【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~ 作:鉄鎖亡者
「……でも、そう言われても、まるでピンと来ませんが」
クレスは困り顔で首を傾けた。
それはチェスターも同様で、そもそもクラースが言っている事の半分も理解していない。
「第一、そんな分かりやすいモン、現代にあったか?」
「思い付かないってことは、実はもう大きく、時の流れがずれちゃってるとか?」
「当然の事と考え過ぎて、それと認識できていない可能性もあるのかしらね……?」
チェスター、アーチェ、ウィノナと、それぞれが思い付くまま口に出す。
そしてクラースは、それぞれの言葉を頭に入れながら黙考していた。
アーチェの言うように、既にそれと気付かず、大きな渦を時間の流れに作ってしまっていたなら、最早手遅れでどうしようもない。
しかし、まずはそうではないという推論を基に考え、安易に思考放棄するべきではなかった。
──何かを見落としている。
まだ、大きな渦を作るような事象は発生していない。
その前提で考えて良い、とモリスンは考えていた筈だし、クラース自身もそう考えている。
更に熟考していると、クラースの額には汗が滲んでくる。
しばらく、そのまま思考に没頭していると、クラースは不意に閃くものを感じた。
「歴史の渦に干渉する程の変化を、この時代で発生させる訳にはいかないが……。だから、クレス達の時代において、マナが枯渇しているというなら、この先マナは世界から消えていなくてはならない……だろう」
クラースの独り言に近い呟きに、ウィノナの顔が歪む。
「しかし、こうして頭を悩ませる私達は何の対策もせず、百年も時間を無駄にするとも思えない。……何かをしたはずだが、しかし何をしたんだ……?」
「でも、本当に何かしたのかなぁ? いや、ケチつけたいんじゃなくって。でもね、どうしようもない事って、世の中にはあるもんじゃん……」
アーチェは自分の発言に申し訳なく思いつつ、それでも口にせずにはいられなかった。
どのような理不尽であっても、受け入れなければならない事はある。
そしてこれは、そういう類の事に思えてしまうというのが、アーチェの本音だった。
クラースも心の隅では同意しつつ、疲れた顔で額に手を当てた。
「その可能性はある。だが、仕方がないから諦めようと考えるか? 我々はそれを、由とするのだろうか」
クレスは首を横に振り、ウィノナも首を横に振った。
当然だろう、とクラースは思う。
ダオスにあれだけの執着を見せるウィノナに、それを助けようとするクレス達。
これだけの人間が揃っていて、諦めて終わる筈がない。
ならば、可能性は絞られてくる。
「だが、クレス達が観測した未来を見れば、マナが枯渇しているのは明らかだ。……では、何故か。可能性は三つある」
クラースはそう言って、指を三本立ててから、発言ごとに指を折っていく。
「今アーチェが言ったように、あらゆる方法を試したが、無駄に終わったから。実は既に渦を越えてしまい、別の流れに入ってしまったから。そして──」
最後に残った一本を、折らずに残した。
「救う手段だけを用意しておいて、帰った現代でそれを使うから」
クレス達はハッとして、顔を上げる。
「それなら時間の渦への影響は最小限のまま抑えられるし、時間の流れに然したる影響も──」
クレスとチェスターが顔を見合せ、クラースの言葉を遮って口を揃えた。
「聖樹様の根元にあった杖……!」
「あれって今の時代にあったか? ──いやいや、覚えてねぇよ! 見たような、見てないような……」
「アタシがダオスと見に行った去年には、なかったと思う、けど……」
チェスターが額に手を当て自信なさげに呟き、ウィノナも自信なさげに顎先を摘んで言った。
その様子を見たクラースは、心が晴れやかになっていくのを感じた。
あれだけウィノナに啖呵を切っておいて、やはり無理でした、などと言えるはずもない。
そして、ようやく起死回生の一手を、見つけ出したかもしれなかった。
「恐らくそれこそが、いま我々が求めていた情報だよ。この先の近い将来、我々が行う痕跡に違いない」
「でも、僕はあの杖が聖樹様を枯れさせる原因だと、子供心に思ってましたよ。……勿論、そんなの根拠はないんですけど」
「あの杖には触れねぇんだ。弾かれてちまって、近づくどころじゃなくてよ……」
ああ、とウィノナが過去を思って、クスクスと笑う。
「だからあれは、悪いものだって思ってたのよね」
「しかし……杖、……杖ねぇ? その杖の正体は知っておきたい所だ。さっきは自分の推論に飛びついてしまったが、真実それだという証拠は何もない訳だからな。ウィノナが言う通り、杖が世界樹を蝕む原因になっている可能性も、十分にある」
なにせ、とクラースは顎の下を親指で掻いた。
「マナを大量消費する魔導砲はもうない。世界樹はこれから百年かけて、ゆるやかに回復していく筈じゃないのか?」
「そういえば……」
クレスの口は開いたまま、今更ながらの事実に気付いた。
「でもさ、その百年の間に、また魔科学が研究再開しちゃうって事もある訳じゃん?」
「それが更に致命的な、マナ損失に繋がると? ……あり得る話ではあるな」
「可能性を言い出したらキリがないと思うけど、マナ枯渇の原因は、別にあると思う」
何故そういい切れる、とクラースが視線を向ければ、ウィノナは当時を思い出すように、緩く握った拳を口元に当てる。
「世界樹は自身が生み出すマナを持って維持、成長する。でも既に、そのバランスが崩れてしまっていて、かつての姿を取り戻すには、手遅れの状態だとダオスは言っていた。ゆるやかに、滅んでいくしかないのだと……」
尻すぼみするように言葉を切ると、ウィノナは拳を解いて顔を伏せてしまう。
「なるほど……。魔科学が今後復活するかどうかは分からないが、マナの枯渇を早める事はあっても、元より衰弱するしか道はないわけか……」
「そんな……」
クレスもまた。ウィノナ同様に落ち込む。
アーチェはそれを横目で伺いつつも、難しい顔をして腕を組んだ。
「じゃあ結局、杖は何の為にあったワケ? 勝手に世界樹が衰弱していくなら、わざわざ杖を使って悪さする意味ないじゃん」
「そうだな……。すると逆説的に考えれば、杖は世界樹に対して善い事をしている、となるわけだが……」
そこで控えめな声を上げ、注目を集めたのはミントだった。
「先程から気になってはいたのですけれど、その杖は一体、どういった形状をしているのでしょうか」
慎重な声音で訊いて来たミントは、強張った表情で手を握り締めている。
その真剣な様子に、ウィノナは何度か思い返すように首を捻り、それから絞り出す様に答えた。
「捩れた骨みたいな……もしくは、動物の角のような。くすんだ白色、あるいは灰色の杖だった、と思う。先端にルビーのような赤い石が嵌ってた」
ミントの柳眉が僅かに歪む。
「もしかしたら、それはユニコーンホーン、と呼ばれるものかもしれません。法術を強める効果があると伝えられています。それがあれば世界樹を癒し、活性化させる事も可能かもしれません」
「そりゃいいや!」
チェスターが喜びも露に手を叩くが、それをクレスが止める。
「でも、待って。あの杖は触ろうとすると弾かれるんだ。樹にだって近づけない。それは何の為だい?」
「杖にはバリアーの法術が、張られていたのかもしれません。バリアーの効果はそこまで強力ではありませんが、杖による増幅効果だと考えれば、あり得ない話ではないと思います」
あぁ、と納得したようにチェスターが頷いて、しかしそれからすぐに首を傾げた。
「それは良いとして、何の為にバリアーを杖なんかにかけてんだよ。意味が分かんねぇよ」
「いえ、もしかすると……。杖それ自体守るのではなく、杖に掛けられた回復法術を封じこめる為だとしたら……」
それだな、とクラースは頷く。
「この時代で世界樹復活の準備を済ませる、という目的に叶っている。十中八九、それで間違いないだろう」
クレスは得心がいったように頷いた。
「だとすると、それをしたのは当然、ミントだよね」
「過去で世界樹を、復活させる訳にはいかなかった。あるいは単にその為の力が足りなかった。その杖が法術を強化するというのが本当なら、回復法術を杖の中で、循環させて強化され続けるよう封印し、根元に刺しておいたのかもしれない。だとしたら……」
独り言のように呟くクラースに、ウィノナが喜びを交えて言葉を引き継ぐ。
「現代に帰って、ダオスが封印から解けてから開放すれば……」
──上手くいけば、世界樹を回復させる程のエネルギーが、生まれるかもしれない。
百年間に渡って、循環強化させたヒールは、開放されれば莫大なエネルギーが放たれるだろう。
ミントがヒールを掛け続けても、焼き石に水かもしれないが、焼き石を冷却できるだけの、大量の水を用意すれば良い、という発想だろう。
そして、その発想は、全員が得心するのに十分なものった。