【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
説明回です。
独自設定ありきですし、分かり易いと言えたものではないですが、何となく理解して貰えたら……。
最初に部屋の中に入ったクラースは、後続の皆が入り易いよう、壁際に身体を寄せた。
そうしてクレス達が入室し、ウィノナは自分のベッドに腰掛けると、膝を立ててその上に頬を乗せた。
アーチェはベッドに上がり込んで、そのすぐ隣に座り、胡座を組む。
ミントはアーチェの傍に、膝を揃えて姿勢正しく腰かけた。
クレスとチェスターは、テーブルを挟んで二脚ある椅子に座る。
クラースは全員が着席したのを確認すると、壁から身体を離した。
本来ならば、この場にモリスンも呼んで、共に協議したいところだった。
しかし、ウィノナが起こすだろう反応を考えれば、遠慮した方が良いという判断だった。
まだまだ、ウィノナとの間にある
顔を合わせるのは、時期尚早と思えた。
その代わりに昨夜の時間の大部分は、お互いの考えを擦り合わせるのに使った。
昨日遅くに帰ってきた原因は、このモリスンとの話し合いが長引いたからだが――。
無論、クラースはそんな事を恩着せがましく説明する気はない。
さて、とクラースは手を叩く。
視線が全てクラースに集中し、そしてクラースはウィノナに顔を向けた。
「どこから話したものかな」
「どこから、というのに興味はないけど、どうすればダオスを救えるのかを知りたいわ」
「ああ、そうだな。まずそこからだ」
チェスターが頷き、クラースは少しばかり難しい顔をする。
「まず始めに、前提として、過去──我々にとっては、今この現在。これを変えることは、大変な危険が伴う、という事を知ってもらいたい。だから、ここでは未来で知られている通り、ダオスを倒し逃亡させた。……より正確に言うならば、逃亡させる為に攻撃していた」
ウィノナはむっつりと押し黙る。
理解はしても、感情は納得できない、という顔をしていた。
「ダオスは、逃げた先で封印され、しかし後に復活する。これが歴史の正しい流れだ」
クレスが頷き、ウィノナが渋々頷いた。
古城の玉座で、クレスが言っていたことでもある。
「だが、復活したその先の歴史を、我々は知らない。志半ばで倒れるのか、それとも願望を成就するのか。どのような未来が待っているのか分からないが、ウィノナの望む結果を手繰り寄せたいというのなら、現代の復活したタイミングで行うべき、と考えている」
その結果、クレス達が生きていく先の歴史に、どのような変化が訪れるかは分からない。
しかし、そもそもの正史を知りようがない以上、どのような災難が起きようとも、受け入れる覚悟でいなければならなかった。
「その覚悟を持って、はじめてダオスを救う事が出来る」
そう結論付けたと言って、クラースは持論を締めた。
ウィノナは目を閉じ、ゆっくりと息を吸う。
数秒止めて長く息を吐いた後、再び目を開いた。
「中途半端な覚悟は出来ないわね」
「勿論だ。どのような変化が起きるか観測できない以上、身に降りかかる惨事が起きれば、その全てに自責の念を覚えかねない。それをここにいる全員で、共有するんだ。半端な覚悟で出来ることではない」
ウィノナはその場で膝立ちになって、姿勢を正した。
一通り全員の顔を見つめ、そして返って来る視線を見て、既に全員がその覚悟を決めている事を悟った。
そして、ウィノナ自身、既に覚悟は出来ている。
先程の呼吸一つで、その覚悟を決めた。
そしてその覚悟を、自分の信頼する仲間が決めていてくれた事に、例えようのない感謝の気持ちが湧き上がる。
「──皆、ありがとう。覚悟を決めて、ダオスを救う、その手助けをして下さい」
ウィノナが大きく頭を下げると、アーチェが腰に抱き着き、諫める様に言った。
「ウィノナの頑張りを無駄にしないよ。皆でやってやろうって、もう決めてたんだからね」
ウィノナはアーチェの手を、ごく優しく解いて、改めて皆の顔を見た。
どこか照れたような顔をした者、そして笑顔を見せる者、真剣な眼差しで見返す者、それは様々だ。
誰もが口に出さないが、やってやろうという意志だけは、しっかりと感じられた。
「さぁ、それじゃあ、次の話だ」
クラースが再び手を叩くと、ウィノナは再び座り直す。
「現代に行けば救える。そういう前提で考えてはいるが、だが単に現代へ向かえば、それだけで解決する問題でもないだろう」
「それは……分かるけれど、つまりどういう事?」
「まず、確認させて欲しい」
クラースはそう前置きして、ウィノナに問い掛けた。
「ダオスは世界樹を救うことを望んでいた。では、それが成れば、彼は救われた事になるのか?」
違う、とウィノナは首を振った。
「ダオスは世界樹が十全な働きをすることで生まれる、大いなる恵みを求めていた。マナが枯渇し、滅び行く故郷を救うために……。そう、言ってた」
なるほど、とクラースは頷く。
だからダオスは魔科学を研究し、その成果を兵器にさえ転用するミッドガルズにのみ戦争をしかけ、そして魔物を使ってでも止めようとしたのか。
──ダオスは、大いなる恵みを求めている。
「……それは世界がマナで満ちていなければ、絶対に実らない物、なのか?」
「でも、僕らの時代では、魔術が失われているんです」
クラースの疑問に、クレスが慌てたように言う。
「今よりも、もっとマナが薄くて、世界樹も枯れてこそいませんが、十全とは程遠い姿です」
「いきなり難問にぶち当たったな……」
クラースは渋面を作って唸る。
ダオスを追って現代へ向かっても、救う手段がないのなら意味がない。
簡単な話ではない事は理解していたが、マナがないというのは、目も当てられない惨状だった。
そこで、昨日モリスンと議論し合った、あの内容が頭をかすめる。
「過去から未来への流れは複雑で、かつ難解だ。望む未来を手繰り寄せる事は至難であり、また可能であっても、その為に掛かる影響は最小限でなければならない……」
クラースが呟いた言葉の後に生まれる、一拍の間。
疑問と沈黙が部屋を支配する中で、それを破ったのは首を傾げたアーチェだった。
「……どゆこと?」
何と説明したものか、と思案顔でクラースが言うと、片方の手を握って拳を作り、もう片方の手で指を一本立てる。
「過去から未来という時間の流れは、複数の流れが入り乱れている川の様なものだ、と考えられている。川の上を球が流されて行く様を、想像してみて欲しい。これが時間の流れを示している。一つの流れの上で転がる球──歴史は、普通に考えればその延長線上にある、一つの流れを進み続ける」
クラースは指先で空中で線を引くように動かしてから、握り拳でその上をなぞるように動かす。
クレス達はそれを見ながら、とりあえず頷いた。
「しかし、この線の上を行く球は、非常に移ろい易い。簡単な事で線を逸れ、別の流れに乗ってしまう」
指先で引いていた線の上から、斜めに新たな線を引く。
「如何様にでも、枝分かれして進む世界だが……当然、それを観測する手段はないので、我々は一本の流れを直進しているように感じている。だが、時間転移した者がいるとなれば、話は別だ。その者が起こした行動は、未来に影響を与える可能性を生む。逸れた事に気付かずにいると、現代に帰った時には、別の流れになっている。元々の未来に帰りたいなら、一切の影響を出さず、あるいは誤差と言える変化しか与えないで、帰らなければならない」
その長い説明を聞いたアーチェは、眉の間に深い皺を寄せて、クラースを見返す。
「……よく分かんないけど。過去をみだりに変えちゃダメっていうのは、前に聞いたじゃん? 下手をすると、現代に時間転移しても、そこにダオスがいない、って事になるかもなんでしょ?」
「そうだな。一度観測された歴史を大きく変えることは、クレス達が帰る世界を、別の未来に変えてしまう可能性を生む。だからダオスには、この時代で助ける事はせず、歴史通りに倒させてもらった」
そもそも、とクラースは握っていた拳を額に当てて、何度か叩く。
「移ろい易い時の流れを、制御する事は不可能に近い。だから下手な事をするべきじゃない、という判断なんだが……」
「でもそれって、つまり世界樹は枯れていくままにして、現代に戻るっていうことじゃないですか?」
何をどう理解すれば良いのか分からないまま、クレスは思いついた事を言ってみた。
だが、それではどう好意的に捉えても、事態が好転しないように思える。
果たして、この問題を解決せず、現代に帰ることに意味はあるのだろうか。
そしてクラースは、クレスの疑問に事も無げに頷く。
「かつて取り戻した事実がないのなら、そうするしかなくなる。取り戻した事実があったとしても、現代で失われているのなら、やはり途中で失われてもらわねばならない」
「それで一体、どうやって世界樹を救うんです!?」
思わず声を荒らげたクレスに、クラースは諭すように手を振った。
「世界樹を救える手段があったとしても──事実救ったとしても、帰るべき未来を失ったのでは、意味がないだろう?」
「それは……そうですけど」
「そもそもの話、クレス達が過去に時間転移して来た時点で、歴史は多少なりとも変わってしまっていると言える。だから、これ以上の歴史に関わる変化は抑えなくてはならないし、どれ程の影響までなら安全か分からぬ以上、自粛するべきなんだ。……その上で、クレス達が現代で観測した事実は余す所なく再現し、そこに加えて、世界樹を救う手段を、構築してやらねばならない」
クラースの羅列する言葉に、ついにチェスターが悲鳴を上げた。
自らの頭を両手で押さえて蹲る。
「うぉぉ……っ! もう何言ってるか分かんねぇ!」
ウィノナはそんなチェスターを見ながら、さもありなん、と同情した。
ウィノナとしても。我ながらとんでもなく無謀な事に挑戦しているという気がして来た。
「……本当に、そんな事が可能なの? 今のままでも、私達の知る世界に帰る事すら、不可能みたいに聞こえたけど……」
「今のところは、大丈夫だと思うがね。無論、小さな誤差が現在発生している以上、確からしい事は何一つ保障できないが」
嘆息しながら言うクラースに、ウィノナは眉根を寄せる。
根拠が乏しいように感じるのに、その自信はどこから来るのだろう。
「じゃあ、何故? 何故、そうまでして言えるの?」
「ダオス本人から、直接モリスン殿が聞いた話がある。時空転移理論、と彼は呼んでいたようだ。時間を旅するダオスから聞いたからこそ、納得の行く話なんだが……。さっき、川の流れに例えた時間の経過には、もう一つ重要な要素がある」
クラースは一度言葉を区切り、一呼吸置いてから続ける。
「実際の川がそうであるように、流れの中には所々、渦が出来ているものだ。これは時の流れにも、同様の事が起きるものらしい」
「……渦? その渦に巻き込まれて、抜け出せない事もあるということ?」
ウィノナは球が渦に取り込まれ、ひたすら螺旋を描き続ける様を想像した。
そういう意図を持って訊いたのだが、クラースから返ってきた答えは、否定だった。
「いや、この場合の渦とは、あくまで流れの揺らぎを作る為で、そして本来の流れに戻す為の役割を持つという。取り込むというよりは、弾くというイメージか」
「そういう渦が流れの随所にあって、そもそもの歴史の改変を起こさせない、ということ?」
そうだな、と頷くクラースに、ウィノナは首を傾げた。
「でもさっき、クラースは流れに乗っている球は、非常に移ろい易いって言ってたじゃない?」
「そう、そこがまさに言いたかった主題なんだ」
クラースは意気込んで、一本指を立てる。
「時の流れが移ろい易くとも、それを修正する渦があるのなら問題はない、と思うかもしれない。歴史とは本来、既に決定付けられている事で、大きな変化は訪れない。幾らでも揺れ動く球であるが故に、些少の変化は歴史という流れに取って、最初から織り込み済みという訳だ」
ウィノナは眉根を顰める。
クラースの言いたい事が、いまいち理解できない。
それならば一体、何が問題になるのだろう。
「──不満そうな顔をしているな。では、何が問題か? それがまさに君たち、時間転移者の存在だ」
クラースは立てた指を小さく振る。
「君たちのような存在は、それ自体が時の流れにとっては異物で、君たち自体が渦となる。球の真下に突然渦が出来ると、一体球はどこへ行くことになるのか?」
クラースは全員を見渡すように首を巡らす。
誰からも返答はなく、ただ唸るような音が聞こえた。
「答えは分からない、だ。渦の回転の方向さえ分からない。というよりは、その行動でもって、回転の数も方向も変わる。修正してくれる筈の渦にさえ逆らい、全く別の流れに乗る可能性を生む。一度未来を観測している君達が、過去に来て動くというのは、そういう事だ」