【完結】テイルズ オブ ファンタジア ~交差する歴史~   作:鉄鎖亡者

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時の流れと渦の役割 その3

 

「……でも、そう言われても、まるでピンと来ませんが」

 

 クレスは困り顔で首を傾けた。

 それはチェスターも同様で、そもそもクラースが言っている事の半分も理解していない。

 

「第一、そんな分かりやすいモン、現代にあったか?」

 

「思い付かないってことは、実はもう大きく、時の流れがずれちゃってるとか?」

 

「当然の事と考え過ぎて、それと認識できていない可能性もあるのかしらね……?」

 

 チェスター、アーチェ、ウィノナと、それぞれが思い付くまま口に出す。

 そしてクラースは、それぞれの言葉を頭に入れながら黙考していた。

 

 アーチェの言うように、既にそれと気付かず、大きな渦を時間の流れに作ってしまっていたなら、最早手遅れでどうしようもない。

 

 しかし、まずはそうではないという推論を基に考え、安易に思考放棄するべきではなかった。

 

 ──何かを見落としている。

 まだ、大きな渦を作るような事象は発生していない。

 

 その前提で考えて良い、とモリスンは考えていた筈だし、クラース自身もそう考えている。

 

 更に熟考していると、クラースの額には汗が滲んでくる。

 しばらく、そのまま思考に没頭していると、クラースは不意に閃くものを感じた。

 

「歴史の渦に干渉する程の変化を、この時代で発生させる訳にはいかないが……。だから、クレス達の時代において、マナが枯渇しているというなら、この先マナは世界から消えていなくてはならない……だろう」

 

 クラースの独り言に近い呟きに、ウィノナの顔が歪む。

 

「しかし、こうして頭を悩ませる私達は何の対策もせず、百年も時間を無駄にするとも思えない。……何かをしたはずだが、しかし何をしたんだ……?」

 

「でも、本当に何かしたのかなぁ? いや、ケチつけたいんじゃなくって。でもね、どうしようもない事って、世の中にはあるもんじゃん……」

 

 アーチェは自分の発言に申し訳なく思いつつ、それでも口にせずにはいられなかった。

 

 どのような理不尽であっても、受け入れなければならない事はある。

 そしてこれは、そういう類の事に思えてしまうというのが、アーチェの本音だった。

 

 クラースも心の隅では同意しつつ、疲れた顔で額に手を当てた。

 

「その可能性はある。だが、仕方がないから諦めようと考えるか? 我々はそれを、由とするのだろうか」

 

 クレスは首を横に振り、ウィノナも首を横に振った。

 当然だろう、とクラースは思う。

 

 ダオスにあれだけの執着を見せるウィノナに、それを助けようとするクレス達。

 これだけの人間が揃っていて、諦めて終わる筈がない。

 

 ならば、可能性は絞られてくる。

 

「だが、クレス達が観測した未来を見れば、マナが枯渇しているのは明らかだ。……では、何故か。可能性は三つある」

 

 クラースはそう言って、指を三本立ててから、発言ごとに指を折っていく。

 

「今アーチェが言ったように、あらゆる方法を試したが、無駄に終わったから。実は既に渦を越えてしまい、別の流れに入ってしまったから。そして──」

 

 最後に残った一本を、折らずに残した。

 

「救う手段だけを用意しておいて、帰った現代でそれを使うから」

 

 クレス達はハッとして、顔を上げる。

 

「それなら時間の渦への影響は最小限のまま抑えられるし、時間の流れに然したる影響も──」

 

 クレスとチェスターが顔を見合せ、クラースの言葉を遮って口を揃えた。

 

「聖樹様の根元にあった杖……!」

 

「あれって今の時代にあったか? ──いやいや、覚えてねぇよ! 見たような、見てないような……」

 

「アタシがダオスと見に行った去年には、なかったと思う、けど……」

 

 チェスターが額に手を当て自信なさげに呟き、ウィノナも自信なさげに顎先を摘んで言った。

 

 その様子を見たクラースは、心が晴れやかになっていくのを感じた。

 あれだけウィノナに啖呵を切っておいて、やはり無理でした、などと言えるはずもない。

 

 そして、ようやく起死回生の一手を、見つけ出したかもしれなかった。

 

「恐らくそれこそが、いま我々が求めていた情報だよ。この先の近い将来、我々が行う痕跡に違いない」

 

「でも、僕はあの杖が聖樹様を枯れさせる原因だと、子供心に思ってましたよ。……勿論、そんなの根拠はないんですけど」

 

「あの杖には触れねぇんだ。弾かれてちまって、近づくどころじゃなくてよ……」

 

 ああ、とウィノナが過去を思って、クスクスと笑う。

 

「だからあれは、悪いものだって思ってたのよね」

 

「しかし……杖、……杖ねぇ? その杖の正体は知っておきたい所だ。さっきは自分の推論に飛びついてしまったが、真実それだという証拠は何もない訳だからな。ウィノナが言う通り、杖が世界樹を蝕む原因になっている可能性も、十分にある」

 

 なにせ、とクラースは顎の下を親指で掻いた。

 

「マナを大量消費する魔導砲はもうない。世界樹はこれから百年かけて、ゆるやかに回復していく筈じゃないのか?」

 

「そういえば……」

 

 クレスの口は開いたまま、今更ながらの事実に気付いた。

 

「でもさ、その百年の間に、また魔科学が研究再開しちゃうって事もある訳じゃん?」

 

「それが更に致命的な、マナ損失に繋がると? ……あり得る話ではあるな」

 

「可能性を言い出したらキリがないと思うけど、マナ枯渇の原因は、別にあると思う」

 

 何故そういい切れる、とクラースが視線を向ければ、ウィノナは当時を思い出すように、緩く握った拳を口元に当てる。

 

「世界樹は自身が生み出すマナを持って維持、成長する。でも既に、そのバランスが崩れてしまっていて、かつての姿を取り戻すには、手遅れの状態だとダオスは言っていた。ゆるやかに、滅んでいくしかないのだと……」

 

 尻すぼみするように言葉を切ると、ウィノナは拳を解いて顔を伏せてしまう。

 

「なるほど……。魔科学が今後復活するかどうかは分からないが、マナの枯渇を早める事はあっても、元より衰弱するしか道はないわけか……」

 

「そんな……」

 

 クレスもまた。ウィノナ同様に落ち込む。

 アーチェはそれを横目で伺いつつも、難しい顔をして腕を組んだ。

 

「じゃあ結局、杖は何の為にあったワケ? 勝手に世界樹が衰弱していくなら、わざわざ杖を使って悪さする意味ないじゃん」

 

「そうだな……。すると逆説的に考えれば、杖は世界樹に対して善い事をしている、となるわけだが……」

 

 そこで控えめな声を上げ、注目を集めたのはミントだった。

 

「先程から気になってはいたのですけれど、その杖は一体、どういった形状をしているのでしょうか」

 

 慎重な声音で訊いて来たミントは、強張った表情で手を握り締めている。

 その真剣な様子に、ウィノナは何度か思い返すように首を捻り、それから絞り出す様に答えた。

 

「捩れた骨みたいな……もしくは、動物の角のような。くすんだ白色、あるいは灰色の杖だった、と思う。先端にルビーのような赤い石が嵌ってた」

 

 ミントの柳眉が僅かに歪む。

 

「もしかしたら、それはユニコーンホーン、と呼ばれるものかもしれません。法術を強める効果があると伝えられています。それがあれば世界樹を癒し、活性化させる事も可能かもしれません」

 

「そりゃいいや!」

 

 チェスターが喜びも露に手を叩くが、それをクレスが止める。

 

「でも、待って。あの杖は触ろうとすると弾かれるんだ。樹にだって近づけない。それは何の為だい?」

 

「杖にはバリアーの法術が、張られていたのかもしれません。バリアーの効果はそこまで強力ではありませんが、杖による増幅効果だと考えれば、あり得ない話ではないと思います」

 

 あぁ、と納得したようにチェスターが頷いて、しかしそれからすぐに首を傾げた。

 

「それは良いとして、何の為にバリアーを杖なんかにかけてんだよ。意味が分かんねぇよ」

 

「いえ、もしかすると……。杖それ自体守るのではなく、杖に掛けられた回復法術を封じこめる為だとしたら……」

 

 それだな、とクラースは頷く。

 

「この時代で世界樹復活の準備を済ませる、という目的に叶っている。十中八九、それで間違いないだろう」

 

 クレスは得心がいったように頷いた。

 

「だとすると、それをしたのは当然、ミントだよね」

 

「過去で世界樹を、復活させる訳にはいかなかった。あるいは単にその為の力が足りなかった。その杖が法術を強化するというのが本当なら、回復法術を杖の中で、循環させて強化され続けるよう封印し、根元に刺しておいたのかもしれない。だとしたら……」

 

 独り言のように呟くクラースに、ウィノナが喜びを交えて言葉を引き継ぐ。

 

「現代に帰って、ダオスが封印から解けてから開放すれば……」

 

 ──上手くいけば、世界樹を回復させる程のエネルギーが、生まれるかもしれない。

 

 百年間に渡って、循環強化させたヒールは、開放されれば莫大なエネルギーが放たれるだろう。

 

 ミントがヒールを掛け続けても、焼き石に水かもしれないが、焼き石を冷却できるだけの、大量の水を用意すれば良い、という発想だろう。

 

 そして、その発想は、全員が得心するのに十分なものった。

 

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