出でよ神の雷……」
集ったマナが中空に魔方陣を描き、その莫大な魔力を解放する。
「これで最後だ! ──インディグネイション!! 」
ダオスを中心に、幾つもの雷球が螺旋を描きながら上昇し、そしてついに頭上から極大の雷がダオスを襲った。
「ガアァァァァ!!!」
身を焼き、焦がし、断ち切られ、ダオスはついに崩れ落ちる。
身体中が火傷を負い、焦げた肌からは煙が昇った。
「やめてぇぇ! ダオスを殺さないで! ダオス! ダオスーー!」
ウィノナ必死に手を伸ばす。
伸ばすものの、その手は遠く、絶望的なまでに距離があった。
予知夢を覆したと思った。
ダオスに命中するはずの火炎球は、自分が身代わりになれると思った。
しかし、実際は何一つ変化は起こらなかった。
ほんの少し、過程に変化は現れたが、結果は何一つ変わらなかった。
だからせめて、ウィノナは手を伸ばす。
この手に触れて欲しいと、手を伸ばした。
ダオスも残った力で手を伸ばすが、その距離はどこまでも遠い。
その手に引かれるようにして、這いずりながらも手を伸ばした。
しかし、縮む距離はごく僅か。
届くより前に、とどめの一撃を刺される方がずっと早い。
それを理解したダオスは、悲嘆の表情を浮かべた。
ダオスは伸ばしていた手を力いっぱい握り、歯を食いしばる。
そして一拍の間の後に、ダオスの体が光に包まれた。
その後、発光が収まると、ダオスの身体は跡形もなく消えていた。
「アタシも連れていってよぉぉぉ!」
ウィノナの絶叫が、室内に反響する。
嗚咽が玉座の間に響く中、誰一人として動けなかった。
ウィノナの絶望した姿が、それほど皆の心をかき乱させ、動くことを拒否させる。
戦闘で負った傷は幾つもある。クレスの傷は、中でも特に酷かった。
それでも、ウィノナの姿を見れば、到底動ける雰囲気ではない。
彼女はがっくりと脱力し、面伏せたまま動かない。
髪が顔を隠していて、どのような表情をしているのかは分からないが、実際は余りにも明らかだ。
嗚咽が鎮まり、沈黙が続いた後……。
しばらくして、のっそりとウィノナが立ち上がった。
膝が震え、相当な困難を以て立ち上がったあと、足を引きずり去ろうとする。
遅い歩みだった。
手から零れ落ちたボウガンには目も暮れない。
そうして、右腕に装着された義手剣を億劫そうに取り外すと、力なく投げ捨てる。
「……ウィノナ、その……」
おずおずと立ち上がったクレスが、そろりと腕を上げて声をかける。
だが、ウィノナは顔すら向けない。
俯いた表情は前髪で隠れたまま、玉座の出口を目指して歩み続ける。
「もういい。もう、疲れた……」
ウィノナが絶望を滲ませた声音で、小さく零す。
その怨嗟とも、自虐とも取れる声が恐ろしかった。
古城から去った後で、ウィノナはどうするつもりなのか、想像するだに恐ろしい。
まさか自ら命を絶つとまでは思わないが、それがあり得てしまうと思う程には、彼女から負の雰囲気が立ち昇っている。
クレスはウィノナの傍に近寄り、必死の思いで声を掛ける。
「ウィノナ、ダオスを助けよう。まだ間に合う!」
ウィノナの俯けていた頭が持ち上がり、目がカッと見開く。
力任せに右腕が振るわれたが、それは義手剣を取り外していたことを完全に忘れていた動作だった。
クレスの眼前を素振りするような形になり、その腕の動きにバランスを崩す。
振り子のように揺れる身体を持て余しながらも、ウィノナはクレスを睨み付けた。
「お前らが倒しておいて、何が助けるだ! ダオスは悪くないのに! お前らが、お前らが……っ!」
声が徐々に、尻すぼみになっていく。
そして、最後には嗚咽が混じった。
「違うんだ。よく聞いて、ウィノナ」
クレスは我知らず、唾を飲み込む。
「確かに僕らは、ダオスを倒した」
ウィノナが鋭く睨むと、クレスは身体を硬くした。
強い殺意と敵意を浴びて、今にも逃げ出したい気持ちになる。
だが、まさか本当に、ここで逃げ出す訳にもいかない。
「聞いて、ウィノナ。僕らは確かに倒した、──でも、殺してはいない」
「なにを、言っているの……!」
ウィノナが掴みかかろうとした瞬間、その動きを止めざるを得ない発言が、クレスの口から飛び出してきた。
「思い出して、僕らが過去に飛ばされる前のことを。──ダオスが復活したのを、ウィノナも覚えてるはずだ」
言われて初めて、ウィノナはハッとした。
確かにダオスは、地下墓地で復活していた。
つまりは、まだ死んでいない。
クレスが父親から譲り受けたペンダント、それが封印の鍵であり、そしてもう片方のペンダントが揃う事で、ダオスは復活する。
そうなる未来を、ウィノナは確かにこの目で見ている。
そして……、他ならぬウィノナがペンダントを敵に渡す事で復活するのだ。
つまり、ウィノナはダオスの復活を、計らずも助けていた事になる。
「ちゃんと、詳しく説明する。凄く複雑で、僕にも上手く説明できる自信がないけど……。でも、これだけは言える。現代でダオスを救うために、今ここで追い詰めて、時間転移を使わせる為に戦っていた」
「この時代では、ダオスを救うことが出来ないからな」
クレスの後をクラースが引き継ぎ、そうして続ける。
「様々な問題が発生し、それを制御できないからだ。しかし現代でならば、救う事が可能だろうと、我々は考えている」
ウィノナの頭の中はぐちゃぐちゃで、クレス達が何を言っているのか、理解が追いつかない。
それでも、僅かな希望がこの先にあるということは、おぼろげに理解できた。
クレスはウィノナの目をしっかりと見つめ、その目に力強い意志を乗せて言う。
「ウィノナの事情は、全部モリスンさんから聞いた。僕らは……ウィノナ、僕らは君とダオスを救う為に戦っていた。ただ傷付けて倒す為じゃ、決してない。──これからダオスを、一緒に救い出そう」
ウィノナから、はらはらと涙が落ちる。
「本当に、……そんなことが出来るかな」
「──出来る。僕らは本気でそれをやるつもりでいる。話を聞いた後でも許せなければ、僕らを斬っていい。だから、話だけでも聞いてくれ」
「助けたい。ダオスを助けたいよ……」
ウィノナは顔を上げて、涙でぐしゃぐしゃになった顔を皆に向けた。
「ダオスを、助けて……っ」
搾り出すようにそれだけ言うと、遂に限界が来て、ウィノナは膝から崩れ落ちて気絶した。