【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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第五幕 AC.4203年
帰還、束の間の休息 その1


 

 気絶したウィノナを連れ、クレス達がミッドガルズへ帰って来たのは、あれから二日後の事だった。

 

 移動中は、クレスとチェスターが交替して運んでいたのだが、ウィノナはその間も、一度として目を開ける事はなかった。

 

 ミントとキャロルによる法術の癒しも、然したる効果を挙げていない。

 

「一体、何がいけないのでしょう……。傷は完全に癒えているはずなのですが……」

 

「目が覚めないのは、傷のせいではありません。心に溜まった心労や睡眠不足、それらの淀みが原因ではないしょうか……」

 

 そうであれば、後はウィノナの身体が自然と回復するのを待つ他ない。

 ミントはキャロルの疑問に、そう答えた。

 

 口調こそ心許ないもの、その意見には確信めいた断定がある。

 キャロルはそれに頷きながら、敬意を込めた視線を送る。

 

「私よりも随分お若く見えるのに、とても色々なことに詳しいのですね。法術にしても、あるいは私たちが、この世で初めて授かった癒しの術かと思っていましたが……」

 

 そう言ったキャロルは、今更ながらの事実にハッとして頭を下げる。

 

「まだ十分なご挨拶をしていませんでしたね。以前は、名前だけの簡単な挨拶だけで失礼しました。私は、キャロル・アドネードと申します」

 

「アドネード、さん……?」

 

 名前を聞いたミントは、満足に返事もせず、茫然とキャロルを見返した。

 微動だにせずいるミントに、キャロルは不思議そうに首を傾げる。

 

「あの……?」

 

 そうして、自分が大変な無礼を働いていると悟ったミントは、慌ててしっかりと頭を下げた。

 

「し、失礼しました……っ! あの、私のことはミントと……、ただのミントとお呼びください。名を名乗れぬ無礼を、どうかお許しいただけたら……」

 

 恐縮しがちなミントに、キャロルは気を悪くもせずに頷く。

 人には簡単に、口に出来ない様々な事情があるものだ。

 

「では、法術についてはどうでしょう? よろしければ、ご教授いただけたらと思うのですが」

 

「あ……、はい、ええ、それは勿論! それはきっと回りまわって、私の為にもなるのでしょうし……」

 

 しどろもどろとなって言うミントに、キャロルは得心した表情を見せた。

 

「そうですね。他人に教えてあげることで、自分もまた勉強になるということもありますし」

 

「ああ、いえ、そうではなく。実際に後々、自分の為になると言いますか……」

 

「……はい?」

 

 ミントの言葉に、イマイチ理解を示せなかったキャロルが首を傾げる。

 自分がおかしなことを言った自覚のあるミントは、慌てて両手を左右に振った。

 

「ああ、いえ、何でもないんです。私も未だ若輩の身ですが、ミッドガルズに着いてからはお約束できません。それまでで良ければ、いかがでしょう……?」

 

 是非、と笑んだキャロルにミントも笑顔で返す。

 そうして二人は、ウィノナの面倒を付きっきりで診た。

 

 時折法術の講釈も交えて癒す施術は、キャロルにとって何事にも代え難い旅となった。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 そうして、ミッドガルズの門を潜ったクレス達は、万感の思いを込めて息をついた。

 城門近くには、歓迎するように腕を広げるモリスンがいる。

 

 クレス達より一足先に戻っていたモリスンは、事の顛末を国王に報告していた。

 

 無論、ダオスが逃亡したなどと伝えるはずもなく、必要なことのみを抽出し、ウィノナの存在は隠したまま、討伐に成功したと伝えている。

 

 魔物も統率される事なく、四散し逃げていく様を軍は見ているので、とうとう確信できる報告を得られて、大層喜んだ。

 

 国で大々的に凱旋式を執り行うべきだとする声や、英雄の誕生を祝うべきだと声があり、上へ下への大騒ぎとなっている。

 

 門前でクレス達を迎え、そのことを話したモリスンだったが、返ってきた反応は予想通りのものだった。

 

「困りますよ、僕らが英雄だなんて……」

 

「私達が求めたのは、名誉ではなかった。ただ一人の男を助けたいと、そう願った少女に、報いてやりたいが為の行動だった」

 

 クラースからの言葉に、クレスも頷く。

 元より最初は魔王を倒そうという強い義務感、現代より託された思いを糧にして始まった旅だった。

 

 しかし、ウィノナの足跡を辿るにつけ、魔王と呼ばれる存在は世界の蹂躙を目論むどころか、救おうとしている事に気付かされた。

 

 一方的な敵愾心を持ち続けてたクレス達としては、英雄と呼ばれ、持て囃されるのは非常に複雑な気分になる。

 

「だが何にしろ、謁見を拒否する事はできないだろう。国にも面子の問題があるし、戦勲第一の功労者を蔑ろにしたと知られれば、国内外からも批判されてしまう。……申し訳ないが、本意でなくとも、受けて貰わねばならない」

 

 苦虫を噛んだ様な表情のモリスンに、チェスターがあっけらかんと言った。

 

「ま、言いたい奴には言わせておけばいいさ。報奨金も出るんだろ? 貰えるモン貰って、さっさとズラかろうぜ」

 

 余りにもぞんざいな物言いに、周囲一同は苦笑する。

 だが、その中にあってアランだけは。顔に輝きが満ちていた。

 

「そうだ、報奨金があったな! 予想より稼げなくて困ってたが、結構な額が出るんだろ? 俺の夢に、また一歩近づいたな!」

 

 手を叩いて喜ぶアランは置いておいて、クレスは抱えたままのウィノナを背負い直し、辺りを窺う。

 

「どちらにしても、ウィノナを王城に連れて行くわけにもいきませんし、そもそも早くベッドで休ませてやりたいんです」

 

「……だな。クラースの旦那が部隊長になってたんだし、そっちの方は任せるぜ」

 

「本気か……? 面倒な事は全部私任せか、全く……」

 

 クラースは帽子のツバを下げて、大仰に溜め息をついた。

 ミントからも助け舟が出ないところを見るに、誰もが王の御前に拝謁するのは、抵抗があるようだった。

 

 ──当然か。

 この国に対して、(わだかま)りがないとは言えない。

 

 ダオスを追い詰め、ウィノナもまた、こうなるまで追い詰められた原因は、間違いなくこの国の軍部にある。

 

 泥を被る人数は、少ない方が良いに決まっていた。

 

「……仕方ない。モリスン殿と二人で──いや、アランもか。三人で向かうとしよう。晩餐会だとか舞踏会だとか、そういった催しの誘いもあるだろうが、そちらはなるべく断る方向でいこう」

 

 モリスンが頷き、アランが肩を竦めた。

 

「こっちとしては貰えるモンが貰えれば、それでいいんでね」

 

「若い君らには難しい場だろう。私も宮廷慣れしているとは言い辛いが、どんな言質を取られるか分かったものではないからな。下手な返答を牽制する役目は必要か」

 

 そもそも、と難しい顔でクレスが頷く。

 

「出ろと言われても困りますよ。踊りなんてしたことないし……」

 

「珍獣扱いされるのがオチだ。どうせ祝福だの何だのは建前で、今回の一件で有名になった奴らを一目見ようとか、そんぐらいの気持ちしかねぇんだろ?」

 

 チェスターの辟易とした言い様に、クラースは苦笑する。

 

「その言い分も少々穿(うが)ちすぎだが、まぁ当たらずとも遠からずだな。……最悪、ウィノナが目覚めるまで時間を稼いで返事を遅らせ、動けるようになったら逃げればいい。謁見を済ませれば、最低限の義理は果たしたことになる。そもそもが傭兵の遊撃部隊、それ相応とも言える」

 

 やれやれ、とモリスンが息を吐いて、クラースの肩を叩く。

 

「では、我々は行こうか。若い連中に苦労っていうものがどういうものか、後でたっぷり土産話をくれてやる為にな」

 

「違いないですな。……お前たち、覚悟しとけ? 後で必ず、愚痴を聞いてもらうからな」

 

 人差し指を向ける、クラースの目は本気だった。

 アーチェは視線を合わせず口笛を吹き、ミントは気まずそうに頭を下げたものの、明確な返事は避けた。

 

 だがせめて、労いの言葉をかけた所で、クラース達は去って行った。

 そしてもう一人、この場で別れる人がいる。

 キャロルもまた、ミントに深々と頭を下げた。

 

「ここまでの帰路の旅は、本当に身になる旅でした。このことはユニコーンにも、よくよく感謝を捧げたいと思います。また、もちろん貴女にも、この出会いに感謝を……」

 

 ミントも頭を下げて、その謝辞を受け入れた。

 杖を斜めに立て、抱くようにして捧げると返礼する。

 

「貴女にもご加護がありますように。どうか、ご健勝であられますよう……」

 

 キャロルは改めて礼を言い、そうしてから自分の修道院へと帰っていく。

 そうすると、後にはいつものメンバーだけが残った。

 

「じゃ、俺達も行こうぜ」

 

 チェスターの声で、クレス達も宿屋に向かう。

 なるべく揺らさないよう注意しながら、戦勝でお祝い騒ぎの民衆の間を抜けて、先を急いだ。

 

 

 

 クラース達が王城へ赴き、謁見と戦勝報告を行い、その後帰って来たのは、日もとっぷりと暮れた後の事だった。

 

 謁見自体は即座に終わった。

 型通りの拝謁と王からの労い、報酬の約束などを貰って、そのまま退室という運びだったからだ。

 

 時間が掛かったのは、その後にしたモリスンとの談義が白熱したからで、これは何もお互いの意見の不一致から、という訳ではない。

 

 むしろ意見それ自体は一致しており、これからウィノナ達の前で話し合うべき事柄の整理で、白熱したと言った方が正しい。

 

 そして、これはクラース主体で話さなくてはならず、だからこそ尚のこと、理解を深める為、細かな所まで話し合いが続いたせいでもあった。

 

 特に時空間理論について疎いクラースは、そこを中心に話し合う。

 

「時の流れに矛盾する行動は……」

 

「それがつまり、先程の渦の話に繋がるのですね?」

 

「そう、影響の大小について議論の余地はあれども──」

 

 白熱した議論は数時間に渡り、気付いた時には日が茜色に染まっていた。

 

 そこからはお互いの意見の摺り合わせに集中し、日が完全に落ちた後、ようやく納得のゆく話し合いが終わった。

 

 モリスンはそのまま王城に留まり、何かと雑務を引き受けてくれたので、クラースは問題なく帰れた。

 

 だが、あの時の宣言を違えることなく愚痴を吐き散らし、クレス達を辟易とさせた。

 ただ、酒だけは取り上げて茶で済ませていたので、酷い惨状は回避できたが、酒好きのクラースとしてはそれが尚も不満で、余計に聞かせてくる愚痴が増えることになる。

 

 アーチェとチェスターは早々に退散してしまったので、ミントとクレスの二人だけで宥めて休ませるのは、相当な骨だった。

 

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